真に守り抜く 作:しんぴのまもり
「どういうこと? 昇級をしないって」
「……あー、そういうことね。 これはちょっとマスターには分かりづらい感覚かもね」
「本体と違って物分かりが良い式神ね」
どうやら僕には分からず2人には分かることがあるらしい。
僕に多少常識が欠けているのはなんとなく分かっていたし、ここはとりあえず説明を聴いてみようかな。
「えーと、まず、死への恐怖はマスターにも分かるよね?」
「そりゃあそうだよ。 死への恐怖は誰にだって、それこそ師匠にもあるんじゃ無いかな」
「分かってくれて良かったよ。 じゃあ…そうだね、例えば自分が一級術師の実力を得られる代わりに10%の確率で死ぬかもしれないなら、マスターはどうする?」
……? まあそれなら……
「一級術師の実力を得る方かな。 確率が10%しかない上に万が一失敗しても周りに迷惑は掛からない。すごく分の良い賭けじゃないか」
「そこだよ、マスターと真依ちゃんの違うところは。 真依ちゃんはどれだけ分がよかろうが悪かろうが死ぬ可能性があるのなら、それは絶対に選びたくない択なんだよ。 呪術師では割と珍しく死生観がバグってないタイプだね」
「……つまり、三級術師になってより強い呪霊と当たるのを避けたいということであってる? そういうことなら上手く誤魔化してみるけど…」
確かにそれは僕には納得しがたいことではあるが、真依さんが昇級したく無いと言うのならやはり本人の意思を尊重すべきだろう。
「話が早くて助かるわ。 ……やっぱり、普段の貴方はとてもあいつらと似つかわしくないわね」
あいつら……ああ、禪院家の人達のことか。
「当たり前だよ。 僕は確かに禪院家に生まれたけど、そこから10年以上師匠の家で生活していたし、ミクの教えだってあったんだ。 これで禪院家の人達と考え方が全く同じになるわけがないよ」
「……そう」
その答えを聞いた真依さんは、どこか浮かない顔をしていた。
◇◇◇◇◇◇
屋敷の探索はその広さとは裏腹に、十分程度で終わりが見え始めていた。
「この2階の書庫室で最後だね。 ミク、もう一度あれを頼む」
「オッケー、任せといて」
そういうとミクは書庫室のドアをすり抜け、呪霊の索敵を行う。 ミクは何物にも危害を加えられないが、それ故に何にもミクを阻むことはできないのだ。 この性質を使うことで僕たちはドアの向こうから呪霊の数も級も完璧に把握してから祓いに向かえていた。
ミクは何も僕にバフを与えてくれるだけの存在じゃない。 ミクの1番の特徴、それは完璧に意思疎通が可能な自我を持つ式神だということなのだ。
ミクは数秒した後に戻って
「三級2体と四級3体。 後蠅頭が5体いるね」
と伝えてくれる。
「じゃあこれで終わりだな」
もう真依さんの実力は十分見せて貰った。 後は時短のために僕が祓うとしよう。
ドアをガチャリと開け、二宮丸で呪霊の頭を一匹残らず両断する。
「ア゛ッ」
「これで全匹祓い終えれたかな。 間取りに少し気になるところはあったけど、一応全ての部屋の調査は終わったから一旦新田さんに報告しにいこう。 あ、昇級の件も不合格にさせておくから安心してね」
その言葉を聞くと、真依さんは何かを決意したかのような顔をし、目をしっかりと合わせて、話しかけてきた。
「そう、……話は変わるけれど、貴方は今、最もやり遂げたいことを考えているのよね?」
「私、それが何か、なんとなく分かるわよ」