世界の癌に立ち向かう最終戦士。
その力は、世界を超え、時間を超えてまた別の世界へと舞い降りる。
経済の成長を遂げた強豪国、『黒の国』。そこに新たな君主が名乗りを上げた。
『
CDが立案した作戦によって各国の防衛機能は破壊され、まるで炎のごとく、瞬く間に黒の国の領地を拡大させていった。
「―――と、記事の序文としてはこんなモンで良いか」
「おいトーマス、また我が国のCD様について書いてんのか? 内容には注意しろよ…最近じゃ新聞記事にも軍の校閲がかかって、国にとって有益な情報しか発信させてもらえねぇんだから」
パイプを片手に忠告する同僚に、『トーマス』は頭をかきながらどうも、と心にも無い感謝を述べる。
黒の国で新聞記者として働く彼は、現状のCD政権における封建的な政治に異を唱えていた。だが、強大な軍事力を味方につけたCDの圧政には逆らえず、最近では記事を載せてもらえずに苦心していた。
「お前このままじゃ食いはぐれるぞ? この世の中じゃ長い物に巻かれていた方が身を固めやすいんだからさ」
「俺は身一つで記者やってんだ。今更失うモノが無いからよ、せめて真実は伝えたいんだよ」
「そうか、だが本当に気を付けろ……最近じゃちょっとでも国家に不利益なヤツは警察に捕まって牢屋行き、悪けりゃ一生収容所だって聞いたぞ。お前はそうはなりたくないだろ」
小声ながらも警告する同僚に、トーマスは今度こそ誠意のこもった感謝を口にする。
「ありがとうな、だがまぁ…誰かが残さなきゃならん真実もあるだろ」
そう言い残すとトーマスは新聞社を後にして取材を始める。
警察、軍による弾圧と、ラジオから常に聞こえるCDの演説。
この国が一色に染め上げられていくのがはっきりと感じられる。
(あのCDと呼ばれる男…一体何物なんだ? 今までの経歴不明で、一気に国家の長に上り詰めた……それでいて各国への侵略を推し進めるなんて、政治家は何をしてるんだ?)
トーマスが建物の影から警察による武力制圧の様子を事細かに書きつづる。
と、反対方向からやってきた警官に肩を叩かれる。
「貴様、そこで何をしている?」
「あぁ、僕は記者でして、警官の皆様が勇猛果敢に反国の徒と戦っている姿を取材しているのですよ」
弁明を連ねるトーマスに警官は納得したのか肩から手を下ろす。
安堵するトーマスだったが、次の瞬間には手錠がかけられていた。
「!? 何をするんですか!」
「そう言って我が国を害する報道をする輩が後を絶たなくてな。“疑わしきは罰せ”、それがCD閣下の指令だ」
そんな、と戸惑うトーマスを警察官らがさらに捕縛し、反逆者を運搬する車両の荷台へ投げ込む。
「貴様には収容所で服役をしてもらう。己の好奇心を恨み続けるんだな」
――
黒の国の
連れてこられて1時間と経過していないトーマスが逃げ出したいと考え始めるのも当然であった。
同じ牢には飢えた収容者らが横たわり、別の牢にいた者たちは別室に運ばれたのち、恐ろしい断末魔が聞こえてきた。
そこは、文字通りの地獄であった。
「あんた、何やらかしたんだい?」
今にも生き絶えそうな
死んだと思っていたので驚いたトーマスだったが、会話できる相手がいると知り、安堵で目が潤む。
「すまない、驚いたりなんかして…俺は記者でな、警察の動向を記してたらここにいた」
「そうかい、そんなモンでも捕まっちまうよな…俺ぁCDが台頭したばっかの頃に反対運動を行っててな…それでこのザマだ。そこで寝てる若いのは連れ去られようとしてた女をかばって代わりに収容、
いわれの無い罪で彼らはここで苦しみ続けている。これが国の
「CDは知っているのか?」
「もちろんだ、たまにここへ“見物”に来るんだぜ。家畜を見るような目で俺達を笑い者にして
老爺がすすり泣く。
「なぁ、じいさん…CDはどうしたってそんなひでぇ真似をするんだ?」
「アイツ、言ってたよ…“この世界は間違っている、だから自分が正すんだ”ってよ…そのためにか? 俺達が死ぬのは? 今の警察や軍が罪も無い人をこんな場所へ送り込むのは正しいことなのか!?」
その老爺の叫びが、彼との最後の会話となった。
数日後には彼も別室に連れていかれ、帰ってこなかった。
誰とも会話できなくなり、凍えながら死を待つのみになってしまったトーマスのもとに、CDはやってきた。
「どうだね、調子は?」
「―――CD!」
力を振り絞ってトーマスが牢屋の
近くの看守のムチ打ちによって指が引き離されるが、CDに向けられた怒りは冷めやらない。
「貴様、CD様の前だぞ!
「いい、君達は下がっていたまえ」
CDからの指示を受けて軍人らが一歩引き下がる。
「CD……1人の人間としてでは無く記者として、聞かせてほしい。どうしてお前は無関係な国民を殺した?」
「民は私に従ってもらう必要があった。だからこそ恐怖をもたらして反抗するものを出さないように努めた」
「逆効果だな、そうやって人を殺せば憎まれる。憎めば人はお前に歯向かう。命を奪い続ければ憎しみは絶えないだろ」
「なら歯向かう者も殺す。私に従わない者が消え失せるまで殺す。私が正しいという結果のみ残ればいいのだ、そうすれば私は間違っていないことになる」
CDが天をあおぐ。その狂気じみた姿にトーマスはただ怒り、憎しみを
「破綻者めッ…!」
「言葉をつつしめ猿が!」
軍人らに
「憎いなら憎め、怒るなら怒れ。それで君には何もできないのだから…ハハ、ハ! ハハアハハハハハ!!」
歯をむき出しにして笑うCDに、トーマスはただ口汚い言葉を垂れ流すことしかできなかった。
無力だった。
ただの記者に世界を変える力は無い。
強い力の前には、真実など意味が無かった。
正義や誠は強大な悪には決して敵わない、それこそがこの世の
「CD…テメェ絶対許さないぞ……」
その時だった。
どこからともなく鐘の音が鳴り響くと同時に、トーマスの腰に光が宿り、ベルトを形成した。
「! 貴様、何をした!?」
軍人らが銃を突きつける。
一方のトーマスも何がなんだか分からず目を見開いていたが、やがてベルトから声のようなものが聞こえてくる感覚がした。
「お前は、力…CDを倒す…力」
“力”と自らを呼ぶそのベルトに導かれ、トーマスは眼前の悪を倒すための力を起動させる。
「それが力を解き放つ言葉か…なら―――変神」
牢屋を中心にして力が爆発し、発生したエネルギーで壁と共に軍人らが吹き飛ばされてしまった。
その一部始終を目撃したCDは感心する。
「君がそんな力を隠し持っていたとは」
「さぁな、全く知らねぇなこんな力…でも、お前をミンチにしてソーセージ作れるならそれでいい!!」
戦士は一瞬でCDとの間合いを詰め、彼の頭を潰す。
ように見えたのはCDの部下の軍人であった。
彼は部下を意のままに操り、自分と位置を交換し、まさしく瞬間移動めいた機動を見せていた。
「これこそが私の力。我が
「追いつく? 必要無いさ、俺が先を行くんだからな」
CDが位置を入れ替えて瞬間移動した先に、戦士が立つ。
驚いた隙に戦士がCDの首を掴む。
「覚悟しな独裁者…」
「ぐぁ…待て! 降参だ! お前の言うことを聞く! 金も地位も女も、欲しいものをやるから命だけは!!」
じたばたと体を揺さぶりながら弁明を繰り返すCDに戦士はため息をこぼす。
「じゃあ俺の質問に、偽り無く、真実を答えろ」
CDが全力でうなづく。
「どうやってこの国の君主に就いた?」
「私がCD、世界の癌となった時に身につけた力で黒の国の武力をねじ伏せたんだ!」
「世界の癌?」
「そうだ、世界が憎くてたまらなかった私は、自分の世界を終わらせた! 戦争を起こし人々を争わせ、私に従う者のみが苦しみ無く死ねる世界にしたのだ! だから私は他の世界にも手を出した!」
「なぜ、俺達の世界を壊した…?」
「それは……」
「なぜだ…!」
CDの首がさらに締まる。
「あぅォェ…ッ! それは! お前らの世界が乏しく、いやしく、発展途上にある弱い世界だったからだ―――」
そう告げる頃にはCDの首と胴は分かたれていた。
あっけなく死に絶えた巨悪を見下ろし、震える手を抑えながら戦士は語る。
「どうして俺達記者が真実を追い求めるか知ってるか…それはな、“世界をより良くしたい”って思う力のあるヤツが間違い無く世界を良くしてくれるためにだよ。嘘で塗り固められた情報で人が行動したらよ、決まって間違った方向に行く。そんなんじゃ世界は良くなんねぇよ」
戦士の姿が霧散し、トーマスが姿を現すと、戦いを目撃した軍人らに背を向け歩き始める。
「真実を伝えるヤツがいるから、これからの世界が進化していくんじゃねぇかな。ま、俺は伝える方の人間だから世界をより良くする方法なんかは知らねぇけどもな」
と、ベルトから告げられる情報にえっ、とトーマスが口漏らす。
「なに? お前の力で平和な世界にしてくれる? 俺が世界を良くする方じゃねぇかよ! 今のご高説はなんだったんだっつの!!」
悪態をつくトーマスだったが、何はともあれ世界が平和になるのなら、と微笑む。
「お前一体なんなんだ? 記者としては正体を知りたいな…はぁ、力? それだけかよワケ分からねぇな……じゃあせめて名前を付けてやるよ。正体不明のヤツに命名すんのも記者の役目だろ」
世界に光が降り注ぐ。
ベルトもトーマスから離れていくが、最後にトーマスは良い名を思いついた。
「お前の名前は、昔の言葉で“世界”って意味の―――」
「そう、『ディヴェルト』だ!!」