死刑囚坤音レキ 作:>∆<
「古より目覚めし寄生者……まさか理性を持ち、"先生"へ宣戦布告をするとは」
誰もいない一室。そこで一人の男が独り言をぼそりと呟く。
「
──コツコツコツ。男の歩む音が室内に響いている。
その空間にいるのは男のみ。独り言は、まだ続くようだ。
「我々としてもキヴォトスの滅びは回避したい。本来ならば早急に対策へ打ち出すべきでしょうが……まだ、終わっていない」
窓の方に顔をやる男。しかしその顔は、人間とは言い難い何かであった。
「
近くにある机には、坤音レキと──坤音ルキの二人について纏められた資料がある。
また、さらに深く室内を見ると、一般的に手術で使われるような器具らが洗浄された状態で、キレイに配置されていた。
「『恐怖とは、未知である』という仮説は果たしてどうなるか。
クックック……特等席で見せていただきますよ──坤音、レキさん」
──────
「今戻った。準備は」
「出来てる。機器接続も問題なし。映像も音声も、全て届いてるのを確認してる」
ミリツィア本部。そこに到着した先生とリス。出迎えたのは、ミリツィアのメンバー数名。前に出ている一人が代表してリスの言葉に答える。
「そうか、ならすぐに行う。ありがとな」
「構わない。先生もお疲れ様」
「"うん、お疲れ様"」
緊張感はあるものの、ピリピリし過ぎしていない。どこかミリツィアの仲の良さが垣間見える。
「ピコは?」
「各支部との接続の最終確認中。あと、緊急事態だということを周知してもらってる」
「よい采配だ。あいつなら上手くやってくれてそうだな」
これからリスによって話されることが大事なことであることを伝える仕事。本来ならピコのように上の立場が行うようなものではないが、それをピコがすることで、事態の深刻さを伝えているのだろう。
「……緊急事態であること、否定しないんだ?」
「まぁな。しかも、悪いほうのだ」
「もしや先生を連れてきたのも」
「そういうこと、だ。詳しくは全体で話す」
あくまで緊急事態であることは、ピコたちが判断したこと。とはいえ、周りに驚きなんかはない。常に最悪を想定するように努めていたからこそ、である。
しかし、普段のミリツィアとは違う──今までにない緊張感が、そこにあった。
「あ、先生! 皆さんも!」
そんな中で歩みを進めていた最中、全員とも聞き覚えしかない声が耳に入る。振り向くと、あまりこの場にいるような者がいた。
「"ニツ……?"」
琴原ニツ。レキの唯一の友人。ミレニアム学園所属で、部活動には入ってないとのこと。
ミリツィア(元治安維持委員会)の者らとは親しい間柄であるという知識こそあるが、緊張感漂う空間に何故ミリツィアにいるのかを、先生は疑問に思う。
「"なんでここに……?"」
「オレが呼んだんだ」
リスが答える。
「ニツは治安維持委員会での実績、先日での功績もある。協力してくれると非常に心強いからな」
リスの言っていることは尤も。先日のレキ脱走事件の中で起きたくつくつヘルメット団撃退に一役買ったのは間違いないのだから。
「まぁ、強要はしてないし、見かけたら声をかけておいてくらいの感覚だったんだ。近くにいてくれたのは、幸運だったよ」
「たまたまです。偶然ピコさんたちに通報していたので……」
「"──通報?"」
「あ、いえ! 別に大したことじゃないんです。その……解決したっぽい? ので」
「"……そう?"」
生徒に何かあったのではないかと勘繰る先生であったが、ニツからの声もあり一旦追及を止める。ニツとしては、既に先生にはお世話になり過ぎているため、これ以上の負担をかけたくなかったのかもしれない。
「とはいえ、ここに来るのは初めてだというから、誰か一緒にいるように指示させてたが……?」
「一緒に居たのはピコのはず」
「あ、はい。さっきまでそうでした。トイレを借りていたので」
「"なるほどね"」
見れば手元にはハンカチが。これで手を拭いていたことが見て取れる。
「なら、着いてきてくれ。この先で話をするんだ」
「はい、ご一緒させてください!」
さらに一人加わり、歩み再開。
目指す場所はミリツィアの中で最も広い空間。そこで全校集会のように話をする予定となっている。勿論、ミリツィアのメンバーは今この施設内にいる者らだけではない。別の自治区に立てている支部もある。そことはミーティングアプリを用いて会議という形で、リスの話を聞いてもらう予定となっている。
「えっと、ところで今日はなんで呼ばれたんでしょう? お役に立てるとは聞いたんですが……」
「さっき他の者にも聞かれたが、詳しくは全体で話す。だが……ニツにはちょっと辛い話になるかもしれないな」
「え?」
「ニツだけじゃない。お前らにとっても、ある意味嫌な話になる可能性がある」
立ち止まり、その場にいる全員の方を向いて話し出すリス。口ぶりは、まるで警告をするかのよう。
「……ボス?」
「"……"」
事情を理解している先生は、その言葉の意味を正しく理解できる。
ニツに対しては、友人であるレキに深く関わることであるから。他のミリツィアメンバーに対しては……命にかかわることであるから。
協力はしてほしい。だが、強制にはしたくない。そんな思いがリスから聞こえてくるようだ。
「全体でも話すが一応言っておく。これは任意だ。やりたくないことはやらなくてもいい。ここは軍事組織ではないからな。
だが……協力してくれれば、非常に助かる。それだけは覚えていて欲しい」
最後にそれだけを告げ、向きを改め歩みを再開するリス。
それに最初に反応できたのは、先生だった。
咄嗟に駆け足となり、リスの横に並ぶ。
「──すまない、先生。ここに来るまでは勝手に大丈夫だと決めつけていたが……話が話だ。最悪ミリツィアからはオレだけにしてしまうかもしれない」
「"……うん、元は私一人だけのつもりだったからね。気にしないで"」
キヴォトスの滅びに繋がる可能性がある事象ではある。それゆえか、絶望感も非常に強い。相手が相手であるために、話を聞いた段階でリタイアする者だっていてもおかしくない。
「ありがとう、先生」
【第二十一話:懇請】
「──さて……こうして話を聞いていただいて、ありがとう」
大きく広い空間。そこには大勢のミリツィアメンバー。彼女らは一点を──リスの方を向いていた。
カメラも設置されており各支部に配信されている。この日、この瞬間、キヴォトスの中で一番注目を集めたのはリスであろう。
「ミリツィアって組織は、知っての通り軍事組織じゃない。来たい時に来て、それぞれが思い思いに過ごせる──そんな組織に、してきたつもりだった。防衛術だって、あくまで自衛という形で、しかも希望したやつらだけでやったよな」
アイスブレイクなのか、ミリツィアの組織について話をするリス。リスなりに、自分の話すことをこの時間に整理しているのかもしれない。
「だから、本当はこうやって、全員に一度に話をするって機会を設けるつもりはなかったんだ。これまでも、これからもな。
……ただ、そうも言ってられない事態になっちまったんだ」
空気が切り替わった。全員が一斉に注意をリスに向けていた。
「単刀直入に言おう。このままじゃキヴォトスが滅ぶ。その滅びを回避するために……滅びの元凶を倒すために、力を貸して欲しいッ!」
──途端に起きるざわつき。
こうなってもおかしくない。いきなり世界が滅びだすのだと言い出されたのだから。
「言っておくが、頭がおかしくなったとかそういうのじゃあない。根拠があってのことなんだ。これからそれを説明していく。各自疑問が出てくるだろうが、最後に纏めて受け付ける。まずは話を聞いてくれ。
……っと、最初にお願いだ。これからの話は、絶対に外へ漏らさないでくれ。余計な混乱を招くからな」
ここから、リスにより説明がされていく。
坤音レキの中にいるゲダムについて、それがどんな能力を持っているのか、そしてどんな思想を持っているのか……などである。
だが、この場であまり必要ではない情報──ゾロフとの関係性などは、更なる混乱が予測されたため話には入れていない。とにかくこの場で、共に戦うかもしれないミリツィアメンバーに共有しておきたい情報は全て話していた。
その間、先生はリスの傍で生徒らの反応を見ていた。
「そんな……レキさんが……!」
「っ、はぁ、はぁ……っ」
事実に驚く者。トラウマを刺激され、過呼吸気味となる者。
「……」
「……ふーん?」
静かに聞く者。少し楽しそうな表情をする者など、実に様々であった。
「──以上。質問があるものは、挙手して欲しい。支部にいる者らはミュートを外して声を出して欲しい」
話は一区切り。すると、じわじわとだが手が挙がってくる。
「適当に当てるぞ。……はい、そこ」
「さっき参加は任意だって言ってましたが、参加する、しないはこの場で決める感じですか?」
「この場では決めなくていい。だが作戦会議なども考慮して明日には確定させたい。この後各自にメールを送付するから、そこで回答してもらいたい。はい次」
『ボスやピコさんのような治安維持委員会の人たちは、一度坤音レキと交戦して負けてると聞いたのですが、本当に勝てるのでしょうか?』
「勝算はある。後、前とは状況が違い過ぎるから一概に比較できない。……次」
詰まることなく、質問を裁いていくリス。
そんな中、呼吸が荒くなっているピコが手を挙げた。
「──ピコ」
「ピコさん……?」
「質問っ! ねぇ、本当にボスは勝てると思ってるの……っ?!」
「"……!"」
声を荒げて問いかけるピコ。その顔には、色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
「あーしらだけじゃ無理に決まってる……っ! さっき一概に比較は出来ないって言ってたけど、出来ちゃうじゃん! 前より戦闘回数が減ってる、勘も鈍ってきてる! そんな状態で、ボスは坤音レキに勝てると思ってるのっ?! どこに勝算があるっていうのさっ!」
「……」
「しかも何故か、ミリツィアだけで戦おうって感じだし! 何? 他の自治区たちを巻き込まないの?! キヴォトス崩壊の危機なんでしょ?! だったら他の自治区組織とかにも協力を仰ぐべきじゃないの!?」
実に真っ当な疑問。ピコが声を上げなくても、誰かが声に出していたであろう疑問だ。
「答えなよ! ボス!」
「……まず、他自治区組織などに協力を仰げないかという話だが、これは難しい。……というより、したくない。
理由は二つ。一つ目はミリツィアとしては他自治区に借りを作りたくないということ。ここのメンバーは色んな自治区から来ている。あくまでこの組織内では皆対等でいて欲しい。そのためにはミリツィア自体が組織として他自治区と立場上対等でいる必要がある。変に介入されていざこざが入った場合、ミリツィアの内情が傾きかねない」
「確かにそれは大事だけど、今はそれどころじゃ……!」
「二つ目。──オレの我儘だ」
「……はぁ?」
顔をピコの方へ向けるリス。
「故郷のシーノヴォは、あいつが原因で滅びた。だから──オレの、オレたちの手で止めたいッ! リベンジを果たしたいッ! 倒すことで、お前のトラウマも払拭したいッ!!」
「……ボス」
「それに何も、この感情だけでこうしてるわけじゃあない。話を続けるが、勝算はあるんだ。
何人かなら記憶にあると思う。……あの、特別訓練でやったことだ」
「──!」
「……あぁねぇ」
「あれか」
リスの言葉に、ピコを含めた複数の生徒が反応する。だが、多数は「なんのことだろう」と首をかしげている。当然ではあるが、先生もそこに含まれていた。
「……後で説明する」
「"あ、ごめんね。ありがとう"」
小声でリスに声掛けされ、思わずお礼。推測するに、ミリツィアの切り札のようなものなのだろう。
「ごほん。というわけで、勝算がないわけじゃない。だがそのためには、今反応したやつらだけじゃない、出来る限り多くの者たちの力が必要なんだ。強要はしないが、参加不参加に関しては早めの決断をしてもらいたい。
……他に質問は?」
誰も、手を挙げない。一瞬シンとした空気へとなる。
「ない、ようだな。まぁここでは難しいなら、後で個別で聞きに来てほしい。
では、各自の参加を待っている。以上、解散ッ!」
急にざわつきを取り戻す。支部のほうもミーティングこそ終了したが、ここと同様にざわついているのが予測できる。
辺りを見渡す先生。やはりというべきか、多くの者たちは困惑の表情ばかりであった。突然すぎる世界危機の話。しかもあり得ないほどの強敵。今すぐ決めるほうが難しいと言えそうだ。
「"……無理はしないでほしいけど"」
「あいつらの決定は当然尊重するさ。行かないからって、そいつを迫害するような組織にしたつもりはないし、もしあるんだったら徹底的にそいつを守るつもりだ」
「"いい心がけだね"」
「これくらい、当然のことだろ? ……さて、先生。移動だ。着いてきて欲しい」
「"? どこへ……?"」
突然歩みを始めたリスに、先生は声を掛ける。
「決まってるだろ。
指された先は元シーノヴォ自治区。必然的に存在する組織──そして人物は限られてくる。
「──義務を、果たしてもらう」
【次回→第二十二話:要請】
前の話のサブサブタイトル次回予告をつけ忘れてたので修正をしました。