真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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 明けましておめでとうございます。
 今年も面白く好きなものを書けるように精進していきますので、どうぞよろしくお願いします。


ニノミヤズ・ブートキャンプ 後編

「うっそ!? こんなの聞いてないよ!?」

 東堂の覚醒に1番焦ったのは当然西宮桃だった。

 彼女は領域への対抗手段を一切持っていない以上、必中った(あたった)瞬間にその場その場での最善策を打ち続ける以上のことはできない。

 

 領域に巻き込まれた呪具をあらゆる方向へ直進させ、どうにか領域の縁を見つけようとするが、東堂葵は止めようとしない。

 なぜなら、これから世界で最も重要な時間が訪れるからだ。 ファンたるもの、ライブに集中しないなど有り得ない。

 行儀良く座る必要はないが、戦いの手は止めなければ彼女の輝きに集中することはできない。

 

(これは何かの舞台……ライブ会場? 確か東堂先輩はとあるアイドルが好きだったはずだけど、心象風景に組み込まれるレベルで信仰していたとは。 ……東堂先輩は手を出そうとしない。 おそらく、無意識のうちに必中効果以外の危害を加えない縛りを結んでいる。 そうでないなら東堂先輩が追撃をせずに慢心するなんて有り得ない。 ……一体、何が起こるんだ?)

 一方簡易領域を張った真守は見にまわる。 領域との押し合いで簡易領域がゴリゴリ削れていくが、術式効果で簡易領域の強度を増やしていけばギリギリだが張り直す時間を稼げる。

 

『たんたかた〜ん♪』

 

 いつのまにかステージの上には高身長で制服姿の女性が登場していた。

 この世の中心にいるかのような堂々とした立ち姿を支えるように、スポットライトが当たっていく。

 

 東堂葵の領域『神単高担』

 

 この領域内では東堂葵の呪力が尽きない限り、高身長アイドル[高田ちゃん]のライブが続き、その代表曲『最高潮⭐️ジャンピング』がエンドレスで流れ続ける。

 

(な、なるほどね! すぐに私に何かが起こらないことから、これはいわゆる、必中のみの領域みたいね。 授業で習ったことがあるわ。

古代では、領域展開の難易度を少しでも下げるために、必中必殺の必殺が取り除かれていた、だったかしら。 東堂君も似たように、即興で編み出した領域の完成度を少しでも上げるために必中だけの領域を作り出したのかしら。

ともかく、これならこの領域内のルールにさえ引っ掛からなければ、このピンチを乗り切れるわ。 そうなると、呪力の萎んだ東堂君は脱落するから、後はいかにそれまでに真守君を崩すかね……。

それで、この領域の必中効果……は?)

 

 西宮桃は、突然地面に着いていた。

 

(!? 不義遊戯? 何も見えない、目をやられたの? とりあえず起き上がらなきゃ……)

 慌てて起きあがろうとするが、体が動かない。

 何も見えないのに、なぜか周りの状況が理解できる。 

 何も聞こえないのに、全て聞こえる。

 自分の肉体に、堪えきれない不快感が走る。 いや、そもそもこれは本当に自分なのか?

 

 そんなことを考える暇もなく、更に状況は変化する。

 

 次の瞬間、今度は遙か上空にいた。

 次の瞬間、2人と大きく離れたライブ会場の端っこにいた。

 次の瞬間、再び地面に伏していた。

 

 次の瞬間、次の瞬間、次の瞬間………

 

(え、え、え!? どういう……あ、これ、ヤバ……頭が、変になりそう…意識、も…………)

 

 西宮桃の意識が、闇に吸い込まれていく。

 

 そして、完全に彼女の意識が消えたその時、初めて彼女の魂は彼女の肉体に戻った。

 

 『神単高担』の必中効果 無機物との魂の入れ替え。

 領域で術式の出力が向上した結果、本来一種の領域である体内を中和し、その内にある魂を術式対象に加えることが可能になった。

 

 肉体は魂に引っ張られるが、中身を確定させなければそれが表に出てくることはない。

 だが、それでも無機物の中に魂を閉じ込められてしまえば魂ははっきりと違和感を覚える。

 違和感は不快感に転じ、不快感は閾値を越えれば逃避のための気絶へと繋がる。

 

 もちろん、対処法は存在する。

 

 この必中効果が発動するのは『高田ちゃん』が歌って踊る間のみであり、入れ替わるタイミングは『高田ちゃん』が歌い踊る際、そのステップで足を地につける時である。

 そして『高田ちゃん』の曲が流れた後、もう一度『高田ちゃん』が歌い始めるまでには一定時間のインターバルがある。

 更にこの領域は精神にダメージを与えるが、肉体へのダメージは0に等しい。

 

 故に、数分間の地獄のような不快感を耐えきられてしまえば、その後は領域内で害を加えられない東堂葵は、無抵抗のまま反撃を喰らうことになるだろう。 狂気にも近い精神力が必要だが、不可能ではない以上、必中必殺の領域よりはまだ望みがあると言える。

 

 だが、真守にはまだそこまでの詳細は分からない。 彼が確認したのは、西宮桃が少しの間棒立ちになった後、崩れ落ちたという事実だけである。

 故に、先ほど覚醒して得た切り札を、ここで切る。

 二宮丸を鞘に戻し、印を組む。

 簡易領域が解けない内に素早く詠唱し、その名を呟く。

 

「相剋、逆相、電子の軋轢 領域展開」

 

 真守は、領域を完全には会得できていない。

 その完成度は未来で八十八橋にて伏黒恵が習得した時のそれすら下回る、環境効果もバフも存在しない、押し合うことしかできない脆弱な領域である。 故に、押し合い効果のみを術式と詠唱によって底上げし、敵への領域へのカウンターとする。

 

 東堂葵の領域の必中効果を真守の領域が打ち消し、ここに拮抗状態が生まれる。

 だが、真守の覚醒は未だ終わってはいない。

 

 領域の押し合いの維持には、伏黒恵と陀艮の戦いからも分かるように、心身に多大な負荷がかかる。

 だが、その押し合いをするものが、身体を持たず、心の所在が曖昧な式神ならどうか。

 

「任せたよ、ミク」

「任されたよ、マスター」

 

 真守は、領域の維持を初音ミクに委託する。

 そして自らは再度掌印を組み、詠唱を終えて再びその言葉を口にする。

 

「……領域、展開!」

 

 消費される大量の呪力を術式で補い、領域展開の及ぼす負荷をミクと折半することによってそれは可能と化す。

 呪術の才能は真守に微笑んだ。

 

 禁断の領域展開、2度打ち

 

 これによって3つの領域が交わり、ただでさえ複雑な領域の押し合いが更に際どい状態で拮抗する。

 

 その上に、真守は更なる爆弾を投げ入れようとしていた。

 領域の印を組み続けるために両手は塞がっているが、まだ空いた口は塞がっていない。

 領域を崩さぬよう、それを暴発させないよう、慎重に口内に呪力を練り上げる。

 

(ミク、これから増やすのは、次に放つ呪力弾の威力、エネルギー、パワー、破壊力……)

 

 同じ意味でも、言葉を違えればそれの増幅速度は増していく。

 もちろんこんなシロモノを無防備な先輩達に当てるつもりはない。 というか東堂葵はともかく気絶している西宮桃はこれを食らえば普通に死ぬ。

 

 故に、打ち出す方向は自分の真上。 縁が見つからなかったとしても、それを放出し続ければいつかは辿り着く。

 鼻血を流しながらもそれは完成し、咆哮の如く放たれる。 

 折り重なる3つの領域の縁に撃ち込まれた超高出力呪力砲。

 当然耐えられはせず、結界が崩壊する。 そして、一度崩壊してしまえば東堂葵に戦い続けるだけの呪力は残っていない。

 

 模擬試合 勝者 二宮真守

 

◇◇◇◇◇◇

 

「おーい、どんな感じだ……って、全員満身創痍だな」

 

「師匠、こっちはしっかり全員強くなったよ。

 そっちのみんなは、どれくらい強くなった?」

 

「とりあえず全員黒閃は出させたが……見た方が早いな。

 3人とも、疲れているところ悪いが、戻ってくれ」

 

 2人がタイミングよく起き上がる。 長年術師をやってるだけあって2人ともタフだ。

 

「そっか、また勝てなかったのね……真依ちゃんや霞も、黒閃を出せたんだ。 私ももっともっと、強くならなきゃね」

 

「俺の領域の条件付けにも、まだ改善の余地はあるだろうな」

 

「東堂先輩が領域中でも通常の思考ができていたら、僕はあそこまで準備を整えられなかっただろうし負けていたかな。

 領域もまだ洗練できそうだし、僕たちはもっと強くなれそうだよね」

 

 そんなことを話しながら、僕らは黒閃の出やすい例の部屋に戻る。

 みんなはどれくらい強くなっているだろうか。

 

「……戻ってきたか、二宮、東堂、西宮」

 

 与君が最初に僕らに気づき、声をかける。

 いや、今の言い方は少し間違っていた。 正しくは、加茂先輩、三輪さん、真依さんは気絶していて、僕らに気づくことができなかった、だ。

 そしてその与君も肩で息をしていて、呪力も殆ど残っていない。

 

 どうやら向こうでも、僕らと同じくバトルロワイヤルを繰り広げていたらしい。

 

「加茂先輩じゃなくって、与君が勝ったんだね」

 

 与君はつい数十日前まで身体をろくに動かしていなかったので、間違いなく身体能力は低いはずだ。

 なのに、赤燐躍動でステゴロを強化できる加茂先輩に勝ったということは、何かしらの策か強力な拡張術式を手に入れてたということだろうか。

 

「ああ、二宮玉枝さんに呪骸を一つ貸してもらって、それを使って戦ったんだ。

 嬉しい誤算だったのが、お前に天与呪縛を解いてもらった時、全く想定されていない方法で無理矢理解呪を行ったおかげか、呪縛の恩恵である超広範囲の高呪力出力がそのまま俺の肉体に残っていたんだ。

 それを一つの呪骸に全て込めたことで、近接戦でも上手く立ち回れた。 後、黒閃を決めたことで、呪力操作が澱みなくできたことも大きいな」

 

「そうなんだ、健康な与君に、天与呪縛の恩恵がそのまま残って……」

 ……これ、凄いことにならないか? 元からメカ丸は大体二級から準一級術師の強さを持っていた。 そして術式の強さは術師との距離に影響される。

 今の与君が至近距離でメカ丸を操れば、そのメカ丸は一級術師にも手が届く強さになるだろう。

 現地に出れるようになった与君が、俯瞰的な視線を持ちつつ大量のメカ丸をけしかけてきたら、相手の術式次第だが特級呪霊を屠ることだってできるだろう。

 

 ……既に与君は、一級術師としてやっていける強さがある。

 

「私がこれ以上何かをするまでもなく、既に与くんは十分な強さを持っている。

 ケチをつけるとするなら、やはりその貧弱な身体…‥特に足腰の部分が脆弱極まりないな。 術式も大事だが、最後の最後はフィジカルがものを言うことが多い。

 こればかりは一朝一夕じゃどうにもならないから、筋トレ道具と効率のいい筋肉の虐め方を教えてやる」

 

 師匠がそう締めくくった。 

 師匠が筋トレもしていることは知っていたし、呪力抜きでも師匠はしっかりと力強くしなやかだ。 

 だが、師匠の四肢は華奢に見える。 昔から不思議に思っていたが、どうなっているのだろうか。

 

「ていうかこれ、ほとんど私の拡張術式の上位互換じゃん!?  いや、つまり成長の方向としては合ってるってことなの……?

 ……でもなんとなくムカつくわね。 また別のやつも考えよ……」

 

 西宮先輩が理不尽なことを愚痴っていると、加茂先輩、真依さん、三輪さんは次々と起き上がってきた。

 

「う、ぐ……」

 

「起きたか、加茂」

「与、まさか君がここまで強くなっていたとはね。 私も、次代当主として、ますます精進せねばな」

 

「ところで師匠、与君以外にはどんな修行をつけたの?」

 

「そうだな、まず真依ちゃんは余りにも呪力が少なかったから、私の呪力を少し分けてやった。

 拒否反応が出ないように、真依ちゃんの呪力と同じ呪力に変質させてね。 これなら、少なくとも弾丸を作る分には呪力切れに困ることはない」

 

「……ん? 師匠そんなことできるの?」

 

「ああ、お前が戦った乙骨君って子がいるだろう。 あの子の持ってる変幻自在の呪力、あれと似たようなのを私は持ってるんだ。

 とっておきの力だからお前にも隠していたが……

 

 流石に人命に直結するとなるとな」

 

「人命……ですか?」

 

「…………」

 三輪さんが怪訝な顔をしている間に、師匠はそっと耳打ちをする。

 

「お前がこの企画を立てた本当の理由は、自分の手の届かないところで仲間が死ぬのを避けるためだろ?

 教えたことがあったな。 自分の知らないところで知り合いが死ぬのは、珍しいことではない。 むしろ同期が全員揃って卒業できることの方が稀だと。

 私は、最期までその可能性に思い至れなかったから、お前がこれを提案してくれたことが、すごく嬉しいよ」

 

 最期まで……か。 それも聞いたことのない話だ。 本当に自分は、師匠のことを全く知らないのかもしれない。

 

「…‥あのう、何を話してるんですか?」

 

「おっとごめんな三輪ちゃん。 次は三輪ちゃんの成長を語ろう。

 近接主体なのに、その近接が弱い三輪ちゃんには、徹底的に近接戦の極意を叩き込んだ。 いざという時に動揺する悪癖もあったから、どんな状態でも身体を捌き、動き続けることができるように、何度も何度も組み手をしてね」

 

「二宮さん素手で刀を押さえつけるから、嫌でも相手に捕まらない動きと太刀筋を覚えましたよ……」

 

「それと、三輪は黒閃による強化幅が1番大きかったな。 呪力操作の技術の向上が、俺たちと比べてモロに影響する近接タイプの術師だから、黒閃を打った瞬間、二級術師以上の実力を手に入れた。 それと二宮さんは言及しなかったが、三輪は結界術には素晴らしい才能があるぞ。

 三輪は簡易領域を使う余裕がないほど追い詰められながら戦っていたから気づかないのも仕方ないが」

 

「えへへ……も、もうやめてくださいよメカ……じゃなくて、与君」

 

 なるほど、三輪さんはシンプルな体術と呪力操作の強化か。 その呪力操作に、僕のシン陰流の拡張技を教えれば、任務で死ぬことはほぼなくなるだろう。

 

「最後に加茂くんだが、正直1番アドバイスが難しかったな。 御三家の術式なら、流石に私よりも本家本元の方がよく知っている。

 一応黒閃を打ったから既に一級術師として力はついたが、拡張術式は一つしか思い浮かばなかった。 すまないと思っている」

 

「いえ、とても参考になる意見でした。 放出した血に落花の情を乗せるという発想は、私の中にはありませんでした」

 

 血に落花の情を適応する……。

 落花の情は、体を動かしさえしなければ発動できるから、血を操作していても使える。

 そしてその血に少しでも触れたら呪力が一気に放出、並の呪霊なら真っ二つというわけか。

 

 派手さはないが、確実に相手にダメージを与えられる、加茂先輩に合った手堅い拡張術式だ。

 

「東堂先輩の言っていた通り、みんな今までよりもずっと強くなってる。 ありがとう師匠、これで来年の交流会はきっと勝てるよ」

 

「? 今年も勝っていたよな?

 まあいいが、終わったような雰囲気を出すのは頂けないな。

 言っただろ、数日間かけてみっちりと鍛えると」

 

「……! そうこなくちゃ。 ……そういえば、この家はリビングや浴室は十数人は余裕で遊べるぐらい広いけど、泊まるとなると、僕らと師匠全員が寝られる分の部屋はあったっけ?」

 

「人が寝られる部屋数は確かに客人用を含めても4部屋しか無いが、一部屋ずつの広さは保証するぞ」

 

「そうか、じゃあ部屋割りも決めなきゃ────」

 

 修行だけでなく、みんなとの交流、青春の時間もしっかりと師匠は取ってくれた。

 師匠も仲間との青春には一家言あるらしく、僕たちはとても充実した日を過ごすことができた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 楽しい時間、忙しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。

 気づけば修行は最終日を迎え、僕たちは帰路へと着いていた。

 

「いやあ……改めて思い返してもやばいぐらい濃密な時間だったわね……。

 後、最寄り駅まで遠すぎるでしょこの家」

 西宮先輩が箒を杖代わりにしながらそう呟く。

 僕の恋心と身体が耐えられるのなら背負って歩くが、生憎両方耐えられそうに無い。

 

「本当にそうですよね、最終的に特級呪霊とレイド戦させられた時は、本当に死ぬかと思いましたよ……」

「あの時の霞、もう半泣きだったものねぇ」

「真依だって震えていたじゃん!」

「武者震いよ、武者震い」

 

 三輪さんと真依さんはまだ口喧嘩ができる余裕があるらしい。 僕らが少し張り切りすぎたのもあるが、心身が丈夫な人達だ。

 まあ、僕ら以上に暴れていたのに何故かライブ会場に駆けて行く余力を残している人もいたが。

 

「それじゃ、俺はここで一旦病院に戻るよ。 どうやらこれからも定期的に検査を受けなきゃ駄目らしい」

 

「そっか、また明日」

 

「ああ、またな」

 

 与君はそう言って帰っていった。

 亀永千尋は、あれできちんと医師としての責務を果たしているらしい。 今度会ったら与君に関する事は、例を言っておかなければいけないか。

 でもあのクズ与君……というか僕らを襲ったんだよな……。

 

「……あ、パパから連絡だ、そういえば今、パパ達日本に戻って来てるんだった。

 今からママも一緒にご飯食べに行くって。 じゃあ、ここで別のバス乗らないと」

 

 

 

「げ、最悪。 家から呼び出しがかかったわ。 今度は何の小言かしら」

 

 

 

「ん? はい、もしもし……。

 おお!! ついに、私の元にも昇級審査が……!

 え、今日中に行かなきゃいけないとこあるんですか!? はい、はい……」

 

 

 

「む……明日に出張任務だと? 今から新幹線に乗らねば間に合わないな」

 

 

 

 1人、また1人と別れていく。 本当はみんなで寮に戻りたかったが、こればかりは仕方がない。 全員が集まれたこの数日間が奇跡のそれだったのだ。

 

「……楽しかったな」

 

 別に寂しいとは、ほんのちょっとしか思わない。

 

「何故なら、マスターのそばには、常に私がいるから、だよねっ!」

 

「そうだね、帰ろうか、ミク」

 

 この数日間と同じくらい、いやそれ以上に楽しい日が訪れることを願いながら、僕は帰り道を歩いていく────

 

 はずだった。

 

「やあやあ真守君。 行きたいところがあるんだけど着いてきてくれないかい?」

 

「どっか行ってください」

 何でいつもコイツ……亀永千尋は、僕が疲れている時に、的確に現れるんだ。

 少し前まで考えていた、感謝の言葉は雲散霧消していた。

 

 何で僕がコイツの私用に付き合わなければならないのか、数時間ぐらい問いただしたい。

 

「まあまあまあ、今回の私用は、君にも十分益のある私用だよ?」

 

「何を言って……」

 

「君の師匠、二宮珠枝のルーツ、知りたくは無い?」

 

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