真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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真守と熱②

「ねえ真依ちゃん、私達はいつまでこの試合を観なきゃいけないのかな。 流石にもう疲れちゃったよ私」

 

「お互いの術式から長期戦になるとは思っていたけれど……まさかここまでとはね、交流会中じゃ無かったら、インスタでも見て時間を潰すのだけれど」

 

「やるな真守(マイフレンド)……あの秤相手に反転術式を使えないにも関わらず持ち堪えている」

 

「本当に凄いなあ二宮君も秤先輩も……僕も頑張らないと」

 

「そうだな、しかも2人ともまだまだ成長の余地があるんだからなぁ」

(……憂太はあの2人とその他大勢相手に暴れた里香を制御できるようになってるんだよな)

 

「いくら」

 

「金ちゃん頑張れー」

 

 上からそれぞれ観客席の西宮、真依、東堂、乙骨、パンダ、狗巻、綺羅羅の台詞である。

 メカ丸、三輪、加茂、真希の4人は重傷なのでまだ保健室だ。

 

 勝負開始から3時間経過、今尚2人の一級術師は激闘を続けていた。

 

 秤金次も二宮真守も、条件を満たす限り術式により呪力が無限に供給されるので、呪力切れという概念はあってないようなものだ。

 その上どちらも生半可な痛みでは気にせず突き進む上、秤は自動で反転術式を行い、真守は回復力を上げる事で数十分かけてダメージを帳消しにする。

 その為、小競り合いでは戦局は傾かない。

 

 出力だけで言うなら秤が二宮を大幅に上回るが、二宮は2回目の領域展開以降、秤金次の攻撃には二宮丸で受ける事で身体にダメージが入ることを防いでいた。 

その二宮丸は一級呪具を特級術師二宮玉枝が愛用し続け、呪力を染み込ませ続けた事で強度の非常に高い打刀がさらに錬磨され、呪術界有数の強度を持つ。 いかに秤といえども数百回打ち込む程度では壊せない。

 

 ならば後は気力の勝負だが……

 これもまた、双方共に一歩も譲らない。

 

(……まずいな、このままじゃ千日手だ。

どうにかして勝ち切らないと、一日中……いや、一ヶ月は続くぞこれは)

 

 当然ながら真守はこれに対し強く焦りを覚える。 負けず嫌いの気はあるものの、別に戦いに価値を見出してる訳ではないのだ。

 何とかして状況を変えないと、今年の交流会によくないものを残す。 それは何としてでも避けたい。

 

「ハッ! どうした二宮ァ! もうへばったかぁ!?」

 

「っ、まだ、まだぁ!!!」

 

 秤と真守の間に実力差があるのなら、反転使いの術師を倒す方法……脳を狙う、毒を喰らわせるなどの対抗策を取れるのだが、むしろ大当たり中の実力は秤金次が大幅に上回っている。 二宮丸の存在によって均衡が保たれているこの状況、真守は千日手と考えたが、このまま戦い続けるのならいつかは秤金次に軍配が上がる。

 斬撃と打撃の応酬。 鞘や鍔で正確に受け止めなければ、拳は刃に真っ二つにされても勢いを止めずに治し殴ってくるため、基本的に真守は秤のボーナスタイム中は防戦一方だ。

 

 そしてまた4分11秒が過ぎ去り、秤の手が掌印を組みにかかる。

 

(ここだ! ここしか僕の勝てるタイミングはない!!)

 

「領域展か……」

 

「しゃあっ!!」

 

 30回以上の領域展開により、完璧に真守はどのタイミングで秤の不死身が終わるのかを理解した。

 印を組み終わり結界を発動されるよりも前に、二宮丸が素早く秤の腕を両断し、即座に秤の胸を峰打ちで打ち飛ばす。

 

 ────黒閃

 

 しかし、秤金次は笑みを崩さない。 そしてあろうことか、血飛沫迸る左腕で腹に挙印の形を迷い無く描いていく。

 本来であれば海を司る自然呪霊『陀艮』が渋谷事変にて使う手だが、あれは呪霊にしか使えない訳ではない。

 欠損した腕を擦り付け、ショック死してもおかしくない激痛を気に留める仕草も見せず、呆れるほど正確に印は描かれ───

 

「領域展開」

 

 真守はまたしても、領域の中に取り込まれる。

 

(……なんて奴!)

 

 ギリリと歯軋りをしながらも大当たりを出される前に仕留めるべく、半ば無駄だと察しながらも真守は駆け出す。

 秤の前回の大当たりの図柄は1、つまり奇数な為、次は大当たりが確定している。

 つまり、真守はリーチがかかり、結果が出るまでの僅かな時間で秤金次をノックアウトしなければならない。

 

 唯一の救いは、大当たりでないのなら術式をフルに発動した真守の全力は秤のそれを大きく上回ることだろうか。

 術式により動体視力、反射神経、拳の強度、その他諸々が時間が経過するごとにグングンと上がっていく。

 

 秤の拳を回し蹴りで砕き、足を二宮丸で刎ね飛ばす。

 

 金色のシャッター扉を寸前で避け、首に手刀を叩きつけ、意識を奪おうと試みる。

 

 これには秤金次もたまらず、身体がふらつき地に倒れ──

 

「続行!!」

 

 その一言で擬似連が発動し、倒れた秤がガラスのように割れ新品ホヤホヤの秤が現れる。

 

(これだ! これが勝ちきれない最大の原因だ、いくらやってもこれさえ発動して仕舞えば元の木阿弥になってしまう!

これがあるから、領域内での勝利はほぼ不可能、何とかして大当たり中に場外に出すしか道はない!!)

 

 あっという間にリーチがかかり、瞬く間に大当たりが起こり座標がズレた領域はリングの中に2人を配置する。

 

「ふう、お前はすげえよ二宮。 こんなに戦いが長引いたのは初めてだ。

 

 ……だが、そろそろ終わらせようぜ、熱は熱い内に……だ」

 

正しくは鉄は熱い内にである。

 

「お前も分かってんだろ? 今はまだ初めての長期戦に興奮し、熱くなれてはいるが……このままじゃ冷めた試合になる。

 

 そこで、だ。 今からお互いに、術式無しでやり合わねえか?」

 

「……詳しく聞かせてください」

 

「言ったとおりだ。 俺は今から領域を展開しないし、パチンコ玉もシャッターも擬似連も使わねえ。

 代わりに、お前も呪力や身体能力を増やさねえし腕も伸ばさねえ。 俺にはザラついた呪力質があるし、お前にはそのバカみてえに硬い刀がある。

 

 これならイーブン……むしろお前の方がやや有利だろ?」

 

「何でそんなことを……? このまま普通に戦い続ければ勝つのはまずそっちじゃないですか」

 

「言ったろ? 熱は熱い内にだ。 

 ……それに、リスクのねえ博打なんて有り得ねえだろ」

 

「……貴方は、凄い人ですね」

 真守は、勝ち負けを捨ててでも自分の熱に従う秤に、一種の敬意すら払った。

 

 秤の提案は、その気になれば消音で音楽を流し、術式をステータスにのみ適用すれば、バレずに破ることのできるものだ。

 

 だが、正々堂々とした戦いを正面から挑まれたのなら、フェアな戦いを望む精神は真守に存在する。

 何より、秤の熱くまっすぐな視線は、戦いに意味を見出さないはずの真守の心を揺さぶった。

 

「分かりました、術式を使わずに殴り合いましょう。

 

 ……ただし、僕は二宮丸を使わない。 フェアな戦いにしよう。

 更に、お互いに短期決戦になるよう、こんなのはどうかな」

 

 続いて真守は舞台を思いっきり殴りつけ、呪力をリング全体に込め、術式を発動する。

 するとみるみる内にリングが狭くなっていき、半径1メートル程の円にまで縮小する。

 

「……拡張術式か?」

 

「そう、リングに術式を付与し、『狭さ』を振動によるリズムで増やしてみた。

 

 とても難易度の高い拡張術式だったけど、今後同じことをする時は二つの口を使う詠唱と四つの腕を必要とする掌印の2つを必須にするという『無理難題の縛り』で何とか成立させられた。

 後数秒でお互いの術式も解ける。

 

 思う存分、ぶつかり合おう」

 

「ハハッ、良いじゃねえか! 今日お前という奴に出会えて良かったぜ!!」

 

 術式が終わると同時に、2人はお互いへ飛びかかり、再び拳をぶつけ合う。

 痛みもダメージも気にせず、真正面からの勝利を求めて肉弾戦を続け、鉄製のリングにヒビが入っていく。

 

「オラオラオラオラオラオラアァアアア!!!!」

 

「ガ、アア、ガァアアアァアアアアアァ!!!!」

 

 お互いの裂帛の叫びが試合会場全体を揺らし、その手を血に染める。

 

 どちらが先に倒れてもおかしくない状況の中、勝敗を分けたのは…やはり出力差だった。

 

 ────ただし、天秤は低い方に傾いた。

 

 秤の足元が、崩れる。

 高出力で呪力を込めた足で同じ位置に踏ん張り続け、一歩も引かずに戦い続けた結果、遂にリングが保たなくなったのだ。

 

「マジかっ……!」

 

 もちろん、真守はその隙を見逃しはしなかった。

 いや、本人は最早何が起こっているのか分かってはいないだろう。

 相手に勝つ機会が見えた。 それだけを理解し、愚直に、全力で正拳突きを繰り出す。

 

 ────黒閃

 

 今度こそ、完璧に入る。

 当然領域を展開すれば負けはしないが……秤金次がそれをするわけもない。

 

「はっ、やるじゃねえか……。

 最っ高に、熱かったぜ。 二宮真守」

 

「どう、も!」

 

「勝者、二宮真守!!」

 

 自分がつけたハンデが原因での敗北する。 字面だけ見ればなんとも間抜けに思えるその結果は、しかし両者に深い満足感をもたらしていた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ふっ……流石だな真守(マイフレンド)。 お互いに全力を出し尽くした、退屈しない見事な試合だった。

 

 さて、お前も俺を退屈させるなよ?

 

 ……乙骨憂太!」

 

「……よろしくお願いします!」

 

 一方その時、観客席からは2人の男が立ち上がっていた。

 

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