真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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書き納めです
それでは皆さん良いお年を。


古代最強の呪霊、現代○〇〇の術師

術式の使用が困難となっている天轟を前にしても真守は一切油断を見せない。

ミクの勝利宣言に構わず真っ先に呆然としている天轟に走り寄り反応すらさせずに蹴り飛ばす。

 

「畳み掛けるぞ真守(マイフレンド)!」

「勿論!」

 

間髪入れずに東堂葵の不義遊戯によって天轟と入れ替わり逃げ道を塞ぎ、魂を捉える打撃を叩きつける。

ここでようやく天轟も頭が冷え呆然自失からも立ち直る……が、遅い。

徒手空拳で対応しようにも、拳を振るうたびに絶妙なタイミングで位置が入れ替わり、2人の猛攻によりみるみる追い詰められて行く。

元来変化が生態として存在する呪霊なので魂のダメージこそ少ないが、それでも天轟が初めて死を覚悟するには余りにも十分な状況だった。

真守が隙だらけの右腕を切断し、次いで東堂が左脚をへし折る。

 

(とどめだ!)

 

移動すらできなくなった天轟に、まさに絶好の間合いを以て真守は二宮丸を振り下ろし───

 

「ウアアア 変態ダーッ! 助ケテクレーッ!」

 

「!?」

 

いきなり第三者の声が響き渡る。

大爆発に反応した天轟のように2人は咄嗟に音の発生源へと首を回す。

 

そこにいたのは呪力すらほとんど感じられない非術師だった。

おそらく村の見回りか何かだったのだろう。 提灯を片手に日が沈みかけたこの村をぶらぶらと歩いている、そんな様子だった。

では何故そんな一般村人が2人に対して変態と糾弾したのか。 その答えは実にシンプルだ。

 

現在2人はどちらも全裸だからだ。

村に裸の見覚えのない男2人が練り歩いているのだ、これを変態と言わずしてなんと言う。

 

(しまった、あの呪霊の領域のせいで座標がずれてしまっていたのか。 とりあえず大事にならないように口八丁でどうにか……)

 

「あー、いや、落ち着いてください、これはですね……」

 

「ふざけんな! みんな出て来い! 不審者が居るぞ!」

 

「なんだと! 殺す!」

 

真守が言い訳を考えるよりも先に非術師は村全体に響き渡るような声で叫び、それに反応して出てきた村人達と共に2人へと襲いかかる。

 

(話を聞かない人達だな……)

 

とはいえ流石に非術師相手にどうこうされるような鍛え方をしている2人ではない。

大量に襲いかかってくる村人にも特に焦る事なくある者は首筋を強打し意識を奪い、またある者は峰打ちで鳩尾を叩き次々と戦闘不能にしていく。

 

違和感を覚え始めたのは十数人を気絶させたあたりだった。

いや、厳密には東堂葵はずっと前から違和感に気づいていた。

この状況にいち早く違和感を覚え高田ちゃんと脳内会議でその正体に気づいていた。

だが、倒しても倒しても立ち塞がり本気で殺めようとしてくる村人達を殺さず気絶させることに時間を取られそれの対処に向かうことが叶わなかったのだ。

故にミクが的確に村人がギリギリ気絶するぐらいの呪力を込めることができる真守だけがその違和感に気づいた後行動に移せる可能性があったのだが……残念ながら、真守がそれに気づいた時には既に手遅れだった。

 

(なんだろう……この人たちは突然現れた変態を捕らえようとしている、その筈なんだけど……何かそれだけでは収まらないような熱を感じるな。

ぼくにはこの人達はどうしても僕達に襲い掛からなきゃいけない事情があるようにしか見えない、そんな狂気的な視線だ。

でも初対面だし、僕らとこの人達の接点なんて……

 

……!! そうだ、そうだった、色々あってすっかり忘れていた! そもそもこの村は……!)

 

「っ!!」

その事にようやく気づいた真守がそちらに目を向けると、既に天轟には数人の老人が群がっていた。

老人達はそれぞれ思い思いの方法で自らの体を死へと向かわせ、ただ一つの言葉を紡ぐ。

 

ワッ我々の身体を、捧げまズ、ぅ

 

「っやめろ!」

 

ですから、天轟様、どうカ、どウか 『この村に害を与える者』を全て、け、消し去ってくだザい

 

その言葉と共に老人達は揃って崩れ落ち、入れ替わるように天轟の呪力が眼に見えて増大して行く。

 

(そうだ、こいつは天候を具現化した存在じゃなくて天候への畏れから生まれた呪霊なんだ。

 

なら当然古代からある荒れ天候を鎮める手段だって能力の一つとして存在する、それも想定して動くべきだった。

ということは、村人を生贄として消費していたのもただの荒神アピールでは無く順当に力をつけるための手段だったか!)

 

「……ふう、褒めて遣わすぞ、髷頭に式神使いよ。

ここまで追い詰めたことも、我を忘れさせたことも、お主らが初めてだ。

 

褒美に、思いつく限りの手段を以て、お主らを惨たらしく殺してやろう

その宣言はまさに死刑宣告だった。

天轟の構えには一切侮りが感じられず、その目は怒りに満ちているのにも関わらず、先程と異なり微塵も我を忘れていなかった。

 

(どうする、どうすれば良い? 僕も東堂先輩も領域崩壊直後の呪霊程ではないが割と満身創痍が近い。

それにスマホを爆破したせいで僕は呪力を増やすこともステータスのアップさせることもできない。

かといって逃げるのも不可能だろう。 命を賭けた縛りですらこいつに届くかは怪しい。

何か、何か打開策は……)

 

真守が悩む間も時間は過ぎて行く、天轟はもう待ちなどしない。

まずは万が一にも逃げられることのないよう、再度脱出不可能の空間へと2人を引き摺り込むことからだ。

挙印を組み、一言をこれ以上ない憎しみを以て発する。

 

 

「領域展『領域展開』

 

 

「「「!?」」」

それは金色の流星群のように現れ、真守達を守るかの様に天轟よりも更に早く領域を展開する。

余りにも一瞬の出来事に真守も天轟も、東堂でさえ呆気に取られていた。

 

ただ、天轟とは違い、真守にはこの乱入者に心当たりがあった。

誰よりも頼りにし、京都校よりも更に長く一緒にいた、来ただけで勝ちを確信するような心強い存在。

 

「……師匠?」

 

「……無事だったか、真守」

 

領域は一瞬で崩壊し、そこから出てきたのは心底安心した様に呟く服がやや煤けた二宮玉枝ただ1人。

 

弥生時代最強の呪霊と現代準最強の術師には、真守達と天轟にある以上の余りにも隔絶した壁があった。

 

「ば、馬鹿な! 天轟様が敗れるなど、あるわけがない!」

 

「あー、貴方たちはそこで何もせずに待機していてください、これから後処理をする人が来るのでそれまで……」

冷めた目で淡々と玉枝は村人達に指示をする。

そこには隠しきれない怒りは確かに存在したが、同時にそれを抑え切る冷静さを玉枝は持ち合わせている。

余計な私情も言葉も挟むつもりは無い

 

「も、もし本当に敗れたのであれば、わ、我々は……もう、お終いだ」

 

「いや、流石にそれは当たり前じゃないですか… …?

 

……いや、これは…」

 

二宮玉枝が目を見開き天轟を相手にする時すら冷静そのものだった思考に焦りが生じる。

 

その時、突如として大幅に地響きが生じ、天轟の領域内にも負けないほどの天変地異が村全体に次々と降り注ぎ、村人達は悲痛な叫びを上げながら我先へと散り散りに逃げ去って行く。

だが、この天災に巻き込まれればおそらくはその殆どが死に絶えることとなるだろう。

 

「2人とも今すぐに逃げろ。 あの呪霊はこの村の骨子を自分の呪力と術式で支えていた、もうすぐこの村は崩壊する

私はまだやることがあるから先に行っといてくれ」

 

「……了解した。 行くぞ真守(マイフレンド)

「そうだね、師匠、また後で」

 

二宮玉枝の簡潔かつ的確な指示により真守も東堂も即座に逃走を選択する。

地割れを軽く避けていき、伊地知潔高が搬送する時に通った道路へと迷わず一直線に向かって行く。

 

「た、助けてくれぇっ!」

 

そんな中、救けを求める声が真守の耳に届く。

見ればそれは真守達が泊まろうとした温泉宿の主人だった。

その体は既に半分以上地割れに飲み込まれかけ、片腕だけで必死に地上へと戻ろうとしていた。

 

この老人も天轟とズブズブの関係であることは言うまでもなく、又いつどこで天災が起こるか分からないこの状況で助けに行くのであれば当然ある程度のリスクを負う事になる。

 

真守は考える、果たして自分がこの老人を助ける義理はあるだろうか、と。

 

(この村の住民はほぼ全員僕達に騙し討ちを仕掛けようとした。

この老いぼれは隠れて自分達にこの村の危険を伝えることだってできたのに、ノリノリで騙しにきていた。

僕らは最早へとへとで、助けるのなら危険を背負う必要がある。

 

 

僕はまだ人一人背負うぐらいならできて、この人はこのままだと死ぬが僕が今助けに向かえば死なずに済む。

 

……よし)

 

真守は足を止めて老人のところへと向かい、その手を掴む。

そのまま一本背負いの要領で安全な道路まで一気に投げ飛ばし、自身は不義遊戯によって東堂の横へと再び戻り、何事もなかったかの様に気絶した老人を抱えながら道路へと走り去って行く。

 

「……真守(マイフレンド)がこの男を助けるとは少々意外だったな。 高田ちゃんも可能性はあるとは言っていたが、それはかなり低いとも言っていたぞ」

そう不義遊戯の対象を直前で老人から真守へと変えることになった東堂葵は呟く。

 

「高田ちゃんって人は僕を知らないはずだけど……

……戦闘中ならそりゃ見捨てていたよ、でも不義遊戯で東堂先輩がカバーしてくれる事も含めて考えたら、助けないという選択肢もあまり良く思えなくってね。

僕はそれよりいきなり師匠がヒーローは遅れてやってくると言わんばかりにいきなり現れたことの方が不思議だったかな」

 

「それは俺が領域展開前の呪霊になるべく多く雷を落とさせるような立ち回りを心掛けたのが原因かもしれないな。

俺たちが任務として潜入したすぐ後にいきなり大量の雷が降り注げば、あの補助監督なら必ずMr.五条かMs.二宮に連絡を入れるだろうと予想した」

 

(成程ね、やっぱり東堂先輩の立ち回りには勉強になるところが多いや)

「そういえば東堂先輩、師匠のやることがあるってなんだと思う?」

 

「幾つか候補はあったが、今の真守の行動を見てほぼ確定したと俺は思う」

 

「?」

 

「師弟は大抵似たもの同士、ということさ」

 

数日後、二宮玉枝の報告書に書かれた死者数は、あれだけの天災に反比例するようにたった数名に収まっていた。

 




天轟:作中で解説された通り、恐怖が薄れて弱体化していった特級呪霊。
  平安時代よりも更に昔から存在しているので実は羂索以上に長生きな奴。
  全盛期の強さは夏油の体の羂索よりもほんの少しだけ弱いくらい。

天候雨月雲我独尊:天轟の領域展開。
        本来は雷を必中にする以外にも結界内の大気を利用したエグい攻撃もできたりしたが、真守達に使った時は怒りで我を忘れていたせいでポテンシャルの1割も発揮できなかった。
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