死刑囚坤音レキ 作:>∆<
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──……GRUUUU
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【第二十四話:洗脳】
ゲダムは気が付く。突如、発生してきた違和感に。
「(……どういう、ことだ?)」
それは何か。客観的に分かりやすいのは敵の攻撃だろう。急にギアが上がり、強さも跳ねた。隙もなくなりつつある。本気を出してきたと見ることが可能だ。
しかしそのようなこと、
「(何故、
とはいえ、現状100%の稼働率だったものが、95%に落ちてしまった程度。意思と動きのラグが発生してしまう、という状態。多少のやりづらさがあるとはいえ、リカバリーが容易に出来る範疇にはいた。
「(まぁ、
「──あら、ちょっと動き鈍ってきたんじゃあなぁい?」
「……またヒヨコか」
「ちょっと、その名前で呼ばないでくれる? レキ様特権なの」
ゲダムが考えている時も、周りの攻撃は止んでいない。だが手こずるどころか、ちゃんと対処している。身体から生やした銃を用いたり、フィジカルを生かし直接の拳や拳の風圧で、着実に敵の戦力を削っている。
逆に言えば、片手間で対処できてしまっていたと言うことである。
「まだやるのか。既に何度も負けているにもかかわらず」
「はぁ……あのねぇ、この程度じゃなんともないわけ、分かってないわねぇ」
自前のソードオフショットガン2丁で攻め続けるマコ。しかしまるで効いていない。痛みすら感じている様子はない。
「なら、分かるまで食らわせるだけよ──ッ!」
「ぐっふッ──」
本日何度目かの本気の拳を、マコの腹に。身体をくの字に曲げ、そのままマコの後ろ方向にいるミリツィア、ゾロフの兵士諸共吹っ飛ばされていく。
「……はぁ」
ため息をつくゲダム。少し、飽きてきたのだ。
確かに、相手は強い。遠距離からの先生の指揮、ゾロフの統率力、ミリツィアの数。どれをとっても一級品と呼べるだろうし、現代のキヴォトス内でこれらに対処できる存在は非常に少ないと断じてもいい。実質人員的に、決して小さくないいくつかの自治区が持つ戦力の全てをぶつけられているようなものなのだから。
それはゲダム自身、なんとなくわかっている。記憶を吸い取ったときの情報から、推測は出来る。
しかしそれ以上に、ゲダムは強かった。蹂躙出来るとは確信していたが、ここまでのイージーゲームだとは本人すら考えていなかった。いや、ゲダムが先生という存在を過剰評価していただけなのかもしれない。何せキヴォトスの生徒は先生肯定派が多い。その生徒から得た記憶のため、先生ならばもっとマシなことをしてくれるだろうという期待をしてしまったのだろう。
「あら、考え事……? 余裕、ねぇ」
「っち、またお前か……しつこいな」
「あらおあいにく様、アタシはしつこいことが売りなのよ……!」
気が付けばまたマコが接近している。だがこのマコ、完全にいつも通りというわけでもない。既に外見からボロボロである。
腕、足、顔は擦り傷なのか血が出ているし、服も衝撃で一部破け、破けた辺りは内出血しているようで、肌が赤黒くなっている。息もかなり荒めで、立つことも結構厳しいのか震えているよう。何故まだ戦えるのかすら不思議な状態。
だが、目は死んでいない。必ず勝てると、そう確信したような目で立ち向かってきている。それは声にも現れている。
「まるで勝つ気でいるようじゃあないか。己の有様、そして仲間たちが私に葬られる様を見て、まだそれを言うか?」
「えぇ、勿論」
「ふ……ここまで何度も立ち向かってくる貴様に敬意を払って尋ねよう。何故そこまで頑張れる? キヴォトスの破壊を防ぐためか?」
「そんな高尚なこと考えたことないわ。アタシの場合は、レキ様を取り戻すためよ」
「ほう? だが、この身体は坤音レキの身体でもあるんだぞ? 貴様が暴力を受けることを好むことは、この身体の記憶から理解している。ならば、同じこの身体からの暴力があるからよいのではないか?」
「全ッッ然違うわねぇ」
先ほどのようにマコをすぐに飛ばそうとはせず、攻撃をあしらう程度にし、話を聞く。
「レキ様からの拳だからよいの。本人は無意識かもしれないけど、適切に力を調整してくださっているの。生を感じられる痛さを丁度良く味わえるの。そこをはき違えないでくれる……?!」
「ふむ……理解出来ん世界だ。する必要も感じんが──なッ!」
「かっは……ッ!」
今度は強烈な蹴りをマコの背中に直撃させる。今度は遠くに飛ばすのではなく、地面へ叩きつけるように。
「……ふむ、良いことを思いついた、頑丈な貴様を有効活用してやろう。そしてついでだ。貴様らも何人か使ってやろうじゃないか」
──ドシュッ!!
ゲダムの背中から触手のようなものが数本生え、マコを含めた倒れている数名に突き刺さる。何かが注ぎこまれているよう。
「あ、ぐぁ、ぁぁ──」
「貴様らの戦闘のスタイルが変わり、今をフェーズ2とするならば……こちらもフェーズ2を始めることにしよう。
ただし相手は私ではなく、"かつて味方だった者"だ」
触手が抜かれ、ゲダム内部に仕舞われる。しかし刺された者らの様子はむしろ悪化しているよう。
「ぅ、ぅゥゥァァァアア゛ッ゛ッ゛!!!」
目が真っ赤になり、悶え苦しんでいる。しかしそのうち苦しむことを止め、ゆっくり立ち上がり、ゲダムではない敵の方向を見始めた。
「■■■■■■■■!!!」
何が起こったのか、何がどうなっているのか。ゲダム以外何も分からない。気が付けば攻撃は止み、皆触手がさされ、何かを注がれ狂った者たちを見ている。
「演者は飽きてきた。一度観客側になるのもいいだろう。
──さあ、行け」
その一言の後、刺された者らは一斉に味方であった者らへ襲い掛かり始めた。
────────
「"ッ……!"」
送られてくる映像を前にして、先生は動揺を隠せないでいた。
味方のはずだった生徒が、生徒を攻撃している。加減などなく、全力で。
……苦しい言い方をするならば、殺意を持って。
それをゲダムは愉しそうに眺めてる。時折腹を抱えて、嗤いながら。
もはやゲダムへ対応する余裕はない。本気で襲い掛かってくる生徒らに苦戦している状況なのだから。
加えて、相手の火力・頑丈さが上乗せされている。こちら側の攻撃は全然効いている──いや効いてはいるのだろうが、全く痛がる素振りを見せていない。いや、痛みを感じとっていないのかもしれない。ただ、目の前の生徒らを闇雲に襲い続けている。
今現状最も暴れ散らかしているのは、先ほどまで引き付ける役目を担っていたマコ。獣のような咆哮を上げながら生徒らへ攻撃をしかけまくっていた。
生徒らは、怯えている。さっき仲間だった者が突然襲い掛かってくることに。友人であった者が化物へ成り果てたことに。手心なしで襲われ、少し"死"が近くなってしまったことに。
もはやこちら側の陣営は戦いどころではない。その様は、蹂躙に近くなってきていた。
「"……ッ"」
なんてひどいことを。先生の思考はそれに埋め尽くされていた。なんと惨く、なんとおぞましい能力なのだと。
『……先生、幸か不幸か、ゲダムは今気を抜いています。
「"……いや、まだ。リスたちが戻るまで耐えないと。それより生徒たちの混乱を解くのが先だ"」
『先生、何を……ッ!?』
シッテムの箱を取り、その場から抜け出す先生。行き先は、戦闘現場。
走る。ただひたすらに。
息が切れることは、どうでもいい。それより大事なことが、そこにはある。
着いた。そして、叫ぶ。
「"──みんなッッ!!!"」
場が、一気に支配され始めた。少しずつ、生徒らの顔が先生のほうへ。
「"落ち着いて!! これからは私がここで指揮を執る!! まずは暴れてる子たちを助ける!! だから、もう大丈夫!!!"」
まずはお願い。そして概要。最後にもう一度お願い。混乱している生徒らのために、出来る限り簡単な言葉で。
それを受けて、徐々に落ち着きと、安心を取り戻していく生徒たち。
加えて、気力も戻っていく。
あぁ、先生だ。直接指揮を執ってくれるんだ。なら、もう大丈夫。先生がいるなら、なんとかなる。
そんな思いがその場の全員を奮い立たせていく。
「……ふむ」
やっと来たか、と少し笑みを浮かべるゲダム。少しの間
「さて、では見せてもらおうか。先生?」
──ドシュッ!
再び
「"ッ……ゲダムッ!!"」
先生の感じる感情は怒り。生徒たちを道具のように扱うその様に。弄ぶことに娯楽を見いだしていそうな、その顔に。
ここからが、本番。
「"いくよ……みんなッ!! まずはあの子たちを落ち着かせる!!"」
先ほど以上に活気溢れた戦闘が、開始された。
【次回→第二十五話:神秘】
短くて申し訳ない。