真に守り抜く 作:しんぴのまもり
前ほどではありませんが少し恋愛要素があるので注意。
その呪霊は狡猾だった。
自身の細長い蛇に似た体を利用し、ほんの僅かなヒビや隙間を這い、根城とする建物を自由自在に移動して窓や呪術師の目から巧妙に逃れていた。
そして偶に肝試しなどをしに来る非術師を喰らっては別の廃れた建物へと引っ越し、少しづつ少しづつ力を蓄え、今では術式と特級呪霊と遜色無い実力を手に入れるまで至った。
しかし、そこで呪霊は欲を掻いた。
調査に来た窓を致命傷を与え油断し、殺し損ねたのが祟り。 奇策を用い逃げ出したその窓の遺言により呪霊の情報は瞬く間に広がった。
しかし、その呪霊『蛇頭龍尾』はこの事態に対しそこまで焦りを覚えていなかった。
かつては恐ろしかった呪術師も、今では自分よりも遥かに弱い存在ばかりだ。
時たま脅威を感じる者も現れたが、いつだってこの体と残穢を断つ術式、そしてボロボロの建造物が自分に味方した。
今回来た変な式神を連れた呪術師は自分に無残に食い散らかされるのか、それともすごすごと蜻蛉返りして泣き寝入りするのか。
その想像に口元を裂けるほどに上げながら、蛇は呪術師が入ってくるのをいまかいまかと見守っていた。
その選択が、彼の運命を完全に閉じた。
◇◇◇◇◇◇
9月2日、僕は一級術師への昇格がかかった任務にて、見つけ出した呪霊を追いかけていた。
「ヒ、ヒイッ! なんで、なんで俺の居場所が分かるんだよぉ!?」
十数回目の発見になる呪霊はそう叫びながら蛇のように這って逃げる。
この呪霊は厄介なことに非常にステルス能力が高く、その上素早さにステータスを多く振り分けているようで地力では勝っているはずの僕はこいつを何度も何度も見失った。
だがラッキーなことに僕はそういう術式への特攻とも言える改造簡易領域を持っているので、いなくなる度にすぐ発動すればまず逃すことはない。
落ち着いて距離を取られすぎる前にこの目に捉え、二宮丸でちまちま傷を与え続ければ必ず先に向こうが潰れる。
そして鬼ごっこも終わりだ。
呪力を足に込め、リズムに乗った走りで脚力をドンドン増やして行く。
次にこいつが逃げ込もうとしているヒビも既に確認済み、後はそこに着くまでに追い付き二宮丸を頭へ振るうのみだ。
悲鳴すら上げれずに呪霊は塵と化し、帳も解除される。
今この時をもって、僕こと二宮真守は一級呪術師となった。
◇◇◇◇◇◇
「丁度良い、二宮、少し時間を貰っても良いだろうか」
翌日、新しい任務から帰ってくると、開口一番に加茂先輩が話しかけて来る。
とくに用事も無かったので首を縦に振ると、加茂先輩はいつも通りの真剣な顔持ちで口を開く。
「今から丁度10日後、東京校との姉妹交流会があるというのは覚えているか?」
「もちろんだよ、確かお互いの学校の2年生と3年生が2日に分けて試合をするんだよね。
去年は確か京都校が勝ったんだっけ?」
「ああ、三年生がたまたま多くいたこちらに軍配が上がり、今年は京都校で交流会を開く予定だ。
ただ現在1つ問題がある。 余り知られていないが、この交流会には最低4人は出場するのが一般的だ。
もちろん物理的に高校に3人以下しかいない場合もあるがな」
「え? でも今の京都校には三年がいなくって2年は3人しかいないよね、見たことすらないけれど4年生に協力を仰いだりするの?」
加茂先輩達以外にも友達が増えるかもしれないことに期待を膨らませるが、残念ながらその願いは叶わないようで、
「いや、基本的に4年生はそもそも学校に縛られず呪術師として過ごすモラトリアム期間に入っている。 これから会う事も殆どないだろうな。
そうなると、残り1人はお前達1年生の誰かが出場することになる訳だが…‥」
と返答する。
……なるほど、なんとなく理解できて来た。
「そして当然、試合形式な以上交流会では呪術師としての強さが求められる。
つまるところ二宮。 私たち2年生の総意としては、お前に交流会に出てもらいたいのだが、構わないだろうか?」
「……分かった。 その話、受けさせてもらうよ」
丁度僕も、自分が今どれくらい強いのかを知りたかった。
東京校の秤金次という術師は、東堂先輩や僕と同じく既に一級呪術師になっているらしい。
しかも噂によれば、その人はこの前僕が嫌というほど追い詰められた領域展開を扱うとも言われている。
彼との試合は、きっと僕をもっと成長させてくれるはずだ。
更に、確か向こうの学校も現在引退やら殉職やらで同じく3年がおらず、2年も秤金次を含む2人しか在籍していない。
ならば僕らのように1年生が代わりに出場することになるのだろう。
そして、向こうが本気で勝ちに来るのなら、まず間違いなく特級被呪者『乙骨憂太』も参戦する。
僕はまだ師匠とはハンデを貰わないとまともに触れることすらできないほど力の差があるが、呪術に触れて数ヶ月の特級術師とならどれくらいの差があるのか、僕はそれを今とても知りたかった。
ただ、叶うのなら、三輪さんやメカ丸、真依さん達とも一緒に出たかった。
そんな願望も確かに僕の中には存在した。
◇◇◇◇◇◇
さて、交流会へ向けてのあと十日、当然何もせず当日まで友達との交流を楽しむだけでは片手落ちもいいところ。
モチベーションとしては成長への期待と友達と出れないことへの失望が相殺されてそこそこといったところだが、当然やるからには全力で勝ちに行くのが勝負というものだ。
今までの日課の訓練を更に強化し、簡易領域をどうにか弄って領域展開を使えるようにならないか実験もしてみる。
そして魂についての造詣も九十九術師の経過報告から更に深め、より一層の……
「……ねぇ、聞いてる? 二宮君」
「ワあぁあぁぁあ!!?」
「そんなに驚く?」
し、しまった。 集中しすぎていたせいで西宮先輩の接近に気づけなかった。
というかこんな触れ合えるぐらい近く接近してるのならミクが伝えてくれるんじゃ……
そう思って横を見ると、この術者の言うことをまるで聞かない式神はまるで知らんぷりと言わんばかりにそっぽを向いていた。
僕が西宮先輩への恋心を自覚してしまったせいでこの前から会うだけで思考が散り散りになることをよく知っているはずなのに、なんて無情な奴だ。
何を話せば良いのか、どんな姿勢で聞けば良いのか、手をどこに置けば良いのか、今までは当たり前に出来ていたことがさっぱり出来なくなる。
漫画を見ていた時は好きになったのならすぐに告白すれば良いと思っていたのに、まさか恋というものがここまで厄介なものだとは思いもしなかった!
5歳だが6歳だかに持っていた師匠への淡い想いとはまるで勝手が違うじゃないか!
「で、話、聞いてもらっても良いよね?」
心の中で密かに悪態をついた僕はさっきまで西宮先輩の呼びかけを無視していたらしく、若干青筋を立てながらも先輩は口火を切る。
「…………良いよ、何?」
「最近二宮君、今までと比べても明らかに働きすぎだと思うのだけれど、ちゃんと休息はとっているのか聞きたいの。
まさか前みたいに黙って自分の身を削って何かをしようと思ってるんじゃないでしょうね」
そういえば最近は趣味に走ったり誰かとカラオケに行ったりほとんどしてないな。
僕はただ試験勉強寸前と同じような気分で交流会へ向けて追い込みをかけてただけなんだけれど……
それが西宮先輩には左腕を無くしかけた時みたいに無理をしているように見えちゃっていたのか。
……友達としての対応なのは分かり切っているけれど、西宮先輩からの心配が今まで以上に嬉しく思ってしまう。
それはそれとして、ずっと心配をかけ続けるわけにもいかない。
そういうわけで僕は慎重に西宮先輩に交流会への意気込みを言葉を選びながら、そして出来うる限り心に響くように語り、先輩も多分それに納得して任務へと向かっていった。
あともう少し、西宮先輩の前で自分の心を落ち着かせる術を身につけないと告白することは難しそうだ。
僕のしたいことがまた一つ増えた。
そしてあっという間に10日間は過ぎ去り、任務も終わった東京校の人達が京都に続々と集まってくる。
「一年振りだな東堂、加茂、西宮。 全員生きてて何よりだぜ。 そいつらが一年か?」
「西宮ちゃん久しぶり! 元気だった?」
と高校生には見えない紫色の髪をした男性、秤金次が屈託なく笑い、その隣にぴったりとくっついている…女性? 男性?が西宮先輩に親しげに話しかける。 この2人が2年生なのだろう、どうやら関係は良好らしく、2人はしばらく先輩達と談笑を続けそうな雰囲気だった。
なら僕も人の輪を広げようと同い年の4人に目を向ける。 こんなこともあろうかと生八ツ橋を取り寄せている僕に死角はない。
「すじこ」
「え、えーっと、初めまして、乙骨憂太です。 今日はよろしくお願いします」
「パンダだ、よろしく頼む」
「…………」
どうやら僕らに負けず個性の強い面々が東京校には入学したらしく、乙骨憂太以上に目を引く人が何人もいる。
すじこの人は呪言師で良いとして、パンダは本当に何?
そして明らかに機嫌の悪そうな人は顔立ち的に真依さんの姉かな、それにしては久し振りの再会だというのに何も会話が出てきてないけれど……
……あれ? というか加茂先輩曰く交流会に必要な人数は4人って言ってたような…
加茂先輩が何か思い違いでもしたのかなと思い先生方の方を見ると、予想外の事態があったかのように動揺し五条悟に掴みかかっている歌姫先生が確認できた。
「ちょっと五条どういうことよ! 1年が基本出ない理由に命の危険が含まれていること、分かっているんでしょうね!?」
「大丈夫大丈夫、真希も棘もパンダも、それにそっちの一年だってみんな優秀だし、僕らが間近で見れるような競技にするからさ。
それに折角の学生生活なんだから、姉妹校との交流は2回より3回の方が良いに決まってるでしょ」
そして五条悟がヘラヘラと顔を歪め何か言い返していたことから、多分無理矢理融通を効かせたのだろう。
これは職権濫用じゃないのかとも思ったが、僕としても全員が出れるのならそっちの方が断然嬉しいから異議を唱えたりはせず、むしろ無邪気に喜ぶふりをして援護する。
「ほらほらどうするの? まさか何時間もかけてはるばる京都まで来たパンダと真希だけを蜻蛉返りさせるつもり? 友情にヒビ入っちゃうなぁ。 入っちゃうなー!(多分入らないけど)」
「グググ……分かったわよ、その代わり、絶対、何事もないように、あんたのその眼で注意を払い続けなさいよね!」
どうやら話は纏まったらしい。
ただ競技の出場人数が4人から6人だったり7人だったりになった訳だけど、道具の用意とかは大丈夫なのだろうか。
「はーいちゅうもーく! これから勝負方法とルールを発表するから、聞き逃さないように注意してね!」
と、いよいよ始まるようだ。
一日目は団体戦らしいけど、実は予定が全然合わなくて3人以上で模擬戦をしたことはほとんどなかったりする。
そんな状況でどこまで連携を取れるか……
不安が渦巻いてくる中、五条悟がウキウキとした表情で口を開く。
「今日行う勝負方法、それは……
山登り!」