【 NAND 】side:伊地知虹夏
全国ツアーの終点、STARRYで結束バンドによるワンマンライブが行われた。
ついにここまで来たかと感無量で、その反動でか疲れがドッと出たのでゆっくり過ごした翌日。
『虹夏先輩。報告と相談したいことがあるので時間ください』
喜多ちゃんから深刻そうなメッセージが届いた。
ワンマンライブでは、今の公式ファンクラブ会長 兼 SNS大臣としてではなく、初期メンバーとして先代ギターボーカルというゲストとして参加してもらった。
『ツインボーカル版 星座になれたら』は評判良かったな・・・
その喜多ちゃんから深刻そうな連絡。
全く内容がわからないからこそ緊張する。
喫茶店で合流してスキャンダル対策に、季節外れで人のいないテラス席に落ち合う。
注文が来たしたところで、早速喜多ちゃんは切り出してきた。
「実はこのたび、ひとりちゃんとお付き合い初めまして・・・まずはそのご報告です」
神妙な顔で告げられた言葉は寝耳に水だった。
「え?そ、そう、多様性だね。全く気づかなかったな」
仲が良いとは思ってたけどそうだったんだ。
友人としては素直に祝福できるけど。
結束バンドのリーダーとしては・・・
ぼっちちゃん、フロントマンだけあって、アイドル的なガチ恋ファンついてるけど交際相手いるの大丈夫かな?
相手が喜多ちゃんなら女の子だし、深い縁があるわけだし納得してもらえて炎上しないかな?
正直影響がよくわかんないな。
とりあえず反対はしないけども、事務所には相談はしとこう。
「うーん、私もこんなことになるとは思ってなくて・・・。ワンマンライブで感極まっちゃったじゃないですか。打ち上げの後、ひとりちゃんの家で飲み直してたんですが・・・その・・・ライブの話題で熱が盛り上がって・・・ひとりちゃんと致してしまいまして・・・キャーー! あんなことやっちゃったら付き合うしかないじゃないですか!」
喜多ちゃんが顔を真っ赤にして、机をバンバン叩いてる。
「それ私が聞いて大丈夫なやつ? まぁ幸せそうでなにより」
ワンナイトラブって単語が頭を過ぎるけど、体から始まるって関係もあるっていうし。
ぼっちちゃんと喜多ちゃんなら、そう変なことにはならないでしょ。
え、この惚気を聞かされるために、私は呼び出されたの?
そりゃ炎上の観点から、報告してくれたのはありがたかったけどさぁ。
そもそも報告するんなら、ぼっちちゃんと二人でもんじゃないの?
なんで喜多ちゃんだけ?
「・・・で、ここまでが前フリです」
スンっと喜多ちゃんの表情から温度が消えた。
「本題なんですが・・・ひとりちゃん、めちゃくちゃ上手かったんですよ」
え、なんの話ってか、そっちの話??
「へ、へー。良かったじゃん?」
何も話が変わってないんだが。
もう帰っていいかな。
「打ち上げが終わった後にひとりちゃんちにおじゃましておしゃべりしてたんですけど、昨日はめずらしくひとりちゃんからのスキンシップが多くて、私も久しぶりにステージの上に上がった高揚感が残っててそれに熱く応えちゃって、気づいたらお互いの素肌をまさぐってて・・・フェザータッチってうのかしら・・・触れるか触れないかの微妙なタッチで焦らされたかと思ったら、ひとりちゃんったらお口で吸い付いてきて、舌先でちろちろって転がされちゃって、怖いするぐらい恥ずかしい声上げちゃって・・・」
「まだ昼で! ここは喫茶店なんですけど!」
あー、テラス席で本当に良かった!
周りに誰もいなくて良かった!
・・・え、いや聞かれてないよね?
思わず当たりを警戒していたら、喜多ちゃんはコホンと咳払いをひとつ。落ち着きを取り戻していた。
「もう、ひとりちゃんにひぃひぃ鳴かされちゃって――――じゃなくて。明らかに『慣れ』があったんですよ」
「慣れ?」
色事にってこと? あのぼっちちゃんが?
手先が器用だとか喜多ちゃんの機微に深いとかではなく?
「ぼっちちゃんが元々天才だったとか」
「なんの天才ですか。そういうんじゃなくて、えっちなことに躊躇がなかったりとか、流れがやたらスムーズというか。あれは手慣れてる感じでした」
・・・知らなかった。
喜多ちゃんって嫉妬深かったんだなあ。
処女厨って言うんだっけ。
「なに? ぼっちちゃんに元カレだか元カノだかを調査したいから協力してってこと? 素直に聞いたら教えてくれるんじゃないの?・・・というか見つけてどうするのさ。警察沙汰は勘弁して欲しいんだけど」
「いえいえ、元恋人がいるならいるでいいんです! そんなことを調べるなんて狭量なことしたくないし! そう、元恋人とかだったらですけど・・・ 」
「じゃあ、ファンとどうこうとか?」
「私がファンクラブ会長として目を光らせている限りではその可能性は薄いと思っています。・・・もうひとつ、可能性があるじゃないですか」
脳裏に、ぼっちちゃんの家に入り浸っているベーシストの姿が浮かんだ。
・・・可能性はありうるけれど積極的に考えたくはない。
「リョウってその辺、しっかりしてると思うだけどな。ぼっちちゃんちだけじゃなくて、うちにも頻繁に来てるけどさ。リョウにその、迫られたこととか、全くないよ」
バンドメンバーには手を出さないっての律儀に守ってるんじゃないかと思う。
「単純に虹夏先輩はリョウ先輩の好みじゃないじゃないですか?」
「失礼! それはスゴイシツレイだよ!」
結束バンドの人気調査が頭を過ぎる。
トップはフロントマンのぼっちちゃん。スタイル良くてオドオドした雰囲気により男性ファン多数、そして演奏するときのカッコ良さから女性ファンも多い。
リョウは言わずもがな、堕落したダメ人間のオーラがむしろいいと女性ファン多数。交際相手に困っているところなんて見たことない。
そして、私。・・・ノーコメント。
「ひぃ、ごめんなさい! そうですね、リョウ先輩、来るもの拒まずの雑食ですもんね」
「いや今の発言を否定しなよ! 私だってそれなりにモテてるからね!」
リョウの交際相手はころころ変わっている。何人かには会ったことはあるが、スタイルや性格など様々。
共通点なんかないため、確かに来るもの拒まずの雑食じゃないかと思われる。
「でもリョウ先輩がしばらく彼女いなかった時期あるじゃないですか。こっそり、ひとりちゃんと付き合ってたとか」
「あぁ、あったねえ。でも雰囲気はいつも通りだったよ。あのころ、すごいペースで曲作ってたし、忙しかっただけじゃないの」
「いや、私の勘はなんかあったと告げています! きゃー、推しと推しが急接近?! 私ってばどうしたらいいの?!」
喜多ちゃんが頭を抱えて髪を振り乱している。
まるっきり危ない人だ。正気とは思えない。
喜多ちゃんが言うのは被害妄想だと思うけど、そこまで言われたら気になってきた。
「ちょっと問い詰めてみようか」
信じてるよ、リョウ。
スマホのメッセージアプリを立ち上げた。