「意外です」
ギルドから出て歩いていると、アリシアがポツリと零した。
「何が?」
「アルさんはあまり大勢の前に出るように見えなかったので。手を上げた時もなんだか乗り気ではありませんでしたし」
「あー、まあ確かに正直やりたくないな。勝てるかわかんないし」
「ならどうして?」
「どうして、か。アリシア、あの2人を見てくれ」
道の端で手を握り合って何かを話している男女を指さす。
「2人?……お付き合いしているのでしょうか?」
「そうだ。片方は警備隊だな」
「それがどうしたんですか?」
「恐らく必ず戻ってくる、みたいな話をしているんだろうな」
「そうですね……その前に私達が頑張らないと」
両手に力を入れて気合いを入れる。
「ああ、違う違う」
「あれ……?」
「ああいうのをフラグが立ったって言うんだ」
「フラグ、ですか?」
「ああ、例えば男女の目と目が合って運命を感じて恋に落ちるとか。敵を倒した時に『やったか!?』とか言うと相手が復活するみたいなのだ」
「はあ……なるほど」
「それでな、『俺がこの戦いから帰ってきたら結婚しよう』とか、あの雰囲気で言うと死亡フラグが立つ」
「死ッ……!?」
「ああ、そうだ。ほぼ死ぬ。そりゃあもう通常時なら2割くらいの死亡率が9割まで上がる」
「そんなに上がるんですか!?」
「いやまあ実際に立てて生きてたか死んでたかは検証してないからわからないけど」
流石に人の命で検証するのはちょっと……
「とにかく、それで片方が死んだら残ったもう片方が悲しむだろ?それを阻止する為だ。ぶっちゃけると俺の趣味の為だな」
「そうだったんですか……」
「幻滅したか?アリシアは人をただ助けたいって思いで着いてきたんだろ?」
「いいえ、理由は置いておくとしてもアルさんが人を助ける為に動くのにどうして幻滅する必要があるんですか」
眩しいなぁ……失敗しても、せめてこの子は帰ってこれるようにしよう。
「そっか」
カップルから目を外して歩き出す。その後ろを少し慌てた様子でアリシアが追いかけて来る。
「そういえばどこに向かっているんですか?」
「んー?シェリアの武器屋。あそこの親父のガントンさんに武器のメンテナンスしてもらう。暇だろうし、アリシアも好きにしてていいぞ」
「私は特に消耗品もありませんから、一緒に行ってもいいですか?」
「いいけど、暇になると思うぞ?」
「構いませんよ」
そう言って笑う。本当にやる事なんてないから、1人でリフレッシュでもしててくればいいのに。
「じゃあ、ガントンさんに武器を預けてからどこか行こう。俺はあんまりお洒落なカフェとか知らないから考えてくれないか?」
「では、よくリゼさんとウルさんと一緒に行っていた所にしましょう。紅茶もケーキもとても美味しいんですよ」
「ウルもか、楽しみだな」
あいつ結構舌が肥えてるから、ちょっとお高いのとかしか食べないのに。
話していると武器屋に着いて、中を確認して入る。
「あ、兄さん。いらっしゃい!」
緑色の髪に真っ白な肌。しかし肉体は少女にしては少しガッシリした少女。この店の実質的な経営者であるシェリアが武器を布で磨きながら立っていた。
「久し振り、元気だったか?」
「うん。あ、でも母さんが寂しがってたから会ってあげてね?」
「……善処する」
外から見た感じ多分今日はいないだろう。
「兄さんって……あの、エルフの方?ですよね?」
「あははっ!よく言われるんだけどドワーフとエルフのハーフなんだよね。父さんがドワーフで母さんがエルフで。兄さんって言うのはね、昔駆け出しだった母さんがボロボロだった兄さんを連れてきて少しの間一緒に生活してたから、本当に兄さんが出来たみたいで嬉しくてそう呼ぶようにしてるんだ」
少し……?(3年)
「あ、そうだ!聞いたよ、レッドドラゴンと戦うんだよね。父さんならいつもの場所にいるから、入って」
「おう」
「お邪魔します」
店の扉から住居スペースに入り、更に奥の扉を出て階段を降りると、金属を叩く音が聞こえてきた。
「これは……消音魔法ですか?」
「母さんが張ったんだ。うるさいから」
作業していたドワーフ、ガントンさんが俺達の方をジロリと見て、アリシアが俺の後ろに隠れた。
「……パーティを組んだと聞いたが、本当だったとはな」
「ちょっとした事情があるんだよ。武器のメンテナンスしてもらえるか?」
「いいだろう」
「父さん!いつも以上に気合い入れてね!うちの武器はレッドドラゴンですら斬り裂くって看板に書くんだから!」
「……武器は結局使い手次第なんだが」
腰の片手剣と左腕に着けたバックラーに腕輪から弓とグレートメイスと槍と大楯と渡す。
「バックラーと大楯には炎耐性も付けておいてほしいんだけど、いい?」
「ああ」
「じゃあよろしく。明日取りに来るから」
足早に階段を上り、扉を開けるとその先に1人の女性が立っていた。
「私に会いに来ないとは、どういうつもりかしら?」
「あ、うっすー……」
「待ちなさい」
「んげっ……!?」
頭を下げて横を通り過ぎようとすると、襟首を掴まれた。
この人はシェリアの母親のローナさん。さっき話に出てきた昔の俺を拾った人だ。
アリシアとシェリアが話している間にも引き摺られて.リビングまで連れてこられ、ローナさんがソファに腰を下ろす。
「脱ぎなさい」
「えっ!?な、何を言っているんですか!?」
「はい……」
「アルさん!?」
言われた通り、防具である上着を脱いで渡す。
「やはりレッドドラゴン相手では心許ないわね」
「あ、装備の事だったんですね……」
「兄さんの防具は基本的に母さんが作ってるからね。でも兄さんはちょっと母さんの事が苦手だからあんまりメンテナンスとか出来てなかったんだ」
「防具屋も兼業だったんですか?」
「んーん、母さんの趣味。気に入った人にしか作らないし」
「趣味でランク7が装備している程の装備を作られても困るのですが……」
ローナさんが点検を終えて、上着を膝の上に落とす。
「明日までに仕上げておくから、また来なさい」
「あっ、はい!それじゃ俺達はこの辺で!」
「その前にこちらへ」
「……うす」
1歩前に出ると、ローナさんが立ち上がって抱き締められる。
「アル、貴方はいつも誰かの為に頑張っているのは知っているわ。だから、無茶をしてないかが心配なのよ」
「……そんな心配しなくても良いって。俺、もう良い歳した大人なんだから」
「まだたった22でしょう。私からすればシェリアと変わらないわ」
「いや、そりゃエルフの年齢と比べたら━━」
「何か、言ったかしら?」
ミシリと俺の体から音が鳴る。
ゴクリと喉を鳴らし、目が泳ぐ。
「なんでもないです。ごめんなさい」
「そう、それなら良いのよ。はい、もういいわ」
体を放されて、体が繋がってるか確認してから予備の上着を袋から取り出して着る。
「それじゃ、また明日来るよ」
「ええ」
「また明日ー!」
店から出て、喫茶店に向かう間に何度も体に異常が無いかをアリシアに確認した。
「はぁっ……疲れた」
「なんというか、不思議な家族でしたね」
「だろ。なんであの2人からシェリアみたいなのが生まれるんだ?」
拾って来たって言う方がまだ信じられるぞ。
「私、最初はアルさんはローナさんが苦手なんだと思ってました」
「実際ちょっと苦手だからな」
「子供扱いされるのが照れるからなんですね」
「……」
まだ数日の付き合いなのによく分かってるなぁ……。
転生前の年齢を考えるとアリシアの爺さんと言ってもいいくらいの年齢だったから子供扱いされると普通に照れる。
「お待たせしました」
給仕が来て、紅茶とチーズケーキが並べられる。
「ごゆっくりどうぞ」
紅茶を1口飲んで息を吐く。
「美味いな。あんまり紅茶には詳しくないけど、飲みやすい」
「気に入ってくれたみたいで良かったです」
次にチーズケーキを食べる。
うん、やや固めの生地に濃厚なチーズの味と香りがガツンと来る。底に敷いてあるクッキーもバターの風味が上の生地によくマッチしているな。
転生してきて食べてきた中で1番美味いかもな。良い店だ。
思わず笑みを浮かべると、アリシアが俺を見ているのに気付いた。
「どうした?」
「あ、いえ、アルさんって食事を綺麗に食べると思って。他の冒険者の方々はこう……豪快というか」
「ああ……」
確かに冒険者の割と食べ方が雑と言うか、あんまり気にしていないな。
俺としては普通に食べているつもりだったが、この世界では俺が普通に食べていてもある程度綺麗に見えるのか。
「……ローナさんに仕込まれたんだよ。ほら、女性だし、エルフって礼儀作法を重んじるって言うだろ?」
「そうだったんですね」
一応誤魔化せたか……?
アリシアが外へと目を向ける。
「明日私達が失敗すればレッドドラゴンが襲ってくるのに、そんな事はないみたいにいつも通りですね」
子供は駆け回り、主婦は道端でお喋り、店は普通に営業している。忙しそうにしているのは明日戦うかもしれない人間だけだ。
「そんなもんだろ。実際に危機が目の前に来ないと実感なんて湧かないだろ」
「……」
カップを傾けるアリシアが何を考えているのかは分からない。不安なんだろうか。
「安心しろって、俺は一度討伐出来てるんだ。今回だって討伐出来るだろ」
「……そうですよね」
そうしてアリシアが笑顔を見せる。
大丈夫、勝てるはずだ。今回はあっちは使えないがもう片方は使えるはずだし、リィルだって呼ぶつもりだから問題ないはずだ。
俺の中にある不安を悟られないように笑って胸の奥へと押し込んだ。
日常パートって結構長くなりがちになってしまいます。
でも個人的にこういう日常パート大好きだから許してほしい。