「戻られましたか」
「あぁ、ケイローン殿。貴方の弟子と少しばかり話すこともありました」
「聖闘士よ、戻ったか」
「護国の将帥よ、私がいながらサーヴァントの一人も討ち取れなかったこと、謝罪する」
「……ほぉ、余には別の目的があったように見えたが」
「嘘はつけんか、1つ、俺はその選択を間違いだと思っている。家族でないからと、距離があれば問題ないと思っていたが………」
「どうやら違ったようだな、お主は」
「……そのようだ」
「おとーさん!おかーさん!」
「……ジャック?眠いの?」
アルバフィカの後ろで眠たそうにしているジャックとそれを抱きしめる玲霞、それをヴラド三世は何処か微笑ましそうに見ていた。
「聖闘士いや、アルバフィカよ。そなたは生きている、そして認めるのだ。そなたは父親である、妻と娘を持った父親なのだ」
「……あぁ」
ヴラド三世も親だったからわかるのだ、子を愛する気持ちが。
そして、親を愛する気持ちが。
「……次は容赦せん、ここからどうなるかはわからんがな」
アルバフィカはヴラド三世の前から離れると自室に戻り、予備の仮面を装着する。
「……アルバフィカ殿、いるか」
「ゴルド卿か、話は聞いた。セイバーが自害したらしいな」
「貴殿にはわかるのか?セイバーの行いが」
ゴルドの問にアルバフィカは話す。
「ゴルド卿、セイバーは……自分の意志で救ったのだよ。ゴルド卿、貴方からしたらサーヴァントは使い魔かもしれん。しかし、忘れてはいけない。彼等は過去の英雄、高潔な魂を有し、英雄と呼ばれた者達だ。だが、人間なのだよ。だから、起こす」
「…人間か」
「ゴルド卿、貴方の考え方、感じていることは間違いではない。セイバーのそれは貴方に対する裏切りだ。だが、理解しろとは言わない、だが認めてやってほしい。セイバーは自分の命すら捨て、一人の子を救ったのだから」
「……ゴルド卿、貴方の知る聖闘士を教えて欲しい」
「私は、幼き日美しい一人の聖闘士に救われた。アルバフィカ殿、貴方と同じ魚座の黄金聖闘士。名は……ミドラーシュ」
「………そうか、フフッ」
ミドラーシュ、その名を聞いたアルバフィカは感慨深そうに微笑み。
その名を何度も呼び続ける。
「知り合いか?」
「一方的に知っているだけだ、ゴルド卿。この話を私にしてくれたこと感謝する。ミドラーシュは私の兄弟子だ。兄弟子…だった」
「そうか……せめて、最後だけは知れないか?」
「……行方不明なのだ、魚座の黄金聖衣も教えてはくれん」
「……ありがとうと、伝えたかったのだがな」
ゴルドとの談話の翌日、事態が急変した。
円卓とはいかないが、中心に王であるヴラド三世を置き、サーヴァントとマスター、ヴラド三世に対面する様にアルバフィカが座っている。
王であるヴラド三世に対するのは烏滸がましいとアルバフィカは一度辞退したが、ヴラド三世自身が望んだことによりこの配置となった。
「聞かせて欲しいのだ、魔術師よ。貴殿等の考えである神秘の秘匿、それがありながらも、あの空中庭園は存在して良いものなのか。ましてや、夕暮れにあの様な物が現れたのだ」
「……はっきり言うわ、巫山戯てるわね。見られたら終わりよ、何人消せばよいのか」
「セレニケと言ったな、無垢な民の殺戮は聖闘士が許さんぞ」
「アルバフィカ、記憶消すよりも楽なの。あんなの、見られたら終わりよ」
黒の陣営のマスター達は同じ様に頷く、例え隠蔽の魔術が使えたとしてもそれを常時展開し続けるにはあの空中庭園は大きすぎる。
「……決着をつけるのかも知れない」
そう、口を開いたのはライダーだ。
英雄達もその言葉に頷き、言葉を繋げることはしない。
「……ならば、此処から先は我等英霊の戦場という訳か」
「待て、護国の将帥よ。あの場には赤のマスターも居るだろう。ならば戦力は一人でも多い方が良いだろう?」
「アルバフィカも来てくれるの?」
「当たり前だ。ゴルド卿との契約故に。黒の陣営を勝利に導く事が俺が参加した理由」
「おとーさん?」
「ジャック、お前はお母さんを守りなさい。いいね?」
「……帰ってきてね」
アルバフィカは笑顔を向けたまま、優しくジャックの頭を撫でた。
「そうだ、アルバフィカ!最後かもしれないんだ、その仮面を外して見せてよ!」
「ライダー」
「ね?良いでしょ?」
英霊達も何処かアルバフィカの素顔に興味があったのだろう。
アルバフィカは仮面を外し、その美貌を露にした。
「凄い………言葉が出ないや」
「美男子……いや……ライダーの言う通りか」
「えぇ、私の時代にも貴方ほどの美男子は居ませんよ」
「おとーさん、綺麗」
「おーー……」
「ふむ、左右対称、本来の人間ならあり得ない、ホムンクルスか?」
「キャスター、私はホムンクルスではない。ただ、言えることは……魚座の黄金聖闘士は聖闘士の中で最も美しいと言われる。それが女性、男性問わずな」
「納得だ」
英霊達も息を呑む美貌をもつ美男子、黒の陣営のマスター達は男性、女性問わずアルバフィカの視線に釘付けだった。
「…我が師曰く、魚座の黄金聖闘士の中でも私は魔性らしい。私の美貌はすべてを狂わせると言っていた。それを起こさないために仮面をつけている」
「……納得です、ゼウスなどはきっと貴方を男娼とでもしたでしょう」
「生憎だが、その方面は苦手でね。私は純粋に女性が好きさ」
「それは……なんとも、ここには数多の女性が居ますが」
アルバフィカは仮面をつけながら言い放つ。
「まぁ…最も平和という最高の女性はまだ手に入りそうにない。地上を狙う冥王ハーデス、倒せば……平和が訪れるのかな」
「なんとも………アテナの黄金聖闘士は大変ですね」
ケイローンは笑いながら言ったが、その場にいた英霊達は理解できた。
アルバフィカは本気でそういったのだ。神を…ケイローンの兄弟を倒すと。
「そうならない事を祈ります」
「……ええ、ケイローン。だが、目下はあの空中庭園の撃滅。そして、カルナとアキレウス、かの英傑二人を傷付けられるのは」
「貴方と……私しか居ない」
「…うむ、ケイローンよ。ソナタはアキレウスを抑えよ。そして、アルバフィカよ。できるか?」
「やるしかない。それに我等黄金聖闘士の聖衣は黄道十二星座であり、太陽の光を神話の時代から受けてきたもの。カルナが太陽神の息子であるなら、彼の……セイバーの変わりに相手するのは私しかあるまい」
アルバフィカは金色の闘気を立ち昇らせ、武人である英霊達はその姿にすら覚えた。『仲間で無ければ、一人の戦士として戦いたいと』
敵をアルバフィカと対峙できることを羨みながら、仲間にはこの様な戦士が居ると喜ぶ。
「客将ではなく、我が臣下に欲しいものだな」
「護国の将帥よ、時代が、主が違えば卿に仕えもしただろう。短い間だが、卿はそう思わせてくれる良い王だ。しかし、我が主は一人、我等聖闘士の主は女神、アテナ唯一人である」
「そうであったな、許せ。アルバフィカ」
ヴラド三世は微笑み、指を鳴らした。すると、全員の前にワインが入ったグラスが置かれる。
「さて……諸君、決戦は今夜となる。我等の勝利に」
「「「我等の勝利に」」」
ワインを飲み干し、会議は解散となった。
夜、ユグドミレニアの城の正面広場にて黒の陣営の英霊達が集まっていた。
「諸君、セイバーは消えた。だが、相手もバーサーカーを失った。我等と同じ戦力差である。そして、此方にはアルバフィカがいる。相手にも蠍座の黄金聖闘士が居るらしいが……さて、質問だ諸君。我等が負ける道理があるか?」
「無いね!勝てるさ」
「そうだ、我等は負けん。我々は勝利する、この戦…勝利せずして誰が英雄を名乗れるか!奴等は蛮族だ!我が領土を穢す愚か者だ。奴等を笑いながら屍に変えると良い」
ヴラド三世の言葉が終わる、英雄達は静かながも目には闘志を滾らせる。
「征くぞ!」
ヴラド三世とフランケンシュタインが先陣を駆ける。
アルバフィカはそれを追いかけるように駆け出した。
聖杯大戦の終幕は近い。