真に守り抜く 作:しんぴのまもり
次からは2話ぐらいにまとめたいところ
私の問いに対して、二宮は想像よりも遥かに長く考えこんだ。
正直に言って、すぐに禪院家を選ぶと予想していた。 初対面の時の二宮は善人ではあるが、幼い頃の大事な記憶を捨てられる程心の強い存在では無いと、そんな印象があった。 なのにここまで悩むという事は、どうやら二宮は私達のことを想像以上に買っていたようだ。 …とはいっても最終的にどちらを選ぶかはまだ決まっていない、あくまでも今の二宮は懊悩しているだけなのだから。
……なら、ここで口を出せば、揺れている二宮は間違いなくこちらについてくれるのではないか。 そんな考えが首をもたげる。
そうだ、
「ねえ、二宮……っ!?」
その時だった。 前触れすらなく
十数秒ほどで底まで落ちたのか、真依は腰を強かに打ちつつもなんとか立ち上がることに成功した。
「痛っ……何よ一体…この屋敷に地下があるなんて聞いてないわよ。 しかもさっきの感触は………っ!」
だが、起き上がった先に見えたのはひたすらに絶望的な光景だった。 これでもかとばかりの蠅頭を始めとする低級呪霊の群れ、群れ、群れ。 それを見て真依は怖気と死への恐怖が全身に駆け巡ると同時にこの館の本質を漸く理解した。
(この館そのものが呪霊と一心同体の特級呪物! 館の中は幾つかの縛りによって生み出された呪物の中の生得領域そのもので屋敷の構図も自由自在! 自殺した人がきっかけとなり呪霊が生まれたのではなく、呪物とそれに集まった呪霊から発された陰気によって自殺者が発生していたというの!? さらに自分自身は一切害を与え無い縛りの恩恵を破壊不能に注ぎ込まないことによって作られている、呪術師も騙すレベルの擬態力! 通りで呪霊が多い訳よ! 完全な共生関係を築いているじゃないの!?)
だがこの館の仕組みに気づいたところで、真依にはどうすることもできない。 真依に群がる呪霊の数は、どう見積もっても残弾数を大きく上回っていた。
「……だから、呪術師になんてなりたくなかったのよ。 痛いのも、辛いのも、大嫌いだって言うのに、挙げ句の果てに最期は呪霊に喰われて死ぬなんて、冗談じゃないわよ。 ……どうせ死ぬなら、苦しむことなんてない、わよ…ね?」
そう呟き、真依は自分の首元に銃を突きつける。 恐怖の余りガタガタと照準の合わない手で、苦しみから逃れようと必死に引き金を引こうとする。
だが、その迷いが仇となり、蠅頭の一匹に手を掴まれ軌道をそらされる。
「! しまっ…」
そして、次々と真依の体に低級呪霊が群がっていき、そして……
一瞬パリンと音がして、一気に光が差し込むと同時に
一匹残らず、斬り伏せられる。
◇◇◇◇◇◇
時はほんの少し遡り───
どう言うことだ? 僕は確かに目を離したが、たかだか低級呪霊がこの程度の時間で音も立てずに真依さんを消しされるとはとても思えない。 なぜ真依さんは姿を消した? そもそも消えたのが呪霊の仕業かさえ今の僕は分かっていな…
いや、落ち着け、こう言う時は冷静になることが重要だ。 加茂先輩もそう言っていた。
「──ミク、何か見たか?」
「いや、マスターの中にいたから視認情報は私も持ってない。 確かなのは呪霊の呪力はここには一切感知出来なかったということぐらいかな」
「なら僕は呪いの仕業の場合を考える。 ミクは真依さんの判断で消えた可能性を追ってくれ」
ミクは自立した思考回路を持っている。 単純だがこれで脳の回転率は二倍だ。
さて、呪いの場合は呪霊がミクが感知できないレベルの呪力隠匿能力を持っているか、それとも観測外の呪霊が真依さんを生得領域に招き入れたかといったところか。
前者の場合は呪力ではなく質量や存在そのものを探知する能力が必要で、後者の場合はその領域を見つけ出し、領域による中和が必須。
……だが、どちらのパターンでも僕は対処法を持っている。
一つ気になるのは、やはりこの館の間取り。 見取り図通りなら、図書室は刀を振り回すだけで近くに集まってもいない呪霊を祓える程小さい部屋ではなかったはずだし、廊下も縦に並んで歩かなきゃいけないほど狭くはなかったはずだ。 となると…
「マスター、真依ちゃんの足跡はさっきまでいたところから完全に途切れている…いや、いたところの一歩前までしかなかったよ。 幾らこの屋敷が綺麗でも、土足で移動して足跡が見えなくなるというのは流石に考えにくいと思う」
「分かった、ならやっぱりやる事は一つだな」
そう確信した僕は先程まで真依さんが居たところに二宮丸を突き刺し、こう唱える。
「シン・陰流 簡易領域────
同時に、
『簡易領域 範』は、二宮真守が十年以上掛けて簡易領域の応用技として作り上げた、二宮真守だけが使えるオリジナルのシン陰流。
攻撃を加えないこと、本来サポートに有用な技を1人の時にしか使えないこと、使用している間自身を無防備に晒すことの3つの縛りによって手に入れた圧倒的な範囲と
さらに言うなら、この館の中は広大な呪物の生得領域である。 言うなれば今の真守は、パンパンの風船の中にさらに新しくその風船が萎んだ状態から一気に破裂寸前になるレベルの空気を吹き込んでいるようなものだ。 本物の必中が搭載されている領域なら兎も角、この数多の縛りによってやっと成立している未完成な領域がそんな状態に耐えられる訳も無い。
───結界が、崩壊する。
◇◇◇◇◇◇
「…という理由でこの館は崩壊したんだと思うよ。 特級呪物ともなると基本的に破壊不可のはずなんだけど、より力を得るための無理のある生得領域作りのせいでそこまでリソースを割けなかったようだね」
「成程、呪いも色々と工夫するようになってきたものだね。 まあ何にせよ、そんな呪物相手に2人とも生き残れて良かったよ本当」
真依さんの情報を聞き終えたミクの結論を聞きつつも、僕は真依さんの生還を喜ぶ。
…あ、そうだ。 まだ結論を話せていなかったな。
「真依さん、結局さっきの問いの答えなんだけれど……」
「っ! 待って、その前に1つ……」
「確かに僕が未だに間違っていると知っている筈の禪院家を切り捨て切れて無いのは合っていると思う。 でも、京都校の皆との生活も、既にそれと同じぐらい切り捨てることを考えられないほど大切な存在になっているんだ。
ここまでは多分真依さんも分かっていると思う。 で、問題は結局どちらを選ぶかということなんだけど…」
「多分自分は、すっごく弱い人間なんだと思う。 ミクに家の異常性を指摘されてなお、禪院家を捨て切れていないところも、なのにたったの二ヶ月でそんな捨てられない存在と天秤に賭けられる人達が新しくできて揺らぐようなところも。 また禪院家に戻った時、僕はそいつ達を糾弾できるかどうかは、まだ自信がない。
でも、それでも僕は、真依さん達を優先できる人間になりたい。 皆の方が、ずっと善い人だって頭ではっきりと分かっているから。 二ヶ月でこんなに大事になるのなら、きっと4年間一緒に過ごせば揺らぐことのない存在になれると思うから。 この2つがあるから僕は、禪院家ではなく、京都校への想いの方を守り抜きたいと思ってる」
長々と話したが何が言いたいかというと、自分は京都校を優先する方を選んだということだ。
さて、これで真依さんは納得してくれるだろうか。 やはりいつまた揺らぐかも分からない奴と友達は嫌だろうか?
「……そう。 いえ、十分よ。 私としても貴方と絶交するというのは流石に嫌だしね。
それに、私達が貴方と思い出を沢山作ればその分貴方は私達の方に傾いていくのでしょう? なら大丈夫だと思うわ。 幾ら禪院家が貴方に優しくっても、それでまた揺らぐほど京都校は魅力に欠ける存在ではないわ」
どうやら真依さんは、その答えに納得してくれたようだ。
「どうやら丸く治ったみたいだね。 マスターも今後は禪院家として動きはしなさそうだし、これはまごうことなきハッピーエンドじゃないの?」
ミクが呑気にそう話しかけてくる。 が、まだ何も終わっていない。
まだメカ丸の問題を解決してもいないし、強さだって二級だと全然足りない。 むしろ重要なのはこれからなのだ。
そう諫めつつも、僕は今だけは肩の力を抜きながら京都校へと帰って行くのだった。
家型の特級呪物: 実はここで真守がぶっ壊さないと隠密性が青天井に上がり続けて五条悟にも呪物だと分からなくなっていた可能性のあるやばい呪物。
当然生産者は羂索。