真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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東京京都姉妹校交流会 2日目②

 試合のゴングが鳴ると同時にメカ丸は即座に左手を前に向け、

大祓砲(ウルトラキャノン)!!」

 

とリング全体を覆う呪力砲を放ち、リングの外に出られない真希さんは一瞬でその光の中に飲み込まれていく。

 

 

「……流石に痛えな」

 

……が、煙が晴れた時、真希さんはやや煤けていたもののかすり傷の範囲で収まる程度の怪我しか負っておらず、感想を言えるぐらいに余裕があった。

 

「これで済めば楽だったガ、やはり仕留めきれなかった、カ」

 

何故準一級術師のメカ丸の砲撃をまともに受けて、軽傷で済んでいるのか。

その答えは単純で、真希さんの真後ろ、つまりメカ丸の射線上に三輪さんがいることで、メカ丸が最大火力を撃てなかったからだ。

もしメカ丸が通常砲撃の大祓砲(ウルトラキャノン)ではなく、最大火力の三重大祓砲(アルティメットキャノン)を撃てていればこの時点で決着はついていただろう。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

だが、実際にはそうはならず、そう叫んだ真希さんは間髪入れず目をギラギラと輝かせながらメカ丸に襲いかかった。

 

「ッ!? 剣山盾(ウルトラシールド)!」

 

メカ丸も近距離モードで応戦していくが、予想以上の真希さんの素早さと慣れない重りに翻弄され、なかなか思うように動けていない。

 

……というか真希さんのあの動き、流石に四級術師の枠を外れすぎてないか?

身のこなし、呪具の扱い、攻めへの切り替えの早さ、どれを取ってもそこらの呪霊が勝ちうる要素がない洗練された動きだ。

 

僕はさっき、級ごとに一つ増える重りが、その等級差をどれくらい埋められるか、それがこの試合で分かると思っていた。

だが、真希さんの実力は明らかに等級を逸脱している上、メカ丸は初手でダメージを与えることができず近距離戦に持ち込まれ、更に240キロの重りが攻撃手段のほぼ全てを担う両腕にのしかかっている。

 

これだと重りの重要性もほとんど分からないし、いくらメカ丸でも勝つのは厳しいと言わざるを得ない。

 

 

 

……が、産まれてからずっと自分の呪いと向き合い続けているメカ丸が、このまま終わるというのも考えにくい。

 

「……どうだ? 降参するか?」

あちこちにヒビの入ったメカ丸を見ながら、真希さんはそう呟く。

ノイズが入り、動きが鈍っていくメカ丸の姿に居た堪れないという気持ちが出たのか、それとも、単に時間の無駄だと断じたのかは分からないが、ともかく真希さんは勝利を確信しているようだ。

 

「……いいヤ、まだ戦えるということになっていル」

 

「……そうか、修理費嵩んでも文句言うなよ!」

 

そう啖呵を切ると真希さんは、姿勢をぐっと下げ前屈みになった状態で、薙刀を体幹と平行にして構える。

おそらく狙いはメカ丸の核となる部分、メカ丸の本体からの指示を受け取る司令塔の部位。

そこに自分と一体化させた薙刀を突き刺し、戦闘不能とするのだろう。

 

殺しは禁止だが、術師の使う呪具……つまり、機械のメカ丸を壊すだけなら、歌姫先生も失格にはできない。

そう考えると、とことんこのルールは真希さんと相性が良く、メカ丸と相性が悪いと言えるだろう。

 

「………………………」

「………………………」

 

数秒の間、両者はピクリとも動かず、じっと気を窺う。

メカ丸からすれば機能停止になる程の損傷を与えられるわけには当然いかないし、真希さんからしても勝負をつけるつもりの一撃、絶好の間合いで穿てずカウンターを受けてあわや逆転負け、なんてことは絶対にさせたく無いだろう。

 

「…………! 今だな!」

 

「………やはりそこだったナ!!」

「!!」

 

真希さんがメカ丸の頭部の部分へと飛びかかり串刺しにしようとしたが、メカ丸は上腕に生やした無数の刃、剣山盾をその間にガッチリと食い込ませることに成功する。 動き自体は真希さんの方が遥かに俊敏だったが、どこを狙ってくるかをメカ丸は完全に読み切っていた。

雁字搦めにされた薙刀は、もう押すことも引くこともできない。

 

メカ丸はその状態のまま口を開けて呪力を溜め、真希さんの顔の前につき出す。

最初の射出と違い、今度は至近距離からしっかりと気絶に足る呪力を放出できるだろう。

 

「終わりダ」

 

「……いいや、まだだ!」

「ナッ!?」

 

だが、発射されるよりも前に、メカ丸の頭部が両手でむんずと掴まれる。

メカ丸が腕で薙刀を止めた以上、当然真希さんの腕もメカ丸に届き得る。

 

「オラァアアアア!!」

 

そのまま真希さんは腕力だけでメカ丸の頭をメキメキと押し潰し、無理矢理呪力の発射をせき止める。

地面に足をつけてすらいないのに、何という馬鹿力だ。

 

……しかし、

 

「……残念だガ、本体の俺の指示を受ける部分は、頭部ではなく心臓ダ。

お前のように、勘違いする奴も多いがナ」

 

そうノイズ混じりの声を上げ、残った片手で真希さんを跳ね除ける。

更にその際、メカ丸は真希さんの眼鏡を狙って場外へと放り出した。

 

これで真希さんはメカ丸の砲撃が見えず、遠距離から連射されれば打つ手は無いだろう。

 

そう、僕は確信していた。

 

…………だが、実際には、遠距離の攻撃手段を持っていたのはメカ丸だけではなかった。

 

メカ丸の胸には、暗器であるクナイが深々と突き刺さっていた。

 

「……最後の最後に、油断してしまったカ。

機能停止、ここまでだナ。

 

俺の負けダ」

その言葉と同時に、メカ丸の眼から光が切れる。

完全にショートしてしまったのだろう。

 

…………あまり、気分の良い光景じゃない。

僕のどこかが、ひどく痛む。

 

「……ハッ。 お前がご丁寧に解説してくれなきゃ、負けていたな。

おかげで、何とかこの試合に決着をつけられた。

 

負けた後、ボロボロのまま保健室であいつの話を聞くなんざ、ダサすぎてごめんだからな」

 

そんな自嘲混じりだが、悲壮感は全くない呟きが、僕の耳に届く。

人を殺した時には決して出ないその声のお陰で、僕はすぐに我に帰る。

 

「第一試合勝者、禪院真希!」

 

歌姫先生の宣言と共に、家入さんとあの呪詛師が無駄に綺麗なフォームでリングの中に飛び入る。

……そういえば、僕あの呪詛師の名前を知らなかったのか。

 

5月ごろ、僕達と呪詛師と呪術師として出会い、僕が命を取ることを躊躇ったこと、こいつが知っていることを全て話したこと、そして治癒に使える術式を持っていたことによって死刑にならず医療係に任命されたそこそこ嫌な奴。

僕が知っているのはこのくらいだ。

 

もう数ヶ月も経っているのに、名前を知る機会が無かったな。

 

「おっ、見ろよ憂太、棘。

硝子さんと亀永千尋が待機していたみたいだな。

瀕死の重症を負ったとしても次の試合までに戦えるように治療するために」

 

亀永千尋、か。

聞いたことのない苗字だし、本当に呪術界とは関係ないところから生まれた呪詛師だったんだろう。

 

…………そんな一般呪詛師が知っていること全てを話したとして、それだけで処刑を免れることなんて、本当にできるのだろうか?

あいつはまだ、何かを知っているような気がするな。

 

「じゃあ真希さんはすごい怪我だけど、大丈夫ってことだよね?」

 

「しゃけしゃけ」

 

「ああ、数十分で完治するはずだ。

棘だって喉の治療時間はたったの40分だったろ?」

 

「第二試合、パンダ、二宮真守、両名武舞台へ!」

 

「お、そういえば次は俺だったな。

そんじゃ行ってくるか」

 

「……頑張ってね、パンダ君!」

 

そうか、次は僕の出番か。

真希さんがあんなに必死で勝ちをもぎとろうとしたんだから、僕もしっかりと勝ち切らないとな。

 

試合のリングへと歩を進めながら、腕に重りを3つ着ける。

確かな負担を感じるが、飛んだり跳ねたりができないほどでも無い。

 

向かい合い肩幅程度に足を広げ、曲を流しながらじっと相手を観察する。

パンダもまた、僕を油断なく見つめ、ファイティングポーズを取る。

 

「……試合、開始!!」

 

「くらえ!パンダラーーーッシュ!!」

 

歌姫先生の掛け声と共にパンダは僕に連続ラッシュを打ってくる。

呪力の差から持久戦は不利だと判断したのだろうか。

 

とはいえ流石に準二級術師に負ける一級術師は存在しない。

万が一殺してしまうかもしれないので抜刀はせず、慎重に避けるべき拳を見極めて捌き、隙を見てアッパーカット。

 

「ぐっ……いや、流石にまだ気絶するわけにはいかねえな。

真希だって、最後まで諦めなかったからこそ勝ったんだからな。

 

お前もそう思うよな?」

 

これでパンダは気絶する……と僕は思っていた。

 

だが、流石パンダというべきか、ギリギリのところでパンダは膝をつかずに踏み止まり、啖呵を切る。

そしてパンダらしくもなく、ムクムクと体が大きくなって、その目は紫色に染まる。

 

…………??????????

 

呪骸だとしても、この変化はおかしくないか?

 

「……あの、貴方、本当にパンダなんですか?」

しまった。

思わず戦い中なのにも関わらず、困惑のあまり相手に話しかけてしまった。

ま、まあこんな疑問が脳裏によぎり続けていたら真面目に戦えないから、ここは一度質問をしてスッキリしておくことで……

 

「いいや、今はゴリラだ。 パンダはパンダじゃないからな」

 

??????????????????????

 

「…………どういうことか分かる? ミク」

 

「……これは私にもちょっと分からないかも」

 

「! 呪力が乱れたな、激震掌(ドラミングビート)!」

 

ミクが曲の詠唱を中断した隙をついて、パンダは僕に腕を振りかぶる。

流石に避けれはしなさそうだけれど、それでも防御は十分間に合う。

 

冷静に脇腹を膝を上げて守って……

 

 

「…………!? ゴボッ」

 

何だ? いきなり何か口から……これは、まさか血か?

それにこの感覚、どこかの内臓に骨が刺さって……

 

このパンダの術式か何かか?

いや、だとしたら試合で使うにしてはあまりにも危険すぎる……

 

「おい、だ、大丈夫か? 俺の激震掌(ドラミングビート)は内部から攻撃するんだが、何か内臓系の持病でも持っていたか?

 

とりあえず医務室行こうぜ、死んだら元も子もないぞ?」

 

内部から攻撃……

身体の内側を揺らす打撃……

骨が刺さった感覚……

 

…………あ、そういえば、昨日の交流戦で……

 

◇◇◇◇◇◇

 

策の決壊に気を取られた真守の胴体に、ついに里香の平手がクリーンヒットする。

山から飛び出てもおかしくない威力だったが、幸運なことに遅れて来た真守の体力はまだ残っている。

そのお陰で吹っ飛び切る前にたまたまあった御神木のように馬鹿でかい大木に捕まることで何とか完全な戦線離脱を免れる。 

しかし、この状況で一級術師の肋骨がベキベキにへし折れ一瞬でも動きが止まる事は当然大惨事に直結する。

 

 

『一級術師の肋骨がベキベキにへし折れ』

 

◇◇◇◇◇◇

 

「……ミク、そういえば、交流戦の後、僕治療してもらっていたかな」

 

「……あの後、1日目の交流戦が終了して、後始末に先生達が駆り出される中、私達は狗巻君以外は一旦自分の部屋に戻されていたはずだね」

 

「……うん、間違い無いね。

 

これ僕、今も肋骨が折れたままだ」

 

「骨折を痛みごと忘れるか? ふつー」

パンダの呆れ切った一言が、リングにこだました。

 




亀永千尋

呪詛師の本名。
パンダから名前呼びされないくらいには性格が悪い。
人殺しを楽しむほどの下衆ではないけど軽い人の不幸を楽しむくらいにはクズ。
倫理観はあっても道徳心は少なめ。

羂索に対しての忠誠心は自分の身の安全を優先するぐらいには低い。

一応術式と呪術師としての資質、医療技術は高いので、これからは人命を沢山救うことにもなるだろう。

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