死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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夢の時間

 目を覚ます。

 映るのはぐにゃぐにゃした謎空間。

 起き上がり周りを見る。謎景色がただ広がるのみ。元々彼女がいた牢獄の景色ではない。

 

 故に悟る。これは夢だと。

 

「よお」

 

 突如後ろから、彼女にとって聞き覚えしかない声。声のほうを見ると、見覚えしかない者がそこにいた。

 

 今のレキにある薄い色と同じ色の肌、ウサミミ、ヘイローを持つ存在。

 無表情なのに明るく振る舞い、大体彼女と同じくらいの力を持っていたたった一人の女。

 

「久しいなぁ、姉妹(きょうだい)

「……ルキ」

 

『坤音ルキ』。彼女の双子の姉で、唯一だった血縁者。昔からいた、片割れ。

 

 現実ではもう出会うことはできない、ただ一人の相棒。

 

 そんなルキとの夢の中での再会。夢とはいえ感動的と言ってもいい。これに直面した彼女は──。

 

 

 ──はぁぁぁぁ

 

 

 すっごい大きなため息をついた。

 そしてじっとルキを見つめる。何しに来たと言わんばかりに。

 

「……おいおい、折角の再会だぜ? 泣けよ、おら」

「……はぁ。うわーん。はい、これで満足?」

「ぶっとばすぞてめぇ」

「やってみれば? 夢にしか出てこれない癖に」

 

 売り言葉に買い言葉。ルキは無表情のまま腕に力を込めていく、それを気にも留めずルキを見つめ続ける彼女。

 しばらく互いに様子見。少しして、ルキは力を抜き、それを見た彼女が再び深いため息をつく。

 

「……それで、何の用」

「暇」

「帰れ」

「お前が起きるまで無理。しばらく付き合え」

「はぁ……しょうがない」

 

 一度寝ると、満足するまで起きないのは彼女自身もルキも知っている。昼寝であったとしても結構長い時間寝てしまうのだ。

 

「……死人は大人しく成仏しろ」

「大事な妹がちゃーんと無事でいれることを見届けたら逝くさ。あと愛しのシューズちゃんたちの無事が確認できたらな」

「あれらはコレクションにしてやった」

「はぁ?! おま、いつの間に! 大事にしてるんだろうな?!」

「当然。まさか、疑ってる?」

「いや、オレの妹だしそこは疑ってねぇけどさぁ。はぁ、放置されてるよりはマシか」

 

 少しのぎすぎすムードはあるものの、会話はぽんぽん進んで行く。やはり姉妹ということもあって、話しやすいのかもしれない。

 

「にしても、お前が死刑囚ねぇ……半分くらい冤罪じゃねぇか?」

「……でもそこは寝るところ、トイレ、ご飯、全部ある」

「あぁ……なるほどな」

 

 そういう問題ではないはずだ。だが何故かこれが当たり前のように受け入れられている。不思議。

 

「んで、最近どーよ。充実してっか?」

「……まぁ、シューズあるし。たまに暴力で話し合うけど」

「いいよなぁ。ホントならオレのコレクションはオレが手入れしてぇよ」

「ダメ。あれはもう私の。ルキのはもうない」

「こいつ……ッ。もうちょい姉に優しくしろよなぁ」

 

 両者ため息。ルキの言葉に答えるかのように彼女は口を開く。

 

「優しくする理由、ある?」

「あるだろ。姉だぜ?」

「……車線減少道路で道譲ってやっただけ」

「その比喩表現生々しいからやめろ。というかさ、こっちは死人だぞ?」

「死人に口なし」

「言うねぇ」

 

 おそらく、これが二人の普段なのだろう。言っていることだけ聞けば喧嘩しているようだが、それを行っている彼女らの様子を見れば印象は変わるだろう。

 言葉に反して表情はどことなく柔らかい気がする。両者無表情であるが。

 

「つーか、マジで久々だってのに結構冷たいなぁ。全然引きずってねぇじゃんか」

 

 無表情のままからからと笑いながら話すルキ。そこに悲しいという感情は一切見られない。

 

「……まぁ、あの時暴れたから」

「それでスッキリしちまったってわけだ。寂しいねぇ、その程度の間柄だったとは」

「……それもある。でもそれにさ──」

 

 ルキの目を見て、続ける。

 

 

「ルキ、そういうの好きじゃないでしょ」

 

 

 ぴくりと反応するルキ。それを分かっていたように彼女はまたため息をつく。

 

「……おー、分かってんじゃん」

「……どれだけ一緒に居ると思ってるの?」

「そりゃそうかぁ。生まれてずっとだもんなぁ」

 

 ──その時、彼女の視界がぐらつき始める。今いる場所に光が差し込まれ始めてきた。

 

「お、そろそろお目覚めか。また呼ぶからよ、それまで元気でやれよ」

「……言われるまでもない」

 

 だんだんと夢から現実へ流れていく。

 

「……あー、最後に一ついいか?」

「なに」

 

 ここでの意識が薄くなりつつある時、ルキにより話を振られる。

 

「お前、大丈夫か?」

「? そんなの──」

 

 目覚めは、いつも唐突に訪れる。

 最後まで言うことは、出来なかった。

 

 

 

「……自覚なし、か。なんともないといいけど……」

 

 ────

 ──

 ─

 

 目を覚ます。目に映るのは見慣れてきた天井。起き上がるといつもの牢獄。

 

 ──ぐっ……

 

 軽く背伸び。堅く寒いベッドのため身体が固まっていたのをほぐしていく。

 ここに時計はない。そのため、体内時計で大体判断している。

 

 ──ぐぅー

 

 昼寝後でお腹が鳴れば、それはもう夕食の時間。

 目を移せば、下の小窓から送られてきた本日の夕食。最初に出された昼ご飯に比べれば全然よい、ごくごく普通のもの。

 

 ──ぱくっ

 

 彼女はそれを手に取り、ベッドに腰かけ食していく。いつものように、ゆっくりと味わうようにして。

 キレてないところを見る限り、お眼鏡にかなったようだ。やはり無表情なのだが、どこか朗らかになっているようにも見える。

 

 ──もぐもぐ……

 

 いつもの日常。その死をもっていつか終わりが来るここでの生活。

 

 しかしもしかしたら──別の終わり方を迎える、なんてこともあるのかもしれない。

 

 

 

 ────────

 

 

 

「"さて……"」

 

 現在、先生は手に持つシッテムの箱に写された一つのリストを眺めている。先日アロナにお願いして作ってもらったものだ。

 

 依頼者である琴原ニツを始めとした生徒たちの名前と学年、現在通ってる学校などが記載されている。

 

 数はネームバリューの大きい自治区に比べると多くはない。だが一人ひとり話を聞くにしては多すぎるとも言える。

 

「"……多いなぁ"」

 

 今先生が眺めているのは、誰がどの学校に通っているのかの項目。

 まだスクロールをあまりしてないのにも関わらず、ミレニアム、トリニティ、ゲヘナなど多くの名前が挙がっている。中にはシーノヴォ同様あまり聞き馴染みのない名前まで。

 

 それぞれの家庭にも事情があってのことだろうが、ここまでバラバラだと数人に話を聞こうとするだけでも相当時間がかかってしまう。

 

 だからといって、何もしないというわけにもいかない。

 

「"……うん、やるしかないよね"」

 

 どこへ行き、何の依頼と並列しつつ誰から話を聞こうかの計画を立てる。今日明日で終わるような量ではないため、そこははっきりさせるべきだからだろう。

 

 今日の予定がはっきりしたところで、先生は歩き始める。

 

 生徒のお願いを実現させるために。

 

 

【第三話:調査】

 

 

「シーノヴォについて? あー……ごめんね先生、正直あそこにいい思い出ないんだよね。

 だってほんの少し歩けば誰かと戦闘になるんだよ? 戦いたくなくても襲われるからやらないとだし。だから治安はどこよりも最悪だったんじゃないかなぁ。

 え、坤音レキについて? うーん、死刑が妥当じゃない?

 確かにシーノヴォを出るきっかけ作ってくれたからそこだけ感謝してるけど、それはそれとして自治区破壊はヤバイでしょ。それに殺人もしてるんでしょ? あんなの普通に外にいたら安心して暮らせないよ」

 

「シーノヴォについて、ですか? そうですね……一応故郷なので、なくなって悲しくは思います。

 治安はここよりめちゃくちゃ酷くて、力こそが正義みたいな場所だったので、住みにくくはあったんですけどね。

 あ、でも最後の方は『ゾロフ』が来てくれて、どこよりも積極的に治安維持とか必需品を安く販売とかしてくれたので、比較的暮らしやすかったですね。あの会社が来てくれなかったら多分、シーノヴォの印象は"めちゃくちゃ住みにくかった故郷"だけで終わったと思います。

 ? 坤音レキですか? はい、捕まってよかったと思います。

 あんな事件を起こしておいて一か月間行方不明だったんですよ? あの時は怖かったですね……。

 自治区を破壊できる力持ってたら急に脱獄しちゃってもおかしくないと思うので、さっさと刑を執行してほしいですね」

 

「シーノヴォについてかぁ……。懐かしいけど、帰りたくはないかな。

 もし今シーノヴォがまだあったとしても、わざわざ引っ越そうとは思わないね。だから復興もあんまり進んでないんだと思うよ。

 あ、でも『ゾロフ』がいるんならちょっと考えようかな。あの会社のおかげで若干治安良くなりかけてたしね。それに街の整備なんかもやってくれてたし、確か今もシーノヴォにいるはずだよね。破壊されなかったら今頃順調に良い自治区になれたんじゃないかなぁ。

 ん? まだあるの? ……坤音レキについて?

 いやほんとに捕まってよかったよ。というか良く捕まえたよね。あんまり役に立ってないのかなと思ってたけどヴァルキューレちょっと見直したもん。

 というか坤音レキね。あんなのが生きてていいことなんか多分ないからさ、さっさと処刑されればいいのにね」

 

 ─

 ──

 ────

 

 時刻は昼過ぎ。他の依頼も話を聞くことも終わって、現在先生は近場のベンチに腰掛け要点を手持ちのメモに纏めている。

『最悪だった治安』、『「ゾロフ」の存在』、『レキの悪名の凄さ』。おおざっぱに区分するとこの三つになるだろう。

 

「"うーん……"」

 

 最初と最後に関しては、まぁある程度予測出来はする。治安に関してはニツの話にもあったし、レキに至ってはこのキヴォトスでかなり珍しい"死刑囚"だ。悪名が轟いていてもおかしくない。

 先生がひっかかっているのはその間の事柄。すなわち『ゾロフ』について。

 

「"……気になるなぁ"」

 

『火の海事件』を調べた際にも名前が挙がってきたこの会社。

 少し調べると、この会社がシーノヴォにやってきたのは、火の海事件が起きる少し前。現在もシーノヴォの復興という名目を掲げその付近で活動を続けているらしい。

 

 話の中では、シーノヴォの積極的な治安維持に貢献、必需品を安く販売したり、街の整備をも行っていたという。これらだけを聞くと、完全に善の会社だ。

 

 事実、評判はいい。先生が調べた限りでも悪い噂はほとんど出てきていなかった。それほど認められているということ。

 

 しかしだ。それでも、先生には解せない点が存在するのだ。

 

「"……なんで『ゾロフ』はシーノヴォに来たんだろう?"」

 

 会社というのは、利益を出さなければ経営は成り立たない。どこかに進出するにしても、利益を出せる目処が無ければ意味がない。

 

 先生は"大人"である。故にこのことを深く理解していた。

 

 それであるのに関わらず、なぜ『ゾロフ』はわざわざ治安が良くないシーノヴォに進出したのだろうか?

 

「"……"」

 

 思い付く理由をとりあえず紙に書いていく。

 

 一つ目に出てきたのは、単純に『シーノヴォをなんとかするため』。

 なくはないだろう。だが一企業が善意だけでは基本動けない。よって可能性は低めとみてよいだろう。

 

 二つ目に出てきたのは、『市場の拡大』。

 戦争で儲かるのは兵器を売っているような企業だと先生は知ってしまっている。治安が最悪のシーノヴォはさながら紛争地域に近いのかもしれない。それを見越して進出してきたとも見る事も出来る。

 しかしゾロフのこれまでの話を聞く限り積極的な治安維持活動をしているようで、これは逆に争いを止めようとしている風にも聞こえる。このため可能性は低めであるとした。

 

 三つ目に出てきたのは、『シーノヴォに進出してでも得たいものがあった』。

 

「"……うん、これが一番しっくりくる"」

 

 資源の獲得、シーノヴォでの発言権など、これに関してもいくつか挙げられる。加えてゾロフは今でもシーノヴォにいるらしい。特に資源の線はかなり濃いと見てもいいだろう。

 

「"だとしたら、それは一体──"」

 

 仮にその線だとして、ゾロフはシーノヴォに何を見出だしたのか。次はこれに関して深く考える──その時だった。

 

 ドッゴォォンッ!!

 

 後方から轟く爆発音。すぐに後ろを確認。

 

 少しだけ距離のある路地裏が発生場所のようだ。急いでそこへと向かい始める。

 

 先生はこのキヴォトスの中で自分はか弱い存在であることを十分に理解している。撃たれたり爆発に巻き込まれたりしたらすぐに死んでしまうのだということも。

 

 しかしだからといって、先生に放置や逃げるなどの選択肢はなかった。そこに生徒がいるかもしれない。加害者であろうと被害者であろうと、生徒を放っておく事は出来ない。それが"先生"なのだから。

 

 走る。走る。ただひたすらに。

 

 ドッゴォォン!!

 

 そして起こる、二度目の爆発。どうか無事でいてくれと願いつつ、先生は到着した。

 

「"どうしたの!? 何があ──"」

 

 瞬間、先生は言葉を失う。何故なら、そこに居たのは──。

 

 

「あぁ~最ッッ高ッ!! ねぇ、もっと頂戴? アタシにもっとどぎついの、もっと痛いのちょうだぁい!!」

 

 

 ボロボロなのにもかかわらずめちゃくちゃ気持ちよさそうに、そしてめちゃくちゃに身体を揺らしている不思議な生徒がいたのだから。

 

「うぇぇ、なんだよこいつ!!」

「ヤベェのに当たっちまったよ……!」

「さっさと逃げようぜ……」

「あぁ、トリニティって皆こんななのかよ……?!」

 

 加害者側であろう者は目の前の生徒から逃げていく。最初のインパクトが強すぎてフリーズしていた先生は、これをただ見ているしかできなかった。

 

「……あら、もうおしまい?! もう、だらしないわねぇ。まだまだ足りないってのに……って、あら?」

「"……あ、えっと……大丈夫?"」

 

 その生徒が先生に気が付くと同時に、先生も元に戻る。状況からして被害者であろう彼女に向かって、先生は一応安否を問うた。

 

「大丈夫なわけないわよ! もっと痛いのが欲しかったのに超中途半端! お預けよお預け! 

 ってあら? 気が付いちゃったわ。もしかしてこれはお預けプレイ……? 

 ……なるほど、そういうことなのね。肉体と精神平等に痛めつけるってことね! 全く、一瞬見損なったけどやるじゃないあの子たち。これならキヴォトスの未来も安心ね……」

「"だ、大丈夫そうだね……"」

 

 服はところどころ黒焦げており、身体も二度の爆発の衝撃で結構な痛みがあるはず。それなのになんか妙に元気な生徒を前にして、先生はちょっとした驚きでいっぱいだった。

 

 決して引いたわけではない。生徒に寄り添うべき先生が、そんな感情を抱いてはならないはずなのだ。だから引いたわけではない。うん、きっとそうだろう。

 

「"……あれ、ところで、君は確か──"」

 

 ここで先生、思い出す。目の前の生徒の、名前を。

 見た記憶は今日。今日見たと言えば作成されたリスト。

 

「"『千根マコ』……だったかな"」

「あら、アタシのこと知ってるのねぇ。有名になっちゃったのかしら。そういうアナタは……えっと、誰かしら?」

 

 元シーノヴォ高校、現トリニティ総合学園所属の生徒であり、本日出会う予定はなかったはずの『千根マコ』その人であった。

 

 

 

 ──【次回→第四話:噂話】




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