世界の癌に立ち向かう最終戦士。
その力は、世界を超え、時間を超えてまた別の世界へと舞い降りる。
当たり前にある日常は、いとも容易く崩れ去る。
続くと思っていた幸せな時間が、世界に蔓延る“癌”に飲み込まれていく。
自宅にて食事を共にしていた筈の家族が、親友が、まるで矮小な虫の様に殺害されていく様子を見る事しか出来なかった。
何も出来ない自分が悔しい。いつも一緒に笑いあった家族や友と暮らせなくなるのが嫌だ。
みんなの幸せを屠るあの怪物が―――。
―――憎い。
「ーーーーーーッッ!!!!!!」
力無き青年の最後の叫びと共に爆風と光が巻き起こる。辺りに舞う粉塵に包まれると青年の意識は途絶えた。
最後に聞こえたのは、鐘の音だった。
――
2年後。
鹿児島県、某所。
「『ブレイカー
「距離を詰めつつ対象を捕捉し続けろ」
「了解」
上空を飛び回りながら腕から生えた大砲を連射する者―――βと、
何度も地面やビルの壁面を跳躍しながらソレに食らいつく者―――α。
彼らの戦闘の流れ弾を受け、世界は炎に包まれた。
自衛隊は2体を人類に対する敵意を持った生命体と判断し、対敵してきた。
「隊長! βの攻撃がこちらへ!」
「総員退避―――」
砲弾が自衛隊の部隊員らに当たり、周囲を爆発させる。
それを目撃したαが炎の中へ降り立ち、生存者を救出する。
「大丈夫ですか!?」
「…疫病神め」
その言葉を残し事切れる自衛隊員を見て、α―――
ディヴェルトは絶句する。
「おい、元気してるか疫病神?」
後ろから彼に話しかけるのは、βならぬ、この世界に現れたカンケルデータ、
「CD…お前のせいで多くの人が死んだんだぞ……」
「そいつぁお気の毒さま」
「…殺すッ!」
ディヴェルトがその素早さでCDへ拳を見舞う。
衝撃で吹き飛ばされたCDは近くにあったビルを貫通し、それにより生じた穴をディヴェルトが通って追う。
そして、しばらくしない内にビルは倒壊し、付近の建造物群を瓦礫と化す。
「お前が父さんを母さんを勇太郎を! みんな殺した、みんな奪った!」
「許せないか、そうだよなぁそりゃなぁ。だからどうした?」
「お前を…この力で! 殺し尽くすだけだァァァァァ!!」
ディヴェルトの体が輝き、CDへ突撃する。が、その姿は既に消えていた。
「…どこへ行った」
と、地上から大声が聞こえる。
その声の主は拡声器の付いた軽トラックから顔を出してディヴェルトへ微笑んだ。
「CDのヤロー消えやがったな! なら休憩だ休憩!」
「ヴァレドさん」
『ヴァレド・オクスカ』。
スペインから来た
身寄りの無かった楓は寝食を提供してくれるヴァレドのもとで暮らしながら、日夜CDを追いかけていた。
「今日もCDをやっつけられなかったか」
「はい…アイツは僕の仇です。次こそ絶対に……」
「もー辛気臭いのはいいから帰るぜ」
ヴァレドが軽トラックを走らせ、付近の牧場に停車する。
「明日からはこのあたりでお仕事だな」
「……」
「そんな暗い顔すんなって! 飯だ飯!!」
うつむく楓の背中を叩くと、ヴァレドは早速調理にとりかかる。
CDの襲撃を受けてもなお守り抜いた家畜の命をいただいて、明日も生きる。
最初は残虐だと喉に通さなかった楓だったが、ヴァレドの説得により食事を取るようになったのだ。
「僕たちは動物の命をもらって生きる―――だから人々が生きるために命を使う、でしたよね」
「ああ、俺たちが誰かの明日になるために…他のものから明日をもらうんだ」
楓がうなづくと、料理の前で手を合わせる。
「いただきます」
――
「それじゃあ俺はここで手伝いをやってるぜ。楓は…いつも通りだな」
「はい、CDを捜索します」
「頑張れよ、楓。お前がCDを倒せば世界平和だ! 今日がその日になるのを願ってるぜ」
「僕もです」
見送るヴァレドに一礼し、楓はバイクに乗ってCDを探す。
(この辺でCDは消えたハズだが、やはり人の気配は感じられない…)
ため息をつくと、楓はバイクを再び走らせる。
一面に広がる惨状を見て気が沈む。
これまでCDが現れた場所はどこもこうなった。
日本に限らず、多くの主要国家は火の海と化し、その場にいた楓は何もできなかった。
「僕は……」
言いかけた言葉を押しとどめ、覚悟を決める。
「僕がCDを倒せば、全ての命が報われるんだ」
バイクを走らせると、瓦礫の中にCDを発見した。
「―――!」
物音に気付いたCDが意識を取り戻し、楓に視線を合わせる。
「CD! お前だけは!!」
と、CDが恐ろしい速度で飛翔し、ヴァレド達のいる方向へ消える。
「…あっちは、ヴァレドさんが!」
――
ディヴェルトとなり、バイクをはるかに超える速度で急行したが、どうやら出遅れたらしい。
炎に包まれた農場、そしてそれを見下ろすCDだけがそこにいた。
「お前は…お前はぁぁぁぁぁッ!!」
怒りが最高潮に達したディヴェルトは全身から凝縮したエネルギーを光に変え、CDへぶつける。
その力と熱が勢い余って九州から中国地方にかけての大地を焼き尽くす。
が、CDは健在、ディヴェルトを殴りつけて地面にたたき落とす。
「お前が言ってるのはあのスペイン人だったか? 今お前が
CDの挑発にディヴェルトはさらに
驚異的な速度で飛んでいくCDを追いかけディヴェルトがさらに蹴りを食らわせるが、一方のCDは全く動じずに彼の足を掴んだ。
「お前のそんな力じゃ、俺は倒せない!!」
ディヴェルトの足を掴んだまま振り回し、遠心力が加わった状態でディヴェルトを放り投げる。
その方向には、富士山の火口があった。
「ぐおぉッ!」
火口に思いきり突っ込んだディヴェルトは、反撃せんと拳から光線を放つ。
それにより富士山内部のマグマが刺激され、活動を始める。
光線を難無くかわしたCDだったが、いつの間にかディヴェルトに背後を取られる。
後頭部と腕を掴まれ身動きできなくなったCDが噴火を始めた富士山のマグマに沈められる。
「今まで焼死した人の分まで、熱を味わえ…!!」
「残念だなぁ、お前と同じように俺にもマグマは効かねぇんだよ!」
「かもな、だけど!」
マグマに沈んだままのCDめがけて、ディヴェルトは蹴りを何度も食らわせる。
狙うのは右胸…そこは今までの攻撃によってダメージを負わせていた部分だった。
体表に亀裂が入ったCDの隙間にマグマが流れ込み、体内へと流れ込む。
「ンぐあああぁぁぁッ!!」
「燃えろ、そして砕けろォォッ!!」
CDがマグマの熱量によって粉砕されていく。
「この、俺がああああ!!」
富士山と共に爆散したCDを見送ってディヴェルトはその場を離れる。
楓が噴火を続ける富士山の
「ヴァレドさん、どうして…」
「なんとか生き延びてお前に追いついたんだよ! まったく心配かけやがって。それでCDは?」
「は、はい…倒しました」
それを聞くと、ヴァレドが楓を抱きしめる。
「これまで、よく頑張ったな」
「僕…ついに……」
「本当に、お疲れさん」
「じゃあここからが、本番だ」
「―――え?」
ヴァレドの体が浮かび上がり、楓を宇宙空間へと運ぶ。
「いや~、ここまでお前を育て上げ、そして…地球破壊に加担させるのは骨が折れたぜ」
ディヴェルトの能力によって宇宙でも生存する楓は、成層圏にて地球の現状をその目に焼き付けられる。
黒と赤に染まった大地が、星を覆っているのだ。
「―――」
「これは俺と、お前がやったコトだ。俺を追いかけている内に地球を壊してたんだよ、お前」
言葉が出ない。
自らの生きた世界を、自らで壊してしまったのだから。
「あ、そうそう…ヴァレド・オクスカってのは本名だが、こう呼ばれてるのは知ってるよな―――
「は? お前は、ヴァレドさんの偽物だろ…CDが僕を騙すためにこんな
「悪いなぁ、スペイン人だったってのは本当、農夫ってのは嘘。お前に語った言葉もお前がためらい無く世界を壊せるためのお芝居、ってところだな」
自分が2年間も
そう言われても楓には全く納得できない。
「分からんか? CDがいなくなったらすぐ俺が現れる! 俺がいないときにCDが現れる! そういうのを繰り返してバレるスリルを楽しんでたが、とうとう気付かれなかったな。本当に俺のことを信じてたらしいが、それもそうだ。親も友達も死んで、世界からも
あざけるヴァレド―――CDに楓は絶望を突き付けられる。
「お前は……ずっと、そうやって僕に嘘をついて、バカにして、笑っていたのか?」
「そうだよ、脅威的な力を持った厄介な存在であるお前が
怒り。悲しみ。絶望。憎しみ。否定。殺意。
多くの負の感情が入り混じった気持ちを抱いて、楓は力を振るう。
光が楓を包み、最強の戦士ディヴェルトへと変化させる。
だが、その姿は以前までの
「CDとは、己の世界を破壊した者が
涙を流しているようにも見えるディヴェルトを見て、CDは満足げに微笑む。
「そうさな、今日からお前は新たなるカンケルデータだ!」
CDの拍手と共に、ディヴェルトは咆哮を上げ、彼を睨む。
「おっと、俺は流石に退散かな。コイツは世界を壊すことよりも俺をブッ殺すのが趣味らしい」
そう告げると、CDは手を振りながら別の世界へと移動する。
一方のディヴェルトは、滅びゆく自らの世界を救うこともできず、終わりを見送ると、CDを追って世界を
世界の破壊者、