魚座の運命   作:影後

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英雄という存在

「おとーさん!このお花綺麗!」

 

「…ジャック、アルバフィカを困らせちゃ駄目よ」

 

「おかーさんにもあげる!」

 

聖杯戦争が行われるのは夜であり、昼は安全とはいかなくともマシである筈だとの玲霞の言葉により、アルバフィカは自身の心の癒やしの為にも花畑に来ていた。

管理されていない天然の花畑、シロツメクサの花畑。

ジャックは子供は宛らに花の冠を作り、頭に乗せている。

 

「………」

 

「おかーさん?」

 

「ジャック、アルバフィカをどう思う?」

 

玲霞達から離れ、一人風に髪をたなびかせている。

だが、その表情が玲霞には酷く辛く悲しそうに見えた。

 

「……おかーさん、おとーさんは優しいよ?」

 

「えぇ、そうね」

 

玲霞は思う、もし自分とジャックだけなら今頃どんなに手を汚して居ただろうかと。

人を殺す、自分を愛しお母さんと呼んでくれているジャックを人殺しの存在に落とそうとしていた。

それを止めてくれたのはアルバフィカだ。

 

「……おとーさん、これ!」

 

アルバフィカの頭に乗せられた歪ながら、頑張って作った冠。

アルバフィカにとって、それは苦しくもありがたいものだった。

 

「……」

 

微笑みながら、ジャックの頭を優しく撫でればアルバフィカに笑顔を向けてくれるジャック。

 

「……ジャック、玲霞、君達を護ろう。アテナの名の下に」

 

それはアルバフィカの誓い、理解しているのだ。

全てを守れるほど自分は強くないと、だが……それでもアルバフィカは懺悔の為にも守るのだ。

 

「………誰だ」

 

「貴様らは黒のアサシンとマスターだな、何故我々ユグドミレニアに合流せんのだ!」

 

サーヴァントだけでなく、数多の人間を引き連れ小太りの男が現れた。

アルバフィカは赤のサーヴァント達との出会いからサーヴァントの小宇宙を理解した、だからこそわかる。

小太りの男の背後にいる存在、騎士ぜんとした佇まいの男。

 

「私達は貴方達に協力する理由がないわ!」

 

「何を…極東の雇われ風情が」

 

「マスター!」

 

激しい衝撃波と共に小太りの男。いや、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアはその衝撃波の先にある美しき存在へと目を奪われた。

 

「何故……何故………ここに」

 

「……来い!魚座!」

 

聖衣箱が開き、太陽の如き輝きがあたりを照らす。

そして、アルバフィカの肉体に金色の鎧。黄金聖衣が纏われた。

 

「……アテナの黄金聖闘士」

 

「………彼女達は我が庇護下にある、その意味。わからないわけではあるまい」

 

「セイバー、剣を引け」

 

セイバーと呼ばれたサーヴァントは剣をしまう。

 

「まさか、黄金聖闘士がいらっしゃるとは……交渉しましょう。魚座。

私、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの名の下で二人を保護する。その代わり、聖杯大戦でどうか……黒の陣営として参戦して貰いたい」

 

ゴルドは心の底からの言葉を紡いだ、知っているのだ。

この輝きを、この自身の胸から迸る感情を。

幼き日に見た一人の聖闘士、金色の聖衣を纒った同じ魚座を。

 

「……私は魚座にかつて救われた、このゴルド。騙し騙される魔術の世界で生きてきたが、これだけは言える。このゴルド・ムジーク・ユグドミレニアは、魚座。貴方が参戦していただけるのなら、二人には戦わせん。これは、この契約は、アテナの名の下に」

 

ゴルドはその意味を理解している、もしそれを謀れば即座に目の前の存在。魚座は敵となるだろう、だが、それを知って尚、この言葉を紡いだのだ。

 

「……その言葉を違えし時、私はお前達を必ず殺す」

 

それはアルバフィカの側面、処刑人としての言葉だった。

黒のセイバーすらその殺気に危うく剣を抜こうとさえしてしまう。

 

「おとーさん、怖いよ」

 

「……行こう、玲霞。ジャック。ゴルド・ムジーク。貴殿の拠点まで案内していただきたい」

 

「うっ…うむ、ホムンクルス達よ。必ずや二人を守り抜け」

 

ゴルドはそう命令を行うと用意されていた馬車に2人を乗せた。

 

「…」

 

ホムンクルス達は馬車を守るように陣を組み、進む。

アルバフィカと黒のセイバーは馬車の荷台で〘もしも〙に備えている。

 

「……聞かせてくれ、聖闘士とは」

 

「アテナの守護者にして、地上を守る存在だ。冥王ハーデス、海王ポセイドン、月の女神アルテミス、数多の神々との戦いもあった。それこそ、北欧との戦いも」

 

「……それは」

 

「今は問題はないが、神闘士(ゴッドウォーリア)の存在は知っている」

 

「…神闘士」

 

黒のセイバーは何処か、その話を詳しく聞きたいと言った姿を見せていた。

 

「神闘士は北欧。神の国アスガルドにて主神オーディンに使える者達だ。神闘衣(ゴッドローブ)を身に纏い、北斗七星を守護星とし、その星の名を称号として持つ強者だ。オーディンの地上代行者、つまりは依代とアスガルドをまもる存在、彼等と我々の違いは1つ。我々は世界を守る」

 

「…すまない、なぜ聖闘士になったんだ」

 

「運命だったからだ、生まれたときから私は魚座になることを定めらていた。それこそ、運命のように」

 

黒のセイバーとアルバフィカの会話は意気揚々としたものではない二人とも戦士なのだ。

深く語ることはない、真に語り合える仲間となる時、それは黒のセイバーにとっては剣を。

アルバフィカにとっては拳をぶつけ合い、競い合った存在が真の友となるのだ。

 

馬車に揺られること1時間、アルバフィカ達はユグドミレニアの古城へと到着した。

ゴルドが連絡していたのだろうか、数多のホムンクルスが達、魔術師が出迎えのように立っている。

 

「………彼が」

 

「ケイローン、興味はあるの?」

 

「えぇ、私は射手座でもありますので」

 

アルバフィカ達の前には錚々たる顔触れが立っている。

姿形は違えど、彼等は紛うことなき、真の英雄達なのだ。

 

「よくぞ此黒の陣営へ、黒のアサシンのマスター、黒のアサシン、そして

……魚座の黄金聖闘士」

 

周りの空気が重く、そして殺気を帯びている。

 

「契約だ、ゴルド卿との。だが……」

 

「!」

 

「……ゴルド卿だけでない、貴様らが違えし時。私はお前達を滅ぼそう」

 

「その覇気、そして殺気、数多の死線を潜り抜けてきたか魚座よ」

 

最後尾より、黒き衣を身にまとう『王』が現れた。

だが、アルバフィカの仕える存在は唯一人、そのカリスマすら、アテナの御威光に比べればつまらないものだ。

 

「……我が名はブラド・シェペシュ」

 

「護国の鬼将である、ヴラド三世。アタランテといい、聖杯戦争とは恐ろしいものだな」

 

「ほぉ……サーヴァントと争ったか」

 

「……赤のアーチャーと言っていた。名はアタランテ、アルテミスの加護を受けし狩人だ」

 

「相手の陣営の真名を知っているとは……そして退ける。王よ、黄金聖闘士とはやはり」

 

「ダーニックよ、魚座は配下ではない。客将である、そして黒のアサシンを戦わせるなと言うたな」

 

ヴラド三世の前でアルバフィカは頷く。

 

「……良かろう、その代わり客将たる貴殿にも働いてもらうぞ」

 

「……無辜の民を殺すような事をしてみろ、その時は我が拳。必ずや、お前に」

 

「……ふっ、守護者よ。余が理解せんと思ったか?」

 

「いや、愚問だったな。ヴラド公よ」

 

アルバフィカはヴラド三世と握手をすると、問をかけられる。

 

「魚座の黄金聖闘士よ、名を教えて欲しい」

 

「アテナの黄金聖闘士、魚座のアルバフィカ」

 

ここで、ヴラド三世とアルバフィカは共に友好を結んだのだ。

そして、夕食の時間となるとサーヴァント達と共に食事を取っていた。

黒の陣営のマスターだけでなく、サーヴァント達も食事を取るのは団欒の為なのか。

 

「ねぇねぇ!君って格好いいよね!」

 

「……」

 

「何処の生まれなの!聖闘士ってどんな」

 

年若い少女も英雄なのだろうかと驚きつつも、その質問に答えるために思考を進める。

 

「……日本の生まれだ、だが……大半をギリシャ。聖域で過ごしている、祖国の記憶はない」

 

「……他には」

 

「………他にも」

 

食事が進まず、少女の質問に答えていく。

周りのサーヴァントは少女を止めるために動いてくれた。

 

「ライダー、彼は我々の違い生きている。食事が必要だ」

 

「あっ、ごめんね」

 

手慣れた手付きで、まるで貴族のように食事を行う姿は黒の陣営のマスター達も驚かせる。

 

「すみません」

 

「……どうかしたか」

 

「私はフィオレと言います。アルバフィカ、貴方は何故、此方の陣営に参加したのですか?赤の陣営に保護してもらえば」

 

「……赤の陣営と敵対したこと、そして赤のライダー。かの英雄と戦いたい。……ギリシャ神話の存在との戦いなら、私はより高みへ迎えるだろう。黄金聖闘士として…より高みへと」

 

「強くなるために」

 

「……力なくして、護ることなどできない」

 

「!」

 

「私はこの世界を愛している、だが…愛しているだけで護れない。愛と平和の為には、力がいるのだ」

 

誰もが息を呑むほどの威圧、そして黄金の闘気がアルバフィカの身体中から立ち昇っている。

 

「………私は聖杯という物を信用はしていない。だが、英雄と戦える。これこそ、今を変えることの出来る力となる筈だ」

 

アルバフィカは食事を終えていた、そして席から立ち上がるとホムンクルスに案内されながら客間へと送られた。

 

「……黄金聖闘士、そんなの虚仮威しに」

 

「……セレニケ、次にその様な言葉を発してみろ!このゴルド!全身全霊を持ってその生命を」

 

「落ち着け、ゴルド卿」

 

「………」

 

黒のサーヴァント達は驚きが隠せなかった、ゴルドはマスターの中でも尊大だが小心者という印象だった。

しかし、アルバフィカに向けられた言葉には激しく批判し、怒りをぶつけていた。

 

「…ふん」

 

ゴルドは一人立ち上がると、何処かへと歩いていった。

 

「ジャック、いきましょう」

 

「うん、おかーさん」

 

玲霞とジャックも黒の陣営と話すことなどない、むしろ玲霞は黒の陣営に殺されかけたのだ。

アルバフィカが居なければ、即座に見限っているだろう。

アルバフィカは自室にある窓から外の風景を見ていた。

 

「…アルバフィカ殿、部屋に」

 

「ゴルド卿か、何用だ」

 

「ルーラー、この聖杯戦争の裁定者のサーヴァントが召喚されたのです。どうか、彼女の保護の為にセイバーと共に出てもらえませんか」

 

「……わかった、貴殿は信用できる」

 

アルバフィカは聖衣箱を背負い、黒のセイバーと同じ速度で平原を駆けた。

車に乗るよりも、自身の足で進む方が速いからだ。

 

「アレがルーラー?そして……見る限り赤のランサーか」

 

「ぬぅぅ……まさか、本当にルーラーを狙うとは……赤の陣営は」

 

アルバフィカの隣で怒りを覚えているゴルド、やはり彼にも彼なりの誇りがあるようだ。

 

「やれ!セイバー!!」

 

赤のランサーの背中から黒のセイバーの一撃が見舞われるが、赤のランサーはその槍で防ぎ、さらなる黒のセイバーの斬撃を弾き飛ばした。

 

「お前は黒のセイバーか」

 

赤のランサーからの問に黒のセイバーは頷き返す。

 

「となれば、お前達の目的もルーラーか」

 

「危ないところでしたな、ルーラーよ。お迎えに上がりましたぞ」

 

アルバフィカは言葉を発する事なく、ゴルドの後方に立っている。

 

「黒のセイバーとそのマスターですね」

 

「いかにも、我が名は、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと申します」

「さて、赤のランサーよ!お前がルーラーを殺害しようとしたのを、我々は確かに見た!」

「聖杯戦争を司る英霊の抹殺を図るとは、究極のルール違反であろう!」

 

アルバフィカもそれは考えた、ルーラーを狙う必要はないのだ。

赤の陣営も黒の陣営も勝ち残った陣営はその後聖杯戦争を行う流れになっている。

この1件、ルーラーを襲う価値はない。

 

「否定はせん、だが黒の陣営が現れた以上…まずは貴様らだがな」

 

「黙れ!大人しく我がセイバーとルーラーの沙汰を受けるがいい!」

 

ゴルドはそう言いながらルーラーの方を向いたが、発せられた言葉はアルバフィカすら驚かせた。

 

「いいえ、」

 

「え?」

 

「貴方方がここで戦うというのなら、異存はありません。私が手を出すことはありませんので、ご安心を」

 

「馬鹿……なのか」

 

「アルバフィカ殿!」

 

アルバフィカの漏らした言葉にはゴルドと反応した、驚いたゴルドだがそれ以上に驚いているアルバフィカを見れば自然と治まる。

 

「まさか……自分の敵対者と支援者の決闘を見届ける?いや、そういうわけか。中立ではなく、そうアレと、聖杯戦争というシステムに入れられた人形、それがルーラーなのか」

 

「何方か存じませんが、赤のランサーが私の生命を狙うことと、黒のセイバーが赤のランサーと戦う事は、まったく別の案件です。私はルーラーとして、この戦いの規律を護る義務があります」

 

「俺を二人がかりで押し切ろうとでも、企んだか?俺は構わんぞ」

 

「ぐっ……ぐぬぬ、セイバー!アルバフィカ殿!」

 

「……セイバー、共に黒の陣営としてあるがお前はどうする」

 

「マスターの保護を頼む」

 

「………死ぬなよ」

 

黒のセイバーと赤のランサーは激しい攻撃を行いながら、破壊を続ける。

 

「ルーラーよ、何卒ご助力を!あの赤のランサー、いえカルナは貴女の生命を」

 

「……ゴルド卿、自身のサーヴァントが信頼できないのか?」

 

「アルバフィカ殿」

 

「黒のセイバーの真名は知らん、だがこれだけ言える。まだ、拳を合わせた訳では無い。だが、黒のセイバーはお前のサーヴァントだ。お前が呼び出した最高の騎士であろう!それを信じれない男なのか、貴殿は」

 

「……アルバフィカ殿」

 

「それに、ルーラーだったか」

 

「えぇ、何者ですか?貴方の纏う雰囲気のソレはまさに英雄の」

 

「……私物か?散らばっていたぞ」

 

「ありがとうございます!!」

 

アルバフィカはルーラーの荷物と思われる物を手渡した後、登り始めた太陽を見た。

 

「ゴルド卿、制限時間だ。私が止めてくる」

 

「……アルバフィカ殿」

 

アルバフィカは拳を構えた。その拳の周りに冷気が漂い、空気が凍てついていく。

 

「借りるぞ、カムイ。ダイヤモンド・ダスト!!!!」

 

「!」「これは」

 

赤のランサーと黒のセイバーとの間にまるで永久凍土の様な氷壁が生まれ、二人の動きが止まる。

 

「セイバー、日の出の時間だ。赤のランサーよ、聖杯戦争は夜であろう」

 

「……仕方あるまい、黒のセイバー。次の」

 

「わかっている」

 

「後、お前達………」

 

アルバフィカばダイヤモンド・ダストで凍てついた地面を指差す。

一箇所だけ凍っておらず、中には野鳥の巣があった。

 

「お前達にとって、その生命は護に値しないのかもしれん。だが、俺は不条理に奪われる生命はあってはならないと思っている」

 

「……その心象、真実だな。何時か、友として語り合ってみたいものだ」

 

赤のランサーはそういうと霊体化し、二人の前から消えた。

 

「すまない、アルバフィカ」

 

「……親鳥か」

 

アルバフィカの肩に野鳥の親鳥が止まり囀る。

 

「無事だ、あの木に巣を移そう」

 

アルバフィカは微笑んだ、そしてその笑みはその場の全てを魅了した。

 

 

 

 

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