死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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昼寝の時間

 昼御飯食べ終わり。片付けを看守にさせ、彼女は再び限られた自由の時間を得る。

 

 ここでは間食などは勿論ない。朝昼晩の三食のみとなっている。次の晩ご飯の時間にはまだまだ時間があるということ。

 

 ──ふぁぁぁ……

 

 可愛らしい欠伸。うとうとしてきた様子。

 お腹が膨れれば、眠くなる。自然の摂理だ。

 簡単にベッドの上の片付け。必要なものは全部ケースに格納。

 

 ほぼ板の敷布団で横になり、薄い掛け布団を被って目を瞑る彼女。少しすると、寝息が部屋に響き始めた。

 

 ──すぅ、すぅ……

 

 その隙を見逃さない看守ではない。大きいハンマーを手に持ち、音を立てないようにして中へ入ってゆく。

 

「4番……? 起きてないわよね……?」

 

 二度ほど、小さな声で呼びかけ。反応無し。にやりと大きいえくぼを作る看守。

 

「覚悟なさい……ッ!」

 

 両手でゆっくりと上にハンマーを持ち上げていき──落とすッ!

 

 ──ガッ

 

 途端。敷布団から手が出現。ハンマーが綺麗に受け止められる。

 慌てて看守は彼女のほうを確認。寝息は聞こえる。目も瞑ってる。眠っているはず。

 

 しかし事実は目の前に。ハンマーは完璧にキャッチされ、加えて動かせない。押しても引いても手を放してみても、そこからハンマーはびくともしない。

 

「……これ、ヤバいわよね……?」

 

 このまま彼女が起きてしまえば、目が合ってしまう。となればボコされるのは確定。寝ている間にこっそり殴ってやるつもりが、殴られるなど笑い話にしかならない。

 

「このまま……ゆっくり……」

 

 故に看守は撤退を選択。

 来た時よりも静かに、そして慎重に足を進めていく。

 出入り口のシールドに到達。外に出てほっと一息する看守。

 だがまだ最後の大仕事が残っている。

 

 それは音を立てないでシールドを閉め切ること。

 これにより彼女からすれば起きたらなんか握ってたという状況を作れる。看守がボコされることはなくなるというわけだ。

 

「そーっと……」

 

 少しずつ、じわじわと閉じられていく。

 

 あと半分。

 

 あと少し──その時だった。

 

 ──ブォンッ!

 

「え、ちょぉぉッ!!」

 

 ちょうどハンマーと同じくらいの幅になったところで、急に牢獄内から投げられるハンマー。

 見事にシールドの隙間を通り抜け、看守に直撃。牢獄の外でハンマーの勢いのまま看守が壁に衝突する音が響き渡る。

 

 突然の轟音にさらに人がやってきたようで、急に騒がしくなる。

 

 ある者がシールドが中途半端にしか閉まっていないことに気が付き、急いで閉め切る。その際にもバァンという激しい音が鳴り響いた。

 

 しかし彼女は起きない。まだ目を瞑っており、寝息も聞こえる。先ほどのは完全無意識の行為。

 普通なら、ここまで騒がしければ起きてもおかしくないだろう。加えて全然寝心地も良くないはずだ。

 

 だが彼女は眠り続ける。まだまだ眠り足りないから。

 

 まぁ多分、夕食頃には目を覚ます。流石の彼女も空腹には勝てないはずなので。

 

 

 

 ────────

 

 

 

「"……んーと、ちょっと待ってね。死刑囚……?"」

 

 思わず聞き返してしまう先生。さりげなくインパクトの強い事柄を言われてしまったからだ。

 

『恩人で友達の』。ここまではいい。よくあるといえばよくある関係性と言えるだろう。

 しかし『何故か死刑囚になっている』。これはスルーできるものじゃない。

 

「は、はい。わたしとしてはこの判決間違ってるとは思うんですけど……」

 

 死刑。それは対象者の命を奪い取る刑罰。

 このキヴォトスにおいて最も重い処罰であり、制度としては昔から存在はするものの、未だその刑を言い渡されたのは坤音レキただ一人のみである。

 

「"……うーん"」

 

 先生は考える。死刑囚といえばを。

 偏見ではあるがすぐ思いつく。厳つい顔面をしていたり、怪しいカルトの教祖であったり、サイコパスと呼ばれていたり、割と様々。

 共通していることといえば、一言で言うと大きい悪意を持つ存在。

 

 思考内容を変える。ニツについて。

 出会ってからほんの数分。しかしかなり真面目そうで、優しそうな性格をしていることは分かる。

 

 そんなニツが、死刑囚を恩人であり友達であると言っている。

 これが本当なのか、騙されているのかは分からない。だが、こうして話をしにきてくれているニツの力にはなりたい。

 

 とはいえ、まずは何にせよ情報が必要だ。今持っている情報は僅かしかないのだから、判断も何もできない。

 

「"とりあえず、色々詳しく話を聞きたいね。聞かせてくれるかな?"」

 

 

【第二話:詳細】

 

 

「──先生は、シーノヴォ自治区って知ってますか?」

「"シーノヴォ自治区?"」

 

 このキヴォトスが様々な区に分かれているというのは先生も知っている。有名どころといえばトリニティ、ゲヘナ、ミレニアム、アビドスが挙げられる。

 しかしその区の数は数千にも及ぶ。全てを把握するのは来たばかりと言ってもいい先生には厳しいものであった。

 

「あはは。そうですよね。辺境の辺境でしたし、今は存在しないようなものですから」

「"今はないの?"」

「はい。ある事件によって完全に崩壊してしまいました。なので、シーノヴォ自治区にいた人は引っ越して皆別々の学園に通うようになったんです。……実は、わたしもそうなんですよ」

 

 少し寂しそうに語るニツ。彼女にとっては故郷にもう二度と帰れないということだ。一瞬、先生は何と声をかけるべきかを考える。

 しかし、次に声を出したのはニツであった。

 

「今はもう大丈夫です。……それより、レキさんのほうが大事ですから」

「"……もしかして、その事件にレキって子は関係してたりする?"」

 

 重く、ニツは頷いた。

 

「……はい、そうなんです。レキさんはその事件の……『火の海事件』の犯人とされてるんです」

「"!"」

「あっ! でもレキさんって絶対そんなことする人じゃなくて! 人柄的にそんなのするわけないっていうか……!」

「"お、落ち着いてニツ!"」

 

 どうしても世間で言われてる事柄を信じてほしくないのか、語られている事件と自分の感情をごちゃまぜにしながら話すニツ。

 暴走してしまったニツをなんとか落ち着かせ、無くなったコーヒーを注ぎなおす先生。一瞬、休憩タイムに入った。

 

「……ごめんなさい。でも、ここも駄目だったらわたし、どうすればいいのかって思っちゃって……」

 

 世間的には、ニツの友人であるレキは凶悪犯。そんな事件を起こすわけがないとレキを完全に信頼しているニツは、これまで沢山声を出してきた。間違っていると。そんなわけがないと。

 

 しかし、誰もニツの話を聞かない。狂人とみなされたり、規模は小さいがいじめの被害にもあってきた。

 

 つまり、ここが最後なのだ。

 悩み解決の実績もあり、相手を差別することなく、加えて連邦生徒会直属ということでなんとか出来るかもしれない力も持つニツの探していた理想の相談所。

 少し必死になってしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

「"私としては、ここを頼ってくれたニツの助けになりたいって思ってるよ。途中でやめるだなんてことはしないから、安心して話してほしいな"」

「……はい」

 

 現在出ているキーワードは、『坤音レキ』『死刑囚』『シーノヴォ自治区』『火の海事件』。概要はなんとなく把握したが、まだ足りてない。

 

「"……ところで、ニツとレキって子とどうやって知り合ったの?"」

 

 まずは件の人物について知るべきと判断したのか、先生はレキについての話を振る。友達だとも言っていたため少しでも明るい話をしてもらって元気になってもらおうという意図もあったのかもしれない。

 

「はい! さっきも言ったんですけど、レキさんはわたしの恩人でもあるんです!」

「"恩人? 確かさっきもそう言ってたね"」

「そうなんです。……とは言っても、レキさんは覚えてないでしょうけどね」

 

 少し間を置いて、ニツは続ける。

 

「あれは……まだわたしがシーノヴォ自治区の中学校に通っていた頃でした」

 

 ────

 ──

 ─

 

 シーノヴォ自治区は、かなり辺境な場所にありました。

 そのためか交通の整備だったり、技術の発展だったりが物凄く遅れている田舎みたいな場所だったんです。

 そんな風に他の自治区に劣っているという劣等感からでしょうか。治安は凄く悪くて、少し歩けば不良だらけで、一時間ごとにどこかしらで必ず戦闘が起こっているような場所でした。

 

 わたしは戦闘が苦手で、今も護身用の拳銃しか持ってません。ですので、なんとか不良に絡まれないように極力外出しないでいたり、出掛けるとしても人と出会わなさそうなところを通ることを意識して生活してました。

 正直今の方が生活しやすいので、こういう意味では故郷に思い入れはありません。

 

 ……とまぁそれは置いておいて。ある日、見つかってしまったんです。不良に。それも大人数の。

 最初は銃を撃ちつつ逃げようとしました。ですが、人数の差でどうしても逃げられませんでした。あのままだったら、ストレス発散目的でボコボコにされたり、持っていた買い物袋を取られてしまっていたでしょう。

 

 しかし、そんな時に来てくれたんです。レキさんが。

 多分レキさんもその不良グループに絡まれたからやり返したって感じなんでしょうけど、結果的にレキさんはわたしを助けてくれたんです。

 

 不良相手に無双するレキさんは今でも覚えています。銃弾をキャッチしたり、当たってもピンピンしてなんなら跳ね返していたり、その場にいた不良たち全員の上半身を埋めてしまったりと、とにかく凄かったんです。

 

 いやもうほんっとカッコよくて! 

 一瞬ですよ一瞬! 

 しかもこの部屋全体を埋め尽くせるくらいの人がいたのに、全員埋めてしまったんですよ! 無傷で! しかも素手で!

 さらにですよ、その後ちょっと砂ぼこりを手で払った後、何事もなかったように立ち去って行ったんです! 

 いやぁ、あのレキさんめっちゃ素敵だったなぁ……。

 

 ……あ、すみません。続けますね。

 その日から、わたしはちょっとだけ出掛ける頻度を増やしました。あの時のお礼はまだ言えてなかったし、当時はまだ名前も知りませんでしたから。

 

 再会は意外と早くて、さらに何度か偶然出会うこともあって、出会っては話しかけるってのを続けていきました。最初は無視されてたんですけど、ある時から話してくれるようになって、いつの間にか話すようになってました。

 お互い時間があるときはご飯にいったりなんかもしました。そこからですかね、レキさんと友達ってくらいになったのは。

 

 そういえば、レキさんの趣味の関係で大きい収納ケースを探してたみたいなんですけど、その時手作りした亜空間アタッシュケースくんをプレゼントしたんです。実はわたし、物作りが趣味で。だからといって部活動に入ってるわけじゃないんですけどね。

 喜んでくれてるレキさんも良かったなぁ。今でも使ってくれてたら嬉しいなぁ。レキさんがわたしの作ったものを使ってる……えへへ、なんかいいですねぇ。

 

 ……あ、すみません。またやっちゃいました。

 こほん。つまり何が言いたいのかっていうと、レキさんはシーノヴォ自治区を崩壊させるような人じゃないってことです。

 

 だからお願いします先生。レキさんを……死刑から助けてください。

 

 ─

 ──

 ────

 

 あの後、いくつか話をした先生とニツであったが、日が暮れてきたのでニツは帰宅することに。

 モモトークを交換し、何かあればすぐ連絡をするということを取り決め、その日の話は終了した。

 

 現在先生は残っている書類を片付けつつ、脳内で今日の話を整理していく。

 

「"……『坤音レキ』って子が引き起こしたとされる『火の海事件』。

 だけどその子の人柄を知っているニツからすると、そんなことをするような子ではない……か"」

 

 端的にまとめると、こういうことだろう。だが、まだまだ情報は不足している。

 先生、仕事を一瞬中断。適当な紙を取り出し、そこに調べるべき事項を書いていく。

 

『坤音レキ』の詳細。

『火の海事件』の詳しい情報。

『シーノヴォ自治区』の当時の事情。

 

 何が原因で、どうしてそんなことが起こったのか。まずそれらを把握しなければ土俵にすら立てない。

 

「"アロナ。『火の海事件』について調べてくれる?"」

『はい! ニツさんのお話にあった事件ですね? わかりました!』

 

 ニツの話にはどうしてもニツ自身の気持ちが混じってしまい、その分バイアスがかかってしまっている。疑っているわけではないが、今欲しいのは客観的な情報だ。

 死刑から無罪に至ろうとしても、感情論だけで判決は覆せない。

 

 仕事を再開し、調査が終わるのを待つ。

 

『先生! こちらが調べた結果になります! 加えて犯人についても纏めましたので、そちらもどうぞ!』

「"早いね!? でもありがとう。読ませてもらうね"」

 

 その時はあっという間にやってきた。すぐに仕事を再中断。シッテムの箱に表示された調査結果を確認する。

 概要はニツの語っていたことと同じ。しかし、より詳しく記載がされていた。

 

 ある人物がシーノヴォ自治区を短期間で破壊の限りを尽くしだす。

 それを食い止めようと当時シーノヴォ自治区に進出していた会社『ゾロフ』やシーノヴォ自治区治安自治組織が戦力を出したが、逆に返り討ちにされたため様々な場所へ戦力を要請。

 多数の戦力が投下されたが、結果敗北──。

 

「"……!? 敗北?!"」

 

 ──その後、削られ過ぎた故に一時撤退。この一時間後に実行犯は行方不明になる。

 一ヶ月後、全身に包帯が巻かれたぎこちない動きをする人物を不審者として逮捕。

 取り調べの中で特徴から坤音レキと断定。『火の海事件』実行犯として改めて逮捕される。

 大きく顔が変化した状態で、手術などを行った形跡もあったという。

 

「"……"」

 

 先生の脳内に更なる疑問が浮かび上がる。何も相談を受けなかったら、過去のほぼ終わった事件として怖いという感想しか抱かなかったかもしれない。

 

 一つ。撤退させるほどの戦力を持ちながらどうして行方をくらますようなことが起こったのか。

 一つ。坤音レキに手術を施したのは誰なのか。

 一つ。そもそもどうして坤音レキは、この事件の実行犯になってしまったのか。

 

 これらの疑問を解決するような文言はそこには記載されていなかった。

 

「"……次"」

 

 関連する項目として纏められている実行犯について。先生は次にそちらを見始める。

 

『坤音レキ』。元々はシーノヴォ高校に通っていたが事件をきっかけに退学扱い。元々不登校気味ではあったようだ。

 

 事件当時の写真と捕まった時の写真を見比べると全然違う。

 一番分かりやすいのは表情。常に目を見開いて眉間にしわが寄っている顔から、無表情へ。まるで感情をそぎ落としたかのよう。

 写真映りの影響なのか、顔に存在してる手術痕を境目に皮膚や目、髪の毛の色が違うように見える。

 また、双子の姉が存在するようだ。ただ姉の現在の行方は不明、詳細もほぼレキと同じくらいしか分かっていないらしい。顔写真は存在しない。

 

 さらに、ニツの話によればこのキヴォトスで珍しく銃ではなく素手で戦闘を行うようだ。実力も話が本当であれば、事件をやろうと思えば起こせるくらいにはあると見ていいだろう。

 

 現在は矯正局の地下奥深くの専用に用意された牢獄に入れられ、死刑の時を待っているようだ。

 

「"……なるほどね"」

 

 手元の紙の上の真ん中の項目を射線を引いて削除する。そして、大きく背伸び。一時休憩を入れるようだ。

 

 残る項目は二つ。【『坤音レキ』について】。【『シーノヴォ自治区』の当時の状況】。

 

 一つ目に関しては、調べはしたがまだ本人と直接会ってないため消していないのだろう。しかしレキは死刑囚。会いに行くための手続きには少し時間がかかる可能性がある。

 

 二つ目に関しては、ニツがそこを辺境だと言ってたため、事実ならばそこまで大きい情報が転がっているとは考えにくい。

 加えて、当時の状況を調べるならば当時そこにいた者に聞いたほうがいいだろう。知りたいことは「自治区内の雰囲気」というような現地にいた者しか分からないことなのだから。

 

「"ふぅ、さて……"」

 

 一息吐き、切り替える先生。どうやら休憩は終わりらしい。

 まずはということなのか、アロナに次の依頼をするのであった。

 

「"アロナ。続いてで悪いけど、元々シーノヴォにいた生徒たちをリストに纏めておいてくれる?"」

 

 

 

 ──【次回→第三話:調査】




元ネタがあるとはいえ、まんまそのキャラってわけではないのでご注意を(今更)
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