真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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成長と停滞

 9月24日、ようやく縛りが終わり、術式の使用が可能になった僕は任務に……ではなく、歌姫先生から教えてもらった、ある一室に来ていた。

 

「……来たか」

 

「生身で会うのはこれが初めてだね、メカ丸……いや、究極メカ丸は本名では無いんだよね?」

 

「ああ、それは俺が子供の頃、好きだったロボットアニメのヒーローの名だ。

 昔の俺は、それだけが生きる希望だったな。

 

 俺は、この醜い姿をわざわざ見せびらかすような趣味はない。 それでも今回、お前とこうして会った理由は一つだ。

 

 ……二宮。 俺は、この身体から解放されるのか?

 月の明かりにも焼けるような貧弱な皮膚と、感覚すらない下半身と、別れられるのか?

 ヒーローショーを生で見られるし、お前たちと肉声でやり取りできるのか?」

 

 この20日間、術式が使えず、任務も回されず暇ができた僕は、ここぞとばかりに魂の研究を進めていた。

 そして1日10時間の研究の末、遂に先日魂の理解度が目的のところまで達したのだ。

 研究時間を大幅にとれたことと、この前の交流会での乙骨との一戦で、魂を捉える打撃で3度黒閃を打てたのも大きかった。

 これだけ魂の形を見て取れるようになれば、メカ丸の天与呪縛を解呪することも、決して夢物語ではない。

 

「……任せて、その過酷な生活も今日限りだよ。

 すでにおおよその見当はついている、魂に鎖のようなモノがまとわりついているから、コレを無理矢理引きちぎれば天与呪縛は無くなるはず」

 

「大丈夫なのかそれは?」

 

「魂に無理矢理干渉するわけだから、だいぶ痛いとは思う。

 けど、それが終わればその痛みは無くなるし、義手足を作ればみんなと変わらない生活もできる。

 

 医者には知り合いと言いたくない知り合いがいるから、呪縛がなくなった後は皮膚ぐらいなら上手く治るだろうし、今よりは間違いなく良い生活になるよ」

 

 それに、メカ丸にとって友達と直接会えることは、凄く嬉しいことのはずだ。

 

「いや、俺が聞きたいのはこの荒療治の成功率なんだが……」

 

「絶対に成功させてみせるとだけ」

 失敗すればどうなるか分からない一発勝負。 だからこそ、今日この日のために色々と準備をしてきた。

 

 無機物や師匠から貰った蝿頭に魂の打撃を試し撃ちしてみたり、真依さんに頼みこんでスイーツと化粧品数点と引き換えに天与呪縛がどんな風にできた魂なのか見せてもらったり、確実に行けると判断するまで九十九さんからのノートを読み込ませてもらったり……兎に角出来る限りのことはした。

 後は変に怖気付かなければメカ丸を解放できる。 そして、メカ丸とみんなは面と向かって交流することができる!

 

「じゃあ、やるよ、ミク」

「任せて」

 

 二宮丸は抜かず、拳を固める。 そして、術式を解放。

 リズムに乗って動き、魂の視力と精密動作性を一気に上げる。

 今日はこれ以降任務もないので、今日中の術式の使用を全てこれからの2分に注ぎ込む。

 

 半日は720分なので、これで360倍の濃度で術式を使用できる。

 

 爆増した術式効果によって魂はより鮮明に僕の目に映る。

 そして見えた。 魂とそれを縛る鎖の間にある、僅かな隙間。

 

 術式が途絶えないうちに素早く指を差し込み食い込ませる。

 

「ぐっ……」

 

 メカ丸が呻き声を上げるが、今だけは我慢してもらう。

 引っ張るのは左右に、両腕同時のタイミングで、思い切りよく力を込めて。

 メカ丸の体にかける負担は最小限に。

 

「ッアアアアアアァ!!!」

 

 思っていたよりも数倍メカ丸を縛る鎖は堅かったが、それでも今までの鍛錬は実を結んだようだ。

ブチブチという音が聞こえる訳ではないが、確かにメカ丸を縛っていた鎖は真ん中から千切れ飛んだ。

 

「! こ、これは……」

 

 同時に、メカ丸の顔がはっきりと変わる。

 僕からはよく分からないが、確かに変化が生じたようだ。

 

 メカ丸が、右手をグッパと握り開く。

 暫しの沈黙ののち、包帯をシュルシュルと解きながら、恐る恐るバスタブのような入れ物から出ようとする…が、

 

「!? ぐっ……」

 

「あ、まだ動きすぎない方が良いよ。 縛っているモノが無くなって苦しみは消えても、失った手や爛れた皮膚、16年の運動不足が無くなった訳じゃないからさ」

 

 あくまでもこれ以上の継続した対価が全て消え去っただけだ。

 けど、それだけのことが、メカ丸にとっては凄く大きな事だったんだろう。

 

「そうか…俺は…………二宮、感謝する、本当に、心の底から」

 

 目元を軽く拭って、軽くでは足りず、拭って、拭って、拭う。 

 何度も何度も拭った後、メカ丸は僕にここから出て病院に行くまで肩を貸して欲しいと頼んだ。

 

 当然了承し、最寄りの家入さんのいる病棟まで運ぶ中、僕は1つ気になることを尋ねた。

 

「そういえばまだ名前を聞いてなかった。

 メカ丸、君の名前は何?」

 

「そういえば、お前たちにはまだ伝えていなかったな。

 

 与幸吉だ」

 

「そっか、これからもよろしく」

 

「ああ」

 

◇◇◇◇◇◇

 

 10月6日、僕は西宮先輩と任務に来ていた。

 

「後一匹、二級か準一級ぐらいのやつがあそこに残ってるわね。 

 ま、二宮君がいるし後は消化試合かな」

 

 僕の真上で索敵をする西宮先輩、その言った方向を見ると確かに、アザラシとアリクイが混ざったような気持ち悪い呪霊が残っていた。

 

「あれか…ところで西宮先輩、ちょっと見てもらっても良いか?」

 

「? 何かしら」

 

 前方30メートルぐらいのところにいる呪霊に指を差し、狙いを定める。

「こうやって術式で指を伸ばして、そして爪をもっと伸ばす」

 

「!?」

 

 すると、一気に伸びた爪が呪霊の頭に突き刺さり、独特の音と共に呪霊は祓われる。

 

「うわ……なんかどんどん人間離れしていくわね。 それ、初対面の子には絶対やらないでよね」

 

「そうなの? でも僕の弱点の遠距離戦闘に対しての脆弱さも、これで大分マシになったよ。

 

 ちなみにコレは戦闘以外でも使えて、遠くのものを座ったまま取れたりするんだよ。

 後指だけを長くして、孫の手代わりに使っちゃったりしてさ──」

 

「そう……凄く羨ましいわね…そんなことより二宮君、らしくないことしたね。

 任務はまだ終わってないよ。 新しく十匹、かなり強いやつがそっちに向かっているわ」

 

「あ、ごめん……急いで片付ける」

 

 らしくもなく、スイッチが途中で切れてしまった。

 ここ最近、戦闘時の意識の切り替えが鈍くなっている……気がする。

 

 メカ丸改め与君が未だ退院していないこと、実力がついて本気を出す機会が減ったこと、色々理由は思い浮かぶけど……環境の変化によるものなら、時期に慣れるだろう。

 問題は、僕は今、今までよりもずっと強くなりたいと願っているのに、停滞、あるいは後退してしまっていることだ。

 

 こんな腑抜けた状態では、来年さらに成長した乙骨憂太にボコボコに殴られ……蹴られ……敗北するだろう。

 

 そうならないためにも、何か新しいことをする必要がある。

 

 ……そうだ、名案を思いついた。

 これなら、前々から気にしていた問題も解決できるだろう。

 善は急げだ、早速師匠とみんなに連絡を取ってスケジュールの確認開始だ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 11月7日、今日は以前からみんなに伝えてもらった、7人全員の任務がオフになる日だ。

 

 そして、今日は師匠にも時間を取ってもらった。

 忙しい中、僕の頼みに応えてくれた師匠にはますます借りができてしまった。

 いつか必ず今までの恩を返さないと。

 

 さて、そこまでして僕のやりたかったことはなんなのか。 それは……

 

「──ニノミヤズ・ブートキャンプ!!」

 

「えっそんな古い名前なの? この企画」

「ちょっと待ってくださいミクちゃん、私昇級はしたいけどムキムキになるのは少し……」

 

 ミクの宣言は西宮先輩と三輪さんの心無い声により挫かれたが、ともかく改めて企画の説明をしよう。

 

「今日みんなに集まってもらったのは他でもない、もっと強くなって、来年の交流会に勝つためだよ」

 

 僕が強くなったのはみんなとの交流のおかげでもあるけれど、師匠が強くなる土台を作ってくれたことも大きい。

 あの修行をみんなが体験すれば、確実に今とは比べ物にならない力が手に入はずだ。

 

「俺もあの時は初戦で負けてしまったからその感情は分からなくもないが……何故、あれから二ヶ月も経った今なんだ?

 

 まあ、言いそうなことはなんとなく予測できるが」

 

「それは私にも分かるわね、二宮、あんたは与を含めた全員で修行ができるようになったからこの企画を実行した。

 違うかしら?」

 

 流石与君、真依さん。 飲み込みが早い。

 二人の言うとおり、数日前に与君の義手が完成しリハビリも終わったことで、ついに京都校生徒全員が一堂に会すことができるようになった。

 

 貴重な交流時間、フルメンバーでやらないのはあまりにも勿体無い。

 

「合ってるよ。 まあそれは置いておいて、真依さんがこの企画に乗ってくれるとは思わなかったよ。

 少なくとも半日は説得に費やす予定だったんだけど……」

 

「もしそんな馬鹿げたことをしたなら貴方との縁もその日限りよ。

 ……別にそこまで大した理由はないわよ、ただ、あの落ちこぼれよりもマシになるからと言うだけ」

 

 多分嘘をついてるけど、深掘りをすると言葉のナイフと現実の弾丸が飛んでくる気がするので一旦置いておく。

 ……そういえば、真依さんの天与呪縛はまだ解けていない。 

 真依さんの天与呪縛はメカ丸のそれとはまた少し毛色が違う。 真希さんと2人で1つの、生まれつきの呪い。 解呪するには真希さんと真依さんの2人分の鎖を引きちぎる必要がある。 

 なんとかして2人の予定をつけられたらいいんだけれど……。

 

 ……あ、そろそろ師匠の家に到着だ。 御三家みたいな大屋敷とは行かないが、10数人くらいなら快適に過ごせる、中々に立派でモダンな家ではないだろうか……残穢がものすごいことを除けばだけど。

 ここは僕の第二の実家、すなわちこれはみんなを招待するというイベントでもある。

 

 一応昨日任務が終わった後、黒井さんと一緒に大掃除と飾り付けはしたけど、果たして気に入ってもらえるか。

 

「ただいま、師匠」

 

 さあ、みんなと修行の始まりだ。

 良薬口に苦しという言葉をどこかで聞いたことがある、厳しい数日になりそうだ。

 

 そう思いながら、僕は数ヶ月ぶりに家に帰って行った。

 

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