死刑囚坤音レキ 作:>∆<
──……
──────
【第二十三話:戦争】
指定された場所は、火の海事件発生源のゾロフの施設であった。
火の海事件発生地点であり、ゾロフの研究施設。かつては大きい施設であったのだろうことが、残骸から窺える。
しかし全く復興されておらず、残骸だらけというわけでもない。以前ルアンが言ったように、何とか研究施設としてやっていける程度には建物、設備などは復旧していた。
ただ、依然として建物の周囲推定五メートルより先のエリアでは、瓦礫等が大量に残っている。これらを完全に除去するには、軽く見積もっても数年……いや数十年ほどかかるかもしれない。それほどに、荒れ地となってしまっていた。
そんなぽつりとある建物と瓦礫しかない場所に、彼女たちは訪れた。
「──ようこそ」
出迎えるのはいつの間にかそこに在った、余裕の笑みを崩さないゲダム。
「いやはや、なんと多いことか。ミリツィアにゾロフ……複数勢力の統合、実に面白い。
まるでかつてのシーノヴォを見ているかのようだ」
ゲダムの語る"かつて"。これは身体の持ち主であるレキの記憶である。
そしてこの記憶は、世間では『火の海事件』として語られている。
自身に対抗するゾロフの兵士、治安維持委員会の者たち、連邦生徒会の生徒たち──などなど。それらを思わせるほどの数が、そこにはあった。
「"……ゲダム"」
「やあやあ先生。よくぞ来てくれた……。こうしてゆっくりと対峙することが最後になるかと思うと、非常に名残惜しいよ」
「"いや、勝つよ。私たちが"」
「ふふふ……いつまでその威勢が続くか楽しみだ」
言い終わるや否や、集団に背を向け建物や瓦礫の方を向くゲダム。
「さて、こんな戦場じゃあやりにくいだろう。瓦礫ばかりで、お互い動きづらくて仕方がない。
ゆえに、私からサービスしてやろう」
「"──ッ!!"」
瞬間、先生は察した。咄嗟に叫びだしていた。
「"全員備え──ッ!"」
「──見るがいい」
ゲダムが右腕を振りかぶり──。
──ドォォォォン!!!!
拳を、振るう。
同時に発生する衝撃波と爆音。
発生する砂埃に思わず全員が防御の姿勢をしつつ目を瞑る。
「おぉっと、ついやり過ぎてしまったかぁ?」
皆が再び目を開けると──瓦礫が一切なくなり、広々とした平地が出現した。
「まぁ、いい」
──……コツ
ゆっくりと、ゲダムはその平野の中へと進みだした。
「"ッ、皆大丈夫ッ?!"」
「だ、大丈夫です……けど……!」
「ッ……」
全員一応は無事。しかし目の前の景色を見た者が息をのむ。冷や汗をかいた者も。
当然だ。たったひと振り。それだけで目の前の瓦礫や建物を塵と化し、近場にあった岩山も粉砕され、辺り一面をまっ平にしてしまったのだから。
しかも、まだ余力をかなり残している様子。ゲダムにとって、赤子の手を捻るよりも簡単と言っているようであった。
──コツコツコツ
「少しは、楽しめるものであるといいのだがなぁ」
身体の持ち主である坤音レキでも、このような芸当が出来るか怪しい。また一部のミリツィアの生徒たちやゾロフの兵士らは、坤音レキと直接対決したものは少ない。
目の前のゲダムという存在が、どれだけ規格外なのかを証明する一手となってしまったのだ。
──コツ……
平野の中心にたどり着いたゲダムは、先生のほうを向く。そして……。
「さぁ、舞台は整った。始めようじゃあないか! キヴォトスの運命を賭けた聖戦をッ!!」
叫んだ。その表情はあまりにも笑顔。これからの戦争を、楽しみにしているかのように。
「"……言われなくても。行くよ、皆。それじゃ──作戦開始"」
ザァッ!!
次の瞬間、ゲダムを囲うようにしてあらゆる方向からミリツィア生徒、ゾロフ兵士が出現した。
────
『"まずは集団で攻めていこうと思う"』
言葉を掛けた対象は、自社兵力指揮担当ルアン。言葉を発したのは、ミリツィア担当の先生。この会議は、指揮側に立つ生徒であるルアンと先生による意識合わせ。当日の戦闘の流れなどを事前に共通の認識とさせるためのものである。
ここにミリツィアの本来の指揮官兼戦闘員であるリーダーのリスや、副リーダーピコはまだいない。
『……集団で、ですね。戦争は数とはいいますが、これ以外に何か理由でも?』
『"ゲダムの出方をうかがう、という意味もある。色んな能力を持っていることは想像できる。でも、実際どんな能力を、どの場面で、どのように発揮するのか。これを知った上で、次の具体的な行動を決めて行こうと思うんだ"』
現状、ゲダムは未知数。何をしてきてもおかしくない。分かるのは、現在ゲダムが感染している肉体が、現状近接敵無しのレキであるということ。
『なるほど。となりますと先生、この場で戦闘の動き全ての具体化し、決定するわけではないのですね?』
『"そうなるね。だから最初は考え無しで突っ込ませてるみたいになっちゃうかもしれないけど……"』
『そうならないために、我々が今考えるべきはその指針ですね。何をしてくるかを何通りも予想し、その予想それぞれに対しての対処法を考える、と』
『"そう。過去にゲダムが何に感染したのか、全ては把握できない。だからこそ、求められるのは数。仮に外れていたとしても、いくつも考えてれば近いものがあるはず。それを参考に道を作っていけばいいからね"』
『そうですね。でしたら、考えられるものとしては──』
いくつか、案を提示していく。こうしてくるじゃないか、ああしてくるんじゃないか。その時はこうしよう。こう動こう。こういう方針にしていこうなど、互いの知識、知恵を絞り込みアイデアを出していく。
片方がアイデアを出せば、それに対してどうするべきか、似たような状況としてはこうなるんじゃないか、などなども考え抜かれている。会話が途切れることがほぼない。同時に、多くの考えが共有されていく。
作戦立案という意味合いで二人は息ぴったりであるのかもしれない。
『……そうだ。先生、突撃させる者たちには、防弾の対策をしておきたいのですが』
『"防弾? どうして?"』
『あくまで可能性としてにはなりますが──ゲダムは何かしらの遠隔攻撃手段を持っているはずで、
────────
「……ふむ、なるほど。数で来たか」
ただ、ゲダムは俯瞰して状況を見ていた。それぞれが、一般人ではなくそこそこの訓練を受けた者たちが、ゲダムに向かって突撃してきているのにもかかわらずだ。
「ふむ、この身体が多対一をやってきてないわけではないが、数が大幅に違う……そのため苦戦するだろう、と。こんなところだろう」
ゲダムなりに、現状を分析。
その間にも、飛んでくる弾幕を弾くなりあえて受けるなりして対処している。効いている様子はほとんどない。
「……ならば」
──ガシャシャシャシャッッ!!
「これは、予想出来ていたかぁ?」
多くの、そして様々な銃口が。
ゲダムの肉体のあちこちから。
本当に様々な形状である。まるで統一感がない。
その中には、ゾロフ兵士の持っている銃と似たようなものがある。
それを見た者らの足が、半数近く一瞬止まったことをゲダムは見逃さない。
「ハッ!」
──ズガガガガ!!
その隙に入り込むように、周囲に放たれる弾丸たち。生えてきた銃たちが見かけ倒しなどではないことが証明された。
あまりにも広範囲に発射され続けている。弾切れの概念が存在しないかのように。
ゲダムは予想する。避けるのは難しいだろうと。そして少なくとも、これで向かってくる者の半数近くは倒れるだろうと。それほどに自身の力に自身を持っていた。
ヘルメットのような装甲くらいなら、すぐに破壊できる自信があった。
だが──。
「……なに?」
結果として、誰もこの攻撃にて沈むことは無かった。
─────────
『命中率おおよそ10%……特定の一人を狙ったわけではなく全体へのばらまきのためおかしくない。
加えて、装甲も問題なく機能している。
ここまでは予想通り』
戦闘地点から少し離れた場所。所謂指令基地。周囲には、戦闘状況がゲダム周りのドローンで様々な角度から中継されている、複数のホログラムディスプレイがある。
『A班からD班は攻撃を続行。残りはゲダムを弾幕で囲って。極力その場からゲダムをうごかさないでください』
それを見つつ、インカムを用いて指示を出しているのはルアン。ルアン自身もホログラムのため、この場にはいない。自身を投影していることに違いはないのだが。
「"予想的中だね、ルアン"」
『えぇ。なんとか上手く事が動いています』
先日、二人との作戦会議にて挙がってきた話だ。
ルアンは、ゲダムが遠隔攻撃手段を持っていることを見事的中させていたのだ。
「"やっぱりそうだね。ゲダムは……幼い"」
『アレの意識が目覚めた時期からそんなに経っていないというのもあるでしょう。加えて先生やリスさんから頂いた情報から、ほとんど確信に至れました。
──ゲダムが、『強大な力をいきなり手に入れ、それを見せつけたい子ども』であることが。
故に、まだ見せていない違う能力を出すだろうことが予想出来たわけですが』
ゲダムの行動理念、その精神性、両方をルアンは見事に当てていた。だからこそ、大体ではあるがゲダムの行動を予測出来ていたのだ。
『そもそも、坤音レキさんは銃を用いてきていなかった。慣れていないのは当然。現在肉体は坤音レキさんのものである以上、その特性も引き継いでいると考えるのが自然ですね。命中率が低いことはおかしくありません』
「"うん、そうだね。だけどこれじゃ……"」
『えぇ、これはあくまで『そう動くだろう』と予想出来ていただけ。
そう、ディスプレイにも写し出されている現状の通り、現在の攻撃はゲダムに殆ど効いていない。
もともとのレキの身体が強すぎる故もある。そこに加えてまだ隠し持っているであろう多くの能力。次何をしてきたとしても不思議でない。
現段階でやれたことは、ゲダムの予想をほんの少し上回ったこと、それだけである。
「"
『えぇ。というより今以降になってはいけませんね。お願いしてもいいですか?』
「"任せて"」
続いて先生は、ある人物
「"お疲れ様、
『勿論です! 準備出来てますよ!』
『アタシも……もう疼いてきちゃってるわぁッ!』
─────
初めて話を聞いたとき──何かの冗談にしか聞こえなかった。
レキさんの身体は何者かに操られてる。それだけでも理解が追い付いてなかったのに、さらにそいつが世界を滅ぼそうしてるらしい。しかも、直接そう言われたのだとか。
おまけにレキさんの力とプラスして色々能力がついている……もう、意味が分からなかった。
そして最終的には──キヴォトスの破壊を食い止めるべく、そしてあまりキヴォトスで混乱が起こらないように、ミリツィアだけ(あとからすぐにゾロフも加わってたけど)で、そいつを倒したいから協力して欲しい……って。
あまりにも現実味が無さすぎて……しばらくフリーズして固まってしまっていた。
少しずつ、言っていることが現実で、そういうことが起こっているというのが理解し始めていたとき……。
『……ニツ、大丈夫?』
誰かが目線の高さを合わせて尋ねてきた。
ピーちゃんさん。シーノヴォがあったときから、トラブル体質だった私を色々と助けてくれた、恩人さん。ずっとフリーズしてた私が心配で声をかけてきてくれたんだと思う。
『──あ……その……』
『……無理ないよ。突然過ぎるし、意味わかんない話だったしね。それに、その……坤音レキも関わってるんだし』
『……はい』
少し、沈黙。前のレキさんとのお出掛けで、私とレキさんが友達であることも知られてる。だからこうして言葉をかけてくれるんだろう。
そのせいなのか、はっきりと言葉にはしてないけど……なんとなく分かってしまう。これから皆さんがレキさんに対してやろうとしてることを……。
『その……ピーちゃんさん』
『ん? どしたの?』
『ホントなんです、よね? リスさんの話……』
『あー……うん、そうだと思う。先生も証人だったし、何よりボスはそんな意味のない嘘はつかないから』
『そう……っですよね。あの、ということは、なんですけど……っ』
言いたくない。聞きたくない。でもはっきりさせたい。
見たくない真実のほうへ、私は向こうとする。
『ころす……ってことですよねっ? っレキさんを……っ。だったら私は……っ』
『いや、違う。坤音レキを殺しはしない』
『え……』
『! ボス……』
突然の別の人の声。でも知ってる。歩いてきたのは、ミリツィアのリーダー、リスさんだった。
『オレたちには秘策がある。……一応全体で軽くそういう話はしたつもりだったが、まぁそれどころじゃなかったよな』
『それってどういう……』
『……簡単に言うなら、
『!!!?』
そ、そんな方法が……?! それを使えば、レキさんを助けられるかもしれない……!?
『だけど、それをするためには、オレたちの力だけじゃあダメなんだ。そもそも上手くいかないかもしれない。だがニツ、お前がいてくれればその可能性が少し高まるはずなんだ』
確実じゃない。出来ないかもしれない。それほどに秘策というのは難しく、ゲダムとかいう奴も強いみたいだ。
それでも、私は──。
『……頼む。キヴォトスのためとまではいかなくていい。お前の友人を助け出すために力を貸しちゃあくれないか?』
答えは、初めから決まっていた。
────
気がつけば、何やら簡易的な牢屋にいた。
場所の雰囲気からして、ミリツィアだろうとすぐにわかった。加えて、地味に遠くから声が聞こえてきていた。
ミリツィアリーダーリスの声。内容は……うっすらと聞こえる。
その場にいても退屈なだけだったため、軽く脱獄してその話を聞くことにした。
気配や姿を消しながら、声のするほうへ。誰もアタシには気がついていないみたい。
聞こえてきた話は全て信じられないものだった。
あの、完璧過ぎるといってもいい暴力の化身、レキ様の身体を操っている不届き者がいるらしい。そいつがキヴォトスを破壊できてしまう時限爆弾のようで、それをミリツィアだけで処理しようとしているとのこと。
流石にアタシもキヴォトスを壊されるなんてたまったもんじゃない。それにレキ様のあの暴力はレキ様だからこそ出せるもの。同じ身体とはいえ身体を乗っ取っている変態ではだめなのだ。何も分かっていない。
そんなことすら理解が出来ていないなんて……頭のオムツがなっていないようね、そいつ。
話が終わったようで、その場には熱気で溢れていた。流石のカリスマね、ミリツィアリーダー。
近くには先生もいる。リスがどこかに行った段階で、先生のもとへ行き気配をオープンに。
『ね、先生?』
『"! ……マコ?"』
『正解! それにしても盛り上がってたわねぇ』
『"……聞いてたの?"』
『えぇ、概ね全部。その上で言わせてちょうだいな』
先生の正面に立ち、告げる。
『アタシもそこに入れてちょうだい?』
『"!"』
『自分で言うものアレだけど……アタシ結構使えると思うの。この前だってそこそこ動けていたでしょう?』
この前というのは、レキ様が脱走しておられた時の戦闘。単純に気持ちよくなりにいっただけともいうが、ちゃんと先生の求める動きは出来ていたはずだ。
それに妙に動きやすかった。きちんと気持ちよくもなれたし、事が上手くいっていた。
だから、気が付いた。先生ならアタシも上手く使えるって。
まるで下僕のよう……その扱いもまたいいわね。震えちゃう。
『"……相手はこれまでと次元が違うかもしれない。ミリツィアの子たちにも言ったけど、無理して参加しなくてもいいんだよ"』
『あら、心配してくれてるのぉ? 嬉しいっちゃあ嬉しいけど、雑に扱われるほうがアタシとしても嬉しいというかぁ……ねぇ?』
ちょっとくねくねしてみる。ついやっちゃう癖のようなものだけど、場を和ませられるためよく多様する。
だけど先生はまっすぐアタシを見てきている。……ちゃんとした思いを、待っている。
『……レキ様はレキ様でいなきゃダメなのよね。それにこうして大々的に勝つかもと言えてるってことは、対策があるのでしょう? 実質レキ様と正面から戦うということなのだから』
『"そう、みたい。私はこれからそれを教えてもらうんだけど"』
『いや、内容はいいのよ。"有る"ことが大事だから。勝利の可能性を上げるために、アタシを上手く使ってちょうだい、先生?』
『"……うん、ありがとう。頼りにさせてもらうね"』
『えぇ、任せてちょうだい!』
────
「武装配備完了! 全て特大改良済み! いけますよね、皆さん?!」
「勿論! 任せてちょうだぁい?」
「頼もしいですね! ……さて、返してもらいますよ、レキさんを!!」
──第二段階の『時間稼ぎ』開始──!
【次回→第二十四話:洗脳】
でもまだつづくのです。。。