「ちっ……黒の陣営め。面倒な事を」
「しかし……サーヴァントよりも人間が強いとは」
「邪魔だ!」
現在、吸血鬼の掃討を行っている英雄達であるが、
数が集まった所で意味はない。
怪物だろうと、覚悟を決めた聖闘士。
世界を、地上を護ると決めた黄金聖闘士を止められる存在など、
この世界には居ないのだ。
「ミレーヌ、ペースを乱すな」
「……えぇ、アタランテ」
拳を放つミレーヌと矢を放つアタランテ。
それは通常のマスターとサーヴァントの関係ではない。
現代に蘇った神話の狩人と、その教えを受けて戦う戦士。
「私と貴方を思い出しますよ」
「敵同士じゃ無ければな!」
「今は休戦中です」
「スカーレット・ニィィイードル・クアドラァッ!」
4発のスカーレット・ニードルが吸血鬼達を灰燼に返す。
肉体が強化されたと言っても、聖闘士を拳を防ぐのは難しい。
貫通し、後ろにいる吸血鬼も太陽の力を受けて消えていく。
「…冗談じゃないぞ。お嬢の奴、この短期で」
「彼女に対しても、貴方は在り方を示したのですか。
アルバフィカ」
アキレウスすら驚くほどの成長。
アルバフィカという生命を散らした聖闘士と、
アタランテというパートナーであり、
先人にして師匠となった存在、二人に導かれたミレーヌは、
もはや今までの迷っていた少女ではない。
「……ここいらの吸血鬼は殲滅しました」
「ミレーヌ、まだ首領が残っているぞ」
「…わかっています」
吸血鬼達を全滅させ、黒の陣営を一瞥する。
「……そこの少年、」
ミレーヌはふと、ジークを見た。
「なんだ、蠍座」
「……何故、お前から魚座を感じるのだ」
「どういう……」
「判らないならばそれで良い、だが聞け。
恐らく、アルバフィカは知った。知っていた。
生き延びろ、そして聖域へ来い。そこに、貴様の運命がある」
ミレーヌはそれだけを告げると先へ進む。
その意味を理解しているのはギリシャの英雄でもアタランテのみ。
「来ないのか」
「戦うさ、当たり前だ」
彼等は進む、そして
「見るに堪えない……そこまでするか!」
ジークフリートはバルムンクを構えた。
そこにいるのはランサーだったヴラドではない。
アルバフィカが護国の将帥と讃えた存在ではない。
「セイバー、まさか……」
「俺が戦う、ライダーはジークを安全な」
その時だ、常に運命とは最悪なタイミングで動いてくる。
皆、忘れていたのだ。ライダーのマスター。セレニケが、
どのような女であり、どのような存在かを。
ここまで、ライダーを自由にさせておいたのは何故かを。
「ライダー、そのホムンクルスを殺しなさい」
「ヤメロオォォォォ」
ライダーの悲鳴を微笑み、光悦しながら聴き入る狂人。
セレニケは、ライダーのマスターはライダーを最悪な方面で愛していた。ライダーの整った顔が歪み、涙を流す様に激しく激情を感じ、その姿を支配している事に己の性欲、愛情を感じてしまうのだ。そして、魔術師として一流だった。
そう、研究対象を陵辱し、猟奇的にも感じるほどの愛。
本来なら、ジークを逃がしたという罪で罰を与えたかった所だが、邪魔者がいた。アルバフィカがいた。
サーヴァントすら倒しうる存在を敵に回す事など出来ないため、
心の奥底に沈めていたが、今そこには居ない。
だからこそ、最悪なタイミングで覚醒したのだ。
「?!」
ライダーの槍がジークに迫る。
しかし、それを防ぐ金色の輝きがその場に現れた。
「……まさか、君なのか、アルバフィカ」
それはアルバフィカがかつて、ジークに与えた1本の薔薇。
その薔薇から金色の光が溢れ、何かを呼び寄せようとしている。
「…ライダーのマスターめ」
だが、その場にはアルバフィカと同じ黄金聖闘士がいる。
しかも、今世界の為に戦おうとしている状態だ。
「……貴様の行い、許す事は出来ん」
「はえ?」
「スカーレットニードル・アンタレス」
それは普段の蠍座のスカーレットニードルではない。
死か降伏かの、選択すらなく行われる処刑。
アンタレスによって心臓を貫かれ、無様に死んでいく。
「あっ……」
「丁度良いだろ、そこにホムンクルスがいる。
ライダーのマスターに推薦する」
「赤のアーチャーのマスター。それは」
「アレを倒すのに戦力は必要だ。それに……
同胞だからな」
ミレーヌは金色に輝く鎧を身に纏い、
戸惑い続けるジークを見る。
アルバフィカと同じ魚座の黄金聖闘士。
「……凄い!凄いよジーク!!」
「ライダー……そうだ、パスを」
ルーラーの下で、ジークとライダーは制式に主従関係となる。
令呪はジークの元へ。邪魔をする者はおらず、ましてや、
ミレーヌがジークを守るように立つ。
「……ジークと言ったな。貴様は魚座に選ばれた。
選ばれたなら、巫山戯た事はしない事だ」
ミレーヌは既に覚悟が決まっている。
それをジークに押し付けはしないが、猶予が少ないことを示す。
「黒のランサー……そして、そのマスター。
貴様は世界を脅かす存在。地上の愛と平和の為、
蠍座のミレーヌが、引導を渡してやろう」
「聖闘士如きが……私を」
吸血鬼の腕が溶けた。人であり、吸血鬼であり、魔物である。
それは、ミレーヌの光速の蹴りによって塵になる。
「偉大なるアテナ、そして私に道を示したアルバフィカ。
私は、アテナの黄金聖闘士。蠍座のミレーヌだ!!」
ミレーヌの小宇宙が大きく上がる。
黄金聖衣を纏っているだけのジークにも、
その変化は感じられた。
「受けてみろ、スカーレット・ニードル」
瞬く間に14発のスカーレット・ニードルが放たれる。
そこにはスカーレット・ニードル特有の慈悲がない。
明確に殺すという意思と拷問が合わさった苦しみ。
それしか無い。
ドス黒い汚らしい血液が魔物から溢れ出す。
だが、その血もミレーヌの高まった小宇宙に当てられ、
瞬時に浄化され血煙へと消えていく。
「……アルバフィカが讃えたという英雄。
一度、会ってみたかったものだ」
そして、ミレーヌは心臓へ最後の
スカーレット・ニードル・アンタレスを撃ち込んだ。
「が………きさ…ま………」
「消えろ、歴史の闇へと」
ミレーヌがマントを翻し、英雄達の元へと戻る。
魔獣はきえた、ミレーヌは黄金聖闘士としての役目を
果たしたのだ。
「……ランサー」
そして、黒のランサーの所持していた槍が
地面に突き刺さっている。
消えてもおかしくない物が何故残っているのかは判らない。
だが、その槍は確かにそこにある。
「魚座、その槍に祈りを捧げてやれ」
「えっ…あぁ……」
ジークがその槍の前に近づくと、
勝手に魚座の黄金聖衣が外れ空中に浮かぶ。
そこに肉体はありはしない筈だ。
しかし黒い人型の何かが魚座の黄金聖衣を纏い、
ランサーの槍の前に跪いた。
それは中世の騎士が主君に仕えるかのよに洗練され、
ランサーの残滓とも言える人型を生み出す。
「……余は、お前と客将と共に歩めた事、
この世に生を受けて偉大なる英霊と覇を争えた事、
そこに不満はない」
ランサーの残滓に対し、人型は話さない。
頭を垂れ、礼節を重んじる姿にランサーは微笑む。
「……アルバフィカ、ソナタが余のマスターで有れば、
きっと、我々に勝利の女神は微笑んだ事だろう。
さらば、現代の……戦友よ」
ランサーは槍を魚座の肩に当てると完全に消滅した。
そして、ゆっくりと、立ち上がりジークの前に立つ。
「貴方が……アルバフィカ」
魚座は頷き、マスクで顔が見えない中で周囲を見渡した。
アキレウス、アタランテ、ケイローン、ジークフリート、
カルナ、アストルフォ、ジャンヌ・ダルク、そしてミレーヌ。
「……アルバフィカ」
「ミレーヌ、アテナを…世界を頼む。
そして、ジーク」
「…はい」
「君には、酷な事をしただろう。
新たな魚座よ、受け取れ俺の小宇宙を」
アルバフィカが消え、
再びジークに魚座の黄金聖衣が装着される。
「……ピラニアン・スクリーマー」
それはアルバフィカの編み出した技、
それをジークは放って見せたのだ。
「……新たな聖闘士」
「共闘は終わりだ。
今はアルバフィカに免じ見逃そう。
新たな魚座よ、お前は願いを求めるか?
もしそうなら、その時。私のスカーレット・ニードルで、
引導を渡してやろう」
ミレーヌは兜を被り、
マントを翻しアタランテと共に闇に消えた。
「……1回別れようぜ。共闘して、終わりました。
だから、殺し合い再開します。ちょっと怠い」
アキレウスも闇に消え、
それに納得した赤の陣営は続々と闇の中に消えていく。
「黒の陣営はどうしますか?」
「とりあえず、一息つかせてほしい」
ジークはその場に座り込んだ。