「馬鹿な事はよすんだ!僕を救おうなんて考えなくていい!逃げろ!逃げるんだ!」
「……ライダーは命の恩人だ。それを見捨てるなんて、俺には出来ない」
赤のセイバーとジークが打ち合いをしている。
剣術も無く、力もないジークは突き飛ばされ、ボロボロになっていく。
「馬鹿野郎!そうだ!僕の…僕の命が目当てなんだろ!なら、彼はジークを見逃して」
「…黒のライダー、セイバーは本気だ。それに、お前にも見えるだろう。あの者はそれでは止まらない」
数多の打ち合いが行われ、傷ついていく。
「なら……僕のやる事は一つだ。アタランテ、君を倒して赤のセイバーも倒す」
「来い、ライダー!」
サーヴァントが知名度補正を得られるならば、二人の知名度はこのルーマニアでは然程の物では無いだろう。
しかし、サーヴァントには神秘とマスターによる補正がかかる。
神秘、つまり時代だ。ライダーの真名はアストルフォ。
彼は、中世フランスの英雄であり、マスターは魔術師。
対して、赤のアーチャー真名はアタランテ。
彼女は神話の時代を生きた存在であり、ギリシャ神話史上最速と言われる女性である。それだけでなく、彼女は自分の力を、生前のほぼ同じ力を出せている。マスターは自分をよく知る存在かつ、アテナを守護する黄金聖闘士なのだ。勝てるわけがない。
だが、アストルフォはくじけない。
「はぁ!」
騎士として、ローランや仲間達に劣ると自認している。
事実、アストルフォのランスをアタランテはいともたやすく避けている。
「騎士としての気概はある。だが」
「ぐぁ……」
「ジーク!」
「余所見している暇があるのか」
「くっ…うわぁ!」
蹴り飛ばされ、血反吐をアストルフォは吐いている。
「でも……逃げない。僕の為に……アルバフィカは逝き、ジークが、剣を振るっている!なのに…僕が逃げられるわけがない!僕はアストルフォ!シャルルマーニュ十二勇士アストルフォだ!」
それはギリシャのパルテノン神殿を模したような建造物。
当たりには神秘が充満し、最奥は神聖な気配すら感じる。
「ここは……何処だ、何故、俺は此処に」
「セイバー…ジークフリート」
「…アルバフィカか。察するに俺を呼んだか」
花畑の中心で、男は薔薇を愛でていた。
金色の聖衣を身に纏い、儚げな雰囲気をその身に宿す。
「ここが何処か、だったな。ここはギリシャ、我等聖闘士の故郷であるサンクチュアリ。そして、女神(アテナ)が何れ目覚める場所だ。そして、サンクチュアリにある十二宮の一つ、双魚宮のここは庭園さ」
アルバフィカは酷く、眠たそうにしながらもジークフリートに向けて言葉を繋げる。
「アストルフォと、ジーク、君が救ったホムンクルスが戦っている」
ジークフリートの前に、ボロボロの二人が映し出されている。
既に死に体であり。立ち上がる事も難しいだろう。
「俺に……何を求める」
「友を、仲間を救ってくれないか」
「頼みか」
「あぁ、だが……捨ててくれても構わんさ」
ジークフリートは一瞬悩む仕草をしたが、頷いた。
「友の頼みだ、任せて欲しい。アルバフィカ」
「…そうか、あぁ………良かった」
「眠れ……友よ」
アルバフィカは花畑にしゃがみ込むと、疲れたように眠り始める。ジークフリートはその言葉だけを告げると花畑から外に出た。
「……望みではない。自分の意志で……今度こそ」
「ジーク!」
「く…ライダー」
赤のセイバーと赤のアーチャーの攻撃を何とか凌いでいた。
しかし、既に限界は近かった。
「……終わらせる、マスター。宝具使うぞ。アーチャー、てめぇとそのマスターも手を出すなよ」
「当たり前よ、赤のセイバー。私は、同じ黄金聖闘士の遺体をサンクチュアリへ、アテナの下へ送らねばならないのだから」
「……届かない……でも、諦めはしない」
ライダーがボロボロの身体に鞭を打ち立ち上がる。
「よせ、ライダー。お前は彼を、ジークを守っていろ」
「おいおい……どういう手品だ」
「ありえない…君は………君は死んで」
「…貴方は」
白き長髪をたなびかせ、呪われし鎧を纏った英雄。
死んでいた、消えたはずの存在が再びジークとアストルフォの前に立ち上がった。
「ありえん……黒のセイバー!貴様、どうして『生きている』!」
その中で、同じ聖闘士である彼女は、ミレーヌは見た。
「黄金聖衣が……地面に」
魚座の黄金聖衣は地面にてオブジェクトを形成していた。
だが、本来あるはずのアルバフィカの肉体はそこにはない。
そして、ある筈のない、自分が感じた事のない神聖な小宇宙が当たりに漂う。
「まさか……一人の人間の心が、神をも動かしたと言うのか!」
アタランテもその存在を知っている。
自身に加護を授けてくれたアルテミスの妹。
処女神にして、戦いの女神
「アテナよ、何故……何故、アルバフィカの魂を!肉体を!」
ミレーヌは叫ぶ、アルバフィカの肉体はもう無いのだと。
ジークフリートを降ろすには其れ相応の肉体が必要だった。
そして、彼を望んだのはアルバフィカ自身だ。
「俺は友の呼び声に応えてここに居る。アルバフィカ、お前の覚悟の為にも。だからこそ……」
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす!
――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」
激しい閃光が驚くばかりの赤の陣営へと迫った。
だが、それは目眩まし。光が晴れる頃には既に3人の姿は消えていた。
「どうする、マスター。追うか?」
「セイバー、気にするな。どうせ出てくる」
「アタランテ、私は……アルバフィカは神を」
「マスター、一度引くぞ」
赤の陣営も消え、その場には静寂が訪れた。
ヒポグリフに乗り、アストルフォ、ジーク、ジークフリートは月下の空を飛んでいた。
「……なんだよ………助けられてばかりじゃないか。なんで、僕等じゃなく今を生きる者が逝くんだよ。僕は……どう、アサシン達に話せば良いんだよ」
ユグドレミアの城、その一室でジャックと玲霞が休んでいた。
母親の様にジャックを抱きしめ、ジャックも実の母親に甘えるように笑っている。
「ジャック、玲霞、ただいま」
「アルバフィカ、おかえりなさい」
「…やだ…やだぁ……」
「ジャックどうしたの?」
だが、ジャックはアルバフィカの姿を見た瞬間大泣きを始める。
ジャックには既に怨念は無い、短いながら玲霞とアルバフィカの義理親から愛情を受け続けて来た。
だからこそわかる。
「ジャック、わがままは言わないでくれ」
「おとーさん…消えちゃう。おかーさん」
「消える?アルバフィカ、貴男は」
「玲霞、お願いだ。ジャックと共にルーラーを探してくれ。君は生きろ、ジャックと共に。必ず、ジャックを君の本当の子にする。ジャック、必ずお前は玲霞の子になる」
「駄目、おとーさん逝かないで」
「……済まない。ジャック、玲霞」
「待って……逝かないで。私にも、ジャックにも、貴男が」
「……優しさを、誰かを慈しむ心を忘れないでくれ」
アルバフィカは涙を流す二人を抱き締めると、まるで幽霊の様にその場から消える。残されたのは5本の赤い薔薇の花束。
薔薇は全てを通し『美』と『愛情』を示す。
そして、5本の花束であれば
「『あなたに会えて本当に良かった』……言葉で伝えなさいよ。……なんで………なんで」
「……おか…さん、おとーさんの約束守るよ。私、良い子にするよ。だから……おとーさん………」
「ジャック……生きましょう。私達が、私達が彼を、アルバフィカを忘れない為に」
「うん…おか…さん」
既に二人に戦う意思は無かった。
この晩、黒のアサシンとそのマスターがユグドミレニアの城から消えた。魔術師でもない一般人も、誰も見つけることは叶わなかった。