真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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この物語を書き始めてからもうすぐ一年なのに、いまだにこの小説は本編どころか0にすら入れてません。
なんとか年内には交流会編を書きたいところ。


真守と拍手②

ピカリ、と辺りが光ったと同時に、まず最初に壁が破壊された。

続いて耳が麻痺するかのような爆音が鳴り響く。

 

一瞬にして五感のうち2つを奪われた真守達の首元に、鋭い風の刃が吹き乱れ──

 

「っ! 2人ともしゃがんで!」

 

唯一呪力感知により状況を把握しきっていたミクの叫びで咄嗟に屈むことで両者共に辛くも回避に成功する。

 

「ほう、中々良い術式を持っておるでは無いか。 よく我の一撃を躱したな?」

そんな明らかに自分以外を見下しているような尊大さを醸し出しながら、呪霊は姿を表した。

 

(……最悪だ。 この呪霊、言語を理解している上に雷と風という一見別物に見える能力を苦もなく扱っている。 

つまりはそれだけ広い概念から生まれた呪霊ってことだ。

そして師匠から聞いたことがある。 呪霊の中でも地震や津波など、自然に強く関わる畏怖から生まれた呪霊はその他とは一線を画す強さを持っていると。  つまりこの呪霊は……)

 

「雨……いや、天気か?」

 

「見た目によらず鋭いな、髷頭よ。 我の名は天轟 お主の言うとおり、人間が常に気を巡らせ続け、一喜一憂する天候を司る呪霊である……不意打ちとは感心せぬな」

 

真守の乾坤一擲の奇襲を名乗りを上げている最中のはずの天轟は当然のように対応する。

煩わしげに腕を真守の首元に伸ばし、目の前の矮小に見える命を絶とうとする……が、小気味良い拍手の音と共に位置が入れ替わる。

 

「!?」

 

一瞬何が起こったのか理解できなかった天轟に対し、東堂の術式を知っている真守はすかさず振り向きざまの回し蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ……成程、存外攻撃力もあるな。 そしてその術式…入れ替えか? ならばこれはどうだ? 果たして入れ替える隙があるか?」

そう言って手を伸ばし、文字通り雷速の雷を空から真守に落とす。

まともに当たれば黒焦げ必死の高圧Vだ。

 

その動作を見た真守は素早く二宮丸を天高く放り投げる。

数瞬後、雷は真守ではなく二宮丸に降り注いだ。

 

雷が高いところに落ちる性質は、術式にも継続されていた。

 

(……よし、賭けに勝った)

 

「何だ今のは……何故我の雷が刀へ…… 何故あの刀は我の雷を受けて傷一つ…」

 

絶対の自信を持つ雷撃に対応された事による一瞬の動揺、その隙を東堂葵は見逃さない。

真守の方へと走りつつの二度の拍手により二宮丸と天轟、次いで天轟と真守を入れ替え回し蹴りと踵落としを叩き込む。

再度の柏手により再び天轟と二宮丸を入れ替え、磐石の布陣を整えてから再度天轟に攻撃を仕掛ける。

 

だが、流石にその程度では自然呪霊は落とせない。

2人が斬撃と打撃を叩き込む頃には既に天轟は迎撃態勢を整えていた。

モクモクと雲を生成し視界を遮りつつ真守の鳩尾に呪力をたっぷり込めた拳をお見舞いし一気に外まで吹っ飛ばす。

簡易領域も間に合わず、真守は壁を突き破って露天風呂の外壁にめり込みやっと止まる。

 

「がっ…… ぐ、ぐ……」

決して少なく無いダメージ、そして背骨の強打と鳩尾の強い痛みが真守の身体に広がる。

高専服を着てない事でそのダメージは倍以上だ。

 

「真守! 大丈夫か!」

 

「…………」

 

「……真守?」

だが、真守の胸中には、全く別の感情が湧き起こっていた。

 

(……腕を切り落とされた時、僕は泣いて喚いた。

腹を突き刺された時、僕は痛みで目に涙を浮かべかけた。

そして今、僕は背骨と鳩尾に強いダメージが入ったが、こうして冷静に思考を回せている。

 

……痛みに、慣れている!)

かつてない強敵相手に、この状況で、真守は自分の成長を噛み締めていた。

加茂憲紀との対話、呪詛師との対峙、禪院真依の問いによる決意、禪院直哉との死合い、そして西宮桃との特級呪霊相手の共闘。

 

この短期間の様々な経験により、真守は人間として成長するだけでなく、呪術師としても完成しつつあったのだ。

 

「……ふっ。 成程な。 もう言葉は不要のようだな、真守……いや、真守(マイ・フレンド)!!」

 

「……ああ!」

 

「ほう、今の攻撃にも耐えるか。 まあ良い。 どの道その程度では我は倒せぬ!」

 

2人と呪霊の戦いはさらに加速する。

入れ替え、殴り、躱わし、蹴り、フェイントを入れ、黒閃を撃つ。

東堂の不義遊戯に完璧に対応できるようになった真守はまさに獅子奮迅の闘いを見せた。

 

(さっきので肋は何本か折れたが、人間には200本骨があるというし痛みさえ無視すれば十分戦える。

ただやっぱり自然から生まれた呪霊を倒すにはあともう1ピース欲しいところだ。 どうするべきか……)

 

その一押しを探しつつも真守は攻めの姿勢を崩さない。

連続で襲いかかる雷撃を動き続けることで回避し、時に東堂の拍手に合わせ二宮丸を直撃させ、かと思えば捨て身で天轟を押さえつけて東堂にダメージを稼いでもらう。

 

「……よもや、ここまで苦戦するとはな。 良いだろう、我の本気を見せてやろう!」

それに対し呪霊のギアは更に上がりつづける。

その上昇振りは、底が見えない絶望的な上がり方だった。

 

 

だが、それが真守の疑念を膨らませる事になった。

 

 

(……何かこの呪霊滅茶苦茶読み違えるな。 それにこんなに強い癖に何でこんな僻地にいるんだ? 

自然から生まれる呪霊は生まれたその場に留まろうとする性質も無い、言うなればこいつは力だけある世間知らずの……ん? 世間知らず?

 

……よく考えれば師匠の知識は現存する資料から来ているんだよな。 

つまり、その資料が無くなるくらい古い時代から存在する呪霊なら、そういう常識から外れる場合もあるんじゃ無いか?

そうなると……

……慣れない真似だけど、やるべき盤面だな)

 

脂汗を背中に浮かべながら、一つ一つ言葉を慎重に選びつつ、真守は口を開く。

 

「……そういうことか」

「呪霊、さてはお前……弱体化、してるな?」

 

「なっ、何を……!」

 

(よし、強い言葉に予想通り食いついた。 後は上手いことこいつの冷静さを失わせれば……)

 

「……ずっと疑問に思ってたんだよ。 なんでお前、呪霊なのにこんなにも強さと知識が離れているんだろう……と、なんで、ずっとこんな所にいるんだろう、と。

答えは簡単だ。 もうここぐらいしか、日本にお前を畏れてくれる人間がいないんだろ?」

 

「よせ、黙れ……!」

 

「そもそも今時、天気を災害レベルで恐れる人はそんなにいないはずだ。 確かに厄介極まりない…が、それでも津波や地震と比べるとまだマシだ。

 

……そして言うまでもなく、大昔と、えー、比較するのなら、断然負の感情や畏怖は少ないよな?」

 

真守の予想は正しい。

常識を超えるほどに昔から存在し続け呪霊の中で最強を自負していた天轟は、ここ数百年の技術の革新により、日に日に呪力が萎んでいっていた。

元は人生を左右しかねないレベルで重要極まりなく、畏れ敬われていた天候は、今や傘がいるかどうかぐらいしか焦点とならないほどに恐怖が薄れていたのだ。

その事実にもがき続け、最終的に辿り着いたものこそが、昔との変化が少ない、天轟を畏れ続ける為だけに改造された村だった。

 

 

「黙れ!」

 

だが、相手のコンプレックスを起点に攻めることは必ずしも良い結果を生む訳ではない。

 

相手を口撃するのに慣れていない真守は言葉選びに集中し、東堂葵は真守がする謎が多い天候呪霊の解説に神経を注ぐ事を選択する。

故に、気が付かない。

呪霊の呪力が、ほんの僅かに増した事に。

ミクもまた、術式発動に必須となる歌詞の詠唱を優先し、それを伝えられない。

 

「……つまりお前は、これ以上の弱体化を防ぐために、なんとしてでもこの村で、強くお前を畏れてもらう必要があったわけだ。

 

……わざわざ、必要もない生贄制度なんか作ってな」

 

「黙れ、黙れえぇぇえ!!」

真守の愚弄によって感情が爆発し、呪霊の呪力は更に高まり温泉の外にまで漏れ出てくる。

さすがの東堂葵はこれにいち早く気づくが、真守はまだ気づかない。

 

(よし、こんな所で良いだろう、最早あいつはまともな思考なんてできないはず)

「行くよ東堂先輩。 あいつが冷静になる前に仕留める……東堂先輩?」

相手の冷静さを奪ったことで勝ちを確信した真守とは対照的に、東堂葵は真剣そのものの顔立ちで天轟の様子を伺う。

 

「……真守(マイフレンド)、確かに呪術において心理戦は重要だ。 怒りで呪力を乱し、実力が発揮されなくなるというのはよく起こることだ。

 

だがそれと同時に、怒りは呪術においての重要なトリガーだ。 相手を怒らせてしまうことで、通常以上にパワーアップする可能性も常に視野に入れねばならない。

 

……今回のようにな。 今一度心を研ぎ澄ませ、真守(マイフレンド)

 

どうやら、勝負はここからが本番のようだ」

 

「……………っ!」

じんわりと冷や汗を滲ませつつ相手の一挙手一投足うかがうが、それでもこれから行われる惨劇を防ぎ切れるとは言い切れない。

(糞、慣れない事をするものじゃ無かった)

 

「領域展開」

地獄の釜が、怒りの雷鳴で開かれる。

 

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