説教が終わる頃にはもう何人かの冒険者がやって来ていて勝手に肉を食っていた。
こいつら……せめて一言くらい言えよ。
正座で痺れた足を伸ばしているとアリシアが大きなステーキを持ってきてくれた。
「2人で食べてとレイナさんから」
「おー、早く食べようぜ。腹減った」
袋からナイフを取り出してササッと切り分けるとアリシアにはフォークを渡し、俺は箸を持った。
「箸ですか?珍しいですね」
一応この世界にも箸の文化はあるが極東周辺やそこからの出身者しか使わず、基本的にはフォーク、ナイフ、スプーンなどが使われる。
「使ってみたら使いやすくてな。使ってみるか?」
「じゃあ、やってみます」
予備の箸を差し出すと俺の真似をして持った。
「んっ、えいっ、やっ……あれ?」
「ちょっと違うな。まず1本だけ持ってみるんだ。そしたらもう1本をこの隙間に入れる」
「こう、ですか?」
「んー、反対だから見辛いな」
アリシアの後ろに回って持ち方を矯正する。
「!?」
「こうだ。うん、よし、動かしてみてくれ」
「は、はい」
初めてだから覚束無いがそれでもちゃんと肉を掴めていた。
「あっ!できました!」
ぱっと笑って肉を口に運ぶ。
「んっ〜!美味しいですね!」
「だろ?どれ、俺も1つ……うん、美味い」
でもやっぱりタレというか付けるものが欲しくなる。
袋からわさびを取り出してすりおろすと肉に乗せて食べる。
「うん、これこれ!」
鼻を抜ける爽やかな辛味がよく合う。
醤油も欲しいなぁ……。
「なんですかそれ?」
「わさびって言う香辛料だ」
「ちょっと貰ってもいいですか?」
「ちょっとにするんだぞ。あんまり付けると辛いからな」
「はい」
ちょんと乗せて肉を頬張るとうっとりとした顔で頬に手を当てた。
「ちょっと刺激が強いですけど、それが良いですね」
「わかるか」
肉をツマミに酒を飲む。なんともいえない至福の時間だ。
気が付けば他の冒険者達も集まって肉を貰っていた。
「お、見ろよアリシア」
「はい?」
俺の見ている方を見るとルークとカンナが2人で並んで座って肉を食べていた。それを少し離れた所から他の警備隊のメンバーがからかっているのが見える。
多分カンナが連れてきたんだろう。ルークだけなら街の警備が薄くなるとかそんな事でもいって街に残りそうだ。
「はー、これだけでも頑張った甲斐があるってもんだ」
「領主様からご褒美もありますからね」
「ああ。アリシアは馬に早く会いたいんじゃないか?」
「はい!名前も決めないといけませんね」
「それはそっちで決めてくれ」
「でも2人でお世話するんですから2人で決めませんか?その方が愛着が湧きますし。」
「まあずっと連れ歩く訳だし……う〜ん」
「ダメですか……?」
首を可愛らしく傾げて言うアリシアから目を逸らして両手を上に上げる。
「そうだな。わかったよ、一緒に考える」
「ありがとうございます!」
「なに?なんの話し?」
アリシアが喜んでいると、シェリアが器を2つ持ってきた。
いい匂いだ。シチューか?
器を受け取るとすぐ側に座った。
「領主様から頂く馬の名前を2人で決めようってアルさんと話していたんです」
「へー!良いなぁ。アリシアさんはもう考えてるの?」
「まだです。クエストに出る前に言われましたから」
「シェリアだから良いけど、この話クエストとは別に領主からの報酬だからあんまり人には言わないようにな。特別報酬とかを気に食わないってやつもいるから」
「あっ……す、すみません!」
「念の為に言っただけだし、そこまで気にしなくて良いって。それだけ楽しみだったんだろ?」
笑ってシチューを食べる。この野菜どっから取ってきたんだろ。アイテムボックスにでも入れてたのかな。
それと謎に味が染みている。時間をかけなければここまで染みないはずなんだが……一体どんな調理方法でやったんだ?
アリシアとシェリアが楽しそうに話しているのを横目に黙々とステーキやシチューを食べているとガントンさんが目の前に座った。
「どうだった」
「流石の斬れ味だったよ。でも他の武器壊してごめん」
「そうか」
言葉は少ないが、大型の討伐クエストを終えるとよく武器の調子がどうだったかを聞かれる。特に片手剣はメインウェポンだからそれについて答える。
「まだまだ武器の扱いがなっちゃいないが、お前が乱暴に使っても耐えられるように仕上げてやる」
「気を付けます……」
「ふん。丁度新しい素材も手に入った事だからそいつで新しく作ってやる」
そう言ってレッドドラゴンに目をやる。もう既にガントンさんの頭の中では次の武器の構想をしているんだろう。
それからも武器について話し込んでいて、ふと顔を上げると集まった連中で楽器を弾けるやつが各々好きに音楽を奏でていて、その音に合わせてみんなが踊ったり歌ったりそれを肴に酒を飲んだりしていた。
カップルで楽しそうに踊っていたり、男同士で馬鹿みたいにふざけて笑いながら踊っていて、その中にはルークとカンナの姿もあった。
他にもライトとリゼ、ハンクさんとレイナさんも踊っていた。シェリアもジールに誘われたのか踊ると言うよりも手を繋いで回っているだけだったがそれでも楽しそうにしていた。
「ガントン」
ガントンさんの後ろからローナさんがやって来て、手を差し出す。
「……たまには良いか」
頭を搔いて立ち上がるとその手を取って2人で輪の中に入って行った。
珍しい、2人共目立つようなことは好きじゃないのに。
木に背中を預けて座っていると、隣にアリシアが座る。
「アルさんは踊らないんですか?」
「あー、俺はそういう相手もいないし、あんま踊りも得意じゃないからな。アリシア達は王都とかで舞踏会に呼ばれる事とかあったんじゃないか?」
「王都に居た頃はありましたね。でも、色んな方から声を掛けられたり見られたりしていたのがちょっと苦手で……」
「アリシアなんかは見た目が良いからドレスなんて着たら似合うだろうな。思わず声を掛けたくなるのもわかる」
「褒められるのは嬉しいのですけど、目線がちょっと……」
「男なんてそんなもんだから無視するしかないな」
その時の事を思い出したのかアリシアが渋い顔をする。
ライトなんかもスーツが似合うだろうから貴族の女性にも人気なんだろうな。
「所で前から気になっていたんですけど」
「ん?」
「どうしてアルさんは他の人の恋愛を見るのが好きなんですか?」
「あー……」
どうしてかぁ……難しい事聞いてくるな。
前世の話になるが、俺は学生の頃からどこにでも普通の子供だった。二次元コンテンツが好きで、つるんでいたのも同じオタク仲間。
好きな子だっていたが、自分から告白して断られるのが怖くて告白なんてしなかった。
そうして社会に出てから金に余裕が生まれて恋愛漫画やアニメなんかを見ている内に自分が恋愛する事に興味が持てなくなっていった。
ジャンルは問わず、学園モノ、オフィスラブ、日常、夫婦、転生、ファンタジー、異種族となんでも読んだ。
だからだろうか、この世界にやって来た時は勇者に選ばれてハーレムなんて夢見ていたが、結局勇者にはなれなかった。
そうして落ち込んでいる時だった。近所のカップルがイチャついているのをを見た事で俺は俺が何をしたいのかを理解したんだ。
そう、この世界で天然物のラブコメを見ればいいと。
まあ、経緯としてこんなもんなんだが、転生とか言えないもんなぁ……。
「自分が恋愛をする事よりも、尊いものを眺めている方が楽しいって思っちゃったんだよ」
「尊い……確かに、人の愛は尊いものですね」
うんうんと同意するように頷く。
多分俺の思っている尊いとアリシアの思っている尊いは違うんだろうなぁ……。
苦笑いを浮かべて自分の手に持った杯を見る。
中に入った酒には自分が反射している。前世と変わらぬ黒髪黒目でややタレ目、精悍な顔つきをしており、ライト程ではないが女性にモテる顔と言えるだろう。
でもなぁ……なんか、この歳になるともういいやってなるんだよなぁ。
「聖女様、良ければ私と踊りませんか!」
「いや俺と!」
「退け退け!聖女様俺が先だ!」
ぼんやりとしているといつの間にかアリシアの周りに人が集まっていた。
ここに来ている女性はアリシア以外が既にダンスのペアを組んでいるがアリシアだけは座って眺めているだけだった。
だからか、狙い目だとでも思ったのだろう。男達が寄ってきた。
「うるっさ……」
これじゃあ落ち着いて眺める事も出来ないな。
そう思って別の所へ行こうと立ち上がると手を掴まれた。
「え?」
「ご、ごめんなさい!私、アルさんと踊るつもりだったんです!」
「……え?」
困惑しながらアリシアを見ると縋るような目でこちらを見つめてきた。
「……そうなんだよー!まだ杯の中に酒が残ってたから座ってただけで、これから踊ろうとしてたんだよな!」
ぐいっ、と残った酒を飲み干して手を握り返す。
「チッ!紛らわしい……」
「だったらさっさとしろよ……」
「はぁ」
するとさっきまでアリシアに迫っていた男達が舌打ちや文句を言って離れていった。
「面倒なやつらだな」
「ごめんなさい。迷惑ばかりかけてしまって……」
「気にすんなよ。まあ、これからはアリシアがいるからもしかしたら俺も舞踏会に呼ばれるかもしれないし、その予行演習って事で。下手くそだけど、一緒に踊ってくれるか?」
握った手をそのままに膝をつく。正直言って柄じゃないけど、たまにはこういうのもいいだろう。
アリシアは俺が膝をつくと少し驚いたが、ふわりと笑うと口を開いた。
「はい、よろしくお願いします」
そのまま2人で踊り始めるが……まあ、わかっていたが踊りの出来はイマイチで何度もアリシアの足を踏みそうになったが、持ち前の反射神経でなんとか踏まずに済んだ。
こいつらいつまでこの街にいるんだ……とっととと思いつつまだ買いたい事があるのよ。
それはそうと二次書きてぇ〜〜〜!ってなっている今日この頃