仮面ライダーディヴェルト   作:虎ノ門ブチアナ

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#3 歌の世界

 世界の癌に立ち向かう最終戦士。

 その力は、世界を超え、時間を超えてまた別の世界へと舞い降りる。

 

 

「第100回トップアイドル選手権! 2次予選を勝ち抜いたのは…凪幸(なぎさち) 恵理(えり)選手です!!」

 

 大勢の富豪が集ったホールに拍手が響く。

 彼らが祝福を送るのは、舞台に立った1人の少女であった。

 

 

 この世界は、CD(コントロール・ディレクター)によって武力的支配、そして独裁が完了していた。

 そして何よりも美少女を好むCDは、この世界の美少女を選別し、勝ち残った1人に莫大な権力を与える娯楽に(きょう)じていた。それこそが、“トップアイドル選手権”である。

 

「では、CDさまからお言葉をいただきましょう!」

「いやはや、どのコもみんな可愛くていいね。だが、何度も言っている通り1つだけ忠告がある。今いるゲストらのような富豪(サバイバー)では無い、下等生物共―――貧乏(デッド)がアイドルになれるなど思うな? ヤツらは臭くてたまらんからなぁ」

 

 CDはそう告げると、そのままホールを後にする。

 

 この世界ではCDの支配の中を生き抜いた富裕層が『サバイバー』、それ以外の困窮した生活を送る人々を『デッド』と差別して呼称するようになったのだ。

 誰よりも美を求め、貴族主義を(とうと)ぶ肉の塊に、トップアイドル候補生の恵理は心の中で復讐心をたぎらせていた。

 

 

「凪幸選手、本日はお疲れ様でした」

「はい、こちらこそありがとうございました!」

 

 スタッフらと挨拶を交わして帰宅する恵理に、他のスタッフらも和やかな笑みを見せる。

 

「いや~やっぱり今回は恵理ちゃんが優勝かなぁ」

「それは分からないわよ? 別のブロックにも強豪がいるらしいからね」

 

 スタッフらの言葉を耳に挟んだ恵理が太陽の笑顔を向ける。

 

「ボク、絶対に負けませんから!」

「やっぱ可愛いね、優勝優勝」

「この可愛さはワンチャンあるわね」

 

 多くの人から愛を受ける彼女は、黒光りする高級車に乗ると、会場を去る。

 

「恵理さま、向かうのは“デッドの街”で構いませんか?」

「はい、いつもありがとうございます」

 

 執事らしき男性の運転によって車は人気の無い道へと進んでいく。

 

「到着いたしました」

「ここはいつも危険ですから、執事さんも一緒に来てください」

 

 恵理がそう言うと執事は少し嬉しそうに降車し、後部ドアを開く。

 と、1人の幼い少年と共に多くの人々が駆け寄って来る。

 

「恵理ねぇちゃん、おかえり!」

「ただいまカゲちゃん。元気だった?」

「うん! いま街のテレビ見てたよ! おめでとう!!」

 

 少年に続いて他の人々も恵理の予選突破を祝う。

 

「ボク、絶対優勝して、みんなの希望になってみせるから!」

 

 恵理は、この街で産まれた。

 CDによる破壊で絶望を植え付けられ、デッドと呼ばれるようになった住民らを見てきた恵理は、彼らがまた笑顔と幸せを取り戻せるように、どんなに(ののし)られてきた人間であっても輝く光(アイドル)になれるのだと、その可能性を証明して、人々に希望になろうとしているのだ。

 

 彼女の姿勢に感銘を受けた一部のサバイバーは彼女に投資をおこない、アイドルの選手権に参加できるように根回しをしてくれているのだ。彼女を送り届けた執事もそうした協力者の1人で、いつも恵理がベストな状態でいられるように日夜サポートしている。

 

「頑張ってね、恵理ねぇちゃん!」

「ボク頑張るよ! …それと、カゲちゃん。これだけは覚えていて」

「?」

「間違ってると思うモノにはちゃんとダメって言える人になるんだよ。強い人になって、カゲちゃん」

「うん、お姉ちゃんみたいな強い人に、僕もなるから!」

「いやいや、お姉ちゃんは強い人じゃなくて、超絶可愛い人、だよ?」

「へへ、そだった」

 

 少年の頭をなでると、恵理は車へと戻る。

 トップアイドルになるために過酷な練習をこなさなくてはならない彼女にとっては1分1秒も有限なのだ。

 

「それじゃあ行ってきます!」

 

 人々に見送られながらその場を後にする恵理の姿は、紛うことなくアイドルのきらめきを放っていた。

 

――

 

 トップアイドル選手権、準決勝。

 決勝を控える中でおこなわれるその勝負は、選手権に関わるすべての人たちから“最も過激な戦い”だと評されるほどの熾烈(しれつ)なものであった。

 

 その概要は、すなわち水着審査。

 

「アイドルにはプロポーションも求められることを忘れてはいけない。君たちの魅力を、とくと見せるがいい!」

 

 CDの笑いと共に準決勝が開始される。

 準決勝はテレビ中継がされない特殊な形式を取っている。その理由は、今回の勝敗に命をかけたアイドル候補生による過酷極まり無い争いがおこなわれるからである。

 少しでもCDや審査員の興味を引けるようにと、己の恥部を晒してでも勝負をしかける者も後を絶たず、ルールによって禁止する動きもあったがCDの要望によってそのまま継続することとなったのだ。

 

(やっぱり脱ぐか…でも体を見せることだけが勝負でも色気でも無いよ)

 

 今回の情報を得た上で対策を講じてきた恵理に抜かりは無かった。

 自らの出番になると堂々と舞台へ上がる。

 

「お次は凪幸選手の登場です―――おぉっとォ!? まさかの“スク水”だァーーッ!!」

 

 それが彼女の秘策。だったが、その姿にサバイバーは呆気に取られた。

 開いた口が塞がらない様子のサバイバーの中で、CDは1人不敵な笑いを見せていた。

 

「それが…キミの執念、かね」

「はい。これがボクの魅せる美です」

 

 CDの問いに毅然(きぜん)たる態度で答える。

 

「…脱がない?」

 

 あまりにも卑劣な質問であった。

 CDがそう呟くのはすなわち、“ここで脱げ”とそう告げているのと変わらない。

 若い女性に対しての発言とは思えないその一言に、場がしずまり返る。

 脱いでも地獄、脱がなくても地獄。この言葉1つで命を絶ってしまった選手すらいるのだ。

 ―――が、恵理は想定していた。

 

「お言葉ですが、脱ぎません」

「なに?」

「ボクの体は見ての通り無価値で貧相です…が! その価値が今後上がっていったらどうでしょう」

「どういうコトだ…?」

「ボクがトップアイドルになり、CD様の物になったとき、初めて、あなた様だけが、たった1人、唯一、ボクの艶姿(つやすがた)を目撃することになるのです! トップアイドルの、誰にも見せない姿を、あなただけに!!」

 

 CDが生唾(なまつば)を飲み込む。

 

「そう言われるとそそられるな…」

「…ボクの特別な価値を作ってください、CD様」

「いや、まぁ。スク水も十分スペシャルだと思うがね? …審査員! 彼女を決勝に上げろ」

「は、はい!!」

 

 

「第100回トップアイドル選手権! 準決勝を勝ち抜いたのは…凪幸恵理選手です!!」

 

 司会の発表に拍手が上がる。

 恵理はついに決勝への切符を手にしたのだ。

 

 だが、恵理が勝ち残ればそれだけ敗北し、涙を流す選手も増える。

 その重責がのしかかっていくことを理解した上で、恵理は戦う。

 

(負けたみんなの分まで…ボクは)

 

――

 

 

 決勝の日が訪れるのは早かった。

 最後に戦うことになる相手のことは研究し尽くしたが、それでも不安がよぎる。

 

「あなたが決勝戦の相手ね」

 

 話しかけてきたのは、決勝の相手となるトップアイドル候補生、朱音紅子(あかねべにこ)であった。

 抜群のスタイルと美貌、それに加えてこの世界で希少となった医師を目指している才女でもあるという。

 

「朱音さん、今日はどうぞよろしくお願いします!」

「1ついいかい…この勝負に生まれは関係無い。ただ本気でしのぎを削るだけよ」

「まさかボクのこと……」

 

 知られてはならない恵理の出生を知っている素振りを見せる朱音に動揺するが、一方の朱音は優しい笑みを浮かべていた。

 

「貴方のことは認めているわ。だから今日は1人の人として戦いましょう」

 

 手を差し伸べる朱音に恵理も(こた)える。

 恵理と朱音は握手を交わすと、互いに背を向け歩き出す。

 決勝戦が、始まる。

 

 

 決勝戦はデュエットによる歌唱審査。

 2人が舞台に上がると、マイクを握りしめて息を吸う。

 

 その歌声が、聴く者全てを魅了する。

 5分にも満たないその時間が、人々に感動を与える。

 アイドルという概念を超えた魂の音が、暗雲立ち込めるこの世界を照らす。

 

 拍手喝采の末、遂に審査が終了する。

 

「第100回トップアイドル選手権! 多くの参加者の中からトップアイドルの座に輝くのは―――凪幸恵理選手ッ!!」

 

 言葉にならない感激が恵理に走る。

 朱音も勝利を祝福する。

 

 トップアイドル、それは勝利の称号。絶対ならヒエラルキーの頂点。

 だが、そんな栄誉よりも恵理は……。

 

「…!」

 

 CDのみぞおちに、恵理が忍ばせていたナイフが突き刺さった。

 

「みんな、ごめん……!」

 

 デッドの希望を(うた)った自分がやることでは無いと、恵理も分かっていた。

 だが、やらねば誰かがまた絶望すると思った。

 CDを()たなければならないと、ずっと前から確信していた。

 

 呼吸困難と大量出血を起こすCDを見下ろし、恵理は涙を(ぬぐ)う。

 

「き…みは……!」

「私は…あなたがデッドと呼んだ汚らわしい女。そして、あなたが可愛いと褒めちぎり、トップアイドルの座を渡した女です」

「騙したのか…」

「はい、こうでもしなければあなたのような邪悪を殺せませんでしたから」

「この俺を…騙したのか!」

 

 CDの怒号に恵理は一歩引き下がる。

 急所を狙ったはずの彼がまだ喋れている違和感に恵理は汗を垂らす。だが、同時に納得もしていた。

 これほどの独裁をできる男が、人間である道理など無かったのだから。

 

「薄汚らわしいメスブタがァッ!!」

 

 CDの姿がいかにも鈍重そうな獣の異形へと変わる。

 背後から伸びた触手で周囲を破壊しながら人々を殺していく。

 

「許さんぞアマが!」

 

 触手が一気に恵理へと振るわれる。

 が、彼女の前に朱音が立ちふさがり、触手に貫かれる。

 

「―――!」

「…凪幸さん! …逃げて」

 

 触手を振り回し、朱音がゴミのように放り投げられる。

 命をなんとも思わず、ただ自分の怒りをぶつけ続けるCDの醜さに恵理は打ちひしがれる。

 

「私が…この状況を引き起こした…ごめん…ごめん、みんな……」

 

 

 鐘の音が世界を包む。そして、光が恵理の腰を包み、ベルトの形に収束する。

 

「ブタが! 死ねぇい!!」

 

 CDの触手が恵理に襲いかかるが、ベルトから放たれる光の膜が防御する。

 

「え、何か聞こえる!? …えっディヴェルト…はい、これで、CDを倒す? そんなことが…」

 

 ディヴェルトから与えられる情報をもとに恵理がベルトへ手をかざす。

 

「そんなことができるなら…どうか少しでも…力を! 希望を!!」

 

 本当はみんなの希望になりたかった。

 叶うなら本当にアイドルとして自分の笑顔で人々を笑顔にしたかった。

 大好きな歌を唄い、仲間たちと絆を結び、未来を明るく照らしたかった。

 

 でも、復讐心と使命感、憎しみで血濡れたこの手ではもう掴めない。

 ならば、せめて希望だけでも守りたい。恵理のその願いはディヴェルトによって成就される。

 

「―――変神」

 

 ディヴェルトが降臨する。

 その光がCDの目をくらませ、隙を狙って手から放たれた凄まじい威力の光線で貫いてみせた。

 

 熱と光によってCDは断末魔を上げること無く無惨に爆散する。

 ほんの一瞬ではあったが、彼女がCDの打破と世界の解放を成し遂げた雄姿は、その場の中継用カメラが捉えていた。

 

「…恵理ねぇちゃんが…CDを倒した……」

 

 少年の目に刻み付けらた彼女の戦いは、彼の心に消えない勇気を与えた。

 

――

 

 1年後。

 

 CDの光によって世界は修復され、人々の記憶もCDがいなかったことに書き換えられ平和な世界が再構築された。

 アイドルが人々に希望を与え、希望をもらった人々が社会を支え、差別や格差の無いみんなで生きていく平和な世界。

 そこで1人のトップアイドルが少年と握手を交わす。

 

「ただいまカゲちゃん、ボク…またみんなに希望を届けられたかな?」

「うん! 恵理ねぇちゃんが守ってくれた希望も、このサイコーな世界も、僕忘れてないから!」

「?」

「なんでもない! 恵理ねぇちゃん、今度また歌聴きたいな!」

「まっかせといて!!」

 

 

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