【初ライブを超えて】 side:山田リョウ♂
はむきたすは終わりを迎えた。
もう音楽なんてやめてしまおうか。
大好きだった場所を自分のせいで失ってそんなことを考えていたときに、
「ねえ、暇ならベースやって」
そう、虹夏が声をかけてくれた。
ギターと連絡がとれなくなった。
虹夏は、その辺でギターを探してくる!と去ってしまったけど、心の中にはすでに諦観で満ちていた。
どうせこんなもんでしょ。
胸中には脱力感しかなかった。
元からあのギターは怪しかった。
はむきたす時代から自分のファンだという女の子。
ギターを弾けると自称していたけれど、合わせは拒否して、結局演奏を聞けることはなかった。
ライブ当日に現れないとなると本当に弾けたのか、正直怪しい。
巡り合わせが悪いのか、それともこれが自分のカルマなのか。
バンドは向いていないのかもしれない。
はむきたすだって自分のせいで崩壊した。
STARRYの入口から物音。そこに目線を向けると・・・
ドアの隙間からひょっこと人影が頭を覗かせたかと思えば、すぐ引っ込んだ。
赤髪。
一瞬しか見えなかったけれど、あれはギター担当の喜多 郁代だった。
ライブ会場に来ているものの、どうみてもやる気があるようには見えなかった。
追いかけてステージに引きずってきてもろくなことにならない気がする。
声をかけるのは止めた。
音楽は楽しいから、本人がやりたいからやるもの。
相手の品位に合わせて、無理やり引っ張ってくるのは違う。
そもそも自分は口下手だから、なんて声を掛ければいいのかわからないし。
・・・自分のファンだという女の子と、あまり話をしたくないという気持ちがあった。
バンドメンバーを見つけて嬉しそうな虹夏の手前言わなかったけども、ネガティブな気持ちが心の奥底にあった。
だって、はむきたすは自分を中心としたバンド内恋愛問題で崩壊したんだから。
喜多の影からは視線を外し、見なかったことにする。
そんなに時間がたつことなく、虹夏は帰ってきた。
傍らには見覚えのない暗そうなピンクの少女。
「ただいまー。ギターを見つけてきたよ! こっち、バンドメンバーのリョウ!」
「ひぃっ! 男の人・・・しかもイケメン・・・」
まさか本当に見つけてくるとは。
虹夏、やるな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・・・ライブはひどいものだったけど悪くはなかった。
段ボール被って演奏する『ぼっち』、面白かったし。
ライブ後の一息ついたタイミングで、楽屋にギグバックを担いだ人影が飛び込んできた。
「すいませんでしたぁぁぁぁあああ」
喜多 郁代が飛び込んできた。
・・・予想通りというべきか、やっぱり喜多はギターを弾けなかった。
姿を現した理由は、下心アリアリでバンドに加入して、当日バックレるのはさすがに気が引けてしまったらしい。
「ごめんなさぃいいい。私のことを気のすむまでぎったんぎったんにしてください」
「まぁ、一応? 無事に終わったし、それはいいよ。次はボーカルはやっぱり欲しいし。ギターはぼっちちゃんに先生してもらいながらギタボやってよ」
「でも私、本当に上達しなくて。ボンボンって低い音しかでないし」
「ベースなんじゃないのそれ」
喜多は倒れた。
ギターだと思われていたものは本当に多弦ベースだった。
まぁ、それはそれとして。
多弦ベースいいな。
ちょうど欲しいと思ってたモデルだコレ。
一応バンドメンバーになるわけだし、どこまでやる気かわからないけど、協力するのもやぶさかではないか。
「その多弦ベース買い取ろうか。安くしてくれるならギター貸してあげる」
「え・・・リョウ先輩のギターを! いいんですか」
「いいよ」
観賞用になっている新品同然のヴィンテージギター。
珍しいから手にしたけど、高く売れるわけでもないし。
楽器として使われないよりは、使われた方が楽器も本望でしょ。
【幕間】
下北の街中。
「リョウのやつ、遅刻か〜。絶対その辺で道草くってるな」
アーティスト写真撮影の待ち合わせに山田が来ず、虹夏は怒りの声を上げた。
「時間に囚われないリョウ先輩・・・自分の世界があって素敵!」
全肯定する郁代に、虹夏は冷たい目を向ける。
「ちょっと喜多ちゃん〜? あんまりリョウのことを甘やかすの止めて欲しいんだけと。・・・リョウが立てたバンドのルール守る気あるんだよね?」
「それはもちろん! リョウ先輩に向けるのはあくまで憧れです。彼女になろうなんて気はありません! ・・・ただまあ・・・ルール立てたリョウ先輩に求められたらやぶさかじゃないですけど」
「おい! って、やっぱりそんなこと考えてたか〜」
「虹夏先輩こそリョウ先輩とどうなんです?」
ため息をつき飽きれる虹夏に、恋バナをする女子特有のオーラを発しながら喜多がにじり寄る。
「何かある訳ないでしょ。リョウとは腐れ縁だよ」
「またまた〜。絶対、胸きゅんなやり取りありますよね?!」
「あの・・・」
盛り上がる虹夏と郁代のやりとりを、右往左往しながら眺めていたひとりが声を上げた。
「なぁに、ぼっちちゃん」
「バンドのルールってなんですか? 聞いてないんですけど」
「あー、言ってなかったかぁ。まあ、わざわざ言うもんじゃないしね」
郁代がこれから重大事項を告げると、シリアスな表情を浮かべる。
反射的にひとりはごくりと唾を飲み込んだ。
「あのね、後藤さん。この結束バンドは・・・実は・・・『バンド内恋愛禁止』なのよ」
「はぁ・・・」
ひとりは気の抜けた声をもらした。
「補足するとね。リョウが前にいたバンドが、バンド内恋愛で崩壊したらしいんだよ。そんでナイーブになってるところに、好き好きオーラ垂れ流す喜多ちゃんの加入で揉めて・・・『バンド内恋愛禁止』ってルールが出来たんだよ」
「へぇ・・・」
自分には関係ないな、と後藤ひとりは思った。
喜多 郁代は逃げなかった。
ギターができないことを言い出せず、しかしSTARRYにはやって来ていました。
本来言われていたような『逃げたギター』ではありません
ゆえに立脚点が『言うべきことを言い出せず大惨事を招きかけた。だからバンドに対して真摯で在りたい』に変化。
そして『一度は逃げてしまった。だから二度は逃げない』という本来の矜恃を持ちません。
だからこの物語の結末は・・・