真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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遅くなりました。


真守と天与

「禪院真希、二宮真守、両者、前へ!!」

 

歌姫先生のその宣言を聞いて僕はリングへと歩を進め、重りを5つはめる。

流石に300kgともなると動きにも多少影響が出るが、それでも飛んだり跳ねたりができないほどでも無い。

それどころか肋が完全復活した事によって、パンダ戦の時よりも調子が良いかもしれない。

 

一方真希さんは警戒してるような姿勢で、薙刀を肩に担ぎながら僕を待ち受けていた。

やっぱり不信感が拭えてないのだろうか。

 

「……さっきのお前の試合、よく観察させてもらった」

近くにいる僕にしか聞こえないような音量で、ぽつりぽつりと話しかけてくる。

 

「その結果、私はお前がもっとよく分からなくなった。

戦っている時のお前の顔は、間違いなくあの禪院家の奴らと同じだったのに、お前が倒れた時、そっちの奴らは全員お前のことを大なり小なり心配していた」

 

そうだったんだ、凄く申し訳なくて凄く嬉しい。

 

「私にはまだ分からねえ。

お前は、一体何者なのか、血が繋がっているだけで、あのクズどもとは全く違う奴なのか、それとも今お前のしている表情はただの上っ面で、本性はただの下衆野郎なのか。 それは……」

 

「試合、開始!!」

 

「あの時のお前の表情、それを間近で見りゃあ分かる、それが私の出した結論だ」

 

そう静かに宣言すると同時に、真希さんは僕に飛びかかり、素早く薙刀を突き出してくる。

 

一歩横に動いて避けると、そのまま雨霰のように連撃を繰り出してくるので次々と避けて、ギリギリのところで足払いを仕掛ける。

 

「ぐっ……この野郎!」

 

即座に立ち上がって5、6……9回の刺突を素早く放ってくるので、更に一歩後ろに避ける。

重りのせいで素早く大移動ができないので、二宮丸を使わないのなら最小限の動きで避けるしか無い。

そうして隙を窺っていると、真希さんの目はどんどん鋭くなっていく。

 

そして20秒ほど避け続けたあたりでついに……

 

「テメェ! 何で本気でやりやがらねえんだ!

パンダを場外に吹っ飛ばした時はもっと鋭い眼をしていたじゃねえか!」

 

しまった、そういえば真希さんは僕の性格の切り替わりを知らないじゃないか。

 

ミク曰く、ミクに教えてもらった知らない人への敬語口調、師匠との生活で自然とついていた親しい人へのタメ口、禪院家由来の敵への冷たい口調の3つが意識しないうちに切り替わっているんだっけ。

真希さんの言っているのは禪院家由来の口調だろうけど、嫌いでも無い相手に有利な状況でそんな目を向けるなんて出来る訳がない。

 

「落ち着いて真希さん、信じてもらえないかもしれないけど……」

 

「うるせえ! さっさと本気を出しやがれ!」

 

駄目だ、こんな状況で真希さん相手にダラダラと説明する時間を取るなんて不可能だ。

 

「じゃあ何か僕を怒らせるようなこと言ってみてよ! そうすれば多分あの性格を出せるから、それを見れば…」

 

その訴えが真希さんにどんな感情を抱かせたのかまでは読み取れなかったが、兎も角言葉の意味自体は伝わったようで

「……怒れば、か。 今の私じゃ本気を出すまでもねえ、そういうことか?」

 

そう真希さんは呟く。

 

まあ、それはその通りだ。

真希さんはとても四級とは思えない強さだが、それでも一級術師に勝てるほどではないというのは、現在は覆せない事実だ。

 

でも、そんなことを言ったところで今すぐ真希さんが強くなる訳でもない。

何より今重要なのは、僕が性格を切り替えられるかどうかや真希さんが強いかじゃなく、真希さんから信用を勝ち取ることだ。

 

「かくなる上は、この前編み出したみんなの戦い方の良いとこを組み合わせて作りあげたコンボ技を出すしか……」

 

「必要ねえ」

僕のグッドアイデアは一瞬で否定された、悲しい。

 

「……一瞬で良いんだ、一瞬でもあの時の顔を間近で見れたら、私の動体視力ならあいつの表情から性根を読み取れる」

何かを真希さんは思案するような表情を見せ、僕にも聞こえないような声でぶつぶつと何かを呟く。

 

今の隙だらけの真希さんを場外に叩き落とすことは簡単だけど、それをやると二度と埋まらない溝が生まれることは想像に難くない。

 

とりあえず次の曲を再生して術式をリセット。

そのまま足を小刻みに動かして呪力を更に増やしていく。

何をする気かは分からないが、とりあえず真希さんの次の行動が終わったら一旦決着をつけよう。

 

「っし! いくぞオラァ!」

 

!! 来たか。

 

まず最初に真希さんは何をしてくるのか、ミクと2人分の視線でよく観察……自分の武器を真っ二つにへし折った!?

 

しまった、まさかここでリーチの有利を捨てるとは思わず、完全に動きが止まってしまった。

 

ど、どうやら飛び道具を使うようで、刃のついてない方を投げつけながら距離を詰めてくる。

初動が遅れたせいで避けるよりもキャッチする方が早くなったので、とりあえず左手で受け止めておく。

 

「危なかった……!?」

 

「オラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」

 

「なっ、っと、と……!」

 

間髪入れず真希さんはその制服のどこにそんなに仕舞っていたんだろうかと思うぐらいの数え切れない量の苦無を投げつけてくる。

右へ左へと体を動かして避けるが、流石に近づいてくる真希さんから距離を取る余裕は無い。

 

ここに来て合計300kgの重りが効いてきている、本来なら地面を蹴り飛ばして距離を取るという簡単な行動が瞬時に取れない。

 

「食らいやがれぇ!!」

 

そして、ついに真希さんの薙刀は僕の芯を完全に捉えた。

これは今の僕では避けることはできない……なら、受け止めれば良いだけだ。

 

振り下ろされた薙刀を、右手に力を込めて力づくで押し留める。

手のひらで全体を掴むのではなく、刃の側面を引っ掴めば怪我の心配もない。

 

「……、これで、終わりだ!」

 

……しかし、どうやらここまでが真希さんの策だったらしく、勝利宣言をされる。

僕は左手と右手に真っ二つになった薙刀を持っていて両手が塞がっているが、真希さんはまだ片手が残っている……つまり、得物を使う余地があった。

 

あれは確か……屠坐魔、という名前だったかな。

真希さんが躊躇いなく左手で突き刺そうとするあれは、とても避けられそうにない。

 

 

 

……それを理解した瞬間、僕の意識が変わっていくことに気づいた。

 

やっぱり僕は禪院家の血を引いていて、まだ完全にはその頃の性質を捨て切れていない。

その事を嫌でも理解し、顔が自己嫌悪で歪むのがはっきりわかる。

 

 

 

 

 

 

二宮真守は自分から屠坐魔へと体を動かし、その時に体の位置を調整する事で内臓を避ける。

プツリと体が裂ける音がするが、真守にとって脇腹を刺されるのはこれが初めてではない。

 

真守には東堂葵のように山勘で刺される場所を察知することは出来なかった。

が、痛みにより刺された場所を捕捉し、その場に素早く呪力を込め、傷を軽傷に留めることに成功する。

 

(数ヶ月前、師匠が同じような事をしていたな)

 

故に痛みは軽く、過去に脇腹を刺された経験も味方し、眉ひとつ動かさずに腹筋を入れながらその手は腰の柄へと向かう。

 

(……目の色が変わった! いよいよこいつが本気になる!)

何かが不味い、そう判断した禪院真希は全力で仰け反り身体中のバネをフル活用してその場を離れようとする。

 

……が、真守の体を蹴って飛び退る時、既に真守は二宮丸を引き抜き終わり、真希の胴体へその刃を迫らせていた。

 

「ガッ……」

 

刀身で薙刀と苦無を千切りにし、峰で足を腕を顔を胴体をタコ殴りにする。

たったコンマ数秒で勝負は決し、真希の体は場外へと吹き飛んでいった。

 

(……しまった! やりすぎた!!)

 

「だ、大丈夫真希さん!? ごめん、加減が効かなくってつい……」

 

「……構わねえよ。 本気でやれと言ったのも、先に重症を負わせたのもこっちだ、責めたりなんかしね、え……」

 

驚いた事に、禪院真希は全身に打撲痕を作りつつもまだ意識を保っていた。

が、流石に重傷だ。 言葉を紡ぐ余裕すら無く、ストンと座りこんだその姿勢すら億劫そうだ。

 

「し、勝者、二宮真守!」

 

一瞬遅れて状況を把握した歌姫が勝者を宣言すると同時に、スタイリッシュな動きで医者組が飛び込み、真希を医務室へと運び込んで行く。

 

(……これは、答えを聞くのは、また先送りになるのかな)

 

◇◇◇◇◇◇

 

「二宮君大丈夫!? カワイくない短剣がお腹に刺さったみたいだけど!?」

 

「うん、見た目よりも傷は浅いしどうということは無いよ」

控え室へと帰るや否や、西宮先輩が駆けつけてくる。

加茂先輩と東堂先輩は東京校の人達となにやら話に行ったらしく部屋には居らず、三輪さんと真依さんは次の試合に出なくても良いので治療を後回しにされ、未だ医務室だ。

そしてメカ丸は壊れちゃったので、今の部屋には西宮先輩しかいなかった。

 

「そ、そう……なら良かったわ。

たかが試合で痕が残るような傷を負わないでよね。

 

いくら傷が男の勲章と言っても、つきすぎたらカワイく無いわよ?」

 

「たかが試合といっても、真剣に勝ちを狙わないのは不誠実だよ。

 

それに西宮先輩だって三輪さんに勝つのにかなり無茶をしたって聞いたし、おあいこだよ」

 

「はあ……まあ、一理なくもないわね。

 

じゃ、そろそろ私行くから。

はっきり言って東堂君に勝てる気は全くしないけど、二宮君の言う通り最後まで足掻いてみるわ」

 

そう苦笑して、西宮先輩は控え室から出て行った。

 

そして入れ替わりに、亀永千尋が入ってきた。

良い気分だったのに台無しだ。

 

「…………何か、用ですか?」

 

「そんな嫌そうな顔しなくて良いじゃないか、睦まじい語らいに水を差さなかったことに感謝して欲しいくらいなんだけどね。

 

さっき君と戦っていた……そう、真希ちゃんから伝言を預かってきたのさ。

だいぶズタボロな上に治療が後回しだから今日また会えるか大分怪しくてね、なんでもどうしてもさっさと伝えておきたかったらしいよ」

 

……やっぱり、切羽詰まってたし峰打ちにしたとはいえ、鉄の棒でボカスカ殴るのはまずかったな……

せめて朝食で食べ残してた筍とかにすべきだったよね。

 

……さて、真希さんは結局僕を認めてくれたのだろうか。

禪院家に寄った時の僕の顔を見て判断をすると言ってたけれど、あの時の僕はどう見えていたのか、自分でも分からない。

 

「一言で言うと認めるってさ」

 

「……本当に、そう真希さんが言ってたんですか? 認めるって」

そんなあっさり認めてくれるとはすごく意外だな。

 

「うん、『お前の眼は禪院家特有の下衆な眼とは少し違うように私は思った。

お前には、敵意や殺意は兎も角、悪意は全く感じられなかった。

敵対的な目を向けてた私に対してそうなら、真依にはまず何もしないと、とりあえず信じる事にする。

だが、もし真依に何かしたと聞いたら京都まで行って絶対にブッ殺してやるからな』ってさ」

 

「絶対に一言で済ましてはいけない内容でしたよねそれ」

やっぱり全然信用ならないなこの人。

とりあえず、真希さんからの信頼はなんとか勝ち取れたらしい。

この調子で東京校の人とも仲良くなれればもっと生活が楽しくなりそうだ。

 

「まあまあ、次は君の西宮先輩の番だよ。

一緒に観ようよ、ポップコーンとチュロスもあるよ?」

 

「みんなを治しに行ってください」

 

さて、西宮先輩は東堂先輩とどれだけ戦えるか。

頑張って欲しいけれど、無理はしないでほしい。

 

そんな2つの思いを抱えながら、僕は試合観戦を始めたのだった。

 




加茂憲紀
狗巻におにぎりをいくつか差し入れしに行った。

東堂葵
乙骨達に好みのタイプを聞きに行った。
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