真に守り抜く 作:しんぴのまもり
7月1日、僕達は久しぶりに数人の休みが被ったので一緒に出かけに行っていた。
7月、つまり夏真っ盛りのそんな時、僕達が何処に向かったかというと……
「「「海だーー!!」」」
そう、三輪さん、西宮先輩、そしてミクの歓声の通り、僕達は青々とした快晴の日に、海開きを幸い海水浴へと来ていたのだ。
実のところ、今日の僕は一昨日に素晴らしい拡張術式を考えついた事もあって、非常にテンションが上がっている。 今日は呪術師のストレスなども一旦忘れ、全力で今を楽しむ所存だ。
とりあえず海といえばやる事は泳ぐ事以外ないだろう。 そう思い服の下に既に水着を着込んでいた僕は素早く服を脱ぎ捨て、海に飛び込む……前に、東堂先輩に肩を掴まれる。
「待て、
「そのとおりだよ。 マスター、準備運動をすることでしっかりと筋肉をほぐして万全の状態になってから入るべきだと思うよ?」
イカれている癖に、こういう所は意外にもしっかりとしている東堂先輩にミクや他の皆も賛同する。
「そうよ、それに二宮君と違って皆はまだ着替えられて無いんだから、少しぐらい待ってくれたって良いんじゃ無い?」
と西宮先輩も少し呆れたように言っているので、とりあえずまずは先輩の持ってきた浮輪を膨らませる事に専念する。
「なら俺はお前達が着替えている間、海の家で何か買ってくるとしよウ。 欲しいものとかはあるカ?」
メカ丸は自分が食べれないのにも関わらず、進んで色んな物を買ってこようとしてくれる。
その優しさは凄く嬉しかったが、あの見た目で1人で何かを買えるとは到底思えなかったのでビーチボールを膨らますのを手伝ってもらう事にした。
……そして、予想外な事に最も海を楽しもうとしていたのはこの人だった。
「ふむ、びいちぱらそるの設置は完了した。 そして後はこの日焼け止めを塗れば、これ以上なく気持ちよくこれが弾けると聞くが……あっておるか? 二宮よ」
何故か今日の海開きには、楽巌寺学長が付いてきていた。 しかも無駄に似合っているサングラスとアロハを着込みながら、ウクレレを弾こうとしているではないか。
「っ…フフッ」
本人は至極真面目な顔をしているのがまた笑いを誘っているようで、西宮先輩は今にも吹き出しそうな顔をしている。
「…………はい! 会っていると思いますよ」
まあ本人が楽しめているのならそれで良いのだろうと思い、ミクからの受け売りの知識を教えて、今度こそ浮輪を膨らます事に集中する事にした。
◇◇◇◇◇◇
さて、ちょうど僕らが全てのレジャー用具を用意し終えた頃、皆もようやく着替えを終わらせて次々と更衣室から出てくる。
「あ、本当に浮輪を膨らましておいてくれたんだ。 ありがとね、二宮君、メカ丸」
「こんくらいなら幾らでも大丈夫だよっ…?」
西宮先輩はワンピースタイプの可愛らしい水着を着ていた。 その上に長い髪をまとめる水泳帽を被っていたことであの目立つ俵形サイドテールがなくなり、師匠にやや似ているが可愛らしさも内包しているその姿に一瞬ドキリといった感じの動揺のような何か? が走ったが、西宮先輩が訝るような目を向けてきたので、どうにか気を取り直して
「じゃあみんな集まった事だし、軽く準備運動をしてから思いっきり海を泳ごう」
と提案する。 その一言とメカ丸が三輪さんに目を向いていることに気づき、それを揶揄うことに意識が向かったことで、西宮先輩は気のせいだと思ってくれたように見えた。
その後しばらくは順当に海を満喫する時間が濃密に、しかしあっという間に過ぎていった。 この日の為にか防水加工をしていたメカ丸のシュールな泳ぎ方に笑い、西宮先輩と綺麗にデコレーションされたかき氷を食べ、東堂先輩と一騎打ちで水泳競争をし(始めは僕は乗り気じゃ無かった筈なのに何故かいつの間にか全力で競う流れになっていた)、ミクが三輪さんに食べて良い魚や獲っていい場所を教えたりと、間違いなく僕は今日海を、学生生活を堪能したとそう自信を持って言える時間を過ごしていた。
泳ぎ疲れた僕が一時西宮先輩の浮輪を借りて日光浴と海水浴の両方を楽しんでいたそんな中、ふと視界の端に妙な物を捉える。 水色の三角形のような物が、沖からこっちに向かってくるではないか。
「ねえミク、あれって何だと思う?」
「んー…あれは………どっからどう見ても…鮫……だねぇ」
「だよねえ… あれこれ不味くないか?」
鮫って散弾銃なら兎も角、拳銃で勝てる相手だったっけ?
しかも今特に鮫の近くにいる三輪さんや西宮先輩は呪具を主体にして戦うタイプだよね?
「………不味い不味い不味い! メカ丸、急いで向こうまで泳ぐぞ!」
より早く二人のところに着く為、海に潜ってイソギンチャクと戯れているメカ丸にも応援を呼びかける。
「急ゲ二宮! 俺が加速させル!」
流石に二人とも鮫に一瞬で食べられるほど弱くはないだろうが、万一の可能性がある。 そう思い拡張術式とメカ丸のジェット噴射で全力で突き進む。
そしてやっとの思いで声の届くところまで辿り着き、肺を思いっきり吸い込み、二人のすぐ後ろまできている鮫の事を伝えようとして─────
拍手の音が鳴り響く。
「……それできるなら最初からして欲しかったな…」
鮫の鼻に拳を打ち込みながらそう東堂先輩にそうぼやく。 絶命した鮫にメカ丸が
◇◇◇◇◇◇
宴もたけなわ、僕達は最後の締めとしてスイカ割りをする事にした。
あると一瞬で終わるので呪力強化は一切無しで1回づつ叩き、誰の番で叩き割れるかを競う。
一番手の西宮先輩は素の力が足りなくてスイカの生来の硬さに歯が立たず、二番手のメカ丸は誘導を聞き間違えたか見当違いの方向に棒を振った。
そして三番手の僕の番、しっかりと目隠しをした上で必ずスイカを叩く為にある方法を使う。
「ミク、右に3歩の後は何だっけ」
「後は前に5歩…あー少しズレたね、左に一歩だけ…そうそう、そのまま真っ直ぐに…」
「ちょっとちょっと! あれズルじゃないんですか!?」
とミクの力を借りてより早く正確な誘導を聞いている僕に三輪さんが不平不満を申し立てるが、ミクと僕は一心同体なのだからこれも耳の良さや方向感覚とかと同じ自分の力の範疇だし、呪力で何かを強化している訳でもないからルール上は一切問題はないのだ。
そうしてスイカの前であろう場所まで近づき、一振りで叩き割るつもりでノリノリで棒を振る。
「ふっふっふ…そr『ボッ!!』!!?」
その時いきなり僕の膝下で爆音が響き、不意を打たれた僕の手は乱れに乱れて本来真っ二つに割れる筈だったスイカに大きくヒビを入れるだけで終わる。
何事だと思いつつ急いで目隠しを解いて下を見ると、スマホからモクモクと煙が出ているのを認識する。
「な、何でスマホがいきなり壊れて……?」
割と新品の部類のスマホだったし、最近は激しい戦闘もそう多くは無かった筈だ。
一体何が………
「…………ねぇ、二宮君。 一応聞くけど、そのスマホ、防水加工してあるわよね?」
「……………………」
困惑している僕に西宮先輩が冷静に突っ込みを入れる。
どうやら僕は、やらかしてしまったようだ。
さて、そんな大ポカをした僕の次に、ヒビが入り、後一回叩けばまあ間違いなく割れるであろうスイカに挑む四番手は三輪さんだった。
そのまま僕達の誘導を聞いて叩いても剣道に長けている三輪さんならきっと難なくスイカ割りの勝者になれただろう。
だが、三輪さんは万が一外したら東堂先輩が絶対に割ってしまうと思ったからか、はたまた僕が術式を使ったことで意趣返しをしたくなったのか、兎に角三輪さんは普通に割りに行くことはしなかった。
「ふふふ……シン・陰流 簡易領域! ……まだないようですね。 ならばさらに先へと進みましょう!」
数歩進むごとに三輪さんは簡易領域を使う。 三輪さんの簡易領域の性質上、これで三輪さんは半径2.21m以内にスイカが入った瞬間叩き割れる訳だ。
三輪さんは名案を思いついたとばかりにドヤ顔で誘導を聞くまでもなく進み続ける。 確かに僕の術式の使用を見たことで自分の呪術をスイカ割りに転用したのも、鞘を用いずに抜刀を使っているのも実に見事だと素直に思う。
「シン・陰流 簡易領域…………! 来た、抜刀!」
……スイカ以外のものも自動で叩いてしまう事を除けば。
丁度ウクレレを思う存分弾き終わり、少し離れた所で横になっていた楽巌寺学長の頭には、それはそれは見事な巨大タンコブが出来上がった。
目隠しを外したことでその事を三輪さんも理解してしまい、哀れにも顔の様子はすっかり蒼白と化していた。
「が、楽巌寺学長……これは、そのぉ………」
「三輪よ……次の給料日を楽しみにしておれ」
「マジすいませんでしたあああぁぁああ!!!!」
やっぱり三輪さんは詰めが甘いなあ。
……うん、やっぱり皆といると本当に楽しい。
この生活を守る為に呪術師を続けるのは、決して他人の為ではなく、自分がやりたいからやっている事だ。
それを、今日は再確認出来た。
……早く黒閃を出さなくちゃ。
これ真守と星の前に入れた方が良かったかも