死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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話のタイトルはその場のノリで決めてます。


記憶の時間

 この日の事を、いつしか彼女は次のように思うだろう。

 

 ──あの日ほど騒がしく、充実しており、楽しめた日はない、と。

 

 だが、これが最高の思い出というわけではないはずである。

 よくよく思い出せばもっと良かったと思える出来事や、大切な思い出の一つや二つは思い起こされるものであろう。

 

 しかし、そのような思い出は何かと記憶を辿った時、最初に出てくるのはこの日であった。

 

 それほどまでに、この日の買物は彼女にとっては大きい出来事であったのだ。

 

 

 

 ────────

 

 

 

「"──と、いうわけで一旦私に任せてもらえるかな? 勿論、ちゃんと指定場所に連れて行くつもりだから"」

 

 レキの買物場所を案内するという、一緒に着いて行くための口実を獲得した先生。しかしレキには少し待ってもらい、ちょっとだけ離れた場所にて電話を掛けていた。

 相手はレキを誘導するという作戦で駆り出されていた部隊の指揮官。先生は彼女にレキを発見したこと、襲おうとしている意志は見えなかったこと、少し用事がありそれが済み次第元の場所に戻ろうとしていること、その間自身が傍にいて監視をすることを説明した。

 

『しかし、それは先生があまりに危険では……! 少なくとも、誰かしらの護衛が必要ではないかと思うのですが……』

「"それは却って不安要素になる気がする。レキを無駄に警戒させるだけになっちゃうと思う。それに大丈夫、私にも自衛手段がないわけじゃないから"」

『ですが……』

「"とにかく、大丈夫だよ。ね? また何かあったら必ず連絡するから。ここは任せて"」

『……わかりました。待機はしておきいつでも動けるようにはしておきますので、何かあったら必ずご連絡くださいね!』

「"うん、ありがとう"」

 

 電話を終え、レキのもとへ戻る先生。

 

「"ごめん、おまたせ。じゃあ、店まで行こうか"」

 

 

【第十話:買物】

 

 

 ──こつこつこつ……

 

 二人は歩く。道案内をするという名目のため、先生にはレキから雑誌を渡され、それを見て先導する形へ。

 

 そこに会話はない。ただ足音のみが鳴るのみである。

 

 これを受け先生、少し焦りのようなものを感じていた。

 ニツと同じように話してほしいというお願いをした時点で多少は話をしてもらえるかと想定していた先生であったが、認識が甘かったようだ。

 

 だがまぁ考えりゃそれはそうである。話題がないのだ。互いのことを殆ど知らない状態だ。話すにしても何を話せばよいのか。

 

 そこで先生は考える。自然で、会話が弾みそうで、且つレキのことをもっと知れそうでありながら、そこまで深入りはしない話題を。

 

「"……ねぇ、レキはニツとどうやって仲良くなったの?"」

 

 先生が出したものは、ニツについて。共通の知人という話題ならば会話としては自然であろうということでこれを振った。

 

 ──こてん

 

 話を振られたレキ、首を少しだけ傾け考える動作に。話について思考している様子。わざわざ考えているということから、どうやらちゃんと会話をしてくれるらしい。

 

「……正直覚えてない。何回か話しかけられて、気が付いたら私の中で大きくなってたから」

「"あれ、そうなの? ニツは恩人だって言ってたけど"」

「あー、確か最初の方そんなこと言ってた気がする。覚えてないけど」

「"そ、そうなんだ"」

 

 哀れニツ。恩人レキは何にも覚えていなかった。

 

「"じゃあ、レキにとってニツって何?"」

「……友達? ニツ以外にはいないから、これを友達と呼べるのか分からないけど」

「"大丈夫だよ。私から見て二人はかなり仲が良さそうだったから、胸を張って友達って言っていいと思う"」

「……そっか」

 

 だが、感じている感情は本物のよう。無表情ながら、どこかほっとしている様子でもある。

 これを微笑ましく思う先生。こうして接していく度に、先生の中でレキが凶悪犯であるという認識が薄まってきていた。

 

「"ニツとはいつもどんなことを話しているの?"」

「シューズの話とか、お菓子の話とか、割となんでも。後前はニツの発明品とか見せてくれたりしてた」

「"発明品かぁ。確か今持ってるケースもニツお手製なんだっけ?"」

「そうだけど……何で知ってるの?」

「"昨日二人の会話に出て来てたなぁって思って。一応私も最後までいたからね"」

「そっか」

 

 そこまで聞いたレキ、突然立ち止まる。

 

 ──じっ……

 

 そして先生の顔を見つめ始めた。何故かしばらくそのまま動かない。

 

「"? どうしたの?"」

 

 問いかける先生。こうして話してくれるようになったことで、頑張って察しないといけなくならなくなったのは、コミュニケーション上すごく楽になったと言えるだろう。

 

 少ししてから、レキは口を開いた。

 

「そういえばだけど……誰? 昨日ニツの近くに居たってことは覚えてるけど」

「"……えっ?!"」

 

 哀れ先生。覚えられていなかった。だがまぁ存在の認知はされていたからまだマシなのかもしれないが。

 

「"えっと、一応昨日自己紹介したんだけど……覚えてない?"」

「覚えてない」

「"そっかぁ、覚えてないかぁ"」

 

 少し悲しくはなったが、先生はそこまで驚いてはいなかった。この時点でなんとなく彼女の人柄を把握出来ていたからだ。

 興味があるものには強く関心があり、逆に全く興味のないものを意識しない、もしくは出来ない。これが坤音レキの内情なのだろう、と。しかもその興味は趣味や友人関係のもののみ。今こうして先生と話せており、名前を聞くようになったのも、ニツという共通の知人がいてこそ。

 

 これは年齢に対して妙に幼いのではないかと先生は感じていた。世界に目を向けてこなかったのか、はたまた向けられなかったのかはさておき、レキの見ている世界はかなり狭いものであるのでないか、と。

 

 だが、全然まだ取返しがつく年齢だ。これからでもまだまだ間に合う若さをレキは持っている。

 おそらくこれから先、謎が全て明らかになり死刑を免れることが出来たとしても無罪にはなりえない。だが、その人生は終わることなく続いていく。服役中に心を成長させ、罪を自覚させることが、一番罪を償える方法であろう。

 

 このような未来のレキのことも考えつつ、先生はレキに対面する形で前に出る。

 

「"じゃあ改めて自己紹介するね。私はシャーレってところの先生だよ"」

「先生、ね。私は坤音レキ。知ってると思うけど」

「"うん、よろしくね"」

 

 ここで二度目の自己紹介が入った。レキの先生という言葉の繰り返し具合から、その存在を個として認識し出したのが今からであるということが伝わってくる。

 そして、また歩き出す。だが、会話は続いていく。

 

「"……本当に覚えてなかったんだ。なら、よくさっきの話受けてくれたね。私としてはありがたかったけど"」

「話?」

「"ほら、道案内するから私とも話をしてってやつ"」

「あぁ。まぁニツといたってことは覚えてたし、あと何かあればぶっ飛ばせばいいから」

「"あ、あはは……"」

 

 全く冗談には聞こえなかった。いやそもそも本人は冗談のつもりもないのかもしれないが。

 

「"……お、あれは"」

 

 先生、前方にある店を発見。目的地ではない。だが、レキとさらに仲を深めるには必要かもしれないお店だ。

 

「"ソフトクリーム屋さんだ。どうかな? まだ店までは少し歩くし、買っていかない? 勿論奢るよ"」

 

 ソフトクリームが苦手という人はあまりいないであろう。さらに食べ物というのも話題になり得る。レキのことをより知ることが出来るというものだ。

 

「奢ってくれる? なら、もらう」

「"うん、いいよ。何がいい?"」

「ストロベリーとバニラが一緒のやつ」

「"いいね。じゃあ買いに行こうか"」

 

 チョイスにどことなく可愛さを覚えながら店に向かい注文。お客さんはそこまでの人はいなかったため、すぐに商品が手元に届いた。

 食べながら、また進み出す。歩きによる若干の疲労にアイスの冷たさと美味しさが染み渡っていくのを先生は感じた。

 

「"んんー、美味しいねぇ。ソフトクリームは安定だなぁ"」

「久しぶりに食べた」

「"イチゴ好きなの?"」

「うん、ちょっとすっぱいところが好み」

「"あー、分かるなぁ。ただ甘いだけじゃなくてイチゴ特有の甘酸っぱさがあるのいいよね"」

「お、先生分かるんだ。ニツも分かってくれたし、意外と好きな人多いのかも」

「"ニツもイチゴ好きなんだ。今度三人でここのソフトクリーム食べに来てもいいかもね"」

「ん、考えとく」

 

 会話は和やかに進む。非常にほのぼのとしている。テンポもニツがしていたものと大分近くなってきている。多少は心を許しているのかもしれない。

 

 しかし、そんな和やかさも曇りを帯び始める。

 

「──よぉ。センセイ、だったかなぁ?」

 

 突然の声掛け。振り返ると数人の悪そうな生徒たちがいた。ニヤニヤして二人を見ている。

 

「"……レキ、ちょっと待っててね。これも食べてていいから"」

「分かった」

 

 レキの性格を考えると彼女らのことを無視して先へ行きそうだと考えた先生は、自身のソフトクリームも渡して待たせた上で対応することに。

 こうした理由は、下手に無視するより対応したほうが丸く収まりそうだからである。

 

「"それで、どうしたのかな? 何か困りごと?"」

 

 人は見かけで判断してはいけない。なので先生は問いかける。風貌とは裏腹に本当に困って声を掛けてきたのかもしれないからだ。

 

「あ゛? あぁそうだなぁ。困りごと、だよなぁ?」

「くふふ、そうだよぉ」

「"うーん、それなら申し訳ないけど、シャーレに行って待っててくれないかな? 用事が済んだらすぐ帰ってから必ず対応するから"」

「ねーえセンセイ? その困りごとってね、今すぐ解決できるんだよぉ?」

 

 ジャキと全ての銃口が先生に、レキに、構えられる。一瞬先生はびくりと反応した。

 

「あはは! ね、センセイ。貴女とんでもないお人よしなんだってねぇ。どんな生徒にも必ず手を差し伸べてくれるんだってねぇ。連邦生徒会所属で、さぞかし凄くお金持ってるんだろうねぇ。

 それならさ、アタシらに援助してくれるよね?」

「"……援助?"」

「有り金全部置いていけ。……なぁ、ヘイローがないセンセイ? 生徒のためならそれくらい出来るよなぁ? それに、死にたくないよなぁ?」

 

 先生は黙って思考する。ここではいと言って言うことに従うのは簡単だ。しかしそれは彼女らのためにもならない。

 ここでお金を渡してしまえば、彼女らはこの方法が良いことだと学習してしまう。そうなれば他にも被害者が出てしまうし、いつまでも更生してくれない。

 

 そして、先生は"先生"だ。生徒をよりよい方向に導かないといけない。

 

「"……こんなこと、良くないよ。色んな人に迷惑がかかるし、いつか自分に返ってくるよ"」

「あれ? 叱るの? 叱っちゃうの? アタシらのことなーんにも知らないくせに??」

「"っ……"」

 

 やはりか、と先生は悔しさを覚える。こういうことをする生徒は、基本的に何かしらの理由がある。

 多くの場合、それは環境。その下地を丁寧に整備すべきなのは本来大人だ。以前のトリニティ生徒の件含め、まだまだ自分にはやらなければいけないことが多いことを改めて実感する。

 

 そのため、先生はこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

 

「"もう一度言うよ。止めた方がいい。そんなこと、自分のためにはならな──"」

 

 ──バンッ!

 

「うるさいなー。次は当てるよ?」

 

 敢えて外された。中身に弾が入っていることの証明であり、脅しのための威嚇射撃だ。それほど先生の言葉は耳障りらしい。

 

 だが、その生徒は間違えた。

 喧嘩を先生に売る。そしてレキを放置する。ここまではいい。この拮抗状態は何事もなければ生徒側に容易に傾くであろうし、レキが死刑囚であると知らないにしても放置していれば何もならないであろうから。

 

 そう、途中まではよかったのだ。だがここで間違えてしまったのだ。

 具体的には、威嚇弾丸を放った場所。

 

 ──どちゃり

 

 レキの持っていたソフトクリーム……加えて、ストロベリーのやつが撃たれた弾によって破壊され地面に落ちてしまったのだから。

 

 このことに、誰も気が付けない。無理もない、あちらはあちらで緊張感がある状態なのだから。

 

 ──……ぐぐぐぐ

 

 落ちたソフトクリームから、顔がゆっくりと別の方へ向けられる。

 

 対象は、銃を撃った存在()、およびその周囲の存在()

 

 ──ブチィ!

 

 レキ、キレる。次の瞬間には、最初撃った生徒は殴り飛ばされていた。

 

「──は?」

 

 こんな言葉を吐き出してしまったのは果たして誰だったのだろうか。それが分からなくなるくらいには、その戦闘は一瞬であったのだ。

 

 そこで先生は目の当たりにしてしまう。坤音レキの強さを。その恐ろしさを。

 

 力が強すぎる。先ほど戦闘と述べたが、もはやそう呼べるものではない。

 

 反撃している生徒も多少はいる。だが食らってもノーダメージで抑えられ、殴り飛ばしたり埋めたりを見たこともないキレた表情で行っている。

 

 一言で例えるならば、それは魔王。魔王の蹂躙でしかない。

 

 全く争いになっていない事象を、蹂躙以外の何の言葉で表せばよいのか。

 

 ──パンッパンッ

 

 手をはたいて汚れを落とし、先生の元へ振り返って戻っていくレキ。その後ろには壁や地面に埋まった不良生徒の集団。

 幸いなことに、先ほどの絡みや威嚇射撃の時に他の一般人はどこか別の場所に行っていたようで、これの目撃者は先生ぐらいしかいなかった事であろうか。

 

「終わった。行こう、先生」

「"……ね、ねぇレキ"」

 

 思わず問いかけてしまった先生。どこか恐れを抱いた様子で、続ける。

 

「"その、言いにくいんだけど……殺めちゃったり、してないよね?"」

「……? 殺すのは悪いことでしょ? そんなことしてない」

 

 心外だとばかりに否定するレキ。先生はほっと胸をなでおろした。

 だが、この返答に妙な違和感を覚える。レキは殺人に対しては普通に悪いという感情を抱いてはいそう。しかし事実として、レキは殺人の罪にも問われている──。

 

「"……そっか、ならいいんだ。ごめんね変なこと言っちゃって"」

 

 一旦、これは置いておくことにしたようだ。今はレキに向き合わないといけないからであろう。

 

「"……あ、ごめん。またちょっとだけ待ってくれる?"」

 

 ただ倒れてしまった子らを無視することはできない。だが今は先生には何も出来ない。また先ほどの焼き直しになる可能性があるから。

 餅は餅屋ということでそのような子を色んな意味で何とかする役割をも担っている連邦矯正局、すなわちヴァルキューレの部隊の方に連絡を入れることに。

 

 さて、レキから少し離れて電話を掛けようとする─その時だった。

 

「──確かこっちに行ったはずだ」

「だね、早いこと捕まえないと……。……っ!!」

 

 ある集団と相まみえてしまい、再び多くの銃口が二人──いや、一人に向けられる。今度は先生ではなく、レキへ。

 

 加えてその中には先生の知り合いであり、最近出会ったばかりの二人がいた。

 

「坤音、レキ……ッ!!」

 

 集団の名前は『ミリツィア』。そこにいるのはリーダーの『森邑(もりむら)リス』とそれに付き添う副リーダー『宇江野(うえの)ピコ』。

 

 現状、レキに最も出会わせたくない存在の中にいる者らとレキが、出会ってしまった瞬間であった。

 

 

 

【次回→第十一話:交流】




物語がだれてきていたら申し訳ない。

違和感ありまくりんぐだったので若干修正入れました。
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