死刑囚坤音レキ   作:>∆<

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ノリと勢いだけで書いてます。


脱獄の時間

 面会をした次の日。彼女はいつものように雑誌を読みふけっていた。

 

 先日果たした念願の再会と呼べる出来事。彼女の性格を考えると別れの際は若干苦労しそうである。実際あの後レキはニツが帰ってしまうのを少しだけ渋っていたが、また来るの一言でなんとか収まった。

 

 また来るならば来るまで待てばよい、そんなスタンスなのだろう。部屋に戻った瞬間から彼女の生活はいつもの状態へと戻っていた。そして今に至る。

 

 ──ぺらり

 

 彼女の雑誌を読むペースは遅めだ。何せそのページに刻まれている情報全てを吟味して次へと進んでいるのだから。故に、一冊を読み終えるのに一日かかる時もある。

 

 今現在も、書いてある情報全てを自分のものとすべく、じっくりとそこを見ていた。

 

 ──ぺらり

 

「──ん?」

 

 次のページを捲った途端、彼女は気が付く。

 当然、見ているのは新しく見るページ。新発売のシューズがどーんと載っている。

 

 さらに、派手過ぎず地味過ぎずの良デザイン。色合いも含め実に彼女好み。

 その分お値段は少々張るようだが、彼女にはあまり関係がなかった。

 

 ──……

 

 しばらく、そのページを──シューズを眺める彼女。

 表情は不変。しかしどこかうっとりしているようにも見えなくもない。

 

 ──スクッ

 

 すると、立ち上がって看守のいるシールドのほうへ向かう。

 

 ──コンコンコン

 

「──なんです? 4番」

 

 対応したのはあの看守。治療を終え帰ってきたようだ。

 

 だが相変わらず折れている様子はない。すごい。

 彼女に対してここまでの態度で接することが出来るのはこの看守だけであろう。

 

 ──スッ

 

 片手で雑誌のそのページを掲げて看守へと見せる彼女。そしてもう片方の手の人差し指でシューズを何度も指さした。

 そう、彼女はこれが欲しいのだ。わざわざ看守に見せてまで欲しいことをアピールする程度にはめちゃくちゃ欲しいのだ。

 

 冷静沈着な普段と異なり、どこか興奮気味だ。彼女は無表情なだけで実は感情豊かなのかもしれない。

 

「……スゥゥゥ」

 

 当然この看守、彼女の意図を理解している。理解しているからこそ、考え込んでしまう。

 

 何故なら看守にとって彼女は罪人であり、悪であり、ぎゃふんと言わせたい相手だ。

 しかし以前彼女からとんでもなくボコボコにされ、そのときのトラウマが若干残っている。彼女のキレた表情を想像するだけで震えが止まらなくなってしまっているくらいには。

 

 看守には二つの選択肢がある。欲望のままに彼女の申し出を拒絶するか、彼女に大人しく従うか。

 

「……4番」

 

 ついに看守、口を開く。選ばれたのは──。

 

 

「……だぁれがそんな申し出を受けるものですかヴァァァカッッ!!!」

 

 

 無論、前者であった。

 

 看守は連邦矯正局に務める生徒の一人である。故に看守以外の仕事も勿論ある。そこでストレスが溜まってしまうのは必然なのである。

 

 では、そのストレスはどこで発散するのか? 決まっている。看守として囚人を虐めることだ。

 

 事実、今看守は相当スッキリした気分になっていた。

 

「そもそもねぇ? あんたは死刑囚ッ! 悪人なんだよ、ただの悪人!! 生まれてきたこと自体が罪で、その罪を死で償うためにここに居るのッ!!

 それなのにこんなチンケな靴を買いたいだぁ? んなこと許されるわけないでしょうがッ!! ここの中で自由にさせてやってるんだ! ちったぁ感謝しろッッ!!」

 

 この後のことなど考えていない。ただ、己の快楽のために彼女に叫び続ける。

 一方彼女、放心。無表情のままポカンとしている。

 

「……あと、そぉんなにそれが欲しいなら()()()()()()()()()どう? 

 まぁ? お金もないし、ここから出られるわけないしで? 行けるわけないけどねぇ??」

 

 ──ぴくん

 

 彼女、正気を取り戻したようで一瞬反応する。

 看守はそれを見て嫌な予感がして身構えるが、何も起こらない。彼女の表情も変化していない。

 

「ね、ねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち??」

 

 それ以降特に何も反応がない彼女に対し、おそるおそるではあるものの煽りを続ける看守。しかしこれにも反応を示さない。

 普段ならこの辺りで反撃が入る。だがそれもない。何か別の事を考えている様子。

 

 ──……ザッ

 

 そんな中いきなり起動した彼女。ケースに私物を全て詰め込み、部屋の中央に立ち天井を見つめ始める。

 

「……何してんの?」

 

 突然の行動に思ったことがそのまま口に出てしまう看守。確かに奇妙である。急に動き出して荷物を直したかと思えば、そのケースを持ったまま立って天井を見つめ出したのだから。

 

 だが次の瞬間、状況は一変する。

 

 ──グッ

 

 右拳を下向きに構え、低く姿勢を取る。

 いわばこれは、殴りの態勢。それも、天井に向かってだ。

 

 彼女はここが地下であることは把握している。

 行きたいところに楽して行くためには、どうすればいいのかも。

 

「……ま、待て待て待て待て待て待てッ! 待ちなさい4番ッッ!!」

 

 何をしようとしてるか気付いた看守が止めに入るがもう遅い。

 今、拳は天井に向かって放たれたのだから!

 

 

──ドッッゴォォォォォォンッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

「"『坤音レキ』が脱獄した?"」

『はい、そうなんです! 緊急故、どうかお力添えをしていただきたく……!』

 

 朝起きてすぐ、先生は矯正局の生徒らからの連絡があり、対応していた先生。そこで聞こえてきたのはつい昨日会いにいった死刑囚が脱獄したという報告。

 

 通話を継続しつつシッテムの箱にて本日のニュースの確認を行う。そこには矯正局の施設が突然爆発したということが記載されていたものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまりここで先生が聞いているのは、まだ世間には流れていない情報ということになる。

 

「"報道にはレキのことについての情報はないけど、これは?"」

『坤音レキの脱獄はキヴォトス全体の問題となります。そのため敢えて伏せさせて頂いてるんです。ですのでどうかこのことはご内密に……!』

「"……他の子たちに危害が加わるかもしれないんじゃないの?"」

 

 考えたくはないが、先生の懸念点はここである。勿論坤音レキがいきなり暴れ出すことは考えたくない。だがまだ火の海事件のレキの動機がはっきりしていない以上、可能性は0とはいえない。最悪の事態を想定した上での問いかけであった。

 

『坤音レキはこれまで私達が観察した限り、彼女に何か危害を加えた、もしくは危害を加えようとした時に反撃する、という形が全てでした。そのため声明を出し私達や他の自治区の部隊が出動した場合、余計に被害が出てしまう可能性があります』

「"……なるほどね"」

 

 向こうの意図を先生は理解する。聞いていたレキの情報と照らし合わせても、納得できる言い分であった。

 また、仮に死刑囚が脱獄したならば普通は特大のニュースになる。それが出てないのに普通にそこらにレキが居たとしても、レキをレキだと思わない可能性もある。

 

 色々なことを考慮した上で敢えてしていないのならば、これも一つの選択肢であろう。

 

「"でも、脱獄したのに放置ってわけにもいかないはずだよね。どんな対応をしているの?"」

『武装を外して、見かけても戦闘行動しないことを指示して捜索させています。仮に発見した場合も絶対に攻撃などはせず、自然な形で元の場所へ誘導するように指示させてます』

 

 やったらやり返される。それが分かっているならば手を出さないことが最善だ。しかし野放しにも出来ない。現在行おうとしていることはこの論理の上では正しいことと言える。

 

「"……なるほど、それは分かった。なら、私は何をすればいい?"」

『! 引き受けて下さいますか! ありがとうございます!

 先生には坤音レキの捜索、及び出動させた部隊の指揮をお願いしたく思います。戦闘指揮が巧みであるという風に伺っていますので、その力を貸していただきたいのです』

 

 元より、先生には断るつもりは微塵もない。さっきのは向こうの対応に少しだけ疑問を持ったためそれを追及しようとしただけのこと。

 また、先生が請け負う業務としても特段疑問に思うような箇所もない。先生自身は非力であるが、手を出されるようなことをしなければ大丈夫の可能性が今のところ高いからである。

 

 そしてそのまま、その業務を遂行するにあたり必要な情報──例えば部隊の指揮官の連絡先、どこまで捜索がなされているのか、ここから近い捜索場所はどこか、誘導場所は具体的にどこなのか等を聞いていく。闇雲にやっても見つかるわけがないからだ。

 

 メモを取りながら話を聞きつつ、先生は考える。何故レキは今になって脱獄したのかを。何か特別な事情があったのではないかと。

 

 思い当たることが一つだけあった。それは先日行われた面会である。

 久しぶりの友人との再会。話は面会時間終了まで盛り上がっていたし、和やかに進んでいた。別れ際も互いに名残惜しそうにしていたようだったと先生は覚えている。

 

 ──もしかして、ニツに会いに行った?

 

 先生の中で、今一番しっくりくるのはこれであった。

 

 だが多少の疑念も残る。会いに行くだけならもっと早くでも、それこそ面会終了直後でもよかったわけだ。なのに一夜明けたこの日に脱獄した。何か別の事情もあってもおかしくないとも考えていた。

 

 また、ニツからレキが来たというようなモモトークも届いていない。何かあったら連絡するように口酸っぱく言ってきているので、敢えて言っていないということは考えにくい。もしも会いに行ったことは真だとしても、まだ再会は出来ていないと見てよさそうだ。

 

「"……うん、聞きたいことはこれだけかな。早速、私も捜索に乗り出してみるよ"」

『ありがとうございます! 部隊の方には先生の作戦参加を伝えておきますので、何かありましたら今後はそちらにお願いします!』

 

 通話はここで切れる。そして一度、深く息を吐いた。

 

「"……ダメだね、ちょっと緊張しちゃってる"」

『……先生、大丈夫ですか?』

「"……"」

 

 先生はレキが自身の大事にすべき生徒の一人であるという認識をあの面会から持ち始めていた。だが、まだ謎が全て解明されたわけではない。つまり、レキは死刑囚であり凶悪犯であるという認識も小さくなってきているもののこれと同時に抱えていた。

 

 そんな存在に、今度は安全が全く確保されていない状態で直接出会うかもしれない。あの面会のときの悪印象を引きずられていたら、いきなり暴行をしてきてしまったら、考えたくないこれからのもしもが過り続ける。

 

「"……うん。大丈夫だよ、アロナ。心配してくれてありがとう"」

『ご無理はなさらないでくださいね……?』

 

 だがそれでも、先生は"先生"だ。逃げるわけにはいかない。僅かでもこのキヴォトスの生徒に危害が加わるかもしれないならば、先生として振舞わないといけないのだから。

 

「"……よしっ、行こう!"」

 

 頬を叩き、奮い立たせる。覚悟を決めて外へ向かいだす。まずは、まだ捜索がなされていないと言われた場所に向かって、一歩を踏み出す。

 

 野生の死刑囚とエンカウントするのはほんの数分後のことであった。

 

 

【第九話:確保】

 

 

「("い、いる……ッッ!?")」

 

 捜索を開始してすぐ、時間にして五分も経っていないであろう頃、先生は坤音レキを発見した。

 

 変装など一切せず、格好も変えていない。まさに昨日出会ったレキそのもの。囚人服を着て、片手にはケースを持ち、もう片方の手には本のようなものがある。

 

 これを受けての周りの反応はどうか? 多少の注目を集めているようであった。しかしここにキヴォトス唯一の死刑囚坤音レキがいるなどと誰も思わない。注目されているだけで、それ以上は特に何もなさそうだった。

 

 すぐに報告すべきか、先生は少し迷った。レキの様子を見るに、何か目的がありそうである。しかしその目的が分からない。少なくとも、闇雲に暴力を振るうという最悪の事態ではなさそうというぐらい。

 

 一旦、先生は様子を見る事にしたようだ。向こうの目的がはっきりすれば、こっちのプランも立てやすい。故にここは観察に徹する構え。

 

 ──……ザッ

 

 たまにその場で本を眺めたかと思えば歩き出し、少ししてまた立ち止まりそこを眺めるという行為を何度もしながら、行ったり来たりを繰り返している。まるで何かを探しているよう。

 

 本の情報を頼りに動いていることは伝わる。ニツに会いに来たというわけではなさそう。では、何を探しているのか?

 遠くから何の本を持っているのかは微妙に見えない。行動も今のままが続くようならば、得られる情報はほぼないと言っていいだろう。

 

「"すぅ……ふぅ……"」

 

 一度深呼吸を挟み、先生はレキへと近づく決心をした。

 

 そのまま歩き、本の中身を見ているレキに近づいていく。

 

「"やあ、こんにちは。レキ……だよね? 昨日ぶりだね"」

 

 ゆっくりと、悪印象を与えないように言葉を紡ぐ。一瞬、レキは先生のほうを見てからまた本のほうへと視線を移した。

 

「"……何か探してるみたいだったけど、何を探してるの?"」

 

 次の言葉で問いかける。普段のレキならば、これを無視して本を読み続けるであろう。

 しかし今に限っては……そういうわけにもいかないようであった。

 

 ──……スッ

 

「"! これは……"」

 

 少し間を置いてから、本の見開き一ページを先生に見せるレキ。そこにあったのは……。

 

「"シューズ? 期間限定で……あ、今日発売なんだね"」

 

 ドーンと大きく載せられているシューズの写真。周りにはシューズの細かな情報や発売日、販売している店の情報がちょっと小さく載っている。わざわざこれを先生に見せてきたということは。

 

「"……もしかして、これが欲しいの?"」

 

 ──こくこくっ!

 

 ちょっと激し目にレキは頷く。この反応を見るに、このシューズのために脱獄してきたと見ていいのかもしれない。

 

「"えっと、そのためにここへ来たの?"」

 

 ──こくり

 

 確定になった。

 となればこれまでの謎の行動は、店の場所が分からなくてのものだったと考えられる。実際、店の場所は土地勘が無い者からすれば迷ってしまいそうなところであった。

 

 少し考えて……先生はあることを思いつく。そしてその場で、レキに言葉を掛けた。

 

「"良かったら、私が店まで案内しようか?"」

 

 ──くわっ!

 

「"わっ……!"」

 

 レキが先生を見る。これに一瞬怯んだが、先生は続けた。

 

「"……えっと、その代わりお願いが二つあるんだ。

 一つは買い物が済んだら元のところに帰る事。もう一つは、私ともニツみたいに言葉で話をしてほしいって事。

 ……どうかな?"」

 

 最初のはそもそもの今回の業務内容を達成するという意図、もう一つはレキとの交流を深めたいという意図がある。それぞれの目的を達成でき、尚且つレキにとってもそう難しくはない事柄のはず。

 何にせよ、賽は投げられた。後は返答を待つのみ。

 

 しばらくの間、静寂が訪れる。そして次の言葉は、レキによって紡がれた。

 

「……わかった。これでいい?」

「"! うん、大丈夫だよ。よろしくね、レキ"」

 

 先生とレキ。この二人の言葉によるコミュニケーションは、たった今開始されたのだった。

 

 

 

【次回→第十話:買物】




(-_-;).。oO(シャーレで電話をしている場面とか、先生が携帯電話を所持してる場面とかあったっけ……?)

(^-^).。oO(……まぁええか!)
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