真に守り抜く 作:しんぴのまもり
「さて…これからのことについて、家族で話し合おうか」
袈裟を着た男が、数人の男女を集めて口を開く。 その顔に真守との戦いで浮かべていた胡散臭さや狂気の混じった笑みは見る影もない。
そして本来ならできていたはずの額の縫い目もそこにはなかった。 クリスマスは間近に迫っていたが、真守に全ての呪霊を使い切った夏油とその一派は、百鬼夜行を起こすほどの余力を残していなかったのだ。
「あのコは誰だったのかしら……? 本人は傑ちゃんの身体目当てって言ってたけど……本当なら、中々いい趣味してるわね」
「ソンナワケナイダロウ。 アイツ明ラカニ夏油ヲ殺シニキテタゾ。 俺ノ黒縄モマーマー削ラレタ。 近ヅケサセナイ立チ回リガメチャクチャ上手イゾアイツ」
乳首にハートのニップレスが付いた男、ラルゥとサングラスを掛けた黒人の男、ミゲルが口を開く。 やけに夏油傑の帰りが遅いことを気にかけた彼らは、夏油傑の身体を奪おうとしていた羂索と鉢合わせ、夏油と共に交戦した。 夏油傑の帰りが遅かったのは単に特級呪霊の群生地に気を取られただけだったが、彼らの夏油への気持ちが彼の命運を分けたと言えるだろう。
「夏油様を殺そうとするとかクソじゃんそいつ! もし見つけたらぶっ殺してやるから外見教えてラルゥ!」
「うん、絶対に吊るしてやる」
「馬鹿かお前ら。 ミゲルとラルゥ、夏油様の3人がかりで殺しきれなかったんだぞ。 お前らが殺せるわけ無いだろうが」
「袮木の言うとおりよ。 もう少し冷静に、そして大人になりなさいよ」
「「あ゛?」」
青筋を浮かべながらキレるJK2人、枷場菜々子と枷場菜々子。
それを止めるのは右目に痣のある青年、袮木利久と秘書のような格好をした女性、菅田真奈美だ。
姉妹と彼らはやや思想がズレている部分があり、今回のように2対2の形で対立することも珍しくなかった。
「みんなよしてくれ。 私は家族が喧嘩するところなんて見たくない。
それより大事なのは、これからどうするか、あの女の正体はなんなのかを家族でよく考えることだ」
だが、その度に夏油傑は仲裁を行い、彼の事を心から崇拝している彼らはそれに従った。
彼が死ぬと途端に空中分解をした彼らだが、逆に彼が生きている限りはこの一派の団結は崩れないだろう。
「私の考えを言うと、少なくとも半年は動くべきじゃないと考えている。
少しずつ溜めた呪霊も使い切ってしまったし、決死の覚悟で折本里香を取りに行ってもまたあの女に漁夫の利されるかもしれない。
初心に帰り、これまで通り猿どもから金と呪霊をコツコツ溜めて行こう」
「賛成ダ。 アノ女を無視スルノハマズイ気ガシテナラナイヨ」
「私も同じ意見ね……」
夏油一派の上位三名が早々に意見を固めたことで、結論は既に出つつあった。
◇◇◇◇◇◇
「……これから、どうしようかなあ」
亀永千尋は悩んでいた。 実に悩んでいた。
この間の夏油傑の一件。 命が助かったのは良いものの、あの時亀永千尋はらしくない行動をしてしまった。
すなわち、自分の命を捨ててまで真守を助けようとしてしまったことだ。
(あれ以来、どうも私の心には迷いが生じている……それも、直視したら動けなくなるレベルの。
今までやることをやっちゃってる以上、今更善人ヅラをするわけにもいかないし……。 改心するには、私の性根は腐り過ぎている)
今までは、思うがままに悪意を振り撒けば良かった。 開き直り、高笑いし、忌み嫌われて生きているだけで良かった。
だが、あんな行動をしてしまった今、嫌でも直視する必要がある。 自分のしてきたことから、ドクズなので気にしませんができなくなってしまう。 それも、善人になることもできないままに。
「うーん、自業自得ってのはこういうのを言うんだろうなぁ。 何ならこれでも死んでない分罰としては軽すぎるし。
硝子ちゃんなら酒やタバコでこういった無駄にくすぶる思いを押し流せるんだろうけど……それができるの、来年からだしなぁ」
亀永千尋は悩み続ける。 いつの日か死ぬその時まで、彼女の悩みは尽きないだろう。
それが一年後なのか、それとも数十年後なのかは誰にも分からなかった。
◇◇◇◇◇◇
人のまず寄りつかない寂れた廃村に、彼ら1人と4体の呪霊は集まっていた。
「虎杖ー、なんで体変えたの? 前の方が呪いっぽくて良かったのに」
無邪気に物陰から出てきて問いかけたのは、顔にツギハギのある青年……の見た目をした呪霊だった
今は領域も使えない未熟な呪霊だが、数ヶ月もすれば呪術界に震撼を与える呪霊に成長するであろう残虐性と成長性を彼は秘めていた。
「夏油傑に姿を見られてしまってね。 亀永千尋も始末しづらい役職に就いてしまったし、上層部にもう少し近い位置に潜り込んでいく必要がある」
器用に壊れかけの屋根の上にあぐらをかきながらそれに答えたのは、30代半ばといったところの男性だ。 肉体的には全盛期をやや過ぎてしまってはいるが、それを上回る利益がこの肉体にはある。 そう彼の中に潜む脳味噌、羂索は考えていた。
「ふん、何でもよいわ。 それよりも、今回我々が集まった理由、忘れてはおるまいな?」
「。た来にここに為るなにうよるせぼ滅を達師術呪な魔邪は達私」
「ぶふぅー ぶぅー」
ぞろぞろと霧の奥から現れるのは富士山頭の漏瑚、目が木になっている花御、巨大なタコに似ている陀艮。
3体とも特級呪霊の中でも更に破格の力を持つ、自然への畏怖から生まれた呪霊達だ。
「分かってるよ。 差し当たって君達が必ず達成しなければならない事は2つだ。
五条悟の排除と両面宿儺の完全復活。 この二つを達成できないのならどうにもならない」
「それって両方やらなきゃ勝ち目0って感じなの? どちらか片方達成してトントン、両方達成したら勝ち確とかじゃなくて」
「ああ、ここ10年で呪術界のパワーバランスは崩壊した。 五条悟はもちろん、二宮玉枝、乙骨憂太、二宮真守、九十九由基など優秀な術師が今の世代には揃っている。 君達だけじゃ五条悟以外の戦力でも討滅できるし、いくら宿儺でも五条悟と戦った後にあの戦力を相手にするのはやや厳しい。 その上不確定要素ではあるが夏油傑とその一派も呪霊の味方はしてくれないだろう。 私も今やあの陣営から蛇蝎の如く嫌われているだろうしね。
……正直なところ、この世代は見逃して次の世代の術師に勝つ方が現実的じゃないかな」
羂索にしては珍しく、これは心からの考えだった。 少し前までは五条悟の対策をしていれば良かった。 しかし、二宮玉枝が急成長をするわ、有望なルーキーがポコじゃか出てくるわ、どうせ死ぬだろうと見捨てたはずの呪詛師が優秀な医者となって復活してくるわと想定外の数々がここ数年で起こっていた。
羂索自身はこの状況を心から楽しんでいるが、呪霊を頂点に立たせたい彼らとしては、この時期に行動をするのは不都合なのではないか。
そんな疑問から羂索は本心をポロリと漏らしていた。
「ならん! 今偽物どもが我が物顔で往来を歩いていることすら我慢ならんと言うのに、ここから更に何十年も待つことはできん!」
「そうかいそうかい。 なら、数ヶ月だけ待ってくれ。 10月31日に五条悟の封印を行い、その後宿儺の指を解放することで器を目覚めさせる。
君たちにはその日まで、幾つかのおつかいを頼まれて欲しい」
「ふん! 本当にその日まで待つ必要はあるのか? 聞いた話だと、儂らが勝てんとする理由はその優秀な術師どもとやらだろう。
確かに束になられれば厄介だが、儂が一人一人闇に紛れて焼き尽くしてしまえばよかろう」
五条悟の圧倒的な強さを知らない井の中の漏瑚を見て、羂索はくつくつと笑う。
そしてその脳には、面白そうな余興が浮かんできていた。
「そう言うのなら試してみれば良い」
「ぬ?」
「丁度2日後、乙骨憂太という術師が任務で孤立する。 そこを君と花御で強襲してみれば確かに勝てるかもしれないね」
羂索にとっての最優先は真人の捕獲。 無論五条悟の封印にあたって彼らが生きてくれれば楽に事を進められるが、この時の羂索には他にも幾つかの当てがあった。 ならば、ここで漏瑚を焚き付けて今の乙骨憂太を測るのも悪くないと彼は考えた。
「……まずは儂1人でやろう。 それで勝てなければ花御にも参戦してもらう」
「え〜、俺は〜?」
「あそこまで此奴が言う以上、乙骨憂太は領域を使えるだろう。 今のお前では祓われる可能性がある」
「此奴、ねえ。 今は加茂憲明という名の身体だから、加茂と呼んでくれ」
「喧しい、兎に角真人、お前は今回不参加だ」
「はーい」
真人は無邪気かつ邪悪な呪霊だが、それでも仲間かつ年上の漏瑚のことは慕っている。
口を尖らせつつも、真人は漏瑚の決定に従った。
「では行くぞ花御。 ついに我々こそ真の人間だと知らしめる時が来たようだ」
「うょしまき行に共」