死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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遊戯の時間

 ──バタンッ

 

 ある日の昼頃。昼食を済ませ、いつも通りシューズ磨きであったり、シューズ雑誌を読んだりして時間を潰していた最中、唐突に彼女は読んでいた雑誌を閉じる。

 

 特に何かあったわけではない。昼御飯は不味かったとか、コレクションにキズが付いたとか、そんなことは一切起こっていない。

 

 表情も無表情。キレている様子はない。

 

 強いて言うなら一つ。彼女の内心に起因する。

 

 いつも同じことの繰り返し。変化がない平和な日々。不満は確かにない。生活は出来るし、変なことされても暴力で話し合っているしで、不自由ではあるが自由だ。

 

 しかしそれとこれとは話は別。

 趣味がやりたくなくなったわけではないし、死刑囚が嫌になったわけでもない。だが妙に全部に対して気分が乗らないのだ。普段していることをする気力が起きないのだ。

 

 まぁぶっちゃけて言えば、彼女は"暇"になってしまったのである。

 

 ──がちゃ

 

 ケースを開ける彼女。そこからトランプを取り出した。そのままベッドから降りて看守のシールドの前に立つ。

 

 ──こんこんこん

 

 これにより上の小窓が開き、彼女の目と看守の目が対面。

 

「……なんです? 4番」

 

 声質、目付きからして"あの"看守であろう。怪我から復帰したようだ。痛い目にあったのにまだ看守を続けているし、なんなら瞳から折れてないことが読み取れるしで、やはり相当メンタルが強く見える。

 

 ──スッ

 

「? トランプ……?」

 

 大体の者はこれで察することが出来るであろう。彼女が無言で「遊べ」と圧を掛けているのだから。

 無論この看守も気が付いている。気が付いた上で、シールドの向こう側で彼女にバレないようにしてにぃを笑みを浮かべた。

 

 言ってしまえば、看守は遊びを申し込まれた側。そして彼女はお願いする立場である。

 この瞬間、この看守は自らの立場が上であることを思いこんだのだ。

 

 これまで結構な割合で虐げられてきていつかぎゃふんと言わせようと思っていた相手から、このような申し出があればこのように思い込んでも仕方がない……のだろうか。

 

「……しょ、しょーがないわねぇ?! まぁ? どうしてもというなら? 遊んであげなくはないですけどぉ?? 

 でも? そもそも遊びを申し込める相手は私しかいないわけですから? 私に必死になってお願いするしか──」

 

 ──ガシュウッ!!

 

「ヒッ、やりますやりますやらせてくださいッッ!!!」

 

 看守の口調が気に食わなかったのか、ちょいキレ気味でシールドを持ち前の握力で少し握りつぶす。やはり力関係は以前から変わっていないようだ。

 

 ということで看守が机やら椅子やらを準備し、一つの机に二人が対面する形に。設置は牢屋内にて行っていざ準備開始。

 

 種目はポーカー。ただの遊びではあるが、多少の賭け金を設けるよう。今回は世界基準とされてるテキサスホールデム方式。それぞれ互いに手札が二枚配られ、オープンされる共用カード五枚を含めた計七枚で役の強さを競うゲーム。

 

 対戦相手との駆け引きなどもちゃんと存在するが、どんなカードが配られ、どんなカードがオープンにされるのかは完全な運。そう、ほとんどの要素は運ゲーなのである。

 

 ここで看守は気が付いてしまった。

 合法的に目の前の囚人をボッコボコにすることが出来るかもしれない、と。

 

 負けることは勿論あるであろう。何せ運だよりなのだから。しかし逆に言えば、勝てることもあるということ。

 

 勝ったとき徹底的に煽ってやろう。看守がそう心に誓ったところで、ゲームが始まる──!

 

 ────

 ──

 ─

 

「よっし3カード! これは貰──って、ストレートォ?!」

 

「ッし! フルハウス! これは完全に勝て……4カードォ?!?!」

 

「今度はこっちが4カード! ちょっと数が弱いかもだけど役は強いしこれならもう勝ちもどうぜ……え、ロイヤルストレートフラッシュ???」

 

 ─

 ──

 ────

 

「なんでぇぇ?!?!」

 

 勝負開始から数時間。状況は彼女が全勝、看守が全敗。ボッコボコにする計画は台無しで、逆にメッタメタにされるという結果に終わった。

 途中彼女がイカサマしているのではないかとして厳重にシャッフルをしていたり、逆にイカサマを仕掛けたりもしたようだが、結果は変わらず。

 

 勝てると判断したときに看守がヤケになって賭け金を大量ブッパした結果、そのお金は現在彼女の方へ。彼女が座っている後ろには山ほどのお金が積まれてある。対して、看守は無一文となってしまった。

 

 ──じっ

 

 まだやる? と問いかけてそうな視線を看守へと向ける彼女。正直、彼女は一方的過ぎるこの勝負に飽きかけていた。

 だけどここまで続けているのは看守が粘るから。誘ったのは自分だし、どうせ勝てるから……という理由なのかは定かではないが、挑まれればそれを受け続けている。

 

「うぅぅ……」

 

 項垂れ黙ってしまう看守。それを見て彼女、ふぅと一息。やっと終わったかとでも言っていそうな雰囲気だ。

 

 ──くるっ

 

 振り向き、とりあえずで積んできていたお金の方へ。数えることが楽しくなりそうなくらいの量の金がそこにあった。

 それを彼女は無表情のまま数えていく。プラスなことは確定しているが、どれだけプラスだったのかを確かめるために。

 

「……かん」

 

 ──……くるっ

 

 その突如、後ろの黙っていた看守から声のような何かが発せられた。あまりにも小さかったため幻聴なのではとも感じられるそれを聞き取り、一応振り返る彼女。

 

「──ノーカン!! ノーカンよこんなのッッ!!!!」

 

 急に怒り出した看守。ぎろっと目を彼女の方へと向けた。

 

「こっちは遊びに付き合ってやった身よ! 本当ならこんなことしてやる義理もない!! 

 だからこんな勝負無効だし、だいたいお金はここまで付き合ってやった私にこそ支払われるべき!!」

 

 そして机をぶん投げ、牢屋内を荒らし始める。負け続けてたまったもやもやを発散するために。

 

 ベッドが、トイレが、生活空間が、看守によって汚されていく。

 そしてついに、彼女のアタッシュケースに対して蹴るという行為を実行してしまった。

 

 ──ブチィ!

 

 突然のことで一瞬だけ呆けていた彼女、ここでキレる。

 

 ──ガシィ!

 

「……え、ちょ」

 

 ──ズドンッ!!

 

 床に看守を押し倒す彼女。そのまま馬乗り状態に。

 

「──ひぁ、ぁの、ゆ、ゆるし」

 

 表情は未だキレたまま。拳が振りかざせられ、そして──。

 

 

 

 看守は、一応生き延びた。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 日を跨いで次の日。現在先生は調査と合わせて受けている依頼を遂行するため、とある場所へ足を運んでいた。

 場所としてはそこそこ荒れている地域。弾痕やちょっとした瓦礫などがそのままの状態で放置されている。まさにここで戦闘が行われていたのではないかというようなところだ。

 

 しかし、人の気配がまるでない。物音もほぼない。嵐の前の静けさといった雰囲気を醸し出している。

 

 だが、先生は進む。この先に助けを待っている生徒がいるのだから。

 

 とはいえ、何が起こるのかは分からない。警戒をしつつ、指定された場所を目指していく。

 すると、既にその場所に到着している者が二人いた。

 

 二人とも同じ組織に属しているのか、似た格好をしている。警官のようでありながらも、実戦を想定した服装となっており、制服というよりは軍装のそれに近そうだ。

 

「"えっと、君たちが今回依頼してきた子たちかな?"」

 

 少し近寄りがたそうな空気をしている二人ではあるが、臆せず近づいていく先生。二人は先生に気が付いたようで、これに返す。

 

「そうだ。来てくれたってことは……アンタがシャーレの先生でいいんだな?」

「"うん、そうだよ"」

「いやー、来てくれてよかったよ。よろしくね、センセ」

 

 

【第五話:部隊】

 

 

「"改めて、私がシャーレの先生だよ。よろしくね。依頼の署名でも見させてもらったけど、一応君たちの名前も聞いていいかな"」

「分かった。オレは『森邑(もりむら)リス』。自警団『ミリツィア』のリーダーやってる。よろしく頼む」

「あーしは『宇江野(うえの)ピコ』。『ミリツィア』の副リーダーやらせてもらってるよ。気軽にピーちゃんって呼んでねー」

 

 リスとピコ。一度リストで確認していたから実在することは分かっていたし、依頼書にはピコの名前がある。今回の依頼者であることは間違いないようだ。

 

「"なら私を呼んだのはピーちゃんなんだね。頼ってくれてありがとう。

 ……それで、私は何をすればいいのかな?"」

 

 ピシっと、一瞬先生以外の二人の空気が固まった。

 

「……ピコ」

「え、えぇっと……書いてなかった?」

「"う、うん。困ってるからここに来てとしか……"」

 

 一応、改めて中身を確認する先生。やはりそのような記述しかなされていない。

 

「……はぁ、ピコ」

「ボ、ボスゥ。センセは来てくれたからいいじゃないですかー!」

「よくない! というかな、お前はいつもいつも肝心なところが抜けている! この前もな──!」

 

 くどくどと聞こえてきそうなお説教がピコに向けられている。結構長くなりそうだ。

 

 理論立てて責め続けるリスと、以降は反論することなくその場に正座してしっかりお説教を受けるピコ。

 ……二人はいつもこんな調子なのかもしれない。

 

「──というか、アンタもアンタだ!」

「"……え、私?!"」

 

 まさか自分にやってくると思わなかった先生、びっくり。だがリスは止まらない。

 

「具体的な依頼内容が何も書いてないで『ここに来い』で本当に来るやつがあるか!? 来てくれたことには感謝しているが、こういうのは本当は来ちゃいけないんだ!」

「"で、でも生徒からの依頼だし、放っておくわけにはいかないから……"」

「それが生徒を騙った何かだったらどうする?! 

 アンタにはヘイローがないんだぞ? すぐに死んでしまうんだろ? ならもっと自分の身を大事にしろ! 

 大体な、自分の身を大事に出来ないやつが他のやつらを助けられるわけないだろ!」

「"うっ……"」

 

 ただの批判ではなく身を案じた故の説教だし、加えて図星な面もあるのでこれ以上強く反論できない先生。気が付けば正座の態勢になっていた。

 

「……ま、まぁまぁボス。ここに長居するのもあれだし、とりあえず移動しない? 依頼内容は行きながら説明すればいいと思うしさ」

「……それもそうか。すまなかったな先生、いきなりこんなことしちまって」

「"う、うぅん、大丈夫"」

「いやぁ、これで話を進められますねー。ボスの悪いところだよ? 説教癖」

「……ピコ、言っておくがまだ終わってないからな」

「ひぇ……」

 

 二人が先を行く形で移動を開始。どこに案内するのかは既に決まっているようだった。

 

 その道中、先生は気になっていた事柄をいくつか尋ねてみることにした。

 

「"ところで、二人が所属してるって言ってた『ミリツィア』って……?"」

「ん? あぁ。ミリツィアは自治区関係なく、犯罪だったり抗争だったりを自主的に取り締まるため立ち上げた組織だ。本来こういうのはヴァルキューレの役割なんだろうが……あんまり信用できなくてな」

「"へぇ……"」

「まぁこれだけじゃないんだけどねー。センセ、シーノヴォって知ってる?」

「"!"」

 

 まさか生徒の方から話をしてくるとは思っていなかったのか、内心で驚く先生。しかし表情には出さず、返答。

 

「"……うん、知ってるよ"」

「あれ、そうなの? まぁいいや。

 元々はあーしたちそこの治安維持委員会に入ってたんだけど、色々あって崩壊しちゃってバラバラになっちゃったんだよねー。でも距離は離れてても心は一つって言うじゃない? そこでリスちゃ……ボスがこれ立ち上げたの。

 今じゃ元治安維持委員会の人はほぼ全員所属してるし、その他の子も入ってて選り取り見取り状態なんだよー」

「……それ、使い方間違ってるぞ」

「あれ、そうだっけ?」

 

 先生にとっては、これは非常に大事なことであった。

 この二人が元シーノヴォの生徒であるということは勿論知っていた。だがあまりシーノヴォのことを思い出したくないというような雰囲気の生徒が多数を占めていたということもあり、どうしたら話を聞けるかについて少し頭を悩ませていた部分があった。

 

 しかし、向こうからその話を振ってくるという展開。これで比較的詳しい話を聞きやすくなる。嬉しいことこの上ない状況。ここで話を深堀することも出来るであろうが──。

 

「"後で出来ればシーノヴォについて詳しく聞かせて貰えないかな? 依頼が終わったくらいにね"」

 

 それは後にするという選択をした。

 現在先生は目の前の生徒らから別件の依頼を受けている状態。その依頼に集中すべきと判断したのだろう。

 

「え? 全然いいけど……不思議なこと聞くんだね。シーノヴォについて聞かれたの初めてかも。ね、ボス」

「……あぁ、そうだな」

 

 少しの間、じっと先生を見つめていたリス。ピコから声を掛けられてようやく前を向きだす。

 何か知っていそうな様子。だが自分から後でとした以上、追及も後回しだ。

 

「"まぁ、それは一旦置いといて……依頼内容についてなんだけど"」

「あぁ、そうだった。まだ説明してなかったな」

 

 先生から促され、その話に。出会って数分経って、ようやくだ。

 

「さっきピコが『その他の人』もいるって言ってたろ? まぁそいつらだけじゃないんだが……この『その他』ってのは、色んな事情を抱えてるやつが多くてな」

「"事情?"」

「例えば、いじめだったり経済的な理由で学校にいけなかったりして居場所がないやつらだな。そういうやつらの居場所をつくってやるってのもミリツィアを立てた理由でもある」

 

 来る者は拒まずの精神。言うのは簡単だが、実際にやることは非常に難しい。それを実践し、なおかつ迎え入れている。

 生徒ながらこれを実践出来ているリスに、先生は尊敬の念を抱いた。

 

「"……すごいね、リスは"」

「でしょ? ボスはいっつもすごいの。治安維持委員長のときからそうでさー。怖い顔に反して考えてることは誰よりも善人でねー」

「う、うるさい! 恥ずかしいからあんまり褒めるな! ……すまん、話が逸れたな。

 んで、学校に行けてないってことは、その分勉強にも遅れが出るってことだ。

 勉強はどれだけ出来ても損はしない。逆に出来なきゃ相当生きづらくなる。だから分かるやつらで分からないやつらの勉強を見てやったりしてるんだが……人手が、まるで足りなくてな」

「"だから私を呼んだんだね?"」

 

 ここまでいえば、流石に察することが出来る。そう、今回の依頼で先生がするべきことは──。

 

「あぁ、頼む先生。……ちょっと人数が多いが、あいつらに勉強を教えてほしい」

 

 

 

 ──【次回→第六話:一致】




そつろんおわらん
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