真に守り抜く   作:しんぴのまもり

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例によってミクの日に投稿。
今回ちょっとだけ描写きついので注意してください。


真守と呪詛師②

 

 多分私…亀永千尋は、生まれながらのクズだったのだろう。

 小さい時から人の顔が怒りや悔しさで歪むのが好きだったし、あの香織だか薫だかの呪詛師に拐われて、二度と親に会えないと言われた時も、呪詛師として生きることを決められても、特に何も感じなかったのだから。

 

 だから、真守君に負けた時も、死ぬのは別に嫌じゃなかった。 こうやって他人を尊重できない奴は、いつか誰の助けも得られずに死ぬと思っていたし、その上で自分を変えないことを選んだ以上、死を呪うのは筋違いだ。

 

 だが、真守君は結果的に私を助けた。 そして私は私のまま、他人を煽り馬鹿にし愚弄するのが大好きなまま、医者として幸せになろうとしてしまっている。 そしてその真守君は、仲間に看取られることすらできず、隙があれば煽ってくる大嫌いな私を見送って特級呪詛師に挑みかかった。 当然、無事では済まないだろう。

 

 これでは、話があべこべだ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 化身 玉藻前が背を向けて恐ろしいほどの速さで逃げ出した亀永千尋を追いかける。

 

(別に放置しても構わないかもしれないが……万が一、自分が師匠たちと連絡が取れなくなった時のため、メッセンジャーは残しておきたい。

亀永千尋の方へは、進ませない)

 

 平将門を助走をつけたドロップキックで蹴り飛ばし、それにより推進力を得た真守は、夏油傑に背を向けて玉藻前に襲いかかる。

 宙を滑るかのように移動し始めた玉藻前に、真守は斬りかかり、十分な間合いを以てその十二単に二宮丸は食い込んだ。

 

 だが、確実に捉えたはずのその刃は空を切り、玉藻前は何事もなかったかのように亀永千尋を追い続ける。

 明らかに異常な現象だが、術式を持つ呪霊を相手にする以上、真守にとってこの程度の想定外は想定内だ。

 

「シン陰流 簡易領域──範」

 

 夏油が更に差し向けた蜘蛛のような呪霊の群れを一掃しながら、玉藻前の本体を探る。

 

(──見つけた、そこの石か。 九尾の狐の伝説にある殺生石というやつか? とりあえず砕いてやる)

 

 今まではなぜか意識から逸れていたが、道の脇には、他と比べて一回りほど大きく、あやとりのように細い縄で締められた岩があった。

 そこへ術式を使用し、二宮丸を持った右腕を勢いよく4mほど伸ばし、岩の上部に深々と突き刺す。 それと同時に、玉藻前の頭部、つまり急所に丁度刀を一本突き刺せばこうなるだろうという具合の穴ができ上がった。

 

 物も言わずに祓われた玉藻前に目を向けることもせず、素早く腕を元の長さに戻す。 振り向くと同時に、戦線復帰した平将門が錆びついた刀で切り掛かってくる。

 

(平将門、その逸話は僕でも知っているくらい有名だ。 切り落とした首が一人でに動き出し、体と戦を求めて声を上げ続けたという。

多分、首を切られる……もしくは、致命傷を負うことでなんらかのパワーアップが行われる。 ならば!)

 

 刀をギリギリのところまでこちらに寄せてから二宮丸を側面から叩きつける。

 刀は横から叩けば容易く折れる。 言わんや特級呪具と同等の威力を持つ二宮丸をだ。

 

 更に燕返しで素早く平将門の脇腹に当たる部分に斬撃を入れ、振り切らずにそこで留める。

 

 狙うは、体内から行う簡易領域での術式の中和。

 

「シン陰流 簡易領域」

 

 術式を発動する事もできずに、平将門の名を借りた呪いは吹き飛んだ。

 

「……素晴らしい。 術式のキレも、未知の相手への判断力も実に優れている。

 君が家族になってくれたのなら、こちらの勝率は、呪術連が出てきたとしても4割は固かっただろうね。

 ……ふむ、烏合では相手にならないね。 直に叩くとしようか」

 

 そういうと夏油傑は芋虫のような呪霊から、特級呪具を取り出す。

 

(あれは三節棍か!? コイツ術式だけじゃなく体術も強いのか!)

 

「人間は食物連鎖の頂点に立ち、更に高位の存在を夢想し『神』と呼んだ。 おかしいと思わないか?

 夢想せずとも我々呪術師がいるというのに」

 

 先手必勝。 その言葉を脳裏に思い浮かべた真守は夏油傑に飛びかかる。

 

「結局猿どもは、自分より秀でた存在から目を背けたいだけなのさ」

 

 特級呪具『游雲』 使い手の膂力に大きく依るその力は、防衛においても遺憾無く発揮される。

 

 二宮丸との鍔迫り合いが起こる。 そのままでもじりじりと術式と呪力で膂力を強化した真守が押していくが、真守は時間のかかる力比べを続けるほど愚鈍ではない。 呪霊操術を相手にした時の膠着状態ほど恐ろしいものは無いのだから。

 口に呪力を圧縮し、東堂葵の領域展開をも破壊した呪力砲で夏油の塩顔を台無しにせんとする。

 

 だが夏油傑の体術も並みどころの話ではない。 明らかに動きにくいはずの五条袈裟で素早く飛び退き更にムカデに似た呪霊を大量に呼び寄せる。

 

「……問答をするつもりはもう無いのかい? 君の考え方は中々に刺激的だったんだが」

 

 その声も今の戦闘に集中しきった真守には雑音としてしか届かない。

 殺し合いの時の真守は基本話し合いを捨てている。 あくまでも仲間との高めあいが主題だった交流会とは訳が違うのだ。

 

 ムカデどもを縦に両断し、呪霊の血で滑り加速しながら夏油に急接近し、尚も近接戦を仕掛ける。

 二宮丸で游雲を夏油の足の甲に抑えつけながら、一息に九連撃の蹴りを放ち、夏油傑の肋をへし折る。

 

「ッ……、これは効くね」

 

(よし、近接戦ならこっちが上だ)

 

「だが、まだまだ青い」

 そう断言した夏油の顔には、見たものに恐怖を与えるほどのどす黒い笑みが張り付いていた。

 

 靴と游雲を手放して、更に後ろに下がっていく。

 その時に夏油は、嫌がらせ代わりにイカともタコとも言いがたい軟体呪霊をけしかける。

 

 真守にとってそれは大したことのない呪霊だったが、1つその呪霊は大きな特徴を持っていた。

 真っ二つに切り裂かれたその呪霊は、祓われる間際、真守の視界を墨で埋め尽くす。

 

(!! 呪霊の死を縛りとした術式の増幅と、消失反応による目眩しの二重の目潰し…! 何かでかい一撃が来る!)

 

「二宮と悟の2人が、手本を見せてくれたんだ。 どちらか1人だけじゃ難しかったが、2つあれば共通点やコツも見えてくる。

 

 領域展開」

 

「ッシン陰流 簡易領域!!」

 

 その語りかけと呪力の増幅から夏油傑の奥の手を確信した真守は、本能的に構えを取り、簡易領域を発動する。

 

 それが、致命的な隙になるとも知らずに。

 

「やはり、まだまだ発展途上だね。 正直なところ、来たる日の前に君を倒せてホッとしているよ」

 

 夏油の呼び出した、鉱石型の呪霊が地面を叩きつけ、上空に現れた岩が雪崩れ落ちていく。

 簡易領域を発動している真守は、オートでその岩を切り刻んでいく。 刻んでいかざるを得なかった。

 

(刀を逸らされて……!)

 

 上に刃を振り、がら空きになった真守の胴体を、夏油傑は見逃さなかった。

 

「すまないね」

 

 極小のうずまきが、真守の肝臓を貫いた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「かれこれ28年呪術師を続けている私だが、それでも領域を使える呪霊には、片手で数えるほどしか出会ったことがない。 あの悟ですら、領域を使えるようになったのは高三だったんだ。

 君も修羅場を潜って来たんだろうが、領域をブラフにする相手には会ったことが無いんじゃないかな?

 

 ……さて、まだ息はあるかな。 あるというのなら、連れ帰って美々子と菜々子と会わせるのも良いかもしれないね。

 あの子達にとっても、同年代の人間と会うというのは非常に良い……」

 

 夏油傑が運搬用の呪霊を出し、自分の理想に目を細めたその一瞬。

 意識が逸れたその刹那、二宮真守は姿を消した。

 

「……まだいたのかい」

 

「…………」

「何で、貴方がここに……何で、マスターを……?」

 真守はロープに投げ縄の要領で括り付けられていた。

 誰にかなどは問う必要は無い。

 元々この場には1人の式神と3人の人間しか居なかったのだから。

 

 夏油傑。 二宮真守。

 

 そして──亀永千尋。

 

「う、うわあああぁぁあああ!!」

「!?」

 亀永千尋は、真守を抱えると脱兎の如く逃げ出した。

 

(何でだ!? 何で私は戻って来たんだ!?!? こんなこと馬鹿のすることじゃないか!

生きてさえいれば、人から嫌われても、褒められなくても、楽しいことは見つけられたのに!

今までは、道理なんて気にせず、いつかの報いの日まで好きに生きて、何もしてない人に沢山悪事を働いてきた癖に、なんで今更筋が通る通らないなんて、くだらない事を考え始めたんだ!)

 

「亀永さん、二宮真守を置いていけば、貴方には何もしないと縛りを結びますよ」

 

「う、うるさい! このクソ前髪殺人鬼! バーカ、バーカ!!」

 

 聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせながら亀永千尋は自身に吹き矢を打ち込んでいく。

 

 それは一時の力の代わりに体を蝕む諸刃の剣。 いわばドーピングだ。

 

 亀永千尋の術式『吹き毒呪法』

 

 亀永千尋がイメージするありとあらゆる毒を、術式により吹き矢の先端に再現できる。

 重要なのは、亀永千尋が毒と認識すること。

 結果的に身体が強化される薬になるとしても、実際にそれで人を救っていたとしても、毒とさえ認識していればそれは吹き矢に精製される。

 そしてどんな薬にも副作用は存在する。

 故に、ダブルスタンダード上等、二重思考どんとこいの亀永千尋の捻じ曲がった精神は、ありとあらゆる薬を精製する。

 

 数秒後、亀永千尋の術師の割には華奢な足がビキビキと音を立てて筋張っていく。

 

「ッ素晴らしい! 術師が、術師を、身を犠牲にしてでも守ろうとする! はじめ貴方が逃げた時は! 少しばかり残念だったが! 私の望む世界は! 今、目の前にある!!!」

 

 狂気を撒き散らしながら、夏油傑の脳は正確にこの亀永千尋という伏せ札への対処法を練っていた。

(今までとは比べ物にならない程の俊敏さだ。 だが、速度に特化した呪霊を使えば……)

  エイのような呪霊を呼び出し、その上に乗ってサーフィンのような動きで近づいていく。

 急加速で生まれたほんの僅かな距離はどんどんと縮まっていった。

 

(うっ! やっぱりそういうのもあるのか……。

 これは、死んだかもしれないね……)

 緩やかに思考が諦めへと向かう中、亀永千尋の脳内には走馬灯のように今までの思い出が流れていく。

 その中で、亀永千尋の思考は背中にいる真守へと自然と向かっていった。

 

「真守君め……たった数ヶ月でこんなにも性格を変えて……!

 あの時の機械とはいえ仲間ごと私を貫いた君なら、こんなリスクのあることをしたりせず、素直に逃げていただろうに。

 気づいていないかもしれないが、君は変わってしまっているんだ! クソッ、君のせいだ! 君が変わったせいで、私は死と君を天秤に賭けなきゃいけなくなったじゃないか!

 

 それなら、それならいっそのこと……戻ってしまえ! 変わった結果、死んでしまうということは、弱くなったってことだろ!

 人間性ってのは、弱さなんだ! だから、君は死にかけているし、私はこれから死ぬんだ!」

 

 思った事をそのまま口に出し続け、みっともなく駆け回りながら、亀永千尋は今度は二宮真守に吹き矢を打ち込み始めた。

 

「ま、待って! マスターに何をする気なの!? やめて! そんなに打ち込まれたら、マスターの体が!」

 

「代謝を著しく上げる代わりに、ちょいと自制心を無くす毒さ!

 真守君は、今の強さと精神力で、あの時の性格になればもっと強くなれるんだ、死ぬぐらいなら、怪物になるのをオススメするよ、強く強く勧めるよ!!」

 

 その声色とは裏腹に、亀永千尋の脳は少しづつ落ち着いてくる。 結論を変えることは無いが、多少行動に冷静さが出始める。

 夏油の乗る呪霊に吹き矢を高速射出し、動き回る中脳天に正確に命中させて機動力を奪う。

 

 必死に走り、逃げ惑う内に、亀永千尋は崖に辿り着く。 ざんぶと湖を渡り、むんずと岩肌を掴んで登り始める。

 先ほどのドーピングによって登る速度はまるで猿のような素早さだったが、それはただ夏油をほんの少し苛つかせるだけだった。

 

「行け」

 

 3割と上らない内に夏油が狙いを定め終わり、虚空から闇が出現して呪霊を射出する。

 

「亀永さん! 右に3メートルほど動いて!」

 

「おお、ありがとね、ミクちゃん。 助かるよ……まあ、上手く指示通りに動けるかは別なんだけどねぇ!」

 

 初音ミクが指示を出すが、クライミングのために逃走ルートは限定され、避けきれなかった弾が亀永千尋の右脚、その腱に命中する。

 

「あ゛っ……い、痛……くない! 鎮痛剤、もとい鎮痛毒は既に投与済みさ! 背中の真守君を狙うべきだったね! 間抜け!」

 

 麻酔ならともかく、鎮痛剤では痛みは完全には消せない。

 痩せ我慢をしながらも、握力のみでぐいぐいと登り、渓谷の終わりまで後10メートルを切る。

 

 だが、夏油は空を飛べる呪霊を所持している。

 吹き矢の射程範囲外から、正確に急所を狙い呪霊を放つ。

 

 その内の一つが、亀永千尋の右肩と、左脚に命中する。

 

「ゔ、あ、ああ……だ、だから、しつこいなぁ、効かないって、いってるだろ?」

 

 あくまでも痩せ我慢は解除せずに、遂にその左腕は、深い渓谷の終わり、崖を掴み、緩んできた縄をこれ幸いとして、背負った真守をその上に転がして、崖の上に安置する。

 

「や、やった」

「さようならだ、亀永さん」

 

 その代償として、無慈悲に射出された呪霊に、亀永千尋の心臓は貫かれた。

 

「結果論で言うのなら、真守君と私のもとに降るべきだったね、あなたも別に、呪詛師になること自体は嫌じゃなかったはずだ」

 

「いや……結果論なら………私はの…した………ただ…こ………と……」

 

 喉と肺に血が絡み、何を言いたかったかも聞き取れず、分からないまま、亀永千尋は崩れ落ちる。

 

 

 そして、()は起き上がる。

 

「……!? …………嘘だろう?」

 

 

「………………………………あぁー、あ゛はは、ハハハハッ」

 

 その笑みは、血に染まっていた。

 

 




亀永千尋:心停止状態。 出血多量も相まって後5分も保たない。
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