「さてと…亡霊共に話を聞くのは後だ!
女神アテナの名の下に。地上の愛と平和の為に。
蟹座のエローエ、貴様を黄泉比良坂へと叩き込む」
「何を!貴様の様な」
「……やっぱ止めた。クズも含めた、てめぇら全員だ!
喰らえや!積尸気冥界波っ!!」
これは蟹座の黄金聖闘士の共通技で、
螺旋状の小宇宙を死の燐光「積尸気」
に変換し相手に放つ技だ。
人差し指を突き立てた構えが特徴的。
喰らった敵は肉体と魂が分離される。または肉体ごと、
冥界の入り口「黄泉比良坂」に叩き込まれる。
基本的には「当たったら死ぬ」系の技であり、
相手の魂に干渉するという特性上、
神族にも有効な凄い必殺技である。
だが、当代の射手座の黄金聖闘士は何故か自力で帰還し、
アルバフィカとエローエを混乱させた。
「ぬっ…ぬぁぁぁぁぁあ」
そう、そして積尸気冥界波を放ったエローエを含め、
ホムンクルスだけでなく全てのサーヴァントが黄泉比良坂へ
と送られた。
「おい、おい…起きろって」
「ん……ここは」
ジークは魚座の黄金聖衣を揺らす衝撃で目覚める。
足げりされていたようだが、そんな激しくなく
何処となく優しさを感じさせる。
「起きたか……うし、立てや」
「え?…えっと」
「俺の名前はエローエ。さっきも言ったがな、
蟹座の黄金聖闘士なんだが……」
「エローエ、貴様。
俺が認めた少年を足げりするとは…」
「あっ…貴方は!」
「こうして会うのは初めてだな。
俺の名前はアルバフィカ。君の身に纏う魚座の黄金聖衣。
それの本来の持ち主だ」
スーツ姿の男性だが、その小宇宙をジークは知っている。
だが仲間達の話では既に肉体はジークフリートへ。
魂は消えたと聞かされていたのだ。
「こいつ、魂自体は肉体の奥底にあんだよ。
あの竜殺しの英雄を下ろすなんて……」
「そう言うがエローエ、俺にもしなければならん事が」
「アテナを動かす時点で駄目だろ。
てか、黄泉比良坂で何してた?
なんか見覚えのある毒薔薇の庭園ができてるんだが?」
「失礼な、毒薔薇ではなくロイヤルデモンローズの花園だ。
黄泉比良坂があまりにも殺風景だったのでな。
我が小宇宙からデモンローズを」
「あ~はいはい、お得意の花の魔法ね。
まったく、世界超えたと思ったら何してやがんだよ」
「……なんと言えば良いか。
そうだな、家族が出来た。妻…妻か、それと娘だ」
「……お得意の口説きか?」
「イタリア人のお前には負けるさ」
「言うねぇ…色男」
アルバフィカとエローエは共にど付き合いながらも笑い、
抱擁を交わしている。
だきあい、背中を叩きあう仲なのだろう。
友人を越え、まさに親友以上と言える。
「それで、他の仲間は何処だ?
聖女だけじゃない、ケイローンとジークフリート、
アストルフォにも挨拶を」
「マジかよ、ケイローンってあのケイローンか?!」
「あぁ、かのヘラクレスの師たるケイローン。
それだけじゃない、アタランテにアキレウスまで」
「アテナが降臨なされたと教皇が言ってたが、
十分にあり得るな。ここは神話の時代か?」
エローエはアルバフィカから出てくる名前に恐れを抱く。
それほど迄に、聖域にとって大きな名前なのだ。
「くっ…離れろ!離れろ!!」
「アレは…アヴィケブロンか。哀れだな」
アルバフィカの向けた視線の先を、
エローエとジークは見た。
それはホムンクルス達の怒りだろうか、
亡者達が逃れようとするアヴィケブロンの足を、腕を、身体を、
魔術で離されようと、何人もの亡者達が掴み、
引きずり込もうとしていたのである。
「嫌だ…消えたくない!私には!私には!!」
「お前みたいな、命を粗末にするカスに。
デスマスクも必要ねぇ」
「貴様…蟹座?!何をするつもりだ!寄せぇぇ」
「積尸気冥窮波」
「はっ……何を……嫌だ…嫌だ!嫌だぁぁぁ」
積尸気冥窮波は無数の霊魂を召喚して敵を拘束し、
黄泉比良坂の地中に埋め込み生きる事も死ぬ事も
できない状態に留める技である。
エローエはアヴィケブロンを襲う魂達を手助けしたのだ。
生きる事も死ぬ事も出来ないとは、
英霊の座に戻る事も叶わない。
いくら、今此処にいるのが分霊程度の存在だとしても、
少なくともキャスターアヴィケブロンという存在は、
金輪際現れることはないだろう。
「久し振りにゲス野郎を見たぜ。
魔術師とかいう奴等、殲滅した方が世界の為にならないか?」
「私もそう思うが、中には良いやつもいる。
それに、聖闘士だけで制圧してもよいが
どうせ、生き残りがゴキブリのように生えてくるぞ」
アルバフィカは手で顎をかいている。
エローエもそのとおりだと、頭をかいた。
「あ〜、そういやお前さん。仲間居なかったか?」
「そうだ、ルーラーにライダー!」
「……エローエ、貴様面倒くさくなって全て飲み込んだか?!」
「あっーうっせぇな!
そもそもホムンクルスやら亡霊やら、
俺等、蟹座からしたらアウトな魂があり過ぎる!
そこの小僧も、よく見たらホムンクルスじゃねぇか!
造られた命は駄目なんだよ!自然の摂理に反して」
「ホムンクルスも生きている一人の人間だ。
意思が抑え込まれているが、何れは」
「わあった!わかったから、此処で説法とかよせ!
ほら、魂の気配的にあっちにまとまってる!行くぞ」
「魂の気配って…どういう!?」
「蟹座…中でも彼奴は最も優秀でな。
魂の質、色、気配、其れ等を感じ取れる。次期教皇にも」
「誰がなるか!てめぇのジジイが現教皇だろうが!
お前がつげや!」
「巫山戯るな、馬鹿!
誰が聖域の花を管理していると思っているのだ!
これ以上仕事をふやしたくないわ!たわけ!」
「お前、聖闘士として終わってんだろ!」
アルバフィカとエローエは騒がしい。
皆の話のアルバフィカはクールで物静か。
しかし、激情を持つ熱き漢という話だったが、
今のアルバフィカは馬鹿をしている気の良い青年だ。
「くっ、ここはいったい!」
「ルーラー、足元に気をつけて!」
「くそ……斬っても斬っても……亡者め!!」
「落ち着きなさい!
しかし、こうもハーデスの力が強いとは」
叫び声のする方向に向かうと、
ジャンヌ、アストルフォ、ジークフリート、ケイローン
の4人が数名のホムンクルスを守りながら戦っている。
「待ってろ、今助け」
「お前達、避けろ!」
エローエが助けに入ろうとした瞬間、
金色の小宇宙が真後ろで爆発した。
それは黄金聖闘士においても、最強格の刺客。
聖闘士を殺す聖闘士。
数多の命を屠り、黄泉比良坂へと送った男の奥義。
「ピラニアン・スクリーマー」
ジークの放った物とは違う、
小宇宙の濁流を獲物めがけて荒れ狂うピラニア達が迫る。
だが、管理されたそれは仲間を傷つけず、
亡者達を只管に捕食し、無に帰す。
「アルバフィカ!!」
「アストルフォ、久しいな。元気そうで何よりだ。
ケイローン、ジャンヌ・ダルクも。
そして、ジークフリート。ありがとう」
「…友の頼みだからな。
それにお前の身体を使わせてもらっている」
「えぇ、偉大なる黄金聖闘士アルバフィカ。
貴方の行動は我が神にも」
「悲しいが、我が主神は一人。アテナのみだ。
それよりも、安全な場所に行こう」
「えぇ、ジーク君だけでなくそちらの御仁とも話してみたい」
アルバフィカは皆を扇動し、薔薇園へと誘った。
「ここは…」
「安心しろ、薔薇達には棘を降ろすよう話してある。
無闇矢鱈に摘まない限り、毒が身体を襲うことはない」
「これがデモンローズ、貴方の操る毒薔薇」
ジャンヌが驚きと感動の声を上げるが、
もう一人の黄金聖闘士の動きが止まったことで警戒する。
「偉大なる賢者ケイローン、私の名はエローエ。
蟹座の黄金聖闘士です」
「…何というか、こうされるのも久しいですね」
「ケイローン、我々は聖域に生きる者。
神話の時代に生きる貴方方に敬意を忘れた事はありません。
それが例え、私の許せぬ偽りの魂といえど」
「エローエ達、蟹座は送り人でもある。
聖闘士だけでなく、
災害や戦争で死んだ人間の魂をこの黄泉比良坂に案内し、
冥界へと送るのが仕事でもあるんだ」
「…そうですか。
そんな貴方からしたら確かに我々は許せないでしょう」
「許せないと言うか、
不敬を承知で話させていただきますと、
とっととあの世に帰りやがれ。
それができねぇなら今此処で送ってやる。
聖女ジャンヌ・ダルクもだ。死人なら死人らしく死ね。
と言うのが本音でしょうか」
「……口悪いね」
「いやぁ…その、下手に死人の魂を呼び出すとなると
魔術師達とやらは知らんと思いますがね、
ハーデスとの聖戦も控えてるんです。200数十年周期の聖戦。
それが近々来るのにこんな馬鹿げた事をしやがって」
「ハーデス、冥王ハーデスですか?!」
「えぇ、ジャンヌ・ダルク。
冥王はこの地上の世界を支配しようとしている。
俺達、聖闘士はそれを命懸けで守る。
わかるだろ、忙しいの。だからさっさと帰れ」
エローエは心底面倒くさそうに話す。
「それは申し訳ありません。
しかし私もできぬ理由が」
「言わせてもらうがな、
死人の願いより今を生きる者たちの未来だ。
俺がそれを守る邪魔をするというのなら、
俺は貴様らを倒す。アルバフィカ、お前はどっちに」
「落ち着け、エローエ。それは皆理解しているさ。
私は、彼等に付く。
ジーク以外にも成長を見てみたい聖闘士がいたのだ。
蠍座のミレーヌ、ミレーヌだ」
「その蠍座がどうしたんだよ」
「願いよりも、使命を。
人々の未来を、そしてそのサーヴァントたるアタランテ。
彼女に師事を受け、よる強くなった。
違う世界といえど、若き聖闘士の成長。
それを嬉しいと思う事は当たり前だ」
「……ジジ臭いぜ。まだ二十歳だろうが。
っぁ…たく、面倒くせぇ奴。おい、お前ら。俺の近くにいろよ。
アルバフィカ以外だが」
「え?なんでアルバフィカ以外なの?」
エローエにそう問うのはアストルフォだった。
アルバフィカとも再会し、共に帰れると思った矢先だ。
「アストルフォ、俺の肉体はジークフリートが使っている。
まだ、現世には戻れないんだ」
「そんな!じゃあアサシン達は」
「…済まないと、伝えて」
「……そんな」
悲しむアストルフォ。
だが、このイタリア人が悲しむ少女を許せない。
「ragazza、安心してくれ。
要はジークフリートに肉体をやれば良いんだ。
彼奴の身体を使ってんだからな」
「エローエ、貴様一体」
「お前に対抗して作ったんだよ。
俺も俺なりに奥義を研究してな。
娑婆無我」
仏教での、変化せずに一貫して存在する
「魂」や「本当の自分」を否定する『無我』。
この世は実体のある世界ではなく、縁によって生じては消える「仮の世(此岸)」とみなされる『娑婆』。
この技はエローエがオリジナルで開発した恐ろしい技である。
厳格ではなく、その大地にある力そのものを使い
己の分身たる存在を作り出す技である。
「此奴は本来なら、戦闘する力はない。
精々、遠方から動かす程度だ。でもな、
そこにその英雄様の魂が入れば別だ!」
「ぐっ……ぐおぉぉぉ」
娑婆無我がジークフリートに向かい歩くと、腕に触れた。
瞬間ジークフリートの魂が剥がれ娑婆無我に吸収される。
「俺は……一体」
「エローエ!やってくれたな!今私の身体は死ぬ間際だ!
だからジークフリートを降ろし!共に戦えていたんだぞ!
これでは私も死ぬ!!」
「任せろっての!喚くなよ!!娑婆陀婆陀」
娑婆陀婆陀、積尸気冥界波が黄泉比良坂に落とす技なら、
これは返す技。
皆が黄泉比良坂から現実に戻される。
そこに仮初だが、新たな肉体を得たジークフリート。
そして、元の肉体になり既にボロボロのアルバフィカ。
「ごほ……ごほ………」
「あ!アルバフィカ!!帰って!帰ってこれたんだね!!」
「くっ……うぅ……」
そう、その肉体はカルナと闘っていた時のもの。
さらにジークフリートを降ろした事で回復も間に合わず、
死に瀕している。
「エロー…エ……貴様……血がないのではない…
肉体が……ボロボロなんだぞ」
黄金聖衣越しに受けた物と、
アテナエクスクラメーションをたった一人で放つという非常識。
其れ等でボロボロなため、まともに動けない。
「…なんだよ、立てるだろ?
俺の知ってる魚座のアルバフィカはどんな時でも立ち上がって、
どんな敵にも立ち向かう」
「…そうだ…貴様に言われるまでもない!」
アルバフィカは怒りの小宇宙を燃やすと、立ち上がる。
脚がふらつこうが、視界が揺れようが関係ない。
立ち上がるのだ。
エローエに言われたからでもない、
仲間の為、そして我が子と妻に等しい女性に再び会うため。
「…死ぬ訳には…いかん!!」
「見てろ、この俺達の魚座!
此奴が、歴代最強の魚座と謳われる馬鹿野郎だ!」
「……凄い」
黄金の闘気がアルバフィカの周囲に立ち上がる。
それはまさに太陽が顕現したかのように温かく、
そして全てを照らしている。
「……見つけた。ジャック、玲霞」
アルバフィカは動いた。
ボロボロの身体だろうと関係ない。
小宇宙を燃やし、テレポーテーションを行う。
「……おとーさん?」
「ジャック?」
「……帰ってきた、この時何と言えば良いんだ」
「……ただいま…ただいまよ」
「そうか……二人とも、ただいま」
「お帰りなさい、アルバフィカ」
「お帰り!おとーさん!」
アルバフィカはその身体で2人を優しく抱き締める。
玲霞は約束を守っていた。
ジャックに殺しをさせなかった。
ジャックと共に生きていた。
「……帰ってきたが、戦いはまだ終わらない」
「そんな、アルバフィカ!もう聖杯戦争なんて」
「この世界の為でもある、それに私達のためにもなる」
「必ず戻るだから待っていて」
「嫌だ!一緒に行く!」
「もう、待つのは嫌よ。隣に立たせて」
「だが……」
アルバフィカは止めようとするが、
それを邪魔する声が響く。
「良いじゃねぇか。
お前さんと俺がいれば確実に守れる。
どんな敵からも、それこそ同じ黄金聖闘士からも」
「エローエ」
「守れるさ、お前の親友は歴代最高の蟹座だぜ?」
「ふっ…俺は歴代最強の魚座。
そうだな、俺とお前がいれば守れる」
「っと、よぉ。アルバフィカの嫁さんと娘ちゃん。
…うわぁ………娘ちゃんの魂って……」
「ジャックは生まれることのできなかった魂。
俺と玲霞にとって娘だ」
「そうかい、ならば俺とも名乗らないとな。
俺はお前さんのお父様の親友のエローエだ。
うりうりー」
「キャハハハ」
「エローエ、あまりジャックに」
「過保護かよ」
エローエは素でそう返す。
ジャックの左側にはアルバフィカ、右側に玲霞。
まるで本当の家族のようだ。
「…んで、聖杯戦争だっけ。
なんでも願いが叶うとか言うが」
「ジャックを私の子供にしたいの。
幸せに、優しさのある日常を生きて欲しい」
「…俺もだ、2人を保護し、
そのままとは俺の矜持が許さん。
これが終わり次第、玲霞に結婚を申し込もうかとも」
「……あっ、はいはい」
真剣なアルバフィカを茶化すことはせず、
静かに微笑む。
エローエも、親友の春はうれしいのだ。
「じゃあ、終わらせないとな」
「あぁ」
聖杯大戦は最終局面を迎える。
敵には強大な神の子カルナが控えている。
だがアルバフィカは笑う。家族と親友、仲間が居る。
世界のため、そして、ジャックの為に。
「そういえば、お前魚座の黄金聖衣どうすんだよ」
「……あっ」
エローエに指摘されるまで、
アルバフィカは相棒の黄金聖衣を記憶から抹消していた。