死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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もしやあらすじ詐欺になりかけてる・・・?


故人の時間

「あちゃー……こうなっちまったか」

 

 どことも言えないような空間にて、その中心に立ち天を仰いでいる者が一人。

 彼女は坤音ルキ。故人である。

 

「警告はしたんだがねぇ……まぁ、こればっかりは仕方ないか」

 

『死人に口なし』という言葉があるように、本来彼女はこのようにして言葉を発するはずがない。ここにいるはずも、姿形がそのままで残っているはずもないのだ。

 

「そうなると、あいつ自身が目覚めねぇと大分まずいわけだな」

 

 だが、現に彼女はここにいる。何かの要因でその魂が入り込んでしまったのか? 空間の主である"彼女"の妄想なのか?

 ……いや、こうして自立して動いている以上、妄想という線を考えることは難しい。となれば前者であろうが、その要因とは一体何なのだろうか。

 

 妹である"彼女"を心配したから? それとも──?

 

「……ま、()()()オレに出来ることはねーわな」

 

 一回、下を向いてため息。

 そしてすぐに上を向き直し、本気の目で続ける。

 

「早く起きろよ、レキ。そこを脱するのはお前の仕事だぞ?」

 

 

 

 ──────

 

 

 

【第十九話:宣戦】

 

 

「"ゲダム……ッ!?"」

 

 先生は驚き、目の前の存在から後ずさりしかける。

 その名前はつい最近聞いたばかりだからだ。ゾロフのCEOであるルアンから、キヴォトスを滅ぼし得る古代生物兵器の名として。

 

 だが、ルアンからはあのようにして理性を持っているというような話は聞いていない。加えて火の海事件前のゲダムの暴走に関しても、近くにあったものに感染しては破壊活動をし、その後別のものに感染して破壊活動をし……というように理性的とは言いづらい行動をしていたという。

 

 そこに関して、先生は強い違和感を覚えた。

 

「ほう、その様子だと私のことを知っているようだ。まぁ、いいだろう。軽く私自身のことについて語らせてもらおうか」

 

 先生の反応を置いて、『ゲダム』と名乗ったそれは語りだす。

 

「かつて私は、意思を持たぬただの生物兵器だった。今の反応から存じてるかもしれんが、"もの"にとりつき、本能のままに全てを無に還すための破壊活動を行う……それだけの存在だった。

 だが、坤音レキに感染してからは変わった。今のような意思を、感情を手に入れたのだ」

 

 ここで先生の方を向き、続ける。

 

「そのきっかけとなったのは……覚えているかはわからんが、あの買い物をした辺りからだな」

「"……覚えてるよ"」

「それは行幸。覚えていなければ感謝の行先が消えてしまうのでね」

 

 一呼吸置いて、さらに続く。

 

「あの買い物の際、喜怒哀楽全ての感情が坤音レキを駆け巡った。それもかなり大きいものがね。

 その影響で、徐々に私にもその感情が流れ込んできたのだよ」

 

 先生は思い出す。あの時のこと──レキの脱獄騒動のことを。

 

 喜は、シューズショップにてお目当てのシューズを発見した時、ニツに出会ったときなどがある。念願のシューズとニツとの再会を同時に味わえたのだ。感情の度合いとして大きくてもおかしくない。

 怒は、カツアゲの時であったり、くつくつヘルメット団が乱入してきたときが挙げられるだろう。前者に関しては壁や地面に埋めるというやり返し方法であったし、結構怒りの度合いとしては高かったのかもしれない。

 哀は……あったのだろうか。他に比べると大分怪しいが、強いて言うならアイスを落としたときとかになるのだろう。アイスが久々だったとか、自分の好きな味を共感してもらえた後とかであったし、強い哀しみを覚えてもおかしくないのかもしれない。

 楽は、シューズショップにてニツと先生の新しいシューズを選んだ、という経験が該当するだろう。おそらくそれは新たなシューズ仲間(?)への入り口用シューズをニツと共に選ぶという初めての経験であったはずだ。ただニツもイエスマンとなっただけでなく、真剣に意見を言い合っていたということも鍵になっていそうだ。

 

「まぁ、ここまで単一の個体に長く感染し続けているのは初めてなのでね。加えて感染中に休眠状態になることも初めてだった。

 その間にも様々な感情を受けていたという影響もあるのかもしれないが、私という個の自我が芽生えたのはあの出来事だったのだよ」

 

 愉しそうに語るゲダム。無表情であったレキに反して、このゲダムは正反対というほどに表情が作られている。笑みが出てしまっているあたり、現状が相当楽しいものであると感じていることが予測できる。

 

 先生にとって、その笑みは警戒の対象にしかなれない。底知れぬ怖さを先生は抱き続けている。

 

「私としても驚いているのだよ。

 こうして私の意思で言葉を発し、表情でさえも作れる。その間にも常に何かを感じているし、思考出来ている。そう、まるで人になったかのようにな。

 ……ふふふ、先生。心とは、面白いものだな」

 

 つまりは、このゲダムを生み出した一端を担うのは先生である。あれはそのように言いたいらしい。

 

「実に感謝しているよ、先生。ここに私がいるのは先生のおかげでもあるのだからな。流石、生徒のために動く先生というところか」

 

 一層深い笑みを浮かべ、ゲダムは告げる。

 

 対照的に、先生は真顔のまま。生徒(の身体)を前にしてこのような表情を取り続けているのは初めてのことであった。

 

「"……いくつか、質問いいかな"」

「もちろん、構わないとも」

 

 話が一区切りしたところで、質問を要求。その要望はすぐに通された。

 

「"じゃあ一つ目。君はどうやってここに?"」

「ふむ、確かにその疑問を抱くのは自然なことだな。何せ私が突然ここに現れたのだから。

 その答えは単純だよ先生。私の過去の記録に一瞬ではあるが転移装置に感染したというものがあるからだ。この機能を用いてここに転移した、というわけだな」

 

 記録。その言葉から察するにゲダムが今世で目覚める前のことも指しているのだろう。

 さらにゲダムは感染したのは一瞬だと答えた。それなのにも関わらず、転移能力を保有している。

 

 つまり、ほんの一瞬でもゲダムは対象に感染さえしていれば、対象の能力を扱うことが出来ると言えてしまう。

 

「"……そう"」

 

 なんて恐ろしい能力だと、先生は感じた。感染をしたのは過去のことだというのに、その力を今でも保持し続けている。

 

 感染するだけ力が増すという得しかない能力だ。

 

「……あぁ、安心してくれていい先生。今のところ私はこの身体とは別の存在に感染をする予定はない。

 何せこの身体は私によく馴染んでいる。手放すなどもっての他なのでね」

 

 先生の様子から察したのか、言葉をかけるゲダム。だがその言葉が本当なのかという確証は得られない。とはいえ、それを発言した際の表情から見ても、嘘とは言いづらそうである。内心半分安心、半分警戒継続となった。

 

「"……二つ目。今、君はどこまで理解しているの?"」

 

 この質問にも意図は存在する。何せ、今現在ゲダムの身体はレキの身体だ。先ほどの感情の話から察するに、レキからの影響を受けて今に至ってると言えるだろう。

 

 となれば、レキの知識とゲダムの知識は同程度であるはずだ。先生がやってくる前に死刑囚となり監獄にいたからこそ、『シャーレの先生』という存在がどういったものであるかなどは理解していないはずだ。

 

 しかし、ゲダムはそれを理解しているかのように振る舞う。その理由が先生には分からなかったのだ。

 

「随分と抽象的過ぎる質問だな」

「"……聞き方を変えようか。君の振る舞いからはレキの知識以上のものを感じる。その知識はどこから得たの?"」

「ふむ……鋭い指摘だ」

 

 再びえくぼを吊り上げ静かに嗤うゲダム。

 

「それも単純だ。()()()()時、周りにちょうど良い者共が何匹もいたのでね。それらから記憶を直接()()()()()のだよ」

「"ッ?!"」

「感染力を応用すれば、容易いことだ」

 

 ここに来て再び新たな事実。ゲダムは、記憶を吸いだすという異次元な行為をも可能にするということだ。

 

「"──たちは"」

「?」

「"生徒たちは、無事なんだろうね?"」

 

 先生、ここで明確な怒りを持ってゲダムを睨む。その手はあるカードにかけられていた。

 

 キヴォトスで爆発は割と日常茶飯事。それに比べ今ゲダムが言った記憶抽出には方法の具体性が見えない。生徒たちが爆発以上の危害を受けた可能性だってある。

 

 先生は、それを恐れていた。

 

「──ッ!」

 

 これを受け、ゲダムはさらにえくぼを吊り上げる。先生の怒りを楽しむかのように。

 

「……あぁ、ここで『そうだ』と言えていればどれほど愉しかったか。なるほど、これが後悔か……」

「"早く答えて"」

「急かすなよ、先生。残念だが"まだ"殺していない。ただ記憶をいただくことだけが目的だったのでね。まぁ、少し寝れば無事だろうとも」

「"……そう"」

 

 一先ず、安心。とはいえあまり信じることは出来ない。そして、この振る舞いから先生はゲダムの人となりをある程度察し始めていた。

 

「それにだ、ここで殺し始めるのは面白くない。雑魚とはいえ、この私を楽しませる要因となり得るのだからな」

 

 このもの、人を傷つけることに対して躊躇がない。殺しに対してもだ。言いぶりからやろうと思えば簡単に矯正局の生徒らを殺すことは出来たとも受け取れる。

 頑丈なキヴォトスの人間を、容易く葬れると言っている。強大な力を持っていることは想像に難くない。

 

 これはレキのそれとは大違いであった。

 

 レキも力としては破格である。簡単に不良生徒を一瞬に鎮圧出来てしまうほどに。それが殺意に傾けば、相応の被害が出てしまうと分かってしまうほどに。

 しかし、レキには倫理が備わっていた。『殺しは良くない』という感覚を抱いていた。また、レキは精神的に幼いことを先生は理解している。ゆっくりと傍で教え続ければ、感情に任せた暴力を抑えることが出来るだろうとも。

 

 だが、目の前のゲダムは違う。知識を蓄え、理性を確立させた現在のゲダムの感覚をこれから変えていくことは非常に難しい。何せ、ゲダムは自身が正しいとして動いているようであるから。先生が何を言ったとしても響くことはないとしていいだろう。

 

 感性として真逆に近い立ち位置にいるこの場の二人。対立は避けられない。

 

「"……最後の質問"」

 

 投げかけるのは、これだけは聞かなくてはならないというもの。先生として導こうとした生徒のための思う、一番気になっている質問だ。

 

「"レキは、今どうなっているの?"」

「ほう」

 

 改めて見ても、目の前にある身体はレキそのものだ。面会時、買い物時と何度か見てきたレキであるのは間違いない。ただ、ヘイローや目などの一部が緑色に変色していることを除けば。

 

 嫌な想像はいくらでも出来る。示唆するような言葉もいくつかあった。しかし、レキがどうなったのか、これをきちんと知ることこそ先生にとっては大事なことであった。

 

「"その身体はレキのだよね? なら、君はレキから身体を奪ったということかな"」

「まぁ、そうとも言うな」

「"……レキの人格を、魂をどこへやったの"」

「……ふふふ、先生は力を持たないと聞いていたのだがね。実に良い睨みじゃないか」

 

 レキを心配するからこそ出てしまう大人の圧。これを先ほど同様愉しそうに受けるゲダム。

 

「──おっと、失礼した。坤音レキの魂……だったかな? 本来なら壊すことこそベストだが、まだ役割があるのでね。今は奥底に押し込んでいる状態だ。諸々と頂戴しているため、自力で出ることは不可能だろう。

 役割を果たしてもらえば壊すつもりだ。然程時間はかからないと思うがね」

 

 つまりは、現段階でレキは生きているということ。だが、タイムリミットも近いらしい。

 

「"その役割って?"」

「それは──っと、少し雑談をし過ぎたようだ。本来の用を忘れるところだった」

 

 話の主導権がゲダムに戻る。

 

 そう、ゲダムは二つの用があってここにいる。一つ目が最初に行った感謝。そしてもう一つが──提案。

 

「さて、先生。ここからは非常に面白い提案の時間だ。きっと頷かざるを得ないだろうほどに、興味を持つだろうな」

「"……"」

 

 先生は、次の言葉を待つ。

 

「私はな、先生。貴様に……いや、キヴォトス全域に宣戦布告をしにきたのだ」

「"──ッ!?"」

 

 学園都市キヴォトスへの宣戦布告。各自治区に対してでも、シャーレに対してでもない。キヴォトスという全てに対してという広大な範囲に対してだ。

 

「"……どういうこと?"」

 

 内心驚きをしつつも、表は冷静のまま尋ねる。まずは、真意を探る方向に舵を切ったようだ。

 

「何、理由はシンプルだ。今の私の実力を、実戦を持って確かめたくなった。そして、戦闘を愉しみたい。この二点のみだ」

 

 己の欲を満たすため。何と原始的な理由。だが、シンプル過ぎる所以に、代替案は出せない。

 

「とはいえ、これ(直接キヴォトスに宣戦布告)をするのは後でもいいと考えている。今はまだ目覚めたばかりであるからな。

 そのリハビリがてら、先生には相手になってもらいたいのだよ」

「"……私が?"」

「そうとも。先生は非常に優れた戦闘指揮能力を有しているらしいではないか。それを、私にぶつけて欲しい」

 

 何一つ、先生側にメリットはない。しかしここでゲダムはこう述べてきた。

 

「方法は単純。私vs先生陣営の戦闘だ。私が勝てば、キヴォトスに宣戦布告をし、全てを破壊しつくしてやろう。逆に先生が勝てば、私はここを去ろう。坤音レキも返してやろうじゃないか」

「"!"」

「……あぁ、断ろうだなどと考えない方がいい。一回断るたびに、貴様の生徒を……そうだな、十人殺そう。何せ今あそこ(連邦矯正局)は混乱状態だ。適当な十人を見つけ殺すことなど一瞬だとも」

「"──ッ!"」

 

 これで先生の選択肢に、断るという択がなくなってしまった。勝った時のメリットもそうだが、断った際のデメリットが大きすぎる。

 

 ゲダムが行ったらしい連邦矯正局施設の爆発、混乱状態。ゲダム襲来から然程時間は経っていないため現状まだ解決していない。

 その混乱状態の中で十人をさらってきて、そのまま殺すことなど本当になんでもないのだろう。先生の反応を見てゲダムは嗤っている。

 

「さて、どうかな? 先生。答えを聞かせてもらおうか」

 

 最初からNoの選択肢はないようなもの。だがここで先生の口から言わせようとする振る舞いが、ゲダムのそれを表していた。

 

「"……分かった。いいよ、やるよ"」

「ふむ、やはりそういうだろうと思っていた。流石は先生だ」

 

 にんまり、という言葉がぴったりなほどの笑みを浮かべ、ゲダムは告げた。

 

「思い立ったが吉日。とはいえ、先生側も仲間集めがあるだろう。二日後の朝にシーノヴォ自治区だ。詳細は追って伝えるとしよう。

 ──では」

 

 それを最後に、ゲダムは消えた。跡形もなく、そこに何もいなかったかのように。

 

「"二日後……"」

 

 急な日程だ。とはいえ主導権は向こうにある。変更は難しいだろう。

 

 先生は比較的キヴォトスに来たばかり。実際に出会ってきた生徒の数はそこまで多くない。加えて全ての生徒がシャーレという存在を信頼してくれるかも怪しい。ゲダムが直接宣戦布告をしない限り、ゲダムの存在すら信じてもらえないかもしれない。つまり、あまり選択肢はないようなもの。

 半分パニックに近い状態へとなりながら冷静になるようにも働きかけ、今後の方針を考えようとしたその時──。

 

 

「──先生」

 

 

 聞き覚えのある声が、姿が、突如シャーレの部屋入口に出現した。

 

「"リス……?!"」

「さっきの話も含めて……詳しく聞かせちゃあくれないか」

 

 元治安維持委員会委員長であり、現ミリツィアのリーダー、森邑リスがそこにいた。

 

 

 

【次回→二十話:我儘】

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