「……その名前を名乗る意味、理解しているのか?」
「私は―――ではなく、今はアテナに忠誠を尽くす魚座の黄金聖闘士。
ならば、自身の名前すらここでは必要ない。違いますか?師よ」
「……わかったアルバフィカよ」
青年は紫がかった髪を肩下まで伸ばし、薔薇のような佇まいを見せている。
誰にも侵食されることのない、薔薇。
しかし、薔薇と同じように彼にも確かな棘がある。
彼の名は黄金聖闘士魚座の『アルバフィカ』。
目元を隠すための仮面を付け、最後の契約を続ける。
杯に入れられた赤い液体、しかしその赤い液体の隣にある花は腐り、枯れていく。
「最後の試練だ、お前が魚座になるための」
「……」
アルバフィカは恐怖に腕が震える、だが、幼少期から鍛えてきた肉体を信じている。
世界中に存在するどんな毒よりも強力なロイヤルデモンローズを吸って生きてきた。
だが、魚座の聖闘士の血はそのロイヤルデモンローズがのり濃縮された生きる猛毒なのだ。
「………」
「飲めぬのか」
「!」
魚座の聖闘士になるために幼少期に家族すら捨てたのだ。
会いにゆくこともなく、15年もの間鍛えられてきた。
師は自分を信じてくれている、ならその期待に答えるのが弟子の努め。
「……ゴブッ」
血を吐きながらも、小宇宙を燃やしていく。
体中を毒が回り、ゆっくりとそして確かに蝕んでいく。
だが、アルバフィカは諦めない。
むしろ、自身の血で毒を自分に取り込んだ。
「…よく生き残った、お前は真に魚座の黄金聖闘士だ」
その日にアルバフィカは真に魚座の黄金聖闘士となった。
アルバフィカは紳士な男で有り続けた、私闘は行わず敵対者に与える容赦の無さもアルバフィカの名を広めるに十分だった。
「よぉ、アルバフィカ」
「……エローエか」
エローエ、アルバフィカと同じ20歳にして蟹座の黄金聖闘士である。
イタリア出身の彼はアルバフィカを目の敵にしていたが、その人性を知ってからは仲の良い親友であるのだ。
「何だよ……何時にもまして湿気た面してんなぁ」
「此度の任務でな………私のせいで無垢な民が」
「……お前が悪いんじゃない。責任は教皇にある、お前が任務に赴く危険性を知っていながら行かせたんだ。それに、お前が居なくちゃもっと人が死んでた」
「……だが」
「黄泉比良坂、連れてくか?」
「何を話せと?」
「はぁ……ったくよぉ」
アルバフィカはエローエに背を向けると双魚宮へと歩いていく。
「俺はな、親友の事が心配なんだぜ?」
披露と悲しさに包まれながら、エローエはソファに座りやすい静かに眠りについた。
アルバフィカは自身の双魚宮で花達に水をやっていた。
アルバフィカの精神を落ち着けるのは無垢な花達である。
花を愛でる男と、聖域においてアルバフィカを侮る者達もいたが、アルバフィカの行ってきた惨忍な戦い、教皇から処刑人としての信頼度などが広まっていくと何も言われなくなった。
「…ロイヤルデモンローズ」
教皇の間へとつながる階段に敷き詰められた毒薔薇。
それらを育て上げ、最後の砦とするのも魚座の任務だ。
アルバフィカの育て上げたロイヤルデモンローズはどの代のロイヤルデモンローズよりも美しく、まるで芸術品のように咲き来るものを魅了する。
だが、その者達もアルバフィカが共に居なければ例え黄金聖闘士と言えど、死は免れない。
何人もの雑兵が一目見ようと訪ね、死んでいったのだ。
「……お前達は気高いな」
アルバフィカはロイヤルデモンローズの水やりのついでに教皇の間へと向かう。
「戻ったか、アルバフィカ」
「……無垢な民が亡くなりました」
「………私の責に」
「私の毒で、師よ。何故私を行かせたのです!私は」
「……お前は強い、だがその代償を見たことはなかったな」
「何故……何故見せたのです!それなら、それならこの身体は」
「…アルバフィカよ、魚座の黄金聖闘士となった時点でお前のその身体は決まっているのだ。最後の修行だ、自らの毒の瘴気を操るのだ」
「…何を!」
「テレキネシスの応用だ、これを完全に覚えればアルバフィカ。お前は毒風すら操れるのだ」
「!」
「テレポーテーションは教えたな、これは最後だ」
ロイヤルデモンローズの咲き乱れる中で、アルバフィカは漂う瘴気に小宇宙を乗せる。
「そうだ、常に波打つ小宇宙を感じるのだ」
「………ローズリィミスト」
アルバフィカの周囲をロイヤルデモンローズの瘴気が包む。
「完成だ、アルバフィカ。お前が毒を完全に支配したのだ」
「こんな技があるなら、私は」
「……犠牲だよ、私も師に同じことを話した。私が殺してしまったから、二度と忘れない。そして、操るためにより鍛えるようになる」
「……ですが」
「これが魚座なのだ、魚座はその性質上。師と弟子の絆は深くなる、そして辛くとも、魚座の定めと受け入れよ」
「………はい」
そして、願いが生まれてしまった。
殺してしまった少女の蘇生。
アルバフィカは翌日、聖域から消えた。
「ここは……何処なのだ」
アルバフィカは眼の前で行われようとしている儀式が古くからある魔術のようなものだと理解した。
「貴様…何をしている」
「助けて!死にたくない!!」
「あ!金ピカの鎧なんか着やがって!そんなの」
「……クズめ」
アルバフィカはブラッディローズを投げる。
防ぐ物を持っていない男はそのまま心臓の真上に刺さった白薔薇を抜こうとする。
「何で………」
「ブラッディローズは自身では消して抜くことはできない、そしてお前の血を吸って白薔薇から赤薔薇へと変わっていく」
「待てよ!嫌だ!嫌だ!!死にたくな」
「……サーヴァント、アサシン。ジャック・ザ・リッパー」
「…………なんだと?」
アルバフィカは急に現れた少女、そして縛られている女性と共に近くの宿へと向かった。
「……あの、ありがとう。助けてくれて」
「無辜の民を救うのは聖闘士の」
「おかーさん!」
「えっと……え?」
アルバフィカの前で奇抜な格好の少女が女性にお母さんと言いながら抱きついている。
「貴女の娘だったのか?」
「違うの!あの、ジャック?話して、何がなんだか」
ジャックと呼ばれた少女は幼いながら、言葉を選んで話し始めた。
「聖杯戦争、ルーマニアか」
アルバフィカは考えた、魔術師という存在は古くから存在しており、また聖杯というものは聞く限りでは、あの聖杯ではない。
願望器などという別物であり、問題ないように感じる。
「………」
だが、目の前の二人を見ればそれは違うのではと思えてしまう。
ジャックは女性、六導玲霞をお母さんと呼び懐いている。
更に令呪という絶対命令権すら死んだ男から奪ったのだ。
そして、ジャックの願いは産まれてくること。
産まれることの出来なかった子ども達の怨念の集合体。
「おとーさん、ごはん」
「………ごはんとは?」
「…魔力、おかーさん、魔力たりなくて」
「……ジャック、私とも契約できるのか?」
「?」
「おとーさん?」
アルバフィカはジャックを静かに撫でながら小宇宙を燃やす。
そして、行きとし生きる者達への憎悪に等しい、感情。
そして、それ以上に愛されたいという悲しみが伝わってきた。
「アルバフィカさんが……輝いて」
「……あったかい」
「不思議だな、何かが繋がっている気がする」
「ごはん!たくさん!!」
「良かったね、ジャック」
「うん、おかーさん!」
微笑むジャックと玲霞。それは真に母子のようだ。
「……ジャック、玲霞。君達の願いを叶えるために協力しよう」
「おとーさん?」
「我が名は黄金聖闘士。魚座のアルバフィカ」
「……アルバフィカ」
黄金聖闘士は自らの願いの為、そして無辜の民の為に聖杯戦争へと参加した。
「おとーさん、おはよ!」
アルバフィカは常に財布を持ち歩いている。
流石に黄金聖闘士で生活するわけには行かない為、数少ない資金を使い服を購入した。(ゼロセイバーの様な黒スーツ)
「食事は出来ているらしい」
「…はい」
ジャックの服装も簡単な物を買っていたのだろう。
アルバフィカは荷物から女児服をジャックに手渡す。
「サイズはきついかもしれん、すまない」
「ううん!おとーさん!ありがとう!!」
アルバフィカの前で微笑む少女の中に救う闇をアルバフィカは垣間見た。
だからこそ、目の前の少女を戦わせるのではなく一人の少女として見ていたかった。
「ごはん、美味しかったよ!」
「そうね、アルバフィカは」
「……そうだな」
チェックアウトを済ませ、アルバフィカは聖衣箱を背負いながら人気のない路地裏に立つ。
「ここで良いな」
「おとーさん、何するの?」
「……テレポーテーションだ」
アルバフィカが念じると三人の姿は日本から消えた。
ルーマニア・トゥリファス
「凄い、一瞬で日本から」
「すごい!おとーさん!すごい!!」
笑って喜ぶ、ジャックを見ながらアルバフィカは拳を構える。
「何者だ」
「……私に気が付くとはな」
玲霞とジャックを守るようにアルバフィカは立ち塞がる。
「そのサーヴァント……黒のアサシンか」
「……話に聞いた聖杯大戦の参加者か?」
「私は赤のアーチャー」
赤のアーチャーと名乗った女は矢をアルバフィカに構えている。
「おとーさん?これは、おとーさんとおかーさんの敵?」
「…そうよ、ジャック。この女は」
「よせ!」
玲霞はジャックに命じ、赤のアーチャーを狙わせようとしたがそれをアルバフィカは止めた。
「…玲霞、お前はジャックに殺しをさせたいのか!」
「でも、アルバフィカ!」
「おとーさん、できるよ?私、できるよ?」
「ジャック、玲霞。お前達は戦わなくてよい。お前達は護られるべき存在だ。そして、私は守る側の人間だ」
玲霞の前でそう言い、静かに小宇宙をアルバフィカは高めている。
金色の輝きが、玲霞とジャックを守るように壁を作っている。
「その魂、高潔な精神。汝は何者だ」
「……地上の愛と平和を守る戦士」
「まさか!!」
「アテナの黄金聖闘士!魚座のアルバフィカ!!」
アルバフィカは自身の名を叫んだ、そして確かに退治する。
「…まさか、アテナの黄金聖闘士が相手とは。
ならば、私も名乗ろう。
アルテミスの加護を受けし狩人。アタランテ」
「……よもや、我等聖闘士と因縁のあるアルテミスの配下。
ならば、手加減の必要なし」
アテナとオリュンポスの神々との間では因縁たるものがある。
かつてのペガサスの聖闘士が行った神殺し、人のみでありながらエリュシオンへと趣き冥王ハーデスを討伐した、それによりアルテミスの天闘士との戦いが行われた。数多の聖闘士が倒され、5人のブロンズ聖闘士によって救われた。
「……負けられんのだ、私も黄金聖闘士なのだから!」
「征くぞ、アテナの黄金聖闘士!」
「喰らえ、ピラニアンローズ!」
黒薔薇がアルバフィカから放たれると、花弁はまるで刃の如くアタランテの肉体に迫る。
「くっ!」
矢を放つがそれ全てを撃ち消す事は叶わず、何枚かの花弁がサーヴァントである筈の彼女の肉体を傷つけた。
「…やはりな、サーヴァントは傷つけられないという話だったが……聖闘士の一撃ならば、倒すことは可能」
「やるな、魚座。しかし私は肉弾戦もできるぞ!」
アタランテは弓をまるで棒の様に扱い、凄まじい速度でアルバフィカの府所に入り込み叩きつけた。
「ぐばぁ!」
衝撃波すら巻き起こり、地面を抉りながらアルバフィカは吹き飛ばされる。
「舐めるな!ロイヤルデモンローズ!!」
「これは…毒薔薇!」
吹き飛ばされながら態勢を立て直し、凄まじい速度でロイヤルデモンローズをアタランテに投げ続ける。
「何時までも同じ土俵にいると思うな!聖闘士!!」
「!!!」
それは矢だった、凄まじい数の矢がアルバフィカの頭上から降り注がんとしている。
「これが英霊、これが…神話の狩人!」
「だが……我等黄金聖闘士の拳は光も越える拳!借りるぞ、リードル!!」
「なに!」
「ライトニング・ボルト!!!!!」
光速を越えた拳は全ての矢を撃ち落とし、
アタランテに驚愕を与える。
聖闘士の存在をアタランテは知ってはいたが、サーヴァントとなった自身の矢を全て撃ち落とされるとは思ってもみなかったのだ。
「……ぐっ」
だが……アルバフィカの太腿には1本の矢が深々と刺さっている。
「やはりな、例え聖闘士と言えど私の矢を全て弾くことは叶わなかったか」
「……だが、アタランテ。貴女の負けだ」
「なっ!」
アルバフィカはアタランテに気付かれる間もなく、ブラッディローズをその心臓に刺していたのだ。
「…ブラッディローズは貴女の血を吸い取り、死に至らしめる。そして、自身で抜くことはけして叶わない」
「ゴブッ」
「更に、我が身を流れる血はかのヒドラの血すら取り込んだ猛毒を越えし、激毒。その姿を見れば、サーヴァントに効くのもわかった」
「……魚座」
しかし、アルバフィカは自身で刺したブラッディローズをアタランテの心臓から引き抜いた。
「何故……だ」
「………見ているのだろう、赤のサーヴァントよ。
我が身の毒に特効薬など存在しないが、
貴様らのいう令呪なら救えるやもしれんぞ!」
「……まさか、気付かれているとはな仮面の聖闘士。
いや、アルバフィカ」
「……アタランテは此方を殺すつもりは無かったのだろう。
ジャックを見たあの瞳は慈愛の瞳であった」
「それで?俺になんのようだ」
「貴殿が何者かは知らない。
だが仲間ならアタランテを救って欲しい」
「……何でだ?お前は敵だろう」
「たしかに敵だ。
だが……アルテミスの加護を受けた者を殺してしまえば
アテナに何を言われるか、わからんのでね」
「へぇ……お前と次は戦ってみたいもんだな」
「覚悟せよ、英雄よ。我は、アテナの黄金聖闘士」
そう言い終わると、赤のサーヴァントはアタランテを戦車にのせ凄まじい速度で闇へと消えていった。
「おとーさん?」
「来てはいけない、まだ手当が終わっていない」
アルバフィカば自身の血を止めるために真央点を付いた。
「……アルバフィカ」
「大丈夫だ、玲霞。ジャック」
アルバフィカは二人の頭を優しく撫で、言葉を紡いだ。
「君達を、私の命に変えても護ろう」
アルバフィカ
出身地 日本 年齢20歳
髪色 紫
聖域の処刑人として教皇から聖域に仇なす者存在を狩ることを任務としている。
10人が見れば10人が女性と見間違えるほど美しい顔立ちをしており、かつて存在した黄金聖闘士、魚座のアルバフィカと同じようにその血までもが激毒である。
そのため、あまり人と触り合うことを良しとしていないが、根底には優しさと、情熱、勇気が存在している。
また、魚座という都合上、自身の血と薔薇が扱えない状況となった際の為に、仲間である黄金聖闘士の獅子座、牡羊座、水瓶座に師事を受けており、彼等の技もある程度なら扱える。
双魚宮で毒薔薇以外にも花や植物を育てており、彼等の言葉を聞くことがアルバフィカにとっての癒。
必殺技
ロイヤルデモンローズ
ピラニアンローズ
ブラッディローズ
クリムゾンソーン
――――――――(秘密)
ライトニング・ボルト
クリスタルウォール
ダイヤモンド・ダスト