死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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繋ぎの回

毎度の事ながら、上手く纏まっていて欲しい


養分の時間

 83パーセント……中々足掻くじゃあないか、坤音レキ。

 

 無駄なことを。足掻いたとしても、その情報がまた私に蓄えられるだけだというのに。

 精々私の養分になってくれたまえよ。

 

 ……それにしても、二日は与えすぎたのかもしれないなぁ。

 時期が近づく度に、高ぶってしまう。楽しめるのではないかと期待してしまうな。

 

 期待外れだとしたら……ま、殺してしまえばいいか。所詮その程度だったというだけのこと。

 

 さて……そろそろ場所を決めておかねばなぁ。

 私をきちんと楽しませてくれよ? なぁ、先生。

 

 

 ─────

 

 

 

【第二十話:我儘】

 

 

「"リス……?!"」

 

 ミリツィアのリーダー。何気にここで出会うのは初めてだ。加えて、本日来るという予定もない。

 

「"なんでここに……"」

「あー……唐突だったのは謝る。ただ、監査から日数が少し経ったろ? そろそろどんな内容だったのかを聞きたくてな。対面のほうが情報交換はやり易いし」

 

 頬を軽く掻きながら告げるリス。少しおどけたような表情だ。

 

「──んで、さっきの話なんだが」

 

 目が切り替わる。先生も何度か見てきた、真剣な話をするときのもの。

 

「坤音レキと似たような姿をした奴、そしてそいつからの宣戦布告……なんだか色々と複雑なもん背負ってんな? 先生」

「"聞いて、いたんだね"」

「まぁな。……全部は聞けてねぇし、一部意味わかんねぇこともあったけど」

 

 それはそうだろう。ゲダムの存在は現状ゾロフ──ルアンと先生しか知らないのだから。

 

「あいつはいずれ、キヴォトス全土に宣戦布告すると言ってたな。その前哨戦として、先生に勝負を挑むとも」

「"……言っていたね"」

「なら、この先俺はアレのことを知ることになる。だったら、ここで知ろうが結局同じだ」

 

 リスの理屈は尤も。ゲダムのことを先生が止めることが出来なければ、ゲダムの存在は世間の全てに拡散してしまう。

 

「……教えてくれるよな? 先生」

 

 わざわさリスがこのような言い方をしたのは、先生の特性を知っているからである。付き合いこそそう長くないとはいえ、リスはある程度人柄を把握していたのだ。

 

 それこそ、何も言わなければ先生はたった一人でアレに立ち向かってしまうだろうと、簡単に想像出来てしまうくらいには。

 

「"……"」

 

 そして、その思惑は当たっていた。

 先生の持つ切り札──通称『大人のカード』。これを用いることで、先生は一時的ではあるが、キヴォトスの生徒らと同等、いやそれ以上になるかもしれない戦力を確保することが出来る。大人のカードさえあれば、ゲダムとやりあえることが出来るかもしれない。

 

 しかし、先生は知っている。このカードの力の性質を。このキヴォトスで過ごした時間が、生徒との絆の強さが、そのままカードの力に反映されることを。

 

 現状先生はキヴォトスでは新参者の立ち位置にいる。加えて、絆を結んできた生徒の数も決して多いと断言しにくい。何せこのキヴォトスには数千の自治区が存在するのだから。

 故に、大人のカードがあのゲダムに敵うのかに関しては、出来ないに寄っていると見ていいだろう。

 

 だが、それでも先生は先生なのだ。その身がどうなろうとも、生徒のために突き進むのが先生であると信じているから。

 だからこそ、誰にも言わず一人で行くつもりであったのだ。

 

「……先生」

 

 中々首を振らない先生に、リスは切り出す。

 

「オレは……オレたちは、そんなに頼りないか?」

「"! ちがっ、そういうわけじゃ"」

「無理に否定しなくていいさ、先生。……多分アレは、一個か二個、ランクが違うだろうからな」

 

 一つ、ため息を続けてリスは続ける。

 

「坤音レキの肉体、あの瞬間移動(ヘンテコな)能力……妙な自信があったことから、他にも何か力を隠してるんだろうな。火の海事件の時、オレたちは坤音レキに手も足も出なかったからな。坤音レキに勝ててない時点で、あれに勝つのは難しいと判断されてもおかしくない。

 ……だけど」

 

 ここでリス、先生の方をじっと見つめる。

 

「だけど先生がいれば、アレが相手でもなんとかなる気がするんだ」

「"!"」

「前に一回指揮を執ってくれたろ? その時……正直に言って、一番戦闘がやりやすかったんだ。連携がいつも以上に完璧であったというかな。その指揮をオレとピコだけじゃなく、ミリツィア全員に掛けて貰えれば大幅な戦力強化になると思ってる」

 

 リスは、先生のことを強く信頼していた。調べていた火の海事件の情報共有、以前の戦闘での指揮、出会うきっかけとなった勉強を教えるという依頼での対応……挙げれば多く挙がってくるだろう。

 

「火の海事件についても多少だが弁解があってな……あの時は突然のことで委員会の中で混乱も大きかったし、一部の者たちは住民の避難対応に回させてたりと万全ではなかったんだ。

 だからこそ少しだけでも準備期間がある今なら、全力を出し切って勝利をもぎ取れる気がするんだ」

 

 目は逸らされない。その分、想いが十分すぎるほどに伝わってくる。

 

「オレは、先生を信じてる。だから、どうか先生もオレを信じて欲しい。共に戦わせてほしいんだ」

「"ッ……!"」

 

 揺れる。巻き込みたくないという気持ちと、リスの信頼に応えたいという気持ちの二つで。

 

 先生は感じ取ってしまった。ゲダムの人となりを。キヴォトスの倫理観など一切通用せず、躊躇なく人を殺せてしまう者であると。そんな存在であるゲダムに、未来ある若者であるリスたち生徒を巻き込むことはしたくない。

 

 先生は感じ取った。強い信頼を。先生という個を信頼し、共に戦おうとしてくれるその覚悟を。折角生徒が自分をこうして頼ろうとしてくれるのだ。これには先生として応えたい。

 

「"……これまでの相手とは、訳が違うよ"」

「むしろあれが同じだったら驚きだね」

「"未知すぎる。だから多くの危険が伴うかもしれない。……最悪の場合、死ぬかもしれないんだよ?"」

「元より、あれをなんとかしなきゃだろ? なら、結局同じだ。

 それにな先生。……あれは火の海事件に、シーノヴォ崩壊に大きく関与してるんだろ? だったらオレは、それにケリをつけたいんだ」

 

 目は、やはり逸らされない。確かめるまでもなかったかもしれないが、覚悟は本物であった。

 

「先生」

「"……"」

 

 熟考する。天秤で測る。何度も、その変数を変更し続けて。

 

 そして──、

 

「"……生徒の事を信じるのも、先生だもんね"」

 

 結果、勝ったのは後者の気持ちだった。

 

「! 先生っ!」

「"うん。あのゲダムを止めるべく、協力してほしいな"」

「あぁ、任せてくれ。それで、そいつの情報をこれまでの経緯含めて教えてくれないか?」

「"分かった。じゃあ、長くなるけど──"」

 

 説明し始める。監査から、今に至るまでの経緯を。

 

 リスは、ただ聞いていた。

 特にゲダムの時の──ルアンから聞いた話をしていた際、リスは目を瞑って黙って聞いていた。拳を握り、震えながら。まるで事実を、無理やり飲み込もうとしているように。感情を爆発させないように。

 

「"……リス。協力して欲しいとは言ったけど、あまり聞きたくないなら無理をしなくても"」

「あいや、大丈夫だ。続けてくれ」

「"……わかった"」

 

 話は進んで行く。順調に。そして、最後まで辿り着いた。

 

「"──これが、話の全容。私の知ってる全部の情報だよ"」

「…………」

「"……リス?"」

「──ぁ、いや、大丈夫だ。……少し、思うところがあってな」

「"思う、ところ?"」

「疑問点とかじゃないから、一旦は大丈夫だ」

 

 一度、軽く深呼吸。その後、リスは先生の方へ向き直した。

 

「オレから言えることとしてだが……まずは戦力を集める必要があるな。オレは勿論のことだが、一人で行こうとしてた先生自身も何かしら戦力を持ってると思ってる。だけど、数が足りない。数が多ければ、それだけ戦術も豊かになるからな」

「"それはそうだけど……他の皆が協力してくれるかどうか。やっぱり相当危ないから"」

「少なくともミリツィアは大丈夫のはずだ。まぁ当然だが、全員ではないかもしれないがな。

 とはいえ、時間もあんまりない。話をしにいくなら今からの方がいいだろう。先生も来てくれるか?」

「"勿論"」

 

 そう、時間がない。期間はたった二日しかないのだ。

 

 善は急げ。その言葉を体現するが如く、二人はミリツィアの本部へと向かう。

 

 

 ────

 

 

 同時刻、ミリツィアの拠点──ではない場所。言わば現場。現在外出中のリーダーリスに変わり、ピコがミリツィアを取り仕切っていた。

 とはいえ、だからといって正直やることはあまりない。元々臨時の時の指揮権は与えられているし、その時のための訓練だってし続けている。特に何事もなければ、いつものように本部や支部で仲間とおしゃべりしたり、後輩たちの面倒をみたりするだけだ。

 

 ──そう、本当に何もなければ、そうなるはずだった。

 

「ねぇピーちゃん、どうする? これ」

「んー……そうだねー……」

 

 ピコを含むミリツィアの者らでそれを囲み、そして処遇を悩んでいた。

 

「ヴァルキューレに差し出してみる?」

「でも、ヴァルキューレに連れ込むほどのことは今回してないんだよねー。あとこいつ、何故かヴァルキューレの確保対象リストには入ってないし。……だからこそ、困ってるんだけど」

「とりあえず起こしてみるとか」

「起こしたら起こしたで面倒くさいんだよねー」

 

 ぽりぽりとを頬を掻きつつ、困ったような声振り。

 

「み、皆さん、その、すみません、パッと思い付いたのがここで」

「ううん、大丈夫だよーニツ。むしろあーしたちのこと思い出してくれてありがとねー?」

 

 もう片方の手でニツを撫でるピコ。どうやら、これの確保のためにミリツィアに通報したのはピコで、それによって来たのがピコを含む数人のメンバーという形のようだ。

 

「そ、その……通報した私が言うのもあれなんですけど……ストーカーさんにあまり酷いことにはしないで欲しいなぁって」

「優しいねぇ、ニツっちは」

「昔から変わってない」

「ホントねー。とはいえ、何もしないわけにもいかないから、どうしよっかー……」

 

 そう、皆の前でびったんぴったん転げ回っているこの少女こそ、通報の元。

 

「──あぁん、レキ様、それそれぇ~ッッ!!」

 

 何故か地面に転がり、くねくねし続けてるこの女、千根マコ。良く見ると、マコは眠っているよう。

 

 つまり、これは寝言。なんと傍迷惑なことか。

 それをたまたま見つけたニツがこれを見て怖くなり、とりあえずなんとかしてもらいたいという思いから通報した、という流れのようだ。

 

「んー……ん?」

 

 ボスなら何かどうするかなぁと思い頭を抱えていたところ、ピコのスマホに着信が入る。

 

「……えーっと?」

「誰? ボスから?」

「当たりー。えっとね……ふーん?」

 

 先ほどまでのなんとも言えない空気から一変。ピコの表情が若干険しいものになる。

 

「何だった」

「支部を含めたミリツィア全員に話があるってさ。……初めてのことじゃん。緊急事態ってやつだよこれ」

 

 ミリツィアは基本的に自由をモットーとしている。たまに全員で集まって勉強会なり、希望者に対して訓練などを行っているが、参加は任意だ。しなくてもよい。

 

 言わばミリツィアは、場所を提供しているようなものだ。諸事情で学校に通えない、仲間が欲しい、強くなりたい、自治区を超えて人を助けたいなど、そういった者たちへまとめて居場所を与えている。義務などはなく、よっぽどの悪さをしない限りは自由だ。

 

 そんなミリツィアが、その居場所を提供したリスが、全員集合を呼び掛けている。何かあったと見るのは間違いないであろう。

 

「ごめん、あーしら予定出来ちゃった。こいつはこっちで連れて帰るからさ、ニツはもう帰っても大丈夫だよー」

「え、あ、その……ありがとうございます。あの、何かお礼を……」

「いいよーお礼なんて。さっきも言ったけど、ミリツィアを頼ってくれたことが嬉しいんだから。ね?」

「そうそう!」

「間違いない」

「強いて言うなら、これからも何かあったら頼ってくれると嬉しいなー?」

 

 ピコに合わせて周りの生徒らも同意。頼られることに生き甲斐を感じている様子。言い振りから、あまりミリツィアを頼る生徒はさほど多くないのかもしれない。

 

「でも……」

「気にしなーい。気になるなら借りってことにしちゃえばいいよ。思い出したらでいいからね?」

「……はい」

「それじゃ、こいつ連れてくねー」

 

 これから本部、各支部に連絡を取るピコ以外のメンバーで寝ているマコを抱える。鍛えているためか、あっさりと持ち上げられていた。

 

「じゃ、また────ん?」

 

 ニツへ別れの挨拶を行おうとしたピコであったが、その寸前で動きが止まる。

 

「あー……」

 

 マジかーと言うように、後頭部を掻きながら声を漏らす。

 

「ピーちゃん? どったの?」

「……割とマジで緊急事態なのかもしれない」

「え、それって──」

 

 それだけを仲間に告げた後、ニツのほうへと向き直る。

 

「ごめん、ニツ。さっき言った借りなんだけど、すぐに返してもらうことになりそう」

「へ?」

「『ニツがいるならでいいが、連れてきて欲しい』んだって。……外部から人を呼ぶなんて、相当だね」

 

 ニツはミリツィアが治安維持委員会であった頃に、各委員会所属生徒の手伝いとして武器の手入れをしていた。その実力は、リスが称賛するほど。使える手は全て使おうとする気概が文面から見て取れる。

 

「……無理強いはしないよ。何せ突然のことだしね。もしかしたら、苦しいことを命じちゃうかもしれないよ?」

「……」

 

 少しだけ、ニツは思考する。話に乗る、乗らないの二つの権利があるからだ。

 しかしすぐに、ニツは結論を出す。

 

「て、手伝います。手伝わせてくださいっ!」

 

 こうして人に頼られる。ならば、それに答えるのが筋であるというのがニツの考えであった。だからこそ、ほぼノータイムで答えを導き出したのだ。

 

「……いいんだね?」

「はい! 大丈夫です!」

 

 そして、あのような聞き方をすればニツがこうして頷くことなど、比較的長い付き合いであるピコは知っていた。

 

「そっか、ありがとねーニツ。……ごめんね

「? はい!」

 

 そうして、ニツとマコを引き連れてミリツィアの生徒らは拠点へと戻っていく。

 

 今までにない事態に対して、少しずつ覚悟を固めながら。

 

 

 

 

 【次回→二十一話:懇請】

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