奇物語 -アヤシモノガタリ-   作:ミサキレイン

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其ノ参

086

自動車、という機械がある。原動機の動力によって車輪を回転させて走行する乗り物の総称だ。

移動手段としては馬車よりも遥かに効率的で、自動車の出現によって人間はより早く遠くへ行けるようになったし、より多くの荷物を運べるようになった。

だが、いくら技術が発達しようが――多くの人間が車を乗り回す限り、『渋滞』という不都合な現象からは逃れられないのだ。

 

思うに自動車という機械は便利なものだが、誰も彼もが乗るから道路が混雑してしまう。

ならば……このディオはどうだろうか?

 

『不死身』『不老不死』――人間の可能性のその先にある、吸血鬼ならではの特性。

そして『スタンドパワー』――我が『世界(ザ・ワールド)』の、時を止める能力。

 

そう、このディオは……全ての生物や全てのスタンド使いをブッち切りで超越したのである。

『天国』に繋がる一本道は、このわたしだけのためにある……とまでは言わないが、列の先頭に立って人々を引っ張る役を務めるのは、わたしをおいて他にはいないはずだ。

 

にもかかわらず。

あの戦いのとき、こともあろうに空条承太郎は止まった時の世界に『入門』し――このディオの行く手を阻もうとしたのである。

まさしく『苦難の道(ヴィア・ドロローサ)』といったところか……ならばこれは『天国へ行くための試練』として、前向きに受け止めるべきなのかもしれない。

 

そして――どうやら今回も、このディオの脅威となりうる『試練』が現れたようだ。

 

「……暦お兄ちゃんはね、撫子と同じで昔は普通の人間だったの。でも去年の春休みに、人間をやめて吸血鬼になったんだって」

 

そう話す千石撫子は、神社の社の中――畳張りの部屋の壁にもたれながら、なぜか綾取りに興じていた。

なんでも、『信者第一号』――貝木という男が「暇潰しになれば」ということで持ってきたものらしい。もはや神への供物というより、神社に住み着く子供への気前のいいプレゼントという気がしないでもないのだが……本人はいたって楽しそうにしているのだし、わざわざ指摘してやるほどのことでもない。

 

「まさかこの現代に、わたしのあずかり知らぬところで吸血鬼が活動していたとはな。ということは……その暦という男も『石仮面』を被ったのか?」

「石仮面? ううん、確か『吸血鬼に襲われた』って話だったよ。血を吸われて……あれ、吸わせたんだっけ……とにかくまあ、そんな感じかな」

「つまり、暦以外にも吸血鬼がいるということか」

「うん、そうだよ。名前は忘れちゃったけど……『伝説の吸血鬼』って呼ばれてた人で、今は暦お兄ちゃんの幼女奴隷になってるの」

「幼女……いや、暦の血を吸ったのだから、奴隷というのはおかしいだろう」

「えへへ、撫子にもよく分かんない」

「…………」

 

千石撫子の語る内容は、今までわたしが認識していた吸血鬼の特徴とは微妙に異なるものだった。

『血を吸う』という最低限の定義は共通しているものの、その『伝説の吸血鬼』とかいう幼女と暦の主従関係――主人と従僕の立場に歪みが生じている。

まさか、暦がその幼女の血を『吸血』して手なずけたのだろうか? 確かに、吸血鬼や屍生人が同属の血を吸ったら何が起こるかなど、考えたこともなかったが……。

 

いずれにせよ、その謎多きツーマンセルとは今後何らかの形で接触を図らねばなるまい。

当然、同じ吸血鬼としての格の違いを認識させるためだ――何か有用な情報を得られるかもしれないという隠れた思惑の存在も、別に否定はしないが。

 

「それにしても……いかほどの『伝説』かは知らんが、それを配下にするとはな。その暦とかいう男、なかなか面白そうな奴じゃあないか」

「暦お兄ちゃんは昔からすごいんだよ。まるでテレビのスーパースターみたいに輝いてて、ずっと撫子の憧れの人だったの」

「……だがその憧れの『スーパースター』を、お前は殺すのだろう?」

「うん、殺すよ。大好きだからぶっ殺すんだ! 暦お兄ちゃんには、ずっと撫子のスーパースターでいてほしいから!」

 

千石撫子はそう言うと、綾取りの紐で作った図形を、わたしの方に見せてきた。

このディオの首筋にある『痣』と同じ……『(スター)』の形。

 

「どんなに綺麗な星でも、絶対に手は届かないから。誰のものにもならない『高嶺の花』だから……幸せでい続けられるんだって、撫子は思うよ」

「フン。つまり、撫子……お前は暦を殺して、『永遠の安心感』を得たいのだな。一度葬ってしまいさえすれば、それ以上裏切られることも、拒絶されることもない――やはりお前も、『安心』を得るために生きているというわけか」

「『安心』……そうかもしれないね。この先、暦お兄ちゃんに恋人ができるのも、その度に失恋するのもしんどいし。『未来』なんて誰にも分からないんだから、『覚悟』なんてできっこないよ」

「……! それは、つまり……『未来』さえ分かれば『覚悟』ができるということだな」

「あー……どうだろう。やっぱりそれはそれでしんどいかな。だって失恋する『未来』が分かっちゃったら、辛い気持ちになるだけじゃない。そんな運命なんて受け入れられないし、受け入れたくもないよ。ディオさんもそう思うでしょ?」

「それは……」

 

わたしは、このとき初めて――目の前にいる千石撫子のことを、心の底から哀れだと思った。

『未来』を確信できたとしても『覚悟』ができない……それはすなわち、本当の『幸福』を得ることなどできないと言っているのと同じではないか。

きっとこの女は、『天国』に行くことなどできやしないだろう……皮肉なことに、『神』を名乗っているにもかかわらずだ。

 

わたしの母ではないが――この千石撫子もまた、どうしようもなく愚かな女なのだと思った。

この娘の世界は、他人の介在し得ない深い闇で閉ざされている。さながらウロボロスの蛇のごとく、全てが自己完結した悪循環(サーキュレーション)の過程なのだ。

その証拠に、千石撫子は『片思い』をずっと続けることに『幸福』を見出そうとしている――それは、他者と深く関わろうという発想自体が存在しないからだ。

 

本当の自分を曝け出した結果、周囲の人間から拒絶される『覚悟』ができないから。

心に壁を作り、自分の世界に閉じこもった方が『安心』だから。

そして、何より愚かなのは――それこそが真の『幸福』であると、信じて疑わないことだ。

 

だから、こんなことを言ったところで……千石撫子の心には届かないだろう。

 

「それは……そうじゃあ、ないな」

「え?」

「お前は暦を――燦然と輝く『星』を、銀河の果てまで遠ざけたいのだろう。だが……このディオにそれはない。遠くに『星』が見えるのなら、この世の全てを余すことなく手中に収めるまでだ」

「……ふーん」

 

二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。

一人は泥を見た。一人は星を見た。

 

このディオは……もちろん泥を見るだろう。

『星』を越え、『天国』という世界の(いただき)から――『泥』の上に立つ人間どもを見下ろしてやる。

それこそが、真の『幸福』なのだから。

 

 

087

それからしばらくは、特に何事もなく時間だけが過ぎていった。

『太陽アレルギー』のわたしは、否応なしに日没まで千石撫子の退屈を紛らわす役目を負わされてしまい――結果、長年にわたるジョースター家との奇妙な因縁について語る羽目になった。

正直、スタンド使いでも『組織』の関係者でもない人間(いや、自称神か)に自分の半生を語るというのは、あまり気の進まないものであった……が、千石撫子が「暦を殺す」ことしか眼中に無いということもあり、このわたしの道を塞ぎうる存在ではないと最終的に判断した。

いちいちこの程度のことで『不安』を抱いていたのでは仕方がない……世界の頂点に立つ者は、ほんのちっぽけな『恐怖』をも持たないのだ。

 

一度そう『覚悟』を決めてしまうと、あとは濁流のように言葉が口から流れ出てきた。

貧民街での生活に始まり、ジョースター邸における偽りの青春時代、石仮面や吸血鬼、波紋にまつわるあれこれ、船上でのジョナサンとの最期の会話、その子孫であるジョセフや承太郎のこと、エンヤ婆以下エジプトの『組織』について、そしてスタンド能力――このわたしが知る限りの情報をつらつらと説明してやった。最後の方は半ば自棄になっていたと思う。

ただ、我がスタンド『世界(ザ・ワールド)』の秘密と『天国』に関する話題だけは一切伏せておいた。『覚悟』なき者にとっての『天国』など、蛇の絵に足を描き加える行為となんら変わらない。

無駄な話は嫌いなのだ。

 

他人に興味がない割には、千石撫子は終始興味深そうにわたしの話に聞き入っていた――どうやら、よほど暇を持て余していたらしい。

ひと通り話し終えると、彼女はテストの答え合わせをする受験生のような口調でこう言った。

 

「じゃあ、つまり……ディオさんは根っからの悪い人ってことだね」

「ほう、随分と単刀直入に言うではないか」

「だってそうじゃない。子どもの頃にお金がなくて貧乏だったのは可哀想だと思うけど――その後はお金持ちの人の養子になって生活には困らないはずだったのに、その人を殺して財産を自分のものにしようとして。しかも結局、人間をやめて吸血鬼になってるわけだし。それって全部、ディオさんが望んだことなんだよね?」

「そうだ。全て、このディオが自ら選択した道だ」

「じゃあやっぱり、撫子とディオさんは全然違うね。ディオさんは自分の意志で悪の道を突っ走っているけど、でも……撫子はそうじゃないもん。大好きな暦お兄ちゃんを殺すことになったのも、不可抗力みたいなもので……最初から最後まで、ずっと『被害者』だったんだもん」

「まるで、時代や環境が悪いとでも言いたげな口ぶりじゃあないか」

「うん、そうだね。きっと撫子のせいじゃなくて、時代や環境が悪かったんだよ。だからこれまでの出来事も、これから起きることも、何もかも全部……撫子に責任はないんだよ」

 

そう言って、千石撫子は畳の上に無造作に寝転ぶ。

その姿を目の当たりにすると、確かに彼女の言う通り、責任はないように思えた。

 

責任はない――つまり、ひどく『無責任』だと感じた。

どうやらこの少女は、己の行動原理を他人に預ける傾向にあるようだった。そうすれば、たとえ結果がどうなろうと自らは『被害者』でいられるからだ。

 

「……あ、来たみたい」

 

わたしがそんなことを考えているとも露知らず、千石撫子は不意にそんな言葉を漏らすと、上体を起こして部屋の出口の方に視線を向けた。

よく見ると、その頭に生えた無数の蛇髪共がざわざわと、何かに反応したかのように蠢いている――蛇は赤外線を感知することで遠く離れた物体を『視る』ことができるという話だが、もしかするとそれと似たような現象なのかもしれない。

 

「ごめんねディオさん。『お客さん』が来たみたいだから、ちょっとお出迎えに行ってくるね」

「構わんが……いったい誰が来たというのだ」

「ほら、貝木さんだよ。大体いつもこれぐらいの時間に来てくれるの」

「……ああ、あの『信者第一号』とかいう男のことか」

「よかったら、ディオさんも会ってみる? 同じ信者同士、もしかしたら仲良くなれるかもだよ」

「結構だ。年端も行かぬ小娘にカモにされるような男と、話が合うとは思えん」

「何か言った?」

「いや、何でもない」

「んー、そっか。じゃあ、ここで待っててね! 撫子すぐ帰ってくるから!」

 

そう言い残した千石撫子は床に両手をつけて片膝を立て、俗に言う『クラウチングスタート』の姿勢をとった後、脱兎のごとく部屋を飛び出していった。

直後、部屋の扉の向こう側から「撫子だよ!」という叫び声が聞こえてきた――どうやらあれは来客対応だったらしい。もっと他に良い方法は無かったのだろうか。

 

無遠慮と無鉄砲を体現したかのような少女を見送り、わたしは青々とした畳に視線を落とした。そして彼女が口にした『責任』という言葉について、あれこれと思いを巡らせる。

千石撫子の、異常なまでの『被害者意識』――自らの責任を一切拒絶し、外的要因ばかりを主張するそのあり方は、図らずも、わたしの脳裏にとある言葉を浮かび上がらせた。

 

 

『環境で悪人になっただと? ちがうねッ!! こいつは生まれついての悪だッ!』

 

 

それは百年前――ジョースター邸でジョナサンと対峙した際、彼に同行していたスピードワゴンという男が言い放った台詞だ。

このディオが『生まれついての悪』だという指摘は、まさしくその通り。善のタガのない『悪のエリート』を自称するくらいだ、わたしには不純物ゼロの純粋悪としての自負がある。

自分を悪だとはっきり自覚した上で、その有り様を肯定し、己の信じる道を迷いなく突き進む――悪人讃歌は『勇気』の讃歌であり、悪の素晴らしさとは勇気の素晴らしさなのだ。

 

だが、その一方でこうも思う……『生まれついての悪』であるこのディオは、ある意味で千石撫子と同様、自らの行為に対して責任を取ることができないのだと。

このわたしが悪の帝王として君臨し続けているのは、それこそが自らの進むべき『道』――己に課せられた『運命』だと認識しているからだ。

では一体、それは誰によって『課せられた』というのか? 確かにこのディオは自分の意志で道を突き進んではいるが、道を舗装したのはわたしではない。この世界における、あらゆる人や物の『運命』を司る存在――すなわち神が、わたしの歩むべき道を定めたのだ。

 

いや、『自分の意志』などと言ったが――本当はそんなものすら無いのかもしれない。世界の流れはあらかじめ全て決定されており、このディオが『生まれついての悪』として生を受けたのも、そうした自分を是とするのも織り込み済みであり……何もかもが『神の思し召し』通りなのではないか? この世のあらゆる物事の責任は神にあり、我々は皆『無責任』なのではないか。

そう考えると、得てして世の中には被害者しかいないとすら言える――どいつもこいつも無罪であり、神の創りたまいし世界の哀れな犠牲者なのかもしれない。

 

「……いや、これは違うな。今ここにいるのは、紛れもないDIO()ではないか」

 

このディオには『自由』がある。何者にも拘束されず、己の意志で進むべき道を選び取る自由が。

このディオには『勇気』がある。『天国』へ行くためなら、どんな手段も厭わないという勇気が。

そして――やはりこのディオには『責任』がある。世界の頂点に立ち、全ての人間を支配する者としての責任が。

 

わたしは自らに言い聞かせるように、それらの言葉を心の中で何度も反芻する。

『責任』――『生まれついての悪』であるこのディオが背負うべきもの。責任を負うことは不幸ではない。逆説的に聞こえるかもしれないが……それを進んで引き受けることで、人は初めて自由になれる。

この世に『加害者』などという存在がいるとすれば、それはわたしをおいて他にないのだ。

 

「撫子だよ!」

 

そこまで考えたところで、勢いよく開かれた扉の音と千石撫子の快活な叫び声によって、わたしの思索は中断を余儀なくされた――もはや持ちネタなのか、それは。

 

「えへへ、ディオさんただいまー!」

「戻ったか。……それにしても、太客の接待にしてはやけに帰りが早いようだが」

「ああ、うん。なんかね、今日の貝木さん、最初はいつもみたいに遊んでくれたんだけど……途中で電話に出た後、慌てて帰っちゃったんだ」

「ほう、急な仕事でも入ったのか」

「遠くの方で話してたから、ほとんど聞き取れなかったんだけど……確か電話の相手の人と、すり合わせ……じゃなくて……語呂合わせ……は違う。埋め合わせでもなくて……組み合わせ……?」

「……『鉢合わせ』か?」

「ああ、そうそう! 『鉢合わせは避けたい』とかなんとか……そう言ってた気がする! すごいディオさん、国語の先生みたい!」

「それはいいが……しかし『鉢合わせ』か。一体、何のことを言っているのやら」

 

その貝木(なにがし)にとって、何かやましい事情でもあるのだろうか――もしそうだとすれば、これまでわたしが想像してきた『子供好きのお人好し』というイメージが根底から覆りかねないのだが。

まあ、その男の正体については、今のところ特に興味はない。目下わたしの関心は、同属である暦とその幼女奴隷(?)に向けられているのだから。

 

そのとき。

蛇と化した千石撫子の髪がまたしても何かを感知したのか、唐突に部屋の出入口の方にその先端を向け、一斉にウネウネと動き始めた。

 

「あ、また『お客さん』だ」

「新手のスタン……いや、まさか『信者第三号』か? お前からそんな話は聞かなかったが」

「ううん。ある意味、『信者第ゼロ号』なのかな……あの二人も、ちょくちょくこの神社にお参りに来てくれるから」

「……『あの二人』?」

「暦お兄ちゃんと、その幼女奴隷の人」

 

千石撫子があまりにも自然に口にしたその一言を聞いて、わたしは耳を疑った。

誤解のないように弁明すると、件のツーマンセルがこの北白蛇神社に足を踏み入れようとしている現状――そのこと自体に驚いたわけではない。千石撫子の証言を信じるとすれば、彼らは既に「お前を殺す」と予告されているのだ……「なんなのこの人」などと言って抵抗しないはずがない。たまたま言及がなかっただけで、実際は千石撫子を討伐せんと暦たちが動いていたのだとしても、何らおかしくはないだろう。

 

つまり問題は――『誰が来たか』ということではなく、『いつ来たか』なのだ。

 

「撫子よ。念のため、一応確認したいのだが……今、何時だ」

「アルプスの少女ハイジ」

「ふざけるな」

「そういえばディオさん。アニメ版『アルプスの少女ハイジ』の話の中で『クララが立ってる!』ってハイジが叫ぶシーンは有名だと思うけど、実はあれより前にクララは立ったことがあるって知ってた? 第四十八話『小さな希望』っていう回なんだけど」

「知らん。そもそもハイジとは何者だ」

「クララが山の中で牛さんと出会うんだけどね、驚いて思わず立ち上がっちゃうんだ。つまりクララは立つことができないんじゃなくて、本当は立てるのに『それは無理だ』って勝手に諦めてただけだったの。ハイジはそのことを知っていたから、例のシーンで『クララの意気地なし!』っていう風に怒るんだよね」

「まだ続けるつもりか?」

「あんまり知られてないけど、ハイジに関するトリビアって結構多いんだよ――『明日使えるムダ知識をあなたに』ってところかな。他にも、原作が和訳されたときハイジは『楓』って名前だったとか、実写映画版でペーター役を演じていたのはチャーリー・シーンだっ」

 

無駄に洗練された無駄のない無駄なトーク力で『ムダ知識』とやらを披露する千石撫子の動きは、次の瞬間、彫像のごとく静止した――彼女の口から繰り出される無駄の連続に堪えかねたわたしが、『世界(ザ・ワールド)』を発動させて時を止めたのだ。

こんな下らないことで能力を発揮させられた『世界(ザ・ワールド)』が不憫で仕方なかったが、猶予はわずか五秒だ、嘆いてばかりもいられない……その間にわたしは必要な諸々の事柄を済ませると、最後に「時は動き出す」と小さく呟いたのだった。

 

「……たとか、とにかく……って、あ、あれ? なんで撫子、いきなり外にいるの!?」

「少し頭は冷やせたか?」

「あっ、ディオさん! もしかしてこれ、ディオさんがやったの? ……っていうか、部屋の中からこっちを覗いているのはなんで?」

「上を見れば、お前のその疑問も解消されるだろう」

「上……? ……あっ、そういうことか」

 

わたしの指摘を受けた千石撫子は、合点がいったという様子で頷く。

彼女の頭上には、吸血鬼の永遠の宿敵――すなわち『太陽』が、真冬の空に負けじと大きな存在感を放っていたのだ。

 

「正確な時刻は分からんが……おそらく今はまだ午前中だろう。日没までは相当な時間がある――日傘でも差さん限り、この部屋から出ることはできないだろうな」

「そういえばそうだったね……でもまあ、暦お兄ちゃんたちのことは撫子が何とかするから、ディオさんはそこでのんびりしててよ」

「……いや、生憎だがそれは無理だ。一つ、どうしても暦たちに聞いておきたいことがあるからな――いやはや、実に興味深い」

「え?」

 

きょとんとした顔でこちらを見つめ返す千石撫子。単に察しの悪いタイプなのか、もしくは『その状態』がごく当たり前の日常になりすぎたために、意識の俎上にも載せられなくなったのか――それは分からなかったが、とにかくわたしは素朴な疑問をぶつけてみることにした。

 

「教えてくれ。なぜ暦たちは、こんな昼間に外を出歩くことができるのだ?――このわたしと同じ、()()()()()()()()()()()




ジョジョのテーマといえば『人間讃歌』ですが、これは『黄金の精神』を持つジョースター家の人々だけではなく、荒木荘メンバーをはじめとした悪役サイドもその対象になっていると考えます。
「ディオ様やカーズ様は人間じゃないじゃあないか」という異論もあると思いますが、それを言うなら本編であれだけ気高き覚悟を見せたイギーやF・Fはどうなるのかという話になります。
おそらく荒木先生も、連載当初は確かに『人間』と『人間以外のもの』という構図を想定していたのでしょう。それが三部あたりから少しずつ事情が変わり始め、会社勤めのサラリーマンをラスボスに置いた四部で、『人間』と『人間以外のもの』、善と悪の概念を超越した『魂が持つ無限の可能性』を訴えかける姿勢を確立させたのだと感じます(実際吉良さんに関しては、荒木先生も「殺人を犯してることを除けば、僕の理想のヒーロー像」だと語っています)。

長文失礼しました。めっちゃ早口で言ってそう。
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