真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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メリークリスマス。



領域内の攻防戦

『領域展開  天候雨月雲我独尊』

 

領域が展開され辺り一面に圧倒的曇天が広がる。

台風が吹き荒れ、耳が聞こえなくなるほどの雷の嵐が振り乱れ、少し遠くには竜巻のような現象さえ起こっている。

終末に限りなく近い光景で元最強の特級呪霊はただ一つの言葉を叫び続ける。

 

「我は! 我ハ弱ってナどおらン!!」

 

「「シン陰流 簡易領域」」

 

真守と東堂は天轟が挙印を組んだ時点で素早く居合の形をとり簡易領域を張る。

それにより必中効果を無効化するが、完全な領域の効果は必中以外にも環境効果による能力の底上げが存在する。

天轟が手を出す必要すらなく、遥か上空から雷が降り注ぐ。

並どころか熟練の呪術師ですら死にかねないような威力が2人に襲いかかるが、幸運にも両者は死を回避できる術を所持していた。

真守は抜刀によって雷の矛先を二宮丸に逸らし、東堂葵は山勘で直前に不義遊戯を使い辺り一面に無数にある雨粒と入れ替わる事で回避する。

 

だがこの入れ替えの合間を縫う事で天轟が真守に急接近し、東堂がもう一度手を叩くよりも更に早く天轟が蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ……」

 

当然真守もタダでは転ばない。

たたらを踏みつつも簡易領域内に入った天轟に反撃の一閃を入れる。

…‥だが、硬い。

「邪魔ダあ!」

 

二宮丸の斬撃ですら擦り傷程度にしかならないほどに領域内の天轟と真守には差が開いていた。

天轟が型も何も無く手をやたらめったらに振るうだけで真守は10m以上後方へと吹き飛ぶ。

後頭部が強かに打ちつけられ、朦朧となる意識で真守はある事に思い至る。

 

(くそ、本当に不味い。上位の特級呪霊相手に煽るような真似をするのは悪手にもほどがあった。

なんとかしなきゃ、この威力の攻撃を喰らい続ければいずれは2人とも…‥

 

いや待て、少しおかしいぞ。

僕と今のあいつの呪力差を鑑みれば今の一撃で内臓が潰れているはずだ)

 

疑問に思った真守は東堂の完璧な不義遊戯で背後を取り、天轟に再度二宮丸を振り下ろす。

やはりその体にはほとんどダメージは入らないが、防御を取る時の天轟の呪力操作を間近で見ることにより真守は自分の予想が正しいと確信する。

 

(思った通りだ……こいつ、呪力が、乱れてる!)

 

真守の考え通り、今の天轟は呪力操作が普段と比べ大幅に鈍っていた。

 

激しい怒りによって確かに天轟の呪力は倍増していた。

だが、同時に真守の渾身の煽りによって天轟は我をほとんど忘れてしまっていたのだ。

言うまでもなく緻密な呪力操作が呪術戦には呪力の乱れなど御法度も御法度。

その中でも更に精密操作が要求される領域展開ができたことは最早奇跡に等しい。

 

(……これならこの苦境を乗り切りさえすれば呪霊は呪力が枯渇した上に呪力操作も疎かになるから、こちらに形成が大幅に傾くはずだ。

ということは僕のずさんな策も少しは役に立ったのか?

 

……でも、一番の問題はどうやって特級呪霊の攻撃をいなしながら領域から脱出するかだな。

 

一度僕の手札を整理しよう。

①入門したことで持ってるシン陰流の技

②それを併用した簡易領域の即席改造

③僕の術式『初音ミク』によるミクの観察眼や知識、呪力操作の一時委託

④同じく僕の術式による目で見るだけでは分からないステータスの上昇

 

今役に立ちそうなのはここら辺か。

後東堂先輩の不義遊戯も入れて良いか…)

 

「っ!」

とそこまで考えたところでまた一層天轟の攻撃が激しくなり、目の前の攻撃を捌くことだけで精一杯となる。

吹き荒れる暴風を腰に力を入れながらなんとか受け止め、せめてもの反撃として脇腹にあたるであろう場所に蹴りを入れつつ後退する。

 

(駄目だ、考える時間すら取れやしない。

これは本格的に寿命や命の縛りで無理矢理どうこうするのも視野に入れなきゃいけないか……ちょうど良いところに。

やっぱり1人で悩んでも良い結論は出ないな)

 

全力で走りながらやや物騒な方向へ思考が進み始めたところで真守は東堂葵との合流を果たす。

 

真守(マイフレンド)、分かっていると思うがこのままでは俺たちはここで道半ばで死ぬ」

 

「そう、でもどうしても良い案が出てこないんだ。

……東堂先輩、僕が全力で撹乱して時間を稼ぐから僕が倒れるまでに何か作戦を立ててくれ。

決して頭の良くない僕には無理でも、東堂先輩ならきっと良い考えが……」

 

「悪くない案だが、おそらく失敗に終わる。

領域からの脱出の難易度がそもそもひどく高い上、何より真守(マイフレンド)にはまだ深追いをせず、かつ呪霊を誘導するような真似をこの状況でこなすのは難しいだろう。 もし作戦を立てれたとしてもその後に真守が生きているとは思えん」

 

「確かにその通りだけど、かといって他に道は無い。 縛りを上手く使ってなんとかして見せるよ」

 

「いいや、逆だ。 俺が呪霊を撹乱し、お前が作戦を考えるのがこの状況の最善策だ」

 

「……は?」

真守が足を止め雷に撃たれなかったのは奇跡に等しいだろう。

 

「何を呆けている真守(マイフレンド)、お前にはもう1人、俺の他にも唯一無二の相棒がいる事をまさか忘れたわけでは無いだろうな?」

 

(今ミクは術式の力を最大限に発揮するために歌い続けなきゃ……いや、待て。

今の呪霊は目の前の敵を潰すことしか考えられてない。

つまりはそういうことだよな?)

 

「……東堂先輩、まさか死ぬつもりじゃないだろうな」

 

東堂葵の提案は、まさに真守の提案と真逆の策、ミクによるバフを使わなくとも凌げるほどに天轟の攻撃を自身に向けさせるというものだった。

当然、先程まで二つに分散していた攻撃が一斉に降り注ぐ以上、もし長引けば東堂葵は確実に命を落とすだろう。

 

「馬鹿を言うな、高田ちゃんのライブは来週にある。

ただ、事実として俺が全力で撹乱したとしても稼げる時間は数分がやっとだろうな。

つまるところこの戦いの行方は真守(マイフレンド)とMs.ミクにかかっていると言う事だ。

 

……任せたぞ!」

 

そう言うと同時に止める間もなく東堂葵は足を今までと正反対の方へと向けて天轟へと駆け出す。

 

「殺す!!」

天轟の放つ竜巻を天轟の真後ろの雨と自分を不義遊戯で入れ替え躱し、天轟の背中を踏み台にしながらの跳躍により確実に天轟からのヘイトを買い取る。 天轟はそれならと言わんばかりの半径20mに及ぶほど竜巻を乱舞させ続けるが、それを嘲笑うかのように竜巻の中心に入れ替わり、追加で撃たれた雷を更なる起点として上空から死地を脱出する。

天轟の領域はもちろん天轟自身が最もパワーアップするが、周りに呪力の籠った雨粒が無数に有る東堂葵の独壇場でもあった。

 

だが、もちろんこのまま続けば先に潰れるのは呪力量で劣る東堂の方だ。

どんなに強かろうと、人で有る限り必ず体力にも訪れ、動きは鈍る。

そしてそれを打破する為に真守は今必死にミクと思考を巡らせていた。

 

「ッ急いで考えるよマスター、まずこの領域について整理しよう!」

「簡易領域を張っているから必中効果は分からないけど、確かなのはこの領域の中に降る自然災害には全て呪力が篭っている事、そして東堂先輩が先程竜巻の性質を利用して難を逃れていたからこの中で発生する現象は全て元の自然災害の性質をそのままに持っていることだね」

「その通り、そしてこの領域から生き残るには領域からの脱出か領域そのものを壊すしか無いよ、なんでかは分かるよね?」

「今のバフがかかった天轟に打ち勝つ事は不可能に等しいからだね。

 

そして戦ってる最中に限りなく僅かな合間を縫って僕は創ったよ。 領域を破壊できる可能性のある簡易領域を」

「よし、そして今それを使わないってことは……領域の縁を見つける必要があるって事?」

 

五条悟が将来、『領域からの脱出』が不可能だと語る理由は大きく三つある。

 

1つに、領域を展開できるほどの呪術の使い手を相手に脱出するまでの時間を稼ぐことは並の術師には不可能であること。

1つは、領域は基本的に外部への脱出を防ぐように造られていること。

 

そして最後に、領域はどこから脱出するのかを見つけるのが困難な事。

その上相手の攻撃を楽々受け止められるなら兎も角、東堂葵が決死の時間稼ぎをしているこの状況では当てずっぽうで走り続けてぶち当たるのを待つわけにも行かない。

 

「……そう、そこなんだ。 ここまでは走りながら心の片隅で考えていた事でもある。 でもどうしてもこの領域の果てを見つける方法が思い浮かばないんだ、それをミクに考えて欲しい。 東堂先輩の言っていた作戦も多分こう言う事だよね?」

 

「……任せて、そこまで考えられたならマスターにしては上出来だよ」

そんな自分の宿主に対して心の何処かで舐めているとしか思えない一言を付け加えながら、ミクは考え続ける。

 

東堂葵の動きがほんの少し鈍り始めてきた。 ミクは考え続ける。

 

真守の簡易領域にヒビが入り始めた。 ミクは考え続ける。

 

「───っ! ミク、そろそろほんとに不味『できた』」

 

その一言と同時に、遂に真守の簡易領域が崩壊する。

 

「っ、落花の情!」

反射的に大昔教わった秘伝を使った真守の脳天に雷が直撃し、呪力を以てのカウンターでそれは霧散する。

 

(流石に耐えられなかったか……東堂先輩の簡易はまだ剥がれていないようだし、ここは落ち着いて僕も張り直してから……)

 

「マスター、簡易領域は張り直さなくていいよ。 

同時に二つの簡易領域を張るのは難易度高いでしょ」

そう言いミクは勝利への道筋を直接真守の脳内に送り込む。

 

真守はその瞬間術式の要であるはずのスマホを施された防水加工を取っ払いつつ遥か遠くに放り投げる。

もちろんこれは投擲物として使用するわけでは無く、これまで通りの領域の縁探しに繋がる作戦だ。

 

(僕の術式は目に見えないステータスを爆増的に上げる事ができる……なら、自分の身体の事でなくとも、スマホの爆発時の威力だってあげられるということだ!)

その推測と共にスマートフォンがスパークし、海水浴での事故とは比べ物にならない程の轟音と大爆発が起きる。

 

「ヌ……?」

さしもの天轟もその音には反応し、真守の方角に目線をちらりと向けるが、領域にヒビすら入ってないのを確認するとすぐにまた東堂葵の排除へと意識を戻す。

 

それにより、真守がある一点へと全力疾走する事に気が付かない。

 

(よし、ミクの予想通りだ! 天轟は天候はもちろん、領域内限定だろうけど大気も自分の呪力で創り出していた!)

 

ミクが提案したのは、自然現象を利用した発見法。

 

何故地球に風が吹くのか、それは温度差によって大気が移動しているからだ。

この領域内でも同じように、呪力を纏った大気は温度差が発生するとそれを埋めようと移動を開始する。

二宮真守はスマホを大爆発させる事で、無理矢理領域内に温度差を造り上げた、

後は呪力の流れさえ観察し続けていればどこからどこまでがこの領域内なのか、それを呪力が動き始めるところを認識して理解する事が出来る。

 

「が、ぐ、グゥウウウウ……!!」

 

が、不運な事に領域の縁への最短経路を辿るには、強い向かい風を走り抜ける必要があった。

呪力を半永久的に補充することはできても、体力には限界がある。

これまでの天轟の猛攻により、真守の身体はとっくに悲鳴をあげ続けている。

 

「いや、まだ、だッ!!」

 

だからどうした。

東堂先輩が自分に託した、ミクが策を脳を絞り尽くして考えた、今の自分の手には今の状況を打開できる力がある。

ならば限界なんて曖昧な存在一つ、越えられなくてどうすると言うのだ。

足を後数回前へ交互に動かせ、それだけで良い。

今までと比べて、なんて楽な任務だ。

 

そう心に言い聞かせ、辿り着いた領域の最果てに、真守は刀を突き刺し、一言呟く。

天轟の攻撃をいなしている最中開発した、生得領域そのものを中和する事で崩壊させる、必殺の一撃。

 

『シン陰流 簡易領域 載!!』

 

領域が音を立てて崩れていくのを、真守の眼は確かに捉えた。

 

電子の歌姫が、現在の状況を分析、解説するかのように呟く。

「……領域を失って呪力もまともに残っておらず術式の使用もままならない呪霊に対し、不義遊戯によって接近戦で圧倒的アドバンテージを持つマスター達」

 

「これって……」

 

「うん」

 

「私達の勝ちだ」

 

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