仮面ライダーディヴェルト   作:虎ノ門ブチアナ

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 世界に蔓延(はびこ)る悪性腫瘍、すなわち癌、すなわちCD(カンケルデータ)
 社会を(むしば)み、人の幸せを踏みにじる。

 それは、今も―――。


「神様…どうか我々をお許しください……」

 ほの暗いロウソクの灯下(とうか)で泣いて祈るのは、貧相な格好をした夫婦であった。
 彼らは、自らの娘を生贄にしたのだ。

「さぁ、もっと近くへ」

 玉座にて手招く“それ”は、少し前にこの国を滅ぼした者だった。
 たった1人で騎士団全員を殺し、街を焼き払ったのだ。

 世界で最大の規模を誇ったこの国を手中におさめたことは、つまり世界の全てを奪ったことに他ならなかった。

 身ぐるみをはがされ憔悴(しょうすい)しきったかつての王夫婦は、“それ”の命じるままに娘を明け渡さざるを得なかった。

「君が、この国の姫…『ミヅキ』と言ったか」

 ドレスとティアラ、まさしく姫としか形容できない出で立ちの少女は暗い表情のままうなづいた。

「貴方がこの国を滅ぼした者…『CD(カントリー・デストロイヤー)』と、そう名乗っていましたね」
「CDと呼んでくれても良いが、名前の意味そのままで覚えやすかっただろう?」
「はい、貴方の所業(しょぎょう)、忘れることはありません」

 傾国の力を持つCDに対しても語気を弱めない気丈な姫、ミヅキに彼は頬を緩める。

「君はとても気高い。だからこそ欲しいと思ったのだよ。この手で(けが)してやりたいからな」
下衆(ゲス)め…!」

 怒りに思わず口走ったミヅキにCDは眉を動かした。

「今すぐ君の首を落としても良いのだよ。それもまた味のある終わり方だ」

 そう言ってCDが玉座に立てかけていた剣を(さや)から引き抜く。

 と、城の大きなステンドグラスを割って、人影が飛び込んできた。

「! 誰だね!?」
「テメェに名乗る名など無いッ!!」

 驚異的な身体能力で着地したその人影、ローブに身を包んだ者はミヅキへと走り、彼女を横抱きにするとそのまま走り去ってしまった。

「…さらわれた」

 力を失った王は、ただこの騒乱を傍観することしかできなかった。

――


 城から離れ、瓦礫(がれき)の山と化した城下町にて、壁に隠れながらミヅキとローブの者が一休みする。

「すまねぇ、手荒になっちまったが大丈夫か」
「ええ、それより貴方は…?」
「アタシゃ『アラタ』だ。あのカントリーなんとかってヤローに村を滅ぼされたから復讐しにな」

 アラタ、そう名乗るのはミヅキと年の変わらぬ少女だった。
 少女のあどけなさを(ほこり)によって覆い隠されたような彼女に、ミヅキはただ唖然とするしか無かった。

「…ところで、どうして私を助けたのですか?」
「助けた? どう見てもさらっただけだと思うが?」
「いいえ、あの場にいれば私は殺されていました。貴方が来てくれたからこそ命があるのです」

 そうか、とアラタが答えると、彼女を連れてその場を後にする。

「アンタを助けたのは、なんか、ほっとけなかったんだよ。アタシと年も変わんねぇガキが死ぬのなんて見てられねぇよ」

 少し歩くと、アラタは廃墟の中にまだ食べられそうなパンを見つける。

「運が良いな、まだ食えるぞ」
「他の方のお家から…盗むと言うのですか?」
「姫様には刺激が強いか、だがこうでもしねぇと生きていけねぇんだ」

 神妙な面持ちでアラタが呟くと、パンを半分に分けてミヅキに渡す。

「その、私は……」
「さらっといて勝手な話だが、食っといた方がいい。どのみちこの世界で生きてりゃ飯にもありつけなくなっていくぞ」

 アラタに説かれ、納得できずにいながらもミヅキがパンをかじる。
 今までの裕福な生活からは想像もできない質素な味に顔を歪ませる。

「まずいか? やっぱりな」
「いえ…そんな」
「実を言うとな、国を焼いたあのヤローが出て来る前からアタシは貧しい暮らしをしてたんだよ」

 信じられない事実を告げられたかの様な表情のミヅキに、アラタはため息をつく。

「まぁアンタのせいでも、王様のせいでもないこたぁ知ってるよ。ありゃウチらの村を仕切ってた領主が租税を上げて食料を奪っていたからだ」
「! それは、その領主様を裁けなかった我々の責任です! …そうして外の世界では悪に搾取されている方がいたと言うのに、私は何もできず……申し訳ありませんでした」
「誰が悪いかはともかく、アンタは姫様だ。謝る必要はねぇだろ」

 ミヅキの罪悪感を察してか少しはにかむアラタを見て、ミヅキは幼い頃に母から聞いた伝承を思い出す。

「貴方は…まるで昔話に出てきた騎士様みたいですね。悪王から姫を取り返し、闇に包まれた国に光明を照らす、勇気ある騎士様です」
「……よせやい、アタシはただの盗っ人村娘さ」

 へへ、と照れるアラタに、ミヅキは憧れを覚えた。

「私のことは、どうかミヅキとお呼び下さい。私…貴方のことをもっと知りたいのです」
「そうかそうか、でもアタシが教えられることなんてそんなねーぞ……っと、1つだけあるな。大事なのが1つ」

 なんでしょう? とミヅキが首を傾げる。

「もしさっきの昔話を信じるなら、アンタ―――ミヅキも強くいろよ。騎士サマに頼りっきりじゃダメだ。アタシも自分の力を信じて生きてきたから、ここにいる。だからよ、辛い出来事は自分で変えてやる! って思うべきだぜ」
「…だから、アラタはCDに立ち向かったのですね」

 へへ、と鼻の下をこするアラタにミヅキは微笑む。
 月下に照らされる互いの笑顔は、この上無く美しく見えた。


「見つけたぞ! 捕えろ!!」

 彼女らの時間を打ち壊すのは、CDに屈し従僕と化した騎士団らだった。
 CDの命で2人を追っていたようで、即刻アラタを捕縛する。

「どうかお離しください!」
「姫様もお戻りください」

 何人もの騎士に囲まれ、なす(すべ)なく2人は城へと引き戻された。

――

「逃げても無駄だ、ミヅキ姫。どこへ行こうと全てが私の物なのだから」

 したり顔のCDをミヅキが睨みつける。
 一方で、反抗的な態度を崩さない彼女にCDはさらなる苦痛を与えたいと焦がれた。

「私はね、命を奪うことや街を破壊することよりも、そこで生きる者が絶望する瞬間を味わうのが好きなんだ。君もその材料に過ぎない」

 そう語ると、CDは指を鳴らして騎士達にアラタを連れて来させた。

「アラタっ!」
「…ミヅキ!!」

「乱暴はしていないよ。私の美学に反するからね。傷付けるのはたった一瞬、殺すときだけで良い」
「CD、一体何を言っているのですか!?」

 冷や汗を垂らすミヅキの眼前に、断頭台が用意される。

「この反逆者を殺す」
「―――! お願い、やめてッ!」
「やめてと言われたことをするのも、私の趣味だ」

 そう告げると、アラタの首が断頭台にかけられる。
 抵抗しようと無駄だと悟った彼女は最期にとミヅキに笑いかける。

「アタシゃここで死ぬ! だけどCDをブチのめしたいっていう思いは死なない! アンタが継いでくれるって信じてるから―――」
「やれ」

 笑顔のまま、アラタの命はたやすく切り落とされた。
 目の前で、自分に強さを説いてくれた彼女を(うしな)ったのだ。
 一緒にいられたのはほんのわずかな時間だったが、王宮から出ること無く、孤独に過ごしていたミヅキにとってアラタは唯一無二の大切な人だった。

「CD…貴方を許しはしません!!」
「許さないからなんだと言うのだね。反抗するか? あの反逆者のように無意味に(あらが)い無意味に散るとでも?」
「いいえ…貴方を倒します!!」



#0 始の世界

 

 高らかに宣戦布告するミヅキに呼応するように、世界全体に鐘の音が響く。

 その荘厳で規則的な音色はまるで“何かの到来”を告げるようであった。

 

「なんだこの音は…?」

 

 突如起こる世界の異変に意に介さず、ミヅキは祈るように手を組む。

 

「騎士は在らずとも、この私の手で、世界に光明を照らしてみせます!!」

 

 彼女の確信が力に変わる。魂の底から湧き上がるエネルギーに身を(ゆだ)ね、腰に両手をかざす。

 すると彼女の腰にベルト状の神秘的な端末が装着される。

 

「これは……」

 

 牢屋にて鐘の音を聞いた王が格子(こうし)から空を見渡す。

 

「歴代王の間で語られてきた、古代秘術の結晶……多くの犠牲を経てついに実を結んだか!」

「王、その言い伝えは一体…」

「ようやく目覚めたのだ、この世界を救う戦士が!」

 

 その戦士が何者なのか王夫妻は知らない。

 だが、その者が現れた時点でCDに勝ち目が無いことを実感していた。

 全生命からのSOSに応える宇宙規模の自浄作用。それこそが―――。

 

「…やめろ、その力を使うな! そうだ、君の欲しい物をなんでもくれてやろう、金も食も、世界もだ!」

「そんなモノいりません。私が欲しいのは……貴方がもう既に奪い、壊してしまったモノ全てです」

 

 恐れ震えるCDだったが、もう遅い。

 その力はすでに覚醒し、世界の癌を取り除かんとしているのだから。

 

「―――変神(へんしん)

 

 命の叫びたる合唱が、戦士の誕生を知らしめる。

 純白の装甲、黄金と白亜の体、金色の装飾が織りなす究極の超人が満を持して降臨したのた。

 

 それが姿を表してからCDが粉砕されるまでに、1秒もかからなかった。

 先程まで姫であったはずの超人が放った拳が邪悪を消し去ったのだ。

 

 余剰エネルギーが城の外壁を吹き飛ばし、空が(あら)わになる。

 それと共に夜が明け、暁光(ぎょうこう)が戦士の姿から元に戻ったミヅキを照らした。

 

(アラタ…私は貴方のように、強くなれた気がします)

 

 アラタを含め、これまでに亡くなった魂に姫が祈りを捧げると、腰に巻かれたままのベルトが光になり、世界中に降り注いだ。

 その光は時間と因果を超え、力の持ち主であったミヅキの願いを叶えんと作用する。

 

 世界の救世主に与えられたささやかな報酬。それは、人々の記憶と引き換えに構築された平和な世界であった。

 

――

 

「ミヅキ、そろそろ起きないか」

 

 騎士団を示す礼装をまとった少女―――アラタがミヅキを揺さぶる。

 

「おはようございます、アラタ」

「今日は王と共に村の視察に行くんだろう?」

「ええ、かつての貴方のように搾取される者のいない暮らしを支える必要がありますから」

 

 あくびをかきながら説明したミヅキは、少し微笑むとアラタの手を取る。

 

「もちろん貴方も来ますよね? 私の騎士様」

「ああ、アタシの姫様」

 

 

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