真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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遅くなりました。


真守と純愛

 

「さあさあついに始まりましたぁ!

 半日に渡る個人戦も、遂にファイナル!

 天下分け目の大勝負! 東京校最強vs京都校最強!

 果たして、勝つのはどちらかあ!!」

 

「五条テメェ! マイク返せ!

 ラストの1番美味しい前口上を持ってくんじゃねえ!!」

 

 メカ丸の作戦を聞き、いよいよ決勝戦が始まるというところで、突然謎のマイクパフォーマンスが始まった。

 決勝戦なだけあって今まで通りの試合開始の一言だけでは始まらないらしい。

 

「東京校代表! 乙骨 憂太!

 呪術を習って数ヶ月のペーペーでありながら、このグレートティーチャー五条を含め、この世に5人しか存在しない特級術師の称号を最年少で冠する少年!

 無限の手札を持てる模倣の術式と、その身に宿す特級過呪怨霊『折本里香』の圧倒的破壊力を携えたこの天才少年に、果たして勝てる者等、僕以外に現れるのだろうかあ!!」

 

 歌姫先生の許可も得ず無理矢理マイクを奪い取ったらしい五条悟は全く後ろめたさを感じない声色で滔々と乙骨憂太の凄まじさを謳いあげる。 どうでも良いが、やたら自己主張が激しい。

 

「え、えと…どうも」

 当の乙骨憂太はそのふかしぶりに逆に萎縮したようで、オドオドとした顔つきになっている。

 

「京都校代表! 二宮 真守!

 乙骨憂太と同じく特級術師であるあの二宮玉枝の一番弟子にして、入学して数ヶ月で一級術師までいきなり駆け上がった成長性の塊!

 シン陰流と拡張術式の理不尽な万能性、更に僕が六眼で見てもなお特殊な式神『初音ミク』を駆使し、その異彩の力で特級術師相手にジャイアントキリングを目指す!

 腕を伸ばし、呪力を増大させ、力を増やして勝利に手を伸ばし捥ぎ取ることはできるのか!」

 

 続いて五条悟は僕のことも京都校最強と誇張して持ち上げる。

 多分今の僕は東堂先輩と戦ったら負けると思うので、代表として掲げられるのは面映い。

 ……とはいえ褒められるのは素直に嬉しいし、ジャイアントキリングを狙っているのも事実だ。

 なのでこの戦いで東堂先輩以上に強くなって、五条悟の言葉を誇張でもなんでもない事実にしてみせようと、そう心の中で決意する。

 

「さぁ勝つのは天才か、奇才か。 才能か、経験か。

 お前たちの戦いはどれだけ会場を沸かせる!?

 

 僕が10年ほど前に卒業して以降、ここ10年に於いて、最も優れた生徒二人がいまここに、ぶつかり合う!!

 その結末や如何に!

 

 いざ! 試合ィイイイッッ開始ッ!!!!」

 

 そうしてツッコミどころの多い前口上は終わり、遊び抜きの真剣な試合が始まった。

 

「いくよ、里香」

『あ゛い』

 

「…勝つよ、ミク」

『もちろん!』

 

 ……さっき五条悟は僕と乙骨憂太を対の存在のように語ったけど、案外似た者同士なんじゃないかと思う。

 

 メカ丸の話した策は、使ってから時間が経つと効果が薄くなるであろうものだった。

 乙骨憂太が集中し、緊張が最高に高まったその時、僕はその策を、一瞬で試合を終わらせられるように使うことにした。

 

 つまり、それまで僕は小細工抜きで戦う必要があるわけだ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 準決勝の二つの試合とは違い、両者はすぐには動かなかった。

 乙骨憂太は刀を抜き、下段の構えで隙ができるのを待ち、二宮真守は簡易領域を張り、居合の構えを取っていた。

 

 お互いに刀を使うもの同士、先ずは見に回って相手の姿勢と隙の有無を観察する。

 

(……凄い、居合道が専門なわけじゃないだろうに、この人完璧な構えだ。

迂闊に突っ込んだら、怪我を負って不利になるのはこっちだ)

 

(……とか思ってるんだろうけど…迂闊に突っ込まなくても、怪我は負ってもらうし不利にもなってもらう)

 

 そう思うと同時に、真守は簡易領域の範囲を4mほど拡大する。

 一足一刀の間合いでこそなかったが、秤と真守の試合でリングが縮み、かなり近い位置にいた乙骨はモロにその範囲に巻き込まれ、反射で動いた二宮丸がその体に切り傷を刻み込む。

 斬る、斬る、斬る、斬る! 二宮丸は特級呪具、同じく特級の乙骨の肉体にもその刃は魔の手を伸ばすことができる───が、

 

「パンダ君にも、やっていましたよね、これ」

 

 そんなあまりにも冷静で冷たい声を浴びせられた真守は咄嗟に後ろへ下がろうとするが、遅かった。

 

「シン・陰流 簡易領域」

 

 真守の倍以上の範囲の簡易領域がリングを丸ごと包み込む。

 たった数回の目視のみで、乙骨憂太は簡易領域の修得に成功した。

 

(嘘だろ!? シン陰を盗んで覚えるだけならともかく、こんな短時間で僕以上の範囲を包むだなんて……!

……けど、やっぱりまだ乙骨は完全にはシン陰流を理解できていない! 簡易領域ってのは結界術、範囲が広がれば効果は薄れる!

僕と範囲を同じくらい縮めていればやばかったけど、これなら……!)

 

 互いが互いの領域に踏み込んだ状態、当然起こるのは反射による抜刀の応酬。

 真守の二宮丸と乙骨の刀が幾度となくぶつかり合い、そして勝つのは二宮丸だ。

 

 乙骨憂太の刀が、粉砕される。

 

(よし、これで乙骨は丸腰だ、相手が呪力を刀に必要以上に込めてくれたのも大きい! このまま……っ不味い!!)

 

 瞬間、黒い火花が真守の頬に散る。

 

 ────黒閃

 

「ガッ……まだ、だ!」

 

 全身の呪力を素早く頬へ、衝撃を受け止め切った瞬間に両脚へと移動させることでなんとかノックアウトと場外を免れるが、当然真守の受けたダメージは少なくない。

 

(な、何今の!? 黒い……稲妻? でも、なんだろう……体が、すごく軽い)

 

「里香、合わせて」

「あ゛い」

 

 乙骨は更に速く動き出し、それに合わせて里香のギアも青天井に上がり続ける。

 二宮丸ですら最早その肉体は切り裂けず、まるで玉鋼に果物ナイフを振い続けているかのような感触が絶望感を促進させる。

 

 そして、真守の顔をまた乙骨の拳が殴りつける。

 打つ、打つ、打つ! 幾度なく真守の顔は殴りつけられ、真守は呪力のほとんどをピンポイントでインパクトの箇所とリングの床にめり込むほど踏ん張っている足に込めることでやっと敗北を回避していた。

 

 その今までとは一線を隠す絵面には、流石に観客席にも緊張を走らせる。

 

「ね、ねえあれ大丈夫なの!? あれそもそも意識あるの? このままだと死にかねないわよ、二宮君!」

「憂太があそこまでやるとは、ちょっと驚くな……でも憂太は、意味もなく人を殴り続けるようなやつじゃない。

 多分、二宮はあの程度では倒れないってことなんだろうな」

「しゃけ」

 

「……あー、なるほどな、思ったよりも機転が効くな、あいつ。 俺と戦った時はすげえ愚直だったんだが」

「あれなら、今の乙骨ではまだ気付けないだろうな」

 

 西宮桃の不安を、パンダと狗巻が宥める。

 その中で、東堂葵と秤金次だけが、真守のしていることに気がついていた。

 

「〜〜〜〜っガハッ」

 

(呪力が一瞬揺らいだ! 今だ!)

 

 このままでは埒があかない、そう判断した乙骨は、真守の気が一瞬途切れたのを見計らい、全呪力を右腕の拳に集める。

 そして、全呪力が込められた()()が、()()()()の頬に炸裂する。

 

 当然、その右足は真守のものだが、正面から乙骨の猛攻を縫い攻撃したわけではない。

 

 その右脚は、リングの床から突き出ていた。 それだけではなく、不快感を覚えるほどに不自然に引き延ばされてもいた。

 

「さっき秤先輩に使って、失敗したけど……これなら、インパクトの直前まで見えないし、後隙を捉えられることもない。

 ……ミク!」

「任せて!」

 

 その言葉通り、すでに真守は穴の空いた床から脚を引っ張り出している。

 更に真守は、10秒間呪力を増やさない縛りで術式を数秒前借りし、増幅した呪力を掌の数平方センチメートルにのみ凝縮する。

 

 そして顎を強かに蹴飛ばされ一瞬脳震盪を起こした乙骨の鳩尾に、折本里香が保護するよりも早く掌底を喰らわせる。

 

 ────黒閃

 

(こ、これでやっとイーブン……だ! けど、特級術師相手に同じ手は使えない……!

 

ここで一回、相手の手札を整理しよう、東堂先輩のように……

 

相手の手札は、確定で呪言。 ほぼ確定でコピー出来ているのが、実際に戦って詳細も分かってるであろう赤血操術と不義遊戯。

どれくらい術式を理解できていたらコピーできるかは分からないけど、僕の術式はリズムをとって動かないと効果が出ない以上、一朝一夕では使いこなせないはず。 けれど、向こうも新しい式神を出して助言を得るくらいはしてくるか?

 

試合相手に使うのは避けたかったけど、あれを使うべきか……?)

 

 二宮真守が必死で勝利のため思考を回し続ける中、乙骨憂太もまた勝つために脳を回転させ、切り札を切ろうとしていた。

 

(向こうもあの黒い稲妻を出した! あれを出した時にみんながああなるなら、二宮君もこれから更に調子を上げてくる。

さっきの一撃、あれを5、6発も食らったら僕はきっと動けなくなる。 発動条件が分からない以上、早めに決着をつけないと不味い。

 

僕は、里香ちゃんの呪いを解くため、強くなる。 その為、全力でこの人に勝ちに行く。

 

……その気持ちに嘘はない、けど……、僕は今、それ以外の理由でも、凄く勝ちにこだわっている気がする。

負けたくない……? そうか、僕は凄くこの人に負けたくないんだ。

二宮さんと式神のミクさん、この2人に、僕は……僕達は、対抗心のようなものを抱いている?

この2人と、僕と里香ちゃんの関係は全く違うものなのに……自分の気持ちを、上手く制御出来ていない。

 

けど、この強い気持ちは、勝利にも繋がる気がする。

……真希さんの助言、使う時が来たのかも)

 

◇◇◇◇◇◇

 

『いいか、憂太。 あいつは試合と殺し合いで、実力に大きく影響が出るタイプだ。

 別に手加減が苦手なわけじゃない。 むしろ、そういう呪力のコントロールに関しては術師全体で見ても上澄みだ。

 

 だが、誰の命もかかっていない時、あいつは相手のやり方についていく悪癖がある。

 私との戦いの時、その気になればすぐに場外に私を落とせたくせに、あいつはわざわざ私が作戦を立てるのを待っていたんだ。

 これだけなら私とあいつが禪院家に関する話をする必要があったからで通るが、あいつは金次との試合でもあのダセェ名前の刀をほっぽって肉弾戦を始めた。

 

 あいつはどんな状況でも戦える手数を持っているが、それが戦いに関して主体性がないことと表裏一体になってしまっているんだ。 だから憂太───』

 

◇◇◇◇◇◇

 

 ────お前はお前の強みをどんどん押し付けていけ、勝利は私が保証してやる。

 

 その言葉を受け、乙骨憂太は考えた。 自分の強みとは一体何だろうかと。

 元々自己肯定感の低い彼にとって、それを思いつくのはともすれば真守が試合で主体性を持つこと以上に難易度の高いことだったのかもしれない。

 

 その圧倒的な呪術の才能も、恵まれた術式も、彼にとってはそこまで特別なものではなかった。

 まだ呪術界に入ってたった数ヶ月しか経ってない故に高専以外の術師のことをよく知らず、周りのことを知らない以上、自分がどれだけ特別な術師と言われてもしっくりこないものはしっくりこなかった。

 

 故に、酷く悩み、苦悩し、試合に悪影響が出るレベルの知恵熱を出しそうになった時、ふとある言葉が彼の脳裏に浮かんだ。

 

『里香と憂太は、大人になったら結婚するの』

 

『約束だよ』

 

 唯一。

 唯一、乙骨憂太が自分を特別だと、そう言い切れるもの。 それは、『里香ちゃん』に愛されたこと。

 

 ならば、自分の強みとは、今、里香ちゃんと共にいること。

 いつかは別れないといけないと分かってはいるし、愛しの人がこんな姿になって他の人に迷惑をかけている以上、それを躊躇うつもりは無い。

 

 だが、自分のことを愛してくれて、ここまで共に歩んできてくれた里香を、彼は一生愛し、一生心の側に置くだろう。

 

 そして、この交流会で彼は非常に大きく成長した。

 里香を制御できるようになり、黒閃を出し、強敵との戦いにより術式も覚醒した。

 それが出来たのはもちろん友達のお陰でもあるが、何よりも里香がすぐ側にいてくれたからだと、彼は信じている。

 この技は、そんな彼の純愛から生まれた、彼の彼だけの拡張術式である。

 

「里香ちゃん、一つになろう」

「ゆう、た?」

 

「僕は今、凄くこの人に負けたくないんだ。

 

 すごく勝手なお願いをしているのは分かっているけど、ここで負けたら、僕は、今までの僕ではいられない気がするんだ。

 だからお願い、力をもっと貸して。

 代わりに、ずっと一緒になろう」

 

「あ゛っ…あ゛ぁ…ああ゛ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛」

 

「憂太!!!! 憂太っあ゛!!!! 大大大大大大大大大大大大大ッ大好きだよぉ!!!!」

 

「────ッ!?」

(何をする気だ!? ま、不味い! 何かは分からないけど、非常に不味い何かを二人はしようとしている!!

 

仕方ない、メカ丸の策はここで使う! というかそうしないと僕は間違いなく負ける!)

 

「ミク! これから二十日間の術式を全部、これからの30分間に前借りして!」

「わ、分かった!」

 

 密度にして60(分)×24(時間)×20(日)÷30(分)=960倍の効果の術式を起動した二宮真守の体は、特級術師にも匹敵する呪力の圧を放つ。

 これまでこれを使わなかったのは、乙骨の成長速度を恐れてのものだった。 万が一瞬殺できねば、この現代の異能はその異常な成長速度で今の真守の形態を上回るかもしれない。 だが、現在乙骨憂太は、真守がこの奥の手を使うまでもなく、手に負えなくなりかねない成長を遂げようとしていた。

 

 言うまでもなく、今の真守は今までの状態の中で最も強い状態にある。

 地鳴り、辺り一体が揺れ動き、観客席の術師たちはおろか、五条悟にすらほんの少しだけではあるがその圧力は伝わっていた。

 だがそれでも真守の身体は、悪寒と震えが止まらない状態にあった。

 

 つまり、今の乙骨憂太と折本里香には、それだけの力が隠されているということだ。

 

(……? 何だ? 里香の姿がどんどん小さく……それに、乙骨の姿が変わって……!)

 

 折本里香が、乙骨憂太の胸に吸い込まれるような形でみるみる存在感が薄れ、遂には完全に消失する。

 それと同時に、乙骨憂太の姿が一瞬痙攣した後、侵食されるかのように指の先から変わっていく。

 

 全てのただでさえ色白だった肌が左手の薬指以外真っ白になり、額には大きな3つ目の目が顕れる。

 目立った外見の変化はその2つと後ろ髪が急速に伸びたことくらいだったが、何よりも違ったのは、呪力の量と出力、そして質であった。

 術師として生まれたものならば誰でも分かるほど、その呪力の圧は段違いに、絶望的に上がっていた。

 

 全身から冷や汗を滝のように出しながら、二宮真守は震えを無理矢理止めて思考し続ける。

 どんなに絶望的な状況でも、頭を回転させ続けるのは呪術師が長生きする絶対条件だ。

 

(間違いない! 乙骨憂太は今、これまでとは術師として、変身前とは別次元の存在になったんだ!

原理としては、恐らく受肉、共生化に近いものだ、魂が密接に絡み合って、正攻法では二度と解けないほど深く結びついている!

 

……受肉に近い状態……?)

 

 間違いなく敗色濃厚の状況の中、真守の脳に1つの天啓が舞い降りる。

 

 たった一つの勝ち筋に気がついた真守は、自分を鼓舞する為、ミクに話しかける。

 

「ミク! 僕達は、勝てる! そうだよね!」

 この極限状態で、真守は術式の効果を無効にせず中断することに成功している。

 

「さっき言ったばかりだよマスター! もちろんって!

 子供のような単調な言葉に、ミクは笑みを浮かべ、高らかに勝利を謳いあげる。

 

 度重なる連戦と目の前の形勢によりハイになりかけた真守が、滅多にしない声かけを浴びせる。

 

「最終ラウンドだ! 乙骨憂太!!!!!」

 

「行くよ、里香。 あ゛い」

 

 最後の秘策を内に秘め、両者が同時に突撃する。

 

 

 

 

 ────これより41秒後、長きに渡るトーナメントの、そして二日間の姉妹交流会の勝者が決定する。

 

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