いつも隣に戸山さん   作:斉藤努

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おセンチになっていつもと違うことなんぞしないほうがいい

 学校での生活は疲れる。仮面を被っているような息苦しさ。他人に本当の自分を隠していることに対する罪悪感。それらが俺の学校を居づらい場所へと変えている。

 別にクラスの中で浮いてる訳じゃない。男子も女子も気兼ねなく喋ることはあるし、お昼ご飯もいつも誰かしらと食べている。だけど、物語の中にあるような腹の中を割って話せるような仲間はいない。だから今こうして独りで自転車を押している。漕いでいないのはセンチメンタルな気分になってしまったから少しこの気分に酔うためだ。このまま飛んでいけないかな、どこか知らないところに行きたい。誰も何も知らない場所。

 現実逃避、これはただの現実逃避。そう思い込まないと本当に現実を忘れるために動いてしまいそうだ。

 俺の心を現実に戻してくれたのは突如横から現れたなにかにぶつかった衝撃だった。……痛い。

 

「わぁ! あの、すみません! 大丈夫ですか? あっ、ケガ! お怪我ないですかっ!?」

 

 聞いたらいつでも元気になれそうな声。今はうるさくてしょうがない。

 

「歩いてただけなんで大丈夫で……ッ!」

 

 香澄だった。今朝ですら辛かったのにこの所業とは、余程何かに嫌われているらしい。あっちは興奮でそれどころではないみたいだ。今のうちに逃げてしまおう。そうでなければきっともっと心が苦しくなる。

 

「あの、大丈夫なので。怪我も何もないので。お互い徒歩ですから。さようなら!」

 

 半ば強引に話を終わらせた。早く帰るか? それとも香澄が帰ったのを後ろから確認してから家に入るか? 俺の頭にはもうあとのことしかなかった。だからだ。無駄な時間が出来てしまった。その時間があれば人の顔を見るなんて容易い。だって、香澄は人の目を見て話すタイプの人間なのだから。

 

「もしかして、蒼くん?」

 

 やっぱり。でも、平然と。

 

「人違いでは? よくどこにでもいそうな顔って言われますから」

「だって声も顔も背丈はちょっと違うけど蒼くんだもん!」

「違いますから! 帰ってもいいですか?」

「ダメ! 蒼くん帰ったらまた会えなくなっちゃうでしょ。だって私の事避けてるもん」

 

 この香澄め。本当に人違いだったらどうするんだよ。こうなった香澄はてこでも動かん。こちらが折れる他ない。

 

「香澄、久しぶり。それと、ごめんなさい。帰り? それなら一緒に帰ろう?」

 

「実はまだ帰らないんだけど……蒼くん! 着いてきて」

 

 要件を言わずに歩いていく香澄。今更説明を求めても香澄から何か言ってくれることはないだろう。ついて行くしかない。

 しばらく歩いていると立派な門の前で香澄は止まった。

 

「ここだよ! 自転車中に入れて、さぁさぁ」

「他人の家だろ? あと自転車入れられるようなかんじでもないぞ!?」

「いいから! あとから許可取ればいいんだよ」

 

 もういいや、疲れた。怒られたら後で謝ろう。てか本当に大丈夫なんだろうか。こんな立派なお家に住まわれてるってことは……。あまり考えないことにした。

 

「そういえば香澄が背中に背負ってるのって楽器だよな。バンドでも始めたの? それともソロでやっててここはパトロンの家?」

「ぱ、パトロン? 警察のお世話にはなってないよ! でもバンドはやってる」

「行儀よくやってるならよし。ならメンバーさんはどこにいるんだ?」

「蔵だよ!」

 

 そう言って香澄は蔵を指さす。蔵ァ? いや場所狭くない? 音もめちゃくちゃ漏れるだろ。とは思ったものの楽器の音どころか話し声すら聞こえない。戸惑っている俺なんか気にしないで俺の手を掴んだ香澄はまた歩き出した。

 

 

 §

 

 

 蔵の中に入ると奥の方が少し明るい。地下の方に空間があるみたいだ。香澄に少し待っててと言われたので変なものに触れないようにじっとしていた。しばらくすると大きな声で来ていいよ〜! と呼ばれた。

 初めての場所なので迎えに来て欲しかったのだが来いと言われた手前行くしかない。

 階段を降りていくと女の子の部屋っぽい可愛い感じの家具といくつかの楽器が置かれていた。

 

「あっ、きたきた! こちら蒼くんでーす」

「加藤蒼太って言います。すみません、香澄に連れてこられました」

 警戒心バチバチの人と同情するような目をしている二人。どうすればいいんだろうか。

 茶髪のポニーテールの子が気を利かせて自己紹介をしてくれた続く二人。一人目は問題なく終わったのだが……。

「市ヶ谷有咲です。加藤さんのこと香澄さんからたくさん聞いてますよ」

 牛込さんとは違う感じでよそよそしい。嫌いなヤツにする態度だ。

「もぉ、ありさ? なんで猫被ってるの? 蒼くん来て緊張してる? 確かにイケメンだもんねぇ」

「おいっ、香澄! 抱きつくな! あっ、やっちまった」

 

 ……気まずい。市ヶ谷さんはその場でしゃがみ込んだ。香澄を見ても何処吹く風といった様子。

 

「あの〜、市ヶ谷さん? 香澄に連れてこられとはいえ急に来て済まなかった。市ヶ谷さんは悪くないと思う。でも良かったら香澄達と同じように接してくれない?」

「あー、もうわかったよ! あの、蒼太、その『市ヶ谷さん』ってのキモチワリーから有咲ってよべ!」

「うん。わかった。よろしくね、有咲。それにりみと沙綾」

 

 本当はもう一人いるんだけどね。と付け加える沙綾。話を聞く限りその子も香澄同様人を引っ張り回す性格のようで三人は苦労しているんだろうなと同情する。

 

「蒼くん、私達の演奏聞いていって。一人少ないんだけどね」

 

 香澄はほかのメンバーにアイコンタクトを送ると各々は楽器を持ち定位置に着いた。

 香澄の歌っている姿を久しぶりに見た。あの時からあまり変わらずにそのままと言った感じで。涙が出そうなのを上を向いて堪える。曲が終わる。でも音が、香澄の声が、耳の中に残って出ていかない。しばらく棒立ちで呆けることしかできなかった。




いかがだったでしょうか。グイグイ先に進む香澄とゆっくりと進む主人公。そしてそれを後ろから眺める明日香。3人の距離感はこんな感じなのかなぁと思いながら書いています。
皆さんは香澄と明日香どっちが好きか知りたいのでアンケートを作りました。前話のあとがきでも言いましたが、私は明日香が好きです。
それではまたどこかの作品で。

どちらが好き?

  • グイグイ甘えてくる系の香澄
  • お姉ちゃんと貴方だけには甘々系の明日香
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