真に守り抜く 作:しんぴのまもり
(ああもう! やっぱり東堂君はそうするわよね!
真守君にはああ言ったものの、実力差を抜きにしても私と東堂君って相性最悪なのよ!)
初手で箒を不義遊戯で奪い取られ慣れない近接戦を挑まなくてはならなくなった西宮桃は、そう心の中で激しく愚痴る。
(分かっていたけど、東堂君と私じゃ素の身体能力も呪力強化の度合いもレベルが違う!
少し前に黒閃を経験してなきゃ、東堂君に100kg以上の重りがかかっていなければ、間違いなく私は初手で場外に叩き出されていたわよね!)
ギリギリで致命打を避け、防御よりも回避に専念し、攻めを捨てて必死に今一瞬を負けない為だけに体を動かし続け、それでも身体には鈍い痛みが募っていく。
「……驚いたな、西宮。
お前がここまで耐え抜くとは、やはり愛する人が出来る事はその者に対し、良い影響を与えるものなのだな。
そう、俺にとっての高田ちゃんのように」
攻め手を止めて、東堂葵は唐突にそう語りかけてくる。
「は? 何言ってるの? 今私が負けていないのはこの前黒閃を出したからよ」
当然、西宮桃にとってはこんなゴリラに自分の恋愛事情を語られるのは不快でしかなく、ぶっきらぼうに冷淡に言葉を返す。
「確かに今お前が負けていないのは、お前が強くなったからかもしれない。
だが、以前のお前なら、その実力があったとしても既に降参していたはずだ。 違うか?
同じように、
つまり! お前と
「……一つ言っておくわ東堂君。
乙女の心に、ズカズカと、踏み込んで、来るんじゃないわよ!」
これ以上この繊細な話題を深掘りさせてたまるか、その思いが西宮の体を突き動かす。
会話を無理矢理打ち切った西宮桃は、渾身の握り拳を東堂の顔にぶつけるが、東堂は微動だにしない。
「だが、次に乙骨が控えているからな。
その
そう言って東堂葵は、西宮の服の裾を引っ掴んで場外へと放り投げる。
箒を奪われた西宮桃は、何も出来ずに場外へと落下していくしかない。
「っ、こ、の……!
負けて、負けてたまるかっての!
あ、ああああああああああ!!」
「……勝者、東堂あお……」
それを見た庵歌姫が決着を宣言しようとしたその瞬間……
「待って! 歌姫先生!!」
場外へと叩き出された筈の西宮桃が、声を上げる。
「……どうしたの、桃。
もう勝負は……」
「よく見てよ、歌姫先生……
場外の判定って、身体のどこかが地面についたら、だったでしょ……?」
「…………!!」
その小さな背中は、地面からほんの数cmだけ離れた、宙に浮かんでいた。
「このいつもの黒ワンピースも、着始めてもう大分経つのよね……
付喪操術、思い入れの深い、大切に長く扱った物を自由に操れるじゅつしき。
今の私なら愛用した時間が数年間でも、ワンチャン術式の対象に出来るかもって、最近そう思ってたのよ。
本当に賭けだったけれど、上手く行ったみたい、ね!」
そう言うと同時に、西宮桃は空高く舞い上がる。
そう、西宮桃は、服を操る事で、箒を使う事なく翔ぶことに成功したのだ。
「それに、これならさっきと違って入れ替えられて移動手段を奪われるなんて事にもならないわ。
……東堂君、流石に華の女子高生に、そんな事はしないわよね?」
先程東堂は不義遊戯で箒の位置を入れ替える事で西宮桃から飛行能力を奪った。
だが、今同じ事をするのなら、それはすなわち西宮桃のワンピースを剥ぎ取り、その下着姿をこの東京校も教師陣も見守るこの場所で晒させる事になる。
いくら試合といえども、お互いに軽くない怪我を負わせるつもりで戦っていても、体ではなく尊厳を傷つけるのは、普通人としてのブレーキがかかる。
東堂葵は人の話を聞かないし認めた相手との存在しない記憶を一瞬で捏造する異常者だが、流石にその選択に待ったを掛ける程度の理性は存在した。
西宮桃は、場外の空を更に舞い箒を回収し、再び上空へと昇る。
何故箒をわざわざ拾ったかというと、服を操っても風を吹かす事はできないので、箒がなければ東堂の場外を狙うことはできないからだ。
「!!」
当然
「やっぱり、そうくるわよね!」
が、流石に空中戦では自由自在に四肢を動かせる西宮の方がほんの僅かに動きで勝り、東堂葵は地面に叩き落とされる。
直前で不義遊戯を使い場外は免れるが、確実に東堂葵の身体には痛みが走っていた。
(……まさか、西宮がここまでの成長を見せるとはな。
さて、どうする東堂葵。
空中戦は不利、地上では一方的な攻撃。 どうすればこの状況を乗り越えられる?
まさか、西宮の呪力切れを待つ他無いのか?
だがそれをすると、俺も次の試合では戦えなく…)
(本当に?)
(た、高田ちゃん!)
その時、東堂葵の脳内に突如高田ちゃんが出現する。
(あの西宮ちゃんの術式、よく見えてる?)
(ああ、空を自由自在に飛びながらの一方的な攻撃。
単純だが対処法の非常に少ない作戦だ。
その上、服を操る事で擬似的に身体を動かし本来以上の身体能力を今の西宮は得ている。
ある意味強敵だ)
(そうだね、確かに手強い相手だね。
けれど、もう一度今の西宮ちゃんに目を凝らしてみて。
さっき一か八かって言ってたように、服に呪力を込めるのは初めての経験みたいだよ。 自分の体全体に遍く呪力強化を施すことでしか、服に呪力を通すことができていない。
そして、今西宮ちゃんが服の他に身につけているものと言えば……)
(ツインテールに使っているヘアゴム!!)パチコーン
ここまで約0.01秒である。
パァン!と再び音が鳴り、ヘアゴムと入れ替わった東堂葵は完全に西宮桃の背後を取る。
「えっ……!? っ、ま、前髪が目に……!!」
この最高の好機を、もちろん東堂葵は見逃さない。
「フンっ!!」
両手を組んでハンマーの形にし、西宮桃の頭に叩きつける。
初動の遅れも相まってその一撃を耐え切る耐久性はどこにも無く、西宮桃は意識を失いながら再び場外へと落ちていった……。
◇◇◇◇◇◇
「う、うーん?
私は……そっか、負けちゃったのね……。
箒なしで宙に浮けた時は勝ちを確信しかけたんだけど……現実は厳しいわね」
数分も経たず、西宮先輩はパチリと目を覚ました。
頭に痛みこそ残っているものの、医療チームの治療もほとんど必要ないぐらいの軽傷で治まったようだ……そのことに一安心し、僕こと二宮真守はホッとひと息を吐く。
「やっぱり東堂先輩、手加減上手いよね。
意識を失うけれど跡は残らないくらいの絶妙な力加減で殴ったらしいよ」
そう話しかけると、西宮先輩は少し悲しげな顔をこちらに向ける。
「二宮君……ごめんね、こんなカワイくない姿見せちゃって」
今の西宮先輩は、前髪が解け腕や足になど目に見えるところにも青痣がつき、おまけに幾つか無骨な包帯が巻かれている箇所がある。
確かに西宮先輩にとってはこんな姿、絶対に後輩に見せたくないカワイくない衣装だろう。
顔の傷も男なら勲章、女なら欠点と言ったのは西宮先輩本人だったかな。
……けれど、ボロボロになりながらも全力で勝ちに行き、結果こうなったのだと知っていると、すごく良い姿に映るのは僕だけだろうか。
「……今の西宮先輩も悪くないと思うよ。
いつものカワイイを追求してお洒落をしている姿もすごく素敵だけど、今の最後まで全力で立ち向かった末のその姿も、僕は良いと思う」
「……変わった趣味ね。
……二宮君の価値観って私と大分違うところがあるけれど、一緒にいて嫌とはならないの?」
「前にも言ったかもしれないけれど、僕は西宮先輩の思想や信条関係なく、その面倒見の良くて頼れるその性格が好きなんだ。
まあだから、僕としていても楽しくない話は、よっぽど重要な時以外はしなくて良いんじゃないかな」
「……そう、ところで二宮君、その好きって、どう言う意味の……」
「水を差すようだが失礼、急患だ」
また亀永千尋が来たかと目を向けると、そこにいたのは家入さんとボロボロになって担架で運ばれている加茂先輩だった。
「……加茂先輩!? な、何があったんですか家入さん!
あの加茂先輩がここまで重傷になるなんて…」
加茂先輩は爆発力は無いがムラのない堅実な強さを持った人だ。
その術式『赤血操術』は近中遠全てに対応でき、加茂先輩自身も御三家での教育と本人の頭の回転の早さを持つ、将来一級術師になるのはほぼ間違いない優秀な術師だ。
その加茂先輩が、こんなにズタボロに……
「君も知っているだろう。
加茂憲紀の相手、その階級とデタラメな強さは。
もう少し加減してくれると私の仕事が楽になるんだがな」
ため息を吐きながらも家入さんはそう答える。
そうだった、加茂先輩の相手はあの特級術師、乙骨憂太だったか。
「それもただの乙骨憂太じゃなくて、あの折本里香を完全に制御し切った乙骨憂太だ。
準一級術師になったはずのこの子が、たった一撃で吹っ飛んでったよ。
正直、相手が悪かった以外の言葉が見つからないね」
「……ちなみに、怪我の度合いは……」
恐る恐る家入さんに確認してみると、
「それは問題ない。
命に別状は無いし、後遺症も今から適切に治療すればまず残らないだろうな」
それは良かった。
もし加茂先輩が殺されていたら、僕は不可能と分かっていても乙骨憂太を殺しに行ってたかもしれない。
「それはそれとして、次は君の番だろう?
行かなくて良いのかい?」
そういえばそうだった。
次の相手は秤金次、お互いに一級術師なのでハンデ無しの戦いになる。
領域展開を使うらしいけれど、果たしてどんな感じなのだろうか。
「じゃ、行ってくるね西宮先輩」
「……ええ、しっかり勝ってきて、その先が東堂君か乙骨君かは分からないけど、そいつにも一発かましに行っちゃいなさい!」
「うん、任せといてよ!」
そう応え、さっきとは逆に僕は西宮先輩に送り出される。
まずはこの試合に勝たないと始まらない。
領域展開には簡易領域で対応して、呪力強化の差で押し切ってやる。
「二宮真守、秤金次! 両者、前へ!」
僕と秤金次はリングの上へと上がり、相手の姿を油断なく見つめる。
パンダや真希さんとは次元の違う強さが、立ち姿から既に伝わってくる。
だが、僕だって同じ一級術師、遅れを取ってたまるものか。
「試合、開始!!」
合図と同時に、僕達はその拳を全力でぶつけ合った。
西宮先輩2度目の覚醒イベント。
西宮桃以外の京都校もこれから強化していく予定。