アー写撮影終わった・・・なんか疲れた。
疲れたけど・・・やらなきゃいけないこともある。
応援ソングをイメージした歌詞が一応できた。
出来栄えを曲作りの観点で確認したいけど・・・
「リョウさん、まだ下北にいるのかな」
ロインで歌詞の相談をすると、店の住所が送られてきた。
「ここに来いってこと・・・?」
えぇ・・・
外食なんて1人で行ったことないのに。
困惑しながらマップの通りに進んでオシャレな店に着いちゃった・・・。
新装開店の威圧するような飾り。
ただでさえ高いハードルがさらに高くなる。
「どうやって入ろう・・・」
足がこれ以上動かない。
これ以上は無理だな、うん。
道に迷ったことにしよう。
踵を返したところで、スマホが震えだした。
見てみると・・・着信画面 『山田リョウ』
スマホの振動に追い立てられるように、通話ボタンを押した。
「なにしてんの?」
開口一番に単刀直入なリョウさんの一言。
帰ろうとしてるのがバレた! 責められてる!
思わず気をつけの姿勢を取って俯いてた視線を上げると、窓際のカウンター席でスマホを耳に当てているリョウさんと目が合った。
「あ・・・」
店先でマゴマゴしているところから見られてた。
どうしようもなくて、出頭する他にないや・・・
改めて新装開店のドアに対峙して、待たせているリョウさんが怖かったので今度は立ち止まることなく進んだ。
「へーい、大将やってる?」
「えっ、えっと???」
考えていたセリフを店員さんに言ったら困惑された。
あっ、しにたい。
リョウ先輩は興味深そうにこっち見てるし、ただひたすらに恥ずかしい。
「あ、あの。あそこの席の人の知り合いなんで、あっち行っていいですか」
「かしこまりました。ご案内します」
店員さんに案内されて、リョウ先輩の隣の席へ。
「ぼっち。なにしてんの」
「聞かないでください・・・」
「わかった。聞かない」
リョウさんは食べかけのカレーに向き合って、食事を再開してしまった。
店員さんがやってきて、お冷とメニューをくれる。
「注文の品が決まりましたらお呼びください」
ふと店員さんから見て、どんな風に見えられているのか気になった。
もしかして、リョウさんのストーカーにみられてる?
リョウさんは垢抜けたイケメンだ。
それに対して私はジャージの陰キャ。
明らかに釣り合ってないから、男女だけどカップルに見られるはずもなく。
兄妹というには似ていない。
だからもしかしたら・・・店員さんから見たら、私はリョウさんに付きまとうストーカーに見られてるんじゃ。
「お客様――――」
気がつけば隣に店員さんが席に来ていた。
冷や汗が浮き出る。
このままじゃストーカーとして通報されてしまう!
「あの!」
「はい、ただいま参りま・・・」
店員さんが来てくれた。
通報される前に弁明しなければならない。
「私はこちらのリョウさんのストーカーじゃありません。あくまで同じバンドのメンバーでして・・・だから通報しないでください」
「え〜と、お客様・・・?」
「ぼっち、何言ってんの。早く注文しなよ。カフェオレでいい?」
リョウさんの視線を冷たく感じた。
「はい、それでお願いします」
やってしまった・・・
もうこれ以上やらかす前に、作詞ノートをリョウさんに渡そう。
「こ、これ、見てください」
「へぇ。子供っぽすぎる気がしないでもないけど・・・悪くないんじゃない?」
パラパラとページをめくって、そんな感想をリョウさんはくれた。
アー写撮影でもいつのまにか帰ってたし、わたしなんかに気なんて使うはずもなく。
これは忌憚のない意見で、その上で褒めてくれてる!!!
「え、そ、そんなベタ褒めされるぐらいですか。えへへ・・・」
「ロックバンドにしてはちょっとかわいすぎるかなと思わないでも。ま、カッコよさに関しては黒一点の僕が担えばいいしね」
そう言って、机の上に置かれるノート。
そこにはがんばって練った私のサイン案が描かれた。
「こ、これは違うんです!! あ、あの、作詞はこっちのページで!」
「ふむ、拝読いたす」
「ふむ・・・」
リョウさんがペラペラとページをめくる。
「これがぼっちが伝えたいことなの?」
リョウさんが指先で示すのは、
なんとか絞り出してかいた『現状を無責任に肯定する応援歌』
「あっ、はい。だってライブ盛り上げないといけないし」
バンドは聞いている人の心を動かさないといけない。
ギターヒーローとしてうけるリクエストを聞いていればわかる。
多くの人はテンションの上がる曲を、耳障りの良い言葉を求めている。
「盛り上がらなくてもいいじゃん。バンドなんてさ、やりたいからやるものでしょ。個性殺したら死んでるのと一緒だよ?」
「それでも・・・わたしはこのバンドでがんばりたいんです」
虹夏ちゃんが誘ってくれた結束バンド。
人見知りで自分からは声をかけられない自分のことはよくわかっている。
私に『次』なんてないんだ。
「ふーん。そっか。・・・結束バンドが大事なのは一緒だよ。バンドは壊れるときは一瞬だからさ。結束バンドは最初のライブを超えて乗り切ったんだ。このまま続いて欲しい気持ちはある」
「リョウさん・・・」
言葉とは裏腹に冷たい感情が覗いている。
結束バンドには半分ぐらいしか期待してなくて、半分ぐらいはもう諦めているようにも見える。
「ねぇ、ぼっち。確認するんだけど、この歌詞で本当にいいの? 続けられる?」
そう問われて私は歌詞を引っ込めた。
リョウさんの目に冷や水を浴びせられた気分だった。
「すいません! やっぱり書き直させてください! ただ、私が書いたら暗い曲になると思いますけど・・・。い、いいんでしょうか」
「良いんじゃない? 歌うのは喜多でしょ。陽キャが明るく、暗い曲を歌うのは面白いんじゃないかな」
リョウさんって喜多さんに当たりが強い気がするな。
「わかりました。がんばってみます」
「・・・言ったかな。僕が前に他のバンド組んでたこと」
「青臭い歌詞が僕は好きだった。なのにバンドが売れるように大衆に媚びるような歌詞になってきてさ。
口論になってたら、もう一人のメンバー・・・当時彼女だった娘が僕の味方をしだして、2対1になっちゃってさ。歌詞担当がこんな環境でやってられないってなって、バンドが解散しちゃったんだよね」
「・・・怖い話ですね。えっと、その彼女という方とは?」
「別れた。その後に話をしてさ。バンドのために真剣に考えて僕の意見に同意したわけじゃなくて、『彼氏』だから僕に味方したみたいだったから、許せなかったんだ。そうして、あのバンドは終わっちゃった」
歌詞担当・・・結束バンドの場合で想像すると、歌詞担当であるわたしが、リョウさんと喜多さんや虹夏ちゃんに袋叩きにされるわけか。
そんなの絶対無理。耐えられない。
恋愛禁止になっているわけだし、今はそんなことにはならないよね・・・?
「ぼっちは自由に、ぼっちらしい歌詞を書いてきて。そしたらいい感じの曲を作るから任せてよ」
「あっ、はい。わかりました」
言われるように、リョウさんの言う通りに好きな曲を書こう。
元々あの応援ソングには思い入れないし。
・・・今、聞いたリョウさんの話、カッコよかったな。
結束バンドの曲の方向性の話でもあるし、モチーフにして歌詞を書いてみようかな。
「がんばってね。歌詞書いた曲が流行ったら印税がっぽがっぽだよ。名前だって残るし」
作詞:Bocchiの曲が流行る。有名人・・・人気者になっちゃうなー!
「でへへ、全国ツアー・・・ライブでは恒例のダイブ・・・」
「いいよね、ダイブ。この前いったライブでは顔、踏まれて良かった・・・。ダイブでスルーして地面を転がるってなってもおいしいしね」
んはっ!
ダイブをしても、わたしなんて誰からも受け止めらず・・・そのまま地面に墜落。普通にありえる。
『なにあのギター』『そもそも誰』『しらなーい』『テンションおかしくなって滑っちゃったのかな・・・』
脳内を空想の冷笑が反響する。
危なかった・・・ダイブなんてしないようにしよう・・・
「歌詞の完成楽しみにしてるよ。じゃ、そろそろ出よっか」
カフェの会計を済ませようとして――――
「ごめん。今、お金ないからおごって」
「えっ? リョウさんがこの店はいってましたよね。私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」
「奢ってくれそうな娘に連絡しようかなって思ってた。ぼっちが連絡してきてくれたから、ちょうどいいなって。・・・ごちになります」
うわーー!!
絵にかいたような女にだらしがないバンドマン♂!!
「あ、あの。いつでもいいですけど・・・お金があるときに返してくださいね」
「うん、ある時に返す」
きっと返ってこないんだろうなあ・・・
たかられないようにこれから気をつけなきゃ・・・
運命の分かれ道
”危なかった・・・ダイブなんてしないようにしよう・・・”