真に守り抜く 作:しんぴのまもり
この血反吐の理由は判明した。
問題はどうやってここから勝つか、だ。
数分で決着をつければ、きっと命に関わるようなことにはならないだろう。
だから勝ち方としては……パンダの正体が意味不明だから、場外へと飛ばすのが良いだろう。
二宮丸……は使えないな。 殺傷性が高すぎるし、今の状態では手加減が上手くできない。
となると、これ、かな。
「……無刀 シ゛ン・陰流 簡易領域゛」
手刀を刀に見立てて、ギリギリパンダが入らないくらいの簡易領域を展開する。
ゴポ、と僕の口から不穏な音が漏れるが、まだ致命的な感じはしない。
「……本気でやるのか?
また俺の激震掌を食らえばお前、再起不能になってもおかしくないんだぞ?」
そう宥めるかのように話しかけてくるパンダは、見るからに及び腰だ。
少し卑怯だが、この人?がこんなふうに後手へと回るのも……作戦の内だ。
一撃でも食らえば危険。
それは確かだが、僕は一撃も食らわずに勝ち切る策をたった今思いついた。
「問題ない、です……ゴボォッ!!」
「うお!?」
まず、肺から逆流して、口の中にたっぷり溜まった血を……パンダの眼に、吹きかける!!
一瞬意識が飛びかけたような気がしたが、死にはしないから問題はない。
痛みに慣れてなければ気絶していたかもしれないほどの激痛が胸に襲いかかるが…気合いで我慢する。
痛いものは痛いが、今の僕ならこれも成長の一環として受け止めるのも、不可能じゃ……ない!
「シン・陰流…簡易、領域……拡゛大」
日下部師範代の得意技、簡易領域を展開した後から範囲を拡大すれば、無理やり相手を有効範囲に引き摺り込める。
そして、目眩しをされたパンダにはそれに気づく術はない。
ここが最初で最後のチャンスだ、力を振り絞れ!!
「……ッ抜ッ刀゛!」
「うおっ!? ふ、踏ん張りが…….!!」
範囲内に入ったパンダに、渾身の手刀と衝撃波を食らわせた。
これでパンダを場外にまで吹っ飛ばせていなければ、僕の負けだ、もう策はない。
と言うかもう意識も9割ぐらい無い。
身体を自力だけでは保てなくなっていくのがよく分かる。
二宮丸をリングに突き立て、意識が落ちていくのを感じ取りながら、倒れゆく体の受け身を最後の力でなんとか取る。
「……勝者、二宮真守!」
そんな言葉が、薄れゆく意識の中、こだましていった、ような気がする。
◇◇◇◇◇◇
「よっと、じゃあ急いで治すよ、亀永」
二宮真守を担架に乗せ、2人は小走りで医務室へと突入する。
どんな重傷だろうと次の試合までに治しきりリングへ投下するべく、メスを注射器を正の呪力を、各々の両手に構えて治療を開始する。
「それにしても真守君も随分と無茶をしたものだね、内臓に骨が刺さるって普通なら致命傷だよ」
「やっぱ最前線の呪術師は私達と比べてもなお馬鹿みたいにタフなんだろうね。
とりあえず骨を摘出して、血が致死量に至るほど流れ出ないうちに治すよ。
重要なところは私が治すから亀永、あんたは細かいところの止血を」
なんの意味もない無駄口を叩きながらもテキパキと慣れた手つきで手術を敢行する。
「分かった、止血だね……んー、んー……。
……あれ?
硝子ちゃん、ちょっと……」
「……ああ、そっちもか」
その最中、2人は同時にあることに気がつき、手を止める。
「やっぱり、私の経験不足が原因の疑問じゃないよねこれ」
そう亀永がつぶやいた後、またしても同時に2人は口を開く。
「「…………傷が、治りかけている」」
その身体からは、ほとんど血が止まっていた。
◇◇◇◇◇◇
……知っている天井だ。
確か、あの呪詛師……亀永だっけ、とそこまでしたくなかった再会を果たしたところもここだったかな。
「おお、起きたかい。
今は加茂家の嫡男と狗巻家の末裔が戦い始めるところだよ」
……起きるまでにかなり時間経ってるじゃないか。
「そうなんですね……とりあえず、その前の三戦について詳しく話してください、誰が勝ったんですか」
そう尋ねると、亀永千尋はニヤニヤとした表情で答えてくる。
「えー? 別に良いけど、君とその式神ちゃんの2人なら、勝敗の予測ぐらいつくんじゃない?
駄目だよー、何でもかんでも人に聞くようじゃ……」
「分かりました、家入さんに聞きます」
別にこいつに聞く必要はないとこの場を離れようとしたら、慌てて口を開き出す。
「待った待った、分かったよ話すよ」
余計かつ腹の立つワンクッションを入れないでほしい。
まず君の次……禪院家の子とダブった人……秤君だったかな、の戦いだね。
……まあ、流石に勝敗は言わずとも分かるだろう。
銃弾も構築術式のブラフも重りのハンデもほとんど意味をなしていなかった。
最終的に禪院家の子から降参を選んで試合は終了したよ、領域展開すら使っていなかった」
「……なるほど、まあそうなるでしょうね。
それはそれとして、その『禪院家の子』の名前は真依さんです、しっかり覚えてください」
「えー、面倒くさいなあ。
……ん? 加茂家の嫡男には反応しなかったのに禪院家の子には反応するのかい?
ははーん、数ヶ月前は早合点したが、さては君が好きなのは……」
「真依さんは自分の苗字が嫌いなんですよ」
というか、何でも惚れた腫れたの話に繋げないでほしい、自分の気持ちに気づいた今だと結構不愉快だ。
「はは、冗談だよ、だって君が好きなのはあのちんちくりんの……悪かった、徐に術式を起動しようとしないでくれ。
次はあのキラキラしたギャルみたいな子とムキムキマッチョの……東堂君? の戦いだね。
何というか、大分相性の悪い戦いだったね。
キラキラした子の術式、一瞬で看破された上にあの子が呪力でマーキングしたところに東堂君が入れ替わりまくるものだから、ほとんど勝負にならずに気絶させられていたよ。
やっぱり一級と準一級の差って激しいよねえ」
どうやら東堂先輩は順当に勝っていたらしい。
多分東堂先輩は乙骨憂太と当たるまでは勝ち進むだろう。
これに関しては意外でも何でもないし聞くことも特に無いので次に移る。
「……そして、西宮先輩と三輪さんの試合でしたよね。
西宮先輩に180kgも重りが付く事になるわけですけど…どうなったんですか?」
「そう、君の大好きな西宮先輩に……悪かった、悪かったって……うわ! 刀を抜こうとしないでくれ!」
いやまあ、本気で斬りかかるつもりは無いけれども。
本当に野次馬根性というかしつこさの塊というか……とても好きにはなれない性格だ。
というかミクがさっきから一切僕の中から出てこない。
どうやら最近は話すのが面倒臭いと思ったら徹底的に居留守を使うことを覚えたらしい、相変わらず式神とは思えない性格をしているな。
まあ、もしミクが式神らしい命令に忠実な人だったら僕は今ごろここにいないんだけども。
「で、その西宮ちゃんだけど、やっぱり初めの方は大分苦戦していたね。
箒の動きも鈍いの何の、浮き上がるだけで精一杯だったよ」
……まあ、西宮先輩、筋力自体は呪術師にしては少ないからな。
近接行動主体の三輪さん相手では、少し厳しかったか……
まあ、三輪さんが格上の呪術師に勝てたということを喜ぶべきなのかな。
「……けれど、もう片方の青髪の……そう、三輪ちゃんの戦い方も不味かったね。
気絶させて勝とうとしたんだろうけど、3回くらい西宮ちゃんが箒を支えにしつつも峰打ちに耐え立ち上がって来てから一気に動きが鈍くなっていった」
…………。
「おや、少し目を輝かせたね。 そんなに憧れの先輩が魅せてくれたのが嬉しかったのかい?
まあ、それから段々と西宮ちゃんの動きは重りに慣れて鋭くなり、そして代わりに三輪ちゃんの動きは試合とはいえ先輩をめったうちにすることへの罪悪感で鈍くなっていったんだよ。 その後お互いに決定打がなく十分ほどジリジリと押し合いつつも、最後には隙をついて西宮ちゃんが場外に吹き飛ばしたよ」
……やっぱり西宮先輩は凄いな。
後輩の前だから良い所を見せたい、というのもあったかもしれないけど、それでも、西宮先輩は呪術師としても優れた人なんだろうな。
「……さっきから君、その先輩……というかクラスメイトの子たち対して友情の他に尊敬の念を抱いている目をしているけど、まさかその子のこと盲信したりしてないよね。
人には誰だって欠点はあるものだよ?
例えば私は美形で強くて頭も良い完璧人間に見えるかもしれないけど、なぜか昔から周りに人が集まらなくてね……」
途中からは戯言が混じり出したが、急に亀永千尋は心配をするかのような口調で忠告してきた。
別にそれくらい僕も知っている。
というか、別に盲信してるって訳でもない。
西宮先輩がたまに語る女性呪術師の辛さについては1番身近な該当者が師匠なので別にそこまでピンとは来てないし、いつも語っている可愛いの基準もよくは知らない。
同じようにみんなの主張には(ううんどういうことだ)と心の中でなるような時もたくさんあった、あったが、それでも一つ僕にも言えることがある。
「……欠点が無い人なんていないってことくらい、理解できてます。
僕がみんなのことを大切に思っているのは、入学したての頃ほとんど何も知らなかった僕を色んな側面から手助けしてくれた恩、そしてその時、心から感じられたみんなの性格を好ましいと思ったからですよ。
その後に、みんなの短所……というか独特な価値観も分かってきましたが、それでも、その時に芽生えた好感を消し去ることなんてできませんでしたよ」
「……そうかい、まあ、それが友達という奴なのかもね。
羨ましいね、信頼できる人がいるのは。
……お、そろそろ決着が着きそうじゃないか」
その言葉によってリングに目を向けると、赤燐躍動で身体能力を底上げした加茂先輩が狗巻君を場外に落としていた。
やっぱり御三家の次期当主なら、呪言の対策はバッチリだよね。