真に守り抜く 作:しんぴのまもり
「おい、お前」
交流会の二日目、明け方頃の出来事だった。
日課のトレーニングは終わり、しかし個人戦開始にはまだまだ時間がある、ということで僕は特にやることがなかった。
東堂先輩をトレーニングに誘おうかとも思ったが、アイドルの推し活をしているようだったのでそっとしておいた。
そんなわけで手持ち無沙汰となり適当にぶらぶらと学校を散歩していると、真正面からいきなり声をかけられる。
「……真希さん、であってましたっけ。 やっぱり真依さんのように名字で呼ばない方が良いんですか?」
「ああ、私はその名字が好きじゃないんだ」
「ですよね。 それで、どうかしましたか?
……僕は今暇を持て余してるところですけれど、もしかして貴女もですか?」
「……あ?」
「この時間帯に外にいる人は学生だと少ないですしね」
あくびを無理やり噛み殺しつつも理解を示してみる。
ここで色々と話し合えば、嫌でもお互いのことを知れるはずだ。
余りある暇を潰しながら共通のトークでお互いに打ち解けるわけか、さすが真依さんの姉なだけあって凄く頭が良いな。
ただ、別に僕は話し上手って訳でも無いから、お喋りの相手には不向きだけれど大丈夫だろうか。
ミクもこの時間帯は基本寝てるし、僕1人でよく知らない人と上手く話せるかな。
……よく考えたらミクって式神だし、別に睡眠とか必要ないよな?
「…ちげえよ、それなら武器の手入れでもすればいい。
私は、他ならぬお前と話したかったんだ」
……?
……………。
???
「ほとんど初対面ですよね?」
「ああ、だが私はお前のことを知っている。
入学して半年足らずで一級術師になった天才肌、変わった式神を自由に扱う異才の術師、色々と話は聞いたことがある」
「……僕はどちらかと言えば秀才タイプだと思いますけれど」
「……そうだな、それはこんな時間帯からトレーニングをしているぐらいだし、実際その通りだろうな。
だが、別にそこは今重要じゃねえ。
真依の同級生なことと、禪院家の行方不明者かもしれないこと、私にとって重要なのはその二つだけだ」
……………。
「仮にそれが事実だとしたら、何ですか?」
「パッと見た感じ、真依と仲は悪く無いようだが、それが逆に不気味極まりねえ、と言ってるんだ。
真依は禪院家の奴らに長い間酷い目に遭わされていた。
お前が禪院出身なら、真依はお前をもっと忌避するはずだ。
答えろ、お前は何者で、真依とどういう関係だ?」
なるほど、ようやくどういうことか分かってきた。
多分この人は自分の妹のことがただただ心配なだけなんだろう。
なんだ、真依さんがやたら悪し様に言っていたからどんな人だろうと少し緊張していたが、普通に良い人じゃないか。
……しかし、困ったな。 どんな関係か、と聞かれても友達以外の答えは無いけれど……ただそれだけでは、この人は納得してくれないんだろうな。
それどころか下手な答えを返せば最悪この人はここで僕をボコボコにしようとしかねない。
おそらくこの人にとっての真依さんは僕にとってのミクや師匠なのだろう。
そうなったらこの先東京校の人達との関係がギクシャクしてしまうかもしれないし、慎重に言葉を選ばないと。
「……僕は禪院家の人間でしたけど、真依さんの友達です。 少なくとも、そう思っています」
「……そういうのなら、どうやってお前は真依と親しくなった?」
「おや、2人ともこんなところでどうしたのだ?」
「「………!?」」
僕が口を開こうとしたその瞬間、狙っているとしか思えないような絶妙極まりないタイミングで、加茂先輩は背後から声をかけてきた。
それにより僕の考えていた台詞は見事に雲散霧消してしまい、その場の空気も良くも悪くも一変する。
「……?」
そんなことを露ほども知らない加茂先輩は訝しげな仏頂面を浮かべたままだ。
その様子には流石の真希さんも緊張が穴が空いた風船のように抜けていったようで、
「……チッ。 今日の個人戦、そこで答えを聞く」
と宣言して客室へと戻っていった。
……結局これから1、2時間ほど、何をしながら過ごそうか。
「……んがっ。
……おはようマスター! 綺麗な朝日だね!」
◇◇◇◇◇◇
「えー、間も無く、個人戦についての説明が始まります。
両校生徒は、昨日の集合場所へと集まるように」
そのアナウンスを聞いた僅か5分後にして全員が揃うという快挙を達成した僕達は、思い思いの立ち姿で歌姫先生の話を聞く。
その横には東京の学長からのチョークスリーパーを受けている五条悟がいるが、先生も学長も一切目を向けようとしない。
どうやら怪我人が出るのをわざと見過ごしたことで大目玉を食らったらしい。
「団体戦と同じく個人戦もルールはごく単純。
半径10mのリングの中でのタイマンをトーナメント式で行うことになるわ。
当然殺しは禁止、気絶、場外、降参のどれかで勝敗は決まる……けれど、もしあまりに度の過ぎた行為が認められたなら、失格とみなす場合もあるから注意しなさい。
対戦相手は特級の乙骨憂太をシード枠とし、それ以外はくじ引きよ」
なるほど、どこかで見たことのあるようなオーソドックスな試合形式か。
ただ、いくらなんでも東堂先輩と三輪さんとかが戦っても勝負にならなそうだけど……
「そして、全員に優勝のチャンスを与える為、相手より級が1つ高くなるごとにこれをつけて貰うわ」
そう言うと歌姫先生は横にある段ボールから腕輪のようなものを取り出す。
「さて、これが何かというと……ッ〜〜〜〜〜!!!!」
その時うっかり手が滑ってしまったのか、落とした腕輪は足の小指にクリーンヒットし、その下の床は深くめり込む。
「……あれ絶対痛い奴だよね」
「うずくまることも叫び声もあげることもないのは流石歴戦の呪術師ね」
「で、でも今のであれがどんなのか分かりましたよ!」
冷静に感想を述べる西宮先輩と真依さん、三輪さんの気遣っているけど煽りに聞こえるセリフの3つに聞こえていないフリを貫きつつ、先生は説明を再開する。
「い、今示したとおり、この腕輪はある術式によって本来以上の重さを備えているわ。
その重さ、1つ毎に60kg。
つまり、仮に四級術師の禪院真希が特級術師の乙骨憂太と戦う場合、乙骨憂太は実に360kgの重りを抱えて戦うことになるわね」
……てことは、準二級、準一級も1つの級として数えるのか。
「これで説明は全部よ。 早速だけれど名簿順にくじを引いてちょうだい」
そうして僕らは特にトラブルもなくくじ引きを引き終わり、組み合わせは以下のようになった。
第一回戦 メカ丸 VS禪院真希
第二回戦 二宮真守VS パンダ
第三回戦 秤金次 VS禪院真依
第四回戦 東堂葵 VS星綺羅羅
第五回戦 西宮桃 VS 三輪霞
第六回戦 加茂憲紀VS 狗巻棘
シード 乙骨憂太
「それじゃあ、10分後に第一試合を始めるわ。
それまでウォーミングアップをするなり心を落ち着けるなり、各々自由に時間を使ってね」
この間僕は特にやることは無かった。
ウォーミングアップは数時間前に済んでいるし、戦いの前に心をわざわざ落ち着けるのに時間を使うタイプでもない。
それは先輩方も同じのようで、その顔には特に緊張やら何やらの感情は読み取れない。
一方三輪さんや乙骨憂太は何度も深呼吸をしていて、見るからに緊張しきっているようだ。
そして真依さんは真希さんの方をジロりと睨みつけている。
見た感じかなりややこしい感情を持っていそうだし、関係が更に悪化しない限りは口出しはしない方がいいのかな。
「……では、禪院真希、究極メカ丸、両名武舞台に上がってください」
審判モードに入った歌姫先生が二日目の開始を宣言する。
この試合は一戦目ながらもかなり重要な戦いだ。
あの重りや試合のルールがどれくらい勝負に影響するのか、それは準一級のメカ丸と四級の真希さんが真っ向勝負をするこの戦いでよくよくわかるはずだ。
たっぷりと間を保った後、歌姫先生は片手をおもむろにあげ、声を張り上げる。
「試合、開始ッ!!」