制服も着替えずにソファに腰を降ろす。今まで忘れていた疲れがどっと出てきた。これから色々やらなきゃいけないのに足が動かない。……今日は洗い物もやってないんだった。今日はいっか、たまにはこういう日があってもいいよな。今日は…………疲れ、た……
「おっじゃまっしまーす!」
おいおい、やめてくれ。
「ちょっとお姉ちゃん、急に行くのは失礼だって! ごめんね、蒼にい。止めたんだけど行くって止まんなくて。すぐ帰るからね、ごめん!」
「いいよ、明日休みだしさ。久しぶり泊まってったら?」
何言ってんだ、俺。疲れてんだって。明日休みだからもうゆっくり休みたいんだろうが。
「そのつもりで色々持ってきた! あっちゃんのもあるよ」
「香澄らしいな。二人とも夜は食べたの? まだならなんか作るよ」
「まだだけど、そういえばおばさんはどうしたの?」
「ああ、そっか。葬式、二人は来てなかったもんな。去年旅先でね。毎年行ってたの知ってるっしょ」
急に空気が重くなる。別に同情が欲しくて話したんじゃない。じゃあなんでこんな言い方したんだろうか。
「そうだったんだ……そうとは知らず、お姉ちゃんもわたしも気を遣わないで色々しちゃってごめんね」
「別に大丈夫だよ。じゃあご飯にしようか。カレーでいい? そのつもりで色々買ってるからさ」
「ありがとう、わたし手伝うよ」
断ろうとしたが、無言の圧力に屈して明日香と一緒に料理をすることになった。香澄は色々なところを駆け回っている。猫かよ。
「本当にごめんね。おばさんとおじさんのこと知ってたらもっと気を使えたのに……。朝も言ったんだけどわたしは本気で蒼にいのこと支えたいと思ってるからね」
「明日香には言ってもいいかなとは思ってたんだけどさ。なんかタイミング合わなくて。それとそこまで慕ってくれてるのは嬉しいよ」
「じゃあ早速なにかありますか?」
「今は無いかな。でも謝りたいことはある」
「そんな、ないと思うけど」
「あるよ。昔から明日香のことちゃんと見れてなかったなって。香澄ばっかり相手にしてたり、香澄とのケンカの仲裁させちゃったりさ」
中学に入った頃から抱いていた明日香への罪悪感。香澄の話をすると少し顔が歪む明日香を見ないふりをしていた。ちょっとした口喧嘩から口を聞かない程の大喧嘩も仲立ちしてくれていたのは明日香だった。明日香が俺に普通ではない感情を向けていることに気がついているのにも関わらず。明日香は我慢強かったり香澄より落ち着いてるからって深く手を伸ばすことも話を聞いてやるのも少なかった。
他人だからそんなもん? 俺の中じゃそれだけでは納得できなかった。兄のように接してきたからこそ、そこには責任が着いてくるものだと。そう思い込んできたのだ。
「そんなこと、気にしてないよ。お姉ちゃんの方が騒がしくておっかないから手を焼いちゃうのは仕方ないし、二人の間に入って喧嘩を止めるのだって二人に仲直りしてほしいからだし、嫌だったらそんな事しないよ! それにそんな理由で避けられてた方が悲しいし悔しい!」
今にも泣き出してしまいそうな顔。明日香には珍しく感情を露わにして、声を張っていた。潤んだ目に上目遣い。何かを求めるような眼は俺の胸を貫いた。
そして、体が動いていた。明日香の近くへ歩み寄り、何も言わずに抱擁する。何も分からないけどこれが正解だと思う。
「ずるいよぉ。蒼にいに会えなくて寂しかった。朝避けてるって聞いて苦しかった。なのに、こんなの許しちゃうしかないじゃん!」
胸板に何度も頭を擦られる。深く、甘えるように。深く、愛するように。それをただただ黙って受け入れることしかできなかった。
どちらが好き?
-
グイグイ甘えてくる系の香澄
-
お姉ちゃんと貴方だけには甘々系の明日香