真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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純愛と拍手 そして

 

「試合開始ッ!!」

 

「里香ちゃん、力を貸して」

「あ゛い」

 乙骨憂太は掛け声と同時に折本里香を呼び寄せる。

 東堂葵が戦った2試合を観て、自分の力のみで勝つのはほぼ不可能と乙骨は判断した。

 

(早速使ってくるか! だが、今回はリングの中での試合、この前とは勝手が違うぞ)

 

 乙骨は名も無き刀に里香の力を込め、東堂に真希直伝の体捌きを見せながら切りかかる。

 だが東堂葵もまた一般家系でありながら在学中に一級になったハイセンスゴリラ、図体に見合わない俊敏な動きでかわし、間合いの内側に潜り込む。

 

「里香ちゃん!」

「ゆう゛だに、ちかよ゛るな゛」

 

 右拳が当たる前に、刀から折本里香がズルリと這い出でる。

 巨大な白い掌が東堂の拳を受け止め投げ飛ばし、既に場外に飛ばされたはずの東堂に4割程の顕現をして追撃にかかる。

 

 だがそれこそが東堂葵の狙いだった。

 折本里香が乙骨憂太から一瞬でも離れる事こそが、東堂の想像した乙骨憂太に勝つシチュエーションへの第一関門だ。

 

「フッ!」

 

 不義遊戯で自身と折本里香を入れ替える。

 

 里香は即座に状況を把握し、愛する人を守るため即座に反転して後を追う。

 不義遊戯の効果を前日の戦いで知っていた乙骨は、里香が反転するよりも早く刀を構え、東堂葵からの攻撃に備えようとした。

 

 更に早く、東堂は2回目の不義遊戯を発動。 先の西宮桃との戦いによって東堂は不義遊戯の対象の拡大に成功している。

 新しくできた入れ替えの対象の基準は、呪力の質が同じであることではなく、物理的に繋がっているか否かに変わる。

 西宮桃のヘアゴムと入れ替わったように、乙骨憂太の高専服と入れ替わり、背後からダブルスレッジハンマーを叩き込む。

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

「乙骨、お前は俺よりも強くなる呪術師だ。 呪力量、術式、センス、どれもが一年でありながら俺を上回っている。

 やはり俺の見込んだ通りお前は俺を退屈させない男だ。

 ……だが、唯一まだ、俺がお前に勝っていることがある。 それは────

 

 戦闘経験の差だ」

 

 そう宣言し、不義遊戯で刀と入れ替わり横拳を入れる。

 不意打ちに驚きつつも、乙骨は反撃に移るが、その攻撃の全てを東堂葵は次々と躱していく。

 防御に回ったのならガードの薄い部位を叩き、回避しようとしたのなら不義遊戯で距離を詰め、反撃するならカウンターを入れる。

 武の練度に於いてのみ東堂葵は乙骨憂太を上回り、それにより攻撃を受けなければ、当然負けることはあり得ない。

 

「ゆうたぁ゛!」

 

 勿論そんなことをすれば呪いの女王は黙っていない……が、女王もまた技量とは縁遠い呪霊だ。

 事実、先日の戦いでも守りに重点を置いていない東堂でさえ彼女はほとんど捉えきれていなかった。

 予備動作の大きいスイングを余裕を持って回避するぐらいのことは東堂葵にとって訳ない。

 

 続いて刀を拾い直した乙骨憂太の間合いの内側に再び入り、右手をフェイントにした左腕での掌底を叩き込む。

 場外に落とさせない為カバーに入った折本里香と入れ替わり、さっきまで自分のいた所に乙骨を蹴り飛ばす。

 

 目論見通り里香と激突した乙骨に追撃をかけるべく、里香と入れ替わる……と考えた乙骨はとっさに後ろを向きカウンターの構えを取るが、その身体は瞬きすると宙に浮いていた。

 東堂は不義遊戯に対応してくる頃合いを読み切り、乙骨憂太と入れ替わっていた。

 

「ゆう゛た!? ゆ、ゆ゛うた゛あ!!」

 

「させんよ、呪いの女王」

(さて、乙骨。 まさかこのままでは終わるまいな?)

 

 焦り、早くコイツを退けて憂太を助けようと大振りになる折本里香の攻撃を東堂は正確無比な動きで的確に妨害する。

 どんな相手だろうと自分のペースを崩さず、その場その場で考えうる限りの最善手を打つ、ベテランの術師らしい堅実かつクレバーな立ち回りだ。

 

 乙骨憂太に空中で身動きを取る術が無いのならば場外負けは免れない。 

 だが、現代の異能がこのまま終わるなどあり得るのだろうか。

 

 疑問と期待がないまぜになりつつも、東堂はことの成り行きを見守る。

 

 東堂葵に何かミスがあったとするなら、IQ53万の頭脳を持っても、最善手を打ち続けてなお、乙骨憂太の成長曲線は測りきれなかったということだろうか。

 

(僕は殆どこの人の戦略に抗えなかった。 きっと、何年も何年も血を吐くような修練を積んだんだ。

呪術を学んで数ヶ月の僕じゃ、経験値を生かした戦い方では勝てない。

 

でも、ここで勝ちを諦めるようじゃ、里香ちゃんの呪いを解くなんて夢のまた夢だ。

五条先生は、呪力を精密に操り、少し先の、強くなった自分を想像しろって言っていた。

今の僕なら、それが出来るはずだ)

 その乙骨の決意に、底無しの才能は否応なく応え続け、その口には狗巻家の呪印が浮き出でる。

 

『ぶっ飛べ』

 

 本来ならば、この頃の乙骨憂太はメガホンで呪言を使っていた。

 人を呪えば穴二つ、呪言には代償が伴うが、メガホンを使えばそのダメージをメガホンに肩代わりさせられる。

 だが、メガホンの見た目により呪言の使用を看破される可能性を見越し、乙骨は敢えて自分の口で呪うことを選んだ。

 

 乙骨憂太はこれまでの戦いで一度も模倣の術式を使っていない。

 どれだけ頭が良くとも、何も無いところから考察を組み立てることは決して不可能だ。

 

 故に、対策をしているかどうかで大きく効き目の変わる呪言はこの戦いでは特効である。

 

「……完敗だな」

 

「勝者 乙骨憂太、決勝進出!」

 

 ダメージこそ負っていないが、東堂葵の体は明らかに場外にあった。

 特級術師、乙骨憂太が現代の異能と呼ばれる所以を見せつけられた一戦だった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「さて、ではここで一旦30分の休憩を挟むわ。

 

 乙骨憂太、二宮真守両名は、決勝戦でベストコンディションを保てるように時間を過ごすこと、以上」

 

 東堂先輩が負けた、実際にそれを見た今でも信じられないが、正面から受け止めないといけない事実だ。

 

 きっと二宮真守…つまり僕が先に乙骨憂太と戦っていても、同じ結果になっていただろう。

 

 ……正直言って、今までに戦ったどんな相手よりも勝ち筋が見えない。

 師匠と模擬戦をしていた時でさえ、一泡吹かせるくらいのイメージはできていた。

 

 他人の術式を模倣できる術式を相手をするというのは、その術式を持った術師全員を同時に相手するようなものだ。

 その上呪力は底無し、本人の精神力も申し分ない。 多少の小細工を弄しても勝てる相手じゃない。

 

 ……とは言っても弱音を吐いても始まらない。

 攻めの手数だけなら僕でも対抗しうる、相手の術式を見てそれに対応するステータスを上げれば良い。

 1番の問題は、僕が乙骨憂太に対抗できる長所は数あれど、凌駕する点は経験値のみだと言うことだ。

 そしてそれを僕以上に利用できる東堂先輩は不意打ちありきとはいえ敗れてしまった。

 

 本来ならこういう時は知恵を巡らせるものだが、僕はあまり策を考えるのは得意じゃない。 

 何事にも向き不向き、適材適所があるのだ。

 ということで頭脳担当に相談することにした。

 

「ねえミク、何か作戦とか思い浮かばない?」

 

「んー……ごめんマスター、あの2人に対してはさっきから色々考えてるんだけど、なーんか頭が回り切らない感じなんだよね。

 

 私は今までの1000年以上続いている呪術の常識から情報から作戦組み立てるタイプだからねー、あの呪霊が今までの情報と比べて全然釣り合わなくって、自立思考回路がバグを起こしている感じがするよ。

 多分、あの2人の関係を何か読み違えちゃってるんだろうけど、それがなんなのか……」

 

 何を言ってるのかさっぱりわからないけれど、どうやらミクは珍しく作戦を考えるのに悪戦苦闘しているらしい。

 残り僅かしか時間がない以上、このままミクに頼り切りになるのは好ましくない。

 

「うーん、本当にどうしようか、師匠は今任務中だって話だし、ここは東堂先輩に相談するべきか。

 でも今東堂先輩は怪我が本当にないかの検査中だしな……」

 

 本気で頭を悩ませていたその時、突然耳元に声が響く。

「おイ、結局決勝戦はお前と乙骨になったのカ?」

 

「うわっ!?」

 

 慌てて周りを見回すと、斜め前にやたらと大きい蜂のようなモノが、ふよふよと浮かんでいた。

 

「その口調、もしかしてメカ丸? 確か真希さんにスクラップにされたんじゃ……」

 

「度重なる激戦で頭が混乱しているようだナ。

 当たり前だガ、俺はあれだけしか子機がないわけではなイ。

 スペアなんてこれまでの16年でいくらでも用意できるサ」

 

「ははあ……成程、こんな小さい子機を作れるとは知らなかったよ。

 

 そうだメカ丸、これから決勝戦で東堂先輩でも勝てなかったあの乙骨憂太と戦うんだよ。

 でも勝てる未来が全然見えなくってさ。 何か良いアイデアは無い?」

 

「う、うム……。 そうだナ……。

 ……1つ、思いついた策があル」

 

「本当!? 東堂先輩も負けたんだよ」

 

「当然、お前の実力や戦闘経験を最大限利用する必要があるし、アドリブが要る可能性も大いにあるがナ。

 最大限上手くいっても成功率は一割と言ったところダ、すまんが失敗したら大人しく負けロ」

 

「一割」

 

「このまま戦っても負け戦ダ、リスクを取らないと勝てなイ」

 

「分かった、その作戦を聞かせて」

 

◇◇◇◇◇◇

 

「やるじゃねえか憂太、あの東堂に勝つとはな」

 

 その頃、乙骨憂太はようやく意識を取り戻した禪院真希と話していた。

 

「うん、けれど凄く強い人だった。 決勝に上がった二宮君は、あの人よりも強いのかな。

 真希さんはあの人と実際に戦っていたよね」

 

「どうだろうな。 あのゴリラ程の強かさは持ってないが……私をぶっ飛ばしたときや金次を場外に文字通り叩き出した威力を見る限り、地力だけなら上回っていてもおかしくねえな。 

 だが、多少の搦手は使えても戦略を立てれるタイプじゃねえ、憂太ならむしろ東堂よりも与し易いだろうな。

 地力って話なら、特級術師のおまえに勝てる奴は学生にはいないだろ?」

 

「そう、なのかな…?」

 

 率直な意見を述べる真希に対し、乙骨は少し不安げな様子を見せる。

 まだまだ経験不足というのもあり、自他の力の差を正確には測りきるのに難航しているらしい。

 

 その事を気配から察知した真希は、もう一つの助言を憂太に吹き込む。

 

「……京都校が勝ったら、真依に煽られるのが目に見えているから教えといてやる。

 

 憂太、よく聞け。 戦って分かったが、あいつには一つ、致命的な弱点がある。

 それは……」

 

 メカ丸の策と真希の助言、真守の地力と乙骨の実力。

 その四つがどんな試合をもたらすか、そして勝者は誰か。

 それはまだ、五条悟にすら分からない事だった。

 




 東堂葵
 原作でノックアウトされてる描写はあるのにまともに戦って負けてる姿が想像できなかったので初見殺しで場外に吹っ飛ばされた人。 要は作者の想像不足。
 オリ主と戦う順番が逆だったらもっと乙骨を追い詰められたし、何かしらの策で場外に足をつかせることも出来たかもしれない。

 乙骨憂太
 成長が止まらない呪術廻戦0の主人公。
 0では狗巻棘の呪言をコピーしていたことからこの頃は能力さえ知っていたら術式をコピーできると思われる。
 
 
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