死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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難産でした。
上手く纏まっていてくれ……!


不調の時間

 今般、彼女は自身が不調気味であることを自覚し始めていた。

 

 体内時計の乱れ、頻繁に起こる睡眠欲求、謎の気だるさ。代表例としてはこれらであろう。

 

 ──ごろん

 

 現在でもその不調気味は継続中であり、とりあえず彼女は横になることで解消しようとしている。

 

 始まりとしてはおそらく以前の趣味没頭によるご飯の時間の乱れ。シューズタイムが強く表れていたことには違いないものの、体内時計が乱れることは彼女にとってはあり得ないこと。

 なのにも関わらずご飯の時間に気が付けなかった。これは彼女にとっては予想不可能の事態であった。

 

 これまで新しいシューズを買って、それに対する趣味ブーストの時間は勿論あった。捕まる前の話にはなるが、それでもご飯などの時間には身体が気が付くため、きちんとご飯を食べるようにしていた。

 何せそれが彼女のルーティン。昔からそのように生活してきたのだから。

 

 ──ふぁぁぁ……

 

 今日何度目かの欠伸。既に時間は昼すぎ。昼寝という意味では確かにうとうとする時間ではあるものの、まるで夜であるかのような強い眠気に襲われている。

 

 ──……ごろん

 

 日課である雑誌読みやシューズ磨きも最近あまり出来ていない。やりたいという意思こそあるみたいだが、身体がその欲求に付いていけていない。

 

 欲求不満で自らに怒りを覚える。しかしその怒りを発散することさえも現在の身体の状態が状態のため出来ない。余計に怒りが加速していくという負のループ。

 

 何故、このようなことになってしまったのだろうか。

 

 理由としては色々と考えられる。

 一つ目は疲労。以前の脱走事件は彼女にとって久々に運動といった運動をした時間だ。これによりなまっていた身体へ気づかぬうちに疲労が溜まり疲れてしまっているという説である。

 しかしこれは何でも屋時代の彼女の運動量を考慮すると考えにくい。むしろ何でも屋時代こそ、しばらく依頼がなく平和だった時にハードなものを依頼され、相当な運動を行ったこともある。その時は別に筋肉痛などの症状もなかった。よって一旦この説は除外であろう。

 

 二つ目は単純な体調不良。外から何かしらの感染症を貰ったりしてきたのではないかという説だ。

 だが双子共今まで病気らしい病気に罹ったことがないことから考えにくい。よってこれも除外だ。

 

 三つ目は死刑への恐怖。無意識の内に死刑を怖がり、ナイーブになってしまった結果今のようになったという説。

 けれども彼女は死刑のことを考えても特に体調な気分に変化はない。手が震えることや冷や汗を掻くというようなこともないし、宣告されたときも特に感じるものはなかった。そのため、これも考えにくいだろう。

 

 ──すっ……

 

 彼女もどうしてこうなったのかと思考していたようだが、考えても意味はないと悟った様子。

 

 こうして起きてても解決しないならば寝るだけしかないと判断したのか、目を瞑り始めた。

 睡眠は大抵の問題解決に繋がる。それを彼女は知っているからこその眠りなのかもしれない。

 

 ──チカッ

 

 意識が沈むのと同時に、消えかけのヘイローが一瞬だけ緑色に輝き、完全に消える。

 

「……また、あの光」

 

 これは体調不良になり始めてから毎日のように光っており、日に日にその光量が増している。

 いつもの看守はその様子を毎日見続けている。

 

「嫌な光り方……何も起きないといいけど……」

 

 禍々しさも強くなってきている。彼女の身に、何か起きているのは間違いないのだが──。

 

 

 死刑執行まで、残り数日。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 ─────

 ──

 ─

 

 

『なぁ、先生』

 

 以前の脱獄騒動の際に、リスと最後に二人きりとなったタイミングで先生は話し掛けられた。

 

『ゾロフに行くんだよな。火の海事件の深掘りするために』

『"……うん、他にも多少気になるところがあるから、それも含めて聞きにも行くつもりだよ"』

 

 火の海事件の根本にゾロフが関わっていることはほぼ間違いない。しかし、その実態は記録として存在しない。

 これを解明するため、という狙いが一番だ。

 

『だったら、一つだけ……気を付けて欲しいことがある』

『"気を付けて欲しいこと?"』

『あぁ。……ゾロフのトップには気を付けて欲しい』

『"ゾロフの……トップ"』

 

 そういえば、と先生は気が付く。これまでゾロフ全体については見てきたけど、それを動かす上についてはあまり考えてきていなかったことに。

 

『一度だけ、顔を合わせたことがある。治安維持委員会長として、シーノヴォで商売をするというやつを知るためにな』

 

 当時のことを思い出しているのか、顔を歪ませるリス。

 

『……正直、あいつはやべぇ。本心が、底が見えなさすぎる。

 それに、全てを見透かしたように話をしやがる。長く話してるとおかしくなるんじゃねぇかって思うくらいには』

『……そうなの?』

『あぁ。それがゾロフを怪しんでる由来の一つでもある』

 

 これまでに調べて明らかとなった事実だけでなく、会った上での判断。

 

『だから先生。おそらくあいつに会うことになると思うが……十分注意して欲しい。下手すると、先生という存在を上手いこと利用しようとしてる可能性だってあるんだからな』

 

 決めつけはよくないと理解しているが、実際に会ったリスがここまで言うのだ。

 少しの警戒、そして少しの覚悟をすることを決意し、その当日を迎えた。

 

 

【第十六話:尋問】

 

 

「……いやはや、まさか先生の口から『火の海事件』の単語が出てくるとは。何せ先生がキヴォトスに来られる前の事件ですからね」

 

 先生からの質問を受けたルアン、噛み締めるように何度か『火の海事件』を反芻する。

 

 その時一瞬だけ、先生はルアンの眉間にしわが寄ったように見えた。

 

「"……?"」

「──おっと失礼。それで、『火の海事件の際に何をしていたのか』でしたね。

 しかし回答の前に先生、一ついいでしょうか?」

「"何かな?"」

「この質問の意図をお教えいただきたい」

 

 一呼吸おいて、ルアンは続ける。

 

「我々ゾロフは、今日という機会を非常に貴重なものであると考えております。そのため、時間を有意義に活用したいのです。

 ですが今の質問に、あまりその有意義さを感じない。本日の監査はゾロフの現状を知っていただくもののはずです。

 よろしければ、何故火の海事件という既に終わった事件のことについて、どのような意図があってこの質問をしていただいたのかをお教えいただきたいのです」

 

 その真意を尋ねる。確かにルアンからすれば、この質問に違和感を覚えてもおかしくはない。

 先ほどルアンが言ったように、火の海事件とは過去の事件。それを先生が追っているということ、それに関する質問をしてきたことは彼女にとっては不可解なものであるのだ。

 

「"……うん、そうだね"」

 

 先生としても、そのようにルアンが告げてくる理由は十分理解出来る。

 

 質問理由を繕うのは簡単だ。先ほどルアンが言ったようにシーノヴォといえば火の海事件であるからとか、今のシーノヴォの状態を作ったきっかけである事件のため話として聞きたいなど。

 

 しかしここは敢えて、敢えて先生は次のように返した。

 

「"私は……ゾロフが火の海事件に大きく関与していると考えてる"」

「──ほう」

 

 ある意味それは、宣戦布告とも呼べるものであった。

 

 ルアンの目付きが変化する。しかし仕掛けてきた敵に向けるようなものではなく、どこか先生を試すような目付きへ。

 

 その目付きのまま、ルアンは語りだす。

 

「……随分正直に話しますね、先生。ですがこれは人によっては敵対の意思表明に成りかねない。気を付けたほうがよろしいかと」

「"分かってるよ。でも、隠してたら誠実ではないんじゃないかなってね"」

「……?」

 

 先生のこの発言にルアンは表に出すことはないにしても困惑を覚える。

 あの発言から先生とゾロフは対立関係になったと言ってもいい。だが、もしそもそも対立をする予定であったとしても、わざわざその意思をここで示す必要は微塵もない。

 

 加えて先生は『誠実』といった。この言葉は敵対関係者に掛けるような言葉ではない。

 そう、まるで味方に対して掛けるような……。

 

「……まぁ、いいでしょう。我々も先生と、もとい連邦生徒会とは争いたくないですからね」

 

 一度ここで間を置き、ルアンは続ける。

 

「さて、疑っているとのことですが、詳しく話をお聞きしてもよろしいでしょうか?

 火の海事件に我々が『関与していない』と言えば嘘になります。何せ我々は突如やってきた坤音レキと争った。それを完全な撤退が完了するまで。

 ……しかし、先生がおっしゃりたいことはこれではないようですね?」

「"そうだね。そういうのではなく、私はゾロフは火の海事件の根底に関わっているように感じてる。

 最初に整理させてもらいたいんだけど──"」

 

 先生は話していく。火の海事件の流れを。

 

 具体的には、社員が口を揃えて『坤音レキが突然やってきて暴れだした』という点についてだ。

 

 以前リスに貰った証言の書類と照らし合わせながら進めていく。

 

「"──ここまでは大丈夫?"」

「えぇ、大丈夫です」

「"じゃあまず聞かせてほしい。レキが暴れた施設。あそこは一体何をしているところだったの?"」

 

 言外に、事件当時そこで何をしていたのかを問う先生。それに対してルアンはすぐに回答した。

 

「そうですね。あそこは当時研究施設でした。

 覚えていらっしゃるでしょう。先ほどご案内した研究施設。以前は事件発生場所にありましてね。最近漸く正常に稼働するようになったのですよ」

「"……なるほど"」

 

 ここに来て新情報。だが、仮にこれを真とした場合、新たな疑問が発生する。

 

「"でもそこには事件当日、兵士が大量にいたと聞いてるよ。ただの研究施設なら兵士を多く置く必要はないし、さっきの研究施設には最早いなかったよね。それは何故?"」

「……」

 

 ここでルアン。目を大きく見開く。まるで、想定していなかった回答を受け取ったかのように。

 だが、その仕草はどこか作られたかのよう。本物らしくはない。

 

「流石、先生。よく見ておられる。

 兵士を置いていた理由ですね? それはシンプルです。侵入者を捕まえるためですよ。そこでやっていることは会社のこれからのための研究。盗まれてはいけないですからね。兵を置くことは自然のことのはずです。

 今のシーノヴォには我々以外いなくなってしまっていることから、いなくてもよいと判断したため、置いていないだけに過ぎません」

「"うん、置くこと自体は理解できるよ。

 でも、気になるのはその数。まるで戦争をするんじゃないかって勢いだったと聞いているよ。

 それも、火の海事件前に"」

「…………よく、調べておられますね」

 

 ただの研究施設ならば兵を大量に置く必要はない。しかしそれだけの兵力を置いていたという証言があり、ルアンもそれを半ば認めたようなもの。

 

 そう、まるで何かを抑え込むために。火の海事件実行者坤音レキとは別の何かを。

 

 今の会話から考えても、ルアンの話は完全に信頼出来ない。全てが全て嘘ではなく、一部だけを包み隠したような状態。

 

 加えて、先生が突っ込んできた部分については弁明することなく、受け入れている。それはすなわち、それが本当であるか認めているようなもの。

 

 これを受けて、先生はふうと息を吐き、呟くように告げた。

 

「"……なるほど、そうなんだね"」

 

 強くゾロフを責め立てる材料が揃ってきた。だがしかし、先生にゾロフをそのようにする素振りはない。

 

「……?」

 

 本来、怪しさの塊であるゾロフ側の人間の言葉に耳を傾ける必要はない。なのに、先生はルアンの反応から言葉を汲み取り、聞き入れている。

 

 今の状態が、ルアンにとっては違和感そのものであった。

 

「"じゃあ次。さっきレキが『突然襲いに来た』という風に言っていたけれど、他の理由を考察したりしていない?"」

「と、いいますと?」

「"レキのその行動を突然、として片付けることに違和感があってね。他の理由はあり得ないのかなって思って。

 そう、例えば──ゾロフに強い恨みを持っていたとか"」

「ッ──」

 

 また一瞬、揺れた。今度は先ほどよりも強い。

 

 だがルアンも人の上に立つ存在。すぐさま元の笑みの表情へと戻り、返答。

 

「──勿論、その可能性も考慮しました。しかし我々と彼女にはつながりはどこにもありません。恨みを持たれるにしても接点が無さすぎるのです」

「"レキのことは知っていたの?"」

「えぇ。何せ彼女は双子で何でも屋『ネンコファミリー』というものをやっておられたのでね。データとしては知っておりました。

 ですが彼女らと我々はねじれの位置にいましてね。依頼する側、される側になることすらなかったのです。

 そのため、我々としては突然襲われたと解釈するしかないのです」

「"だけど、レキは何の感情も抱いていない相手にはそんなことはしないはずなんだよ。実際に会って確かめたから、間違いないと思う。

 ねぇ、本当に心当たりはない?"」

「……まさか接触済みとは……。

 えぇ、ないですね。むしろ我々の方が知りたいくらいですよ」

「"……"」

 

 先生は、少し思考する。

 先生は知っているのだ。坤音レキは実際問題いきなり暴力に走るような人間ではないことを。手を出すときは何かされた時であることを。以前マコから聞いた話でもそうだし、実際に接してそのような性質であることも理解している。

 

 研究所の異常なほどの武装化。そしてその場所への坤音レキ襲来理由。火の海事件のキーとなるのはこの二点。

 

 先ほどのルアンの反応含め、責めるには本当に十分すぎる材料は揃っている。

 

「"ねぇ、本当にない? ここでの会話は誰にも漏らさないって約束してもいいよ。

 本当にないならごめん。でも、多分何かあると思うんだ。もしあったら教えてくれないかな"」

 

 しかし先生は責めない。口調も諭すような言い回しだ。

 

 再び、ルアンは違和感を覚える。一度ではなく、二度も。訳が分からないと感じた。

 

「……少し、いいでしょうか」

「"うん、大丈夫だよ"」

 

 手を挙げ一旦先生に待ちの要求。先生の了承後、告げた。

 

「先生がゾロフを疑っていることは理解しました。我々としても、疑われること自体は仕方がないことであると考えております。

 しかし先生はそれを深く追及しようとされていない。我々と戦う材料はあるはず。それなのに一体何故……?」

「"……それはね"」

 

 少し間を置き、先生は答えた。

 

「"まだ詳しい理由を聞いていないから、かな"」

 

 それはまさしく、"先生"の回答であった。

 

「……理由、ですか?」

「"何か、物事をやるには理由がいるものなんだ。事件に大きく関わったにせよ関わっていないにせよ、今の現状が起きたことには理由があるはず。まだそれが見えてきていないからね"」

 

 武装化、レキ襲来理由の考察など、まだ内面部分で明らかになっていないところが多い。

 

「……ならば、仮に関与していたとしましょう。その場合、やはり我々を責めるのでしょうか?」

「"それも理由を聞かないと判断出来ないね。理由を紐解いていけば、根底が何だったのかがすぐに理解できる。それを踏まえて、もっとこうすればよかったという改善案を出せる"」

 

 だから、根を知りたがる。根を追い続ける。事件の表面や事実だけでなく、その深くまで見る。

 それをして、初めてどうだったのかという評価が出来るのだ。

 

「"ただ単にそのことについて責めるつもりはないよ。根本から見て行かないと、意味がないからね"」

「っ──!」

 

 大きく、ルアンの目が見開かれた。演技ではなく、本当に驚いてのよう。

 

 先生はこう言っているのだ。もし大きく関わっていたとしても、それだけで悪とはしないと。そうせざるを得なかった理由があるだろうから、それを聞きたいのだと。

 

 これはルアンの出会ってきた人間の中では初めてのことであった。

 

 張り付いた表情が、徐々に崩れてきている。

 

「──ははっ、先生は相当なお人好しだとうかがえる」

「"私は先を生きる者だから。生徒を支える先生として当然のことだよ"」

「……そうです、か」

 

 そう言いながら、ルアンは俯く。そのまま大きく手を挙げた。

 

「……もう、下がっても大丈夫ですよ」

「! 瑞原さん!」

「"!"」

 

 第三者の声。咄嗟に振り向くと、そこには武装したロボット兵士が数名、そこにいた。

 

「この先生ならば、きっと適した判断を下してくださるはずですから」

「し、しかし」

「大丈夫です。それに一応、私もキヴォトスの人間。多少は頑丈ですから」

「……分かり、ました」

 

 本当に渋々と言った様子で出ていく兵士ら。これにて本当にこの部屋には二人きりとなった。

 

「申し訳ありません、先生。念のため兵を置かせていただきました」

「"う、うん大丈夫。ちょっとだけ驚いたけど"」

「えぇ。シーノヴォに来られるとのことでね。火の海事件について聞かれる可能性も考慮してのことなのです。

 使わざるを得ないかどうかを先ほどまで試させていただいていたのですが……先生ならば必要無いと判断しました」

「"試していた……?"」

「はい」

 

 先生に向き直すルアン。その顔は、先ほどまでの仮面ではない。熱意の籠った、決意の表情だ。

 

「先生。全てをお話しします。我々ゾロフと、火の海事件の関係を。

 ですから……」

 

 その場に立ち上がり、ルアンは深く頭を下げた。

 

「ですから、どうかお願いします!

 キヴォトスの未来のために──坤音レキさんの件から手を引いていただきたいッ!」

 

 

 

 

【次回→第十七話:真相】

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