【完結】山田リョウ♂による結束模様   作:koum

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結束バンドの絆は絶対ではない。

だからこそ――





【フライ・ハイ】side:後藤ひとり

 

 

”ブツン”

 

『忘れてやらない』最後の1小節。

 

弦が跳ねて、銀糸が宙を舞う。

 

咄嗟に別のコードでカバーした。

 

曲を演奏しきってから、嫌な予感のままに確認するとペグが折れている。

 

文化祭のときと同じ壊れ方。

 

どうしよう。

 

ステージにはバッキングでフォローしてくれる喜多ちゃんはいない。

 

この場には、わたししかいない。

 

喜多ちゃんが適当な扱いをしていたとは思わない。けどモノは壊れるときは壊れる。

 

物は誰かに譲ると、途端に壊れるという話を思い出した。

 

使用者が違ってこれまでとクセが違う使い方をするから、そのせいで壊れるって解釈もできるけど・・・

 

わたしにはこのギターがわたしを拒絶しているように感じた。

 

このギターを使って演奏すれば、喜多ちゃんみたいになれた気がした。

 

けれど魔法は解けてしまった。

 

ここには壊れたギターと後藤ひとりだけ。

 

ここはステージの上、お客さんは待ってはくれない。

 

わたしはギターボーカルを任されたんだ。

 

動き出さなきゃ。

 

控え室には予備のギター・・・本来使うはずだったギターだってある。

 

それを取りに行かなきゃ。

 

頭はそう考えるのに身体は動かない。

 

喜多ちゃんのギターのペグが壊れたことに、喜多ちゃんに拒絶された気がして。

 

糸まで切れてしまった。

 

縋るように、ステージの下、現実の喜多ちゃんがいた辺りに目をやる。

 

――――喜多ちゃんがいない?

 

見る価値もないって見放されちゃったかな。

 

そんな、生来のネガティブ思考が顔を出し・・・

 

「お待たせ、ひとりちゃん! ギター持ってきたわ!」

 

わたしのギター・・・パシフィカ を抱えて喜多ちゃんが舞台袖から飛び出してきた。

 

太陽みたいな笑顔。

 

喜多ちゃんはよっぽど全力で急いできたのか、息を荒げていて、額には汗すら浮かばせていた。

 

わたしのギターの弦が切れてから、数分しか経っていない。

 

いくら喜多ちゃんでも、こんなに早く来るのは難しいはずで。

 

たぶん弦が切れた瞬間には、ギターを取りに控え室に走り出していたに違いない。

 

喜多ちゃんはいつもわたしを支えてくれる。

 

「ありがとう、喜多ちゃん」

 

万感の想いを込めて、お礼を伝えた。

 

パシフィカ。

 

喜多ちゃんのではない。

 

お父さんのでもない。

 

自分の身体の一部のように感じる”わたし”のギターを持って立ち上がる。

 

MCで場を持たせていた虹夏ちゃんに、もう大丈夫とアイコンタクトを送った。

 

「おっ、ぼっちちゃんの機材トラブル解決したみたい。喜多ちゃん、フォローありがとう! そうそう、次の曲は新曲です。しかも脱退する前に喜多ちゃんが歌詞を書きました。つまり遺作です!」

 

「虹夏先輩、私はまだ死んでませーん!」

 

舞台袖に引っこもうとしていた喜多ちゃんに、虹夏ちゃんが絡んで会場に笑いが起きる。

 

ギターを確認しつつも、脳裏に喜多ちゃんとの歌詞作りが思い出される。

 

まだ喜多ちゃんが家出をする前、喜多ちゃんは愛の逃避行めいた歌詞を書きあげたものの、逃避行相手と思われるリョウさんからボツをくらっていた。

 

浅い。陳腐。喜多らしさが無さすぎと酷評されて、喜多ちゃんは落ち込んでいた。

 

『どうしたものかしら・・・。歌詞担当大臣からズバッとした解決策はない?』

 

『ないですね・・・本当はいつも苦労してるので・・・わたしが知りたいくらいです。わたしもリョウさんにボツされることありますし』

 

『うーん、でもひとりちゃん、最初からすごかったのよね。はじめてかいたのって”あのバンド”よね。あれって確か”ひとりちゃんから見たリョウ先輩”のイメージが元になってるんですっけ』

 

『知り合ったばかりの印象ですけどね。・・・今だったら、全然違う曲になるだろうなぁ・・・』

 

『・・・よし、決めたわ』

 

『? なにをです?』

 

『”私から見たひとりちゃん”で歌詞を書く!』

 

虹夏ちゃんがスティックを叩き演奏が始まる。

ギターをかき鳴らし、自然に練習の通りに歌い出せた。

 

―――それでも浮かぶのは喜多ちゃんとの会話の欠片ばかりだ。

 

 

 

 

『私、ひとりちゃんが書いた歌詞の意味がよく理解できないで壁にぶつかってるじゃない?

 

ひとりちゃんになりきって、ひとりちゃんのことを歌詞にしたら理解度高まるんじゃないかと思ったの。

 

バンドで青春を一緒に過ごしてるわけだし、分かり合える、言わば共通言語はあると思うのよ。あっ、これひとりちゃんっぽい歌詞にいいわね!』

 

わたしのことなんかわかっても楽しくないよ。

そもそも誰とでも絶対に分かり合える、共通言語がある!なんてわたしの対極の考えだよ。

でも、喜多ちゃんらしい考えだ。

 

 

『ひとりちゃんと言えば揚げ物が好きよね。揚げ物といえば・・・ファーストフードに寄ったときにポテトが揚げたてだったらラッキーってなるわよね!』

 

それ学校帰りにクラスメイトでぞろぞろマックに寄ってテンションぶち上げてるイメージだよね?

陰キャはそんな経験ないんですけど・・・

 

 

『影引き連れていけ・・・うん、いつものひとりちゃんらしいダークっぽさも入れたわ!これは”駆け引き“と韻を踏んでて、めんどくさいやりとりなんて捨てて体当たりするのって』

 

だから、わたしだったらそんなアグレッシブな歌詞を書かないよ。

けど影(後藤ひとり)引き連れていく・・・わたしを喜多ちゃんが引き連れていってくれるみたいでいいな

 

『あとひとりちゃんと言えば・・・長い前髪から覗く青い瞳がキレイで・・・ライブのときなんかは燃えてるように見えることがあるわ。カッコイイわよ』

えへへ。

カッコイイって言われて嬉しかったけど、流れるように前髪かき上げられて蒸発しちゃったっけ。

 

 

 

 

『曲名は________よ。うん、いいタイトルね』

名前まんまで恥ずかしい!

 

『えー、素敵じゃない。変えたくないんだけど。んー、でもひとりちゃんがそこまで言うなら・・・わたしの恥ずかしい名前を歌詞にいれるわ! それでお相子ということでどうかしら』

あ・・・曲名は変えてないんですね・・・じゃあいいです、というやり取り。

でも・・・歌詞の中にお互いの名前があるのは嬉しかった。

 

 

わたしのイメージソングというには前向きすぎる。

 

歌詞を書いた、喜多ちゃんの吐息が滲む曲。

 

わたしが描く”後藤ひとり”じゃなくて。

 

東京にやってきた、さみしがりの女の子が、誰かとつながりたくて、ギターをかき鳴らして前に進む。

 

喜多ちゃんが描いた”後藤ひとり”の物語。

 

こんなわたしになりたいな。

 

なれたらいいな。

 

そう、なっていこう。

 

 

 

――――――”ひとりぼっち東京”」

 

願いを”歌”と”ギター”にこめて、最後の1小節まで駆け抜けた。

 

歓声が聞こえる。

 

息を整えながら、改めてステージを見回す。

 

それなりに盛り上がったみたいだ。

 

良かった。総スカン食らったらどうしようかと思った。

 

喜多ちゃんも歌ってる間に観客席に戻ったみたいで、ニコニコと見てくれている。

 

「はい、『ひとりぼっち東京』でした。聞いてくれてありがとー!」

 

虹夏ちゃんがMCに繋げてる。

 

良かった、これで一息つける。ふぅ。

 

「うーん・・・トラブルのせいで1曲減らさないといけないかも。せっかく聞きに来てくれた人、ごめんなさい! まあ・・・それはそれで時間があまりそうなんだけど。

 

せっかくだから、今回ボーカルに初チャレンジしたぼっちちゃんの感想、聞いてみよっかな? どうだった? ボーカル」

 

え?

 

言うべき言葉なんて一言も浮かばない。

 

歌い終わったとき以上に喉がカラカラだ。

 

どうしよう、どうしよう。

 

つい最近、リョウさんと見に行ったSICK HACKのライブで、お姉さんがダイブしていた光景が浮かんだ。

 

あれなら何も言わなくていい!

 

名案だ!

 

観客席にいる喜多ちゃんと目が合う。

 

キョトンとしただけな気もするけど、喜多ちゃんとアイコンタクトが通じた気がした。

 

壊さないようにギターをスタンドに立てかける。

 

助走のために駆け出した。

 

「ぼっちちゃん? ちょ、一体なに・・・」

虹夏ちゃんの声。

 

わたしは喜多ちゃんに向かって飛んだ。

 

 




結束2年目編 [完]!

結束3年目は、
ダイブをフックにぼっちボーカルの結束バンドがバズったり、
その流れでぼっち=ギターヒーローとバレて認めたり、
まとまったお金が入ってリョウへの借金を返したり、
卒業目前でぼっちが下北で家を借りたりする想定ですが・・・

それらはスルーして物語は結束4年目へ。
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