「……重い」
空中庭園の中を歩きながら、
ジークは着ている黄金聖衣に対してそう呟く。
サーヴァントですら持ち上げるのが困難な装備を着ている、
だから重いなん言葉で済ませることでは無い。
「ホムンクルスじゃないんだ、君はもう人間なんだ。
ジークフリートとアルバフィカの2人に、
君は救われたんだよ」
「……酷な未来をと彼奴は言った。
だが、投げ出す事はできないだろう。
ジーク、お前もまた聖闘士になるべき存在なんだ」
「……あぁ」
ジークは既にただのホムンクルスではなかった。
いや、産まれた時から星座に定められた運命があった。
本来居ないはずのアルバフィカ、その精神的な弟子として
新たな聖闘士として生きることが運命だったのだ。
「……」
だからこそ、託された物の重さに怖気てしまうのだ。
仲間の為、世界の為、地上の為に命を散らしたアルバフィカ。
顔は見えなかったが、その小宇宙は悲しんでいた。
背負わせてしまったという悲しみ、家族を思う悲しみ。
怒りや憎しみという感情はなく、ただアルバフィカの
心の痛みが小宇宙に乗って伝わった。
「……」
「帰ろう、ここは敵の本拠地だ。
今は大丈夫だろうけど、長くはないよ」
「あぁ、ルーラー。お前はどうする」
「……私もご一緒させて下さい。既に貴方方は第3陣営。
聖杯大戦の枠組みから外れた方ですので」
ルール違反ではない。
だからこそライダーのグリフォンで共に地上に降りる。
「……どうなっている」
そこはユグドミレニアの所有するミレニア城塞。
それが巨大なゴーレムによって襲撃されていた。
「何故ですか!僕は……僕は先生のマスターで」
「私は既に赤のサーヴァント、
そして君は私のゴーレムの心臓なのだよ」
黒のキャスターたるアヴィケブロン。
それが彼のマスターであったロシュをゴーレムの核とし、
ミレニア城塞を攻撃していた。
迎撃しようとしたホムンクルス達はゴーレムに吸収され、
炉の一部となっていく。
おそらく、サーヴァントであろうと炉として動き続ける。
それが目の前のゴーレムだろう、
「また面倒な敵か」
「キャスター!裏切ったのか!」
「ライダーか、私はね。
自分の目的たるこのゴーレムの完成。
そして、その運用ができれば赤や黒等という陣営に
興味などないのだよ。赤の陣営のおかげで私はついぞ、
このゴーレムの完成に至った。いや、
最後のピースが足りていないか………」
アヴィケブロンはそう言いながら、
魚座を纏うジークへ視線を向ける。
「黄金聖衣を纏いしホムンクルス。
判るかい、黄金聖衣自体が神秘の塊だ。
神話の時代から存在し、神秘の消えたこの世界。
そこで、女神アテナと共に在る存在!
そして、私が炉にしようとしていたホムンクルスが
ソレを纏っている!これほど…これほど喜ばしい事はない!」
ゴーレムがジークに向けて拳を振り降ろす。
激しい衝撃と瓦礫がジークに当たるが、
その大部分のダメージは黄金聖衣が防いでくれる。
「直撃したと思ったのだが……流石だ。
世界の神秘そのものだ、聖衣の中でも最上位黄金聖衣。
そして、その黄金聖衣に選ばれた者!
アルバフィカを取り込めないのは残念だが………
くくくく」
「ジーク、避けるんだ!」
「なっ……」
まだジークは小宇宙を燃やすことができていない。
第七感たるセブンセンシズにも目覚めていない。
ただ、アルバフィカの劣化コピーに等しい。
いや、それ以下だ。魚座の黄金聖衣は重く、
自らの動きを阻害する。
そのせいで、まともに回避も行えない。
「はぁ!」
だが、大英雄がそこに居る。
ジークを護ろうと、バルムンクでゴーレムの拳を弾き飛ばす。
「ジークフリート!」
「ライダー、ジークを連れて離れろ。
此奴は俺が倒す」
「ほぉ……君、生きているな。
サーヴァントではなく魂がある」
ゴーレムという人造生物に精通している
アヴィケブロンだからこそ、一瞬にして理解する。
ジークフリートは生きている、サーヴァントではなく、
心臓が鼓動し熱く赤い血液が流れていると。
「見せてもらおうか……邪竜を殺した実力を」
「黙れ、友の為。彼らの為にも、
俺はお前を倒す」
ジークフリートに闘気が宿る。
それはジークフリートだけではない、
中にもう一人アルバフィカがいる為でもある。
「征くぞ、バルムンク」
光線ではない、振り下ろされるゴーレムの拳に
バルムンクの斬撃が距離が空いているにも関わらず、
届き粉砕する。
「衝撃派?いや、なんだ…何故だ?!」
「さぁな、できるのだから関係の無いことだ」
アヴィケブロンが驚くのは当たり前だ。
ジークフリートの振るったバルムンクには、
魔力が一切通っていない。
謎の力、謎の力によりゴーレムの腕が破壊された。
「破壊されても、直せばいい!
幸いにも、燃料はそこら中にいるのだから」
ゴーレムから触手のような物が辺り一面に飛んでいく。
それはホムンクルスだけではなく、
人間、サーヴァント分け隔てなくだ。
「……裏切り者には死を」
ケイローンが矢を射る。
音速を越えた矢が、ケイローンの心臓、霊格を
完全に破壊したはずだった。
「ふふっ……フハハハ」
「なっ……なぜ」
「簡単だよ、私の霊格はもうここにはない。
だが、その秘密を君達が知ることはない。
さぁ、ケテルマルクトの餌になるといい!」
「くっ……アーチャー、ライダー、足を崩せるか!?」
「無理を言う、ヘラクレスなら出来たでしょうが
私の弓はそこまでの強弓では…くっ!」
「駄目!何回か試してるけど、直ぐに……」
「わかっていないなぁ!
ケテルマルクトの素材はすべてだ!
瓦礫、大地、この地球が存在する限りあり続ける
私の…私の最高傑作!君達に勝ち筋はない!」
「ならば、一度に消し去れば」
「させると思うのか?」
「ぐっ……」
「ジークフリート!!」
タコの触腕の様に縦横無尽に動き回る触手。
それがジークフリートを餌にしようと走る。
宝具で消し去る事も考えたが、あまりにも時間がない。
「ピラニアン・スクリーマーッ!!!」
黄金の濁流から数多のピラニアがゴーレムの全てを
削りきらんと現れる。
「なっ………」
ジークはただ見ていただけではない。
まだ聖闘士としての勝手もわからない。
だからこそ、呼吸し意識を只管に高めていた。
それが聖闘士の一つ、小宇宙を高めることを繋がった。
だが、それでもやっと青銅聖闘士に届いた程度でしかない。
「くくっ……いやぁ、驚いた。
やはりアルバフィカに比べれば数段劣る。
その程度で、しゃがみ込むとは……さぁ、我がゴーレムの
礎となれ」
「くっ……」
ジークのピラニアン・スクリーマーは確かに命中した。
だが、それはアルバフィカが光の速さなのに対し、
音速程度にもなれていないもの。
だが、その一撃を放つ為に激しく消耗している。
ケテルマルクトが拳を振り下ろした瞬間、
鋭い金色の閃光が蹴りとなり、
ケテルマルクトの拳とその肉体を吹き飛ばした。
「はぁ……ったく、
彼奴の小宇宙を追いかけて教皇に転移して貰ったのに。
アルバフィカの黄金聖衣を身に纏うやつ、
数多の命を吸っている人造の怪物。
そして、極めつけはお前だ。
確実にアルバフィカの小宇宙を持ってるのに、
魂と見た目は別人と来てやがる」
「お前…お前は何者だ!」
そこにはアルバフィカの『完成された美』とは違う、
純粋に格好いいと思える青年が立っていた。
「……何者だ?俺からすればお前等のほうがだ。
生きてないな、テメェら死人だろ。黄泉比良坂から、
どうやってはい出て来やがった。ハーデスか?」
「貴方は………まさか…」
「俺の名はエローエ。イタリア出身の20歳のナンパ師。
とは、仮の姿。お見せしよう!来な……
キャンサァァァァァッ!!!!」
その声に呼応するように別の場所に居た彼女は感じ取った。
「ミレーヌ、この小宇宙は……この……」
「ふふっ……あぁ、師アタランテよ。
どうやら、世界の滅亡は真らしい……まったく……」
ルーマニアの大地に向けて、
天から金色の輝きが舞い降りる。
それは聖杯戦争によって引き起こされたものではない。
真に、神々の神秘によって起こされたもの。
「アテナが……再び動くとは」
舞い降りた光の中には金色の聖衣箱が輝く。
そして、その聖衣箱は一瞬にして開いていく。
まるで辺りが昼になったかのような輝き、
どんな英霊達だろうとそれに関与することは叶わない。
「黄泉比良坂、この世とあの世をつなぐ番人にして、
蟹座の黄金聖闘士。エローエだ!」